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彼女は立派な胸を突き出した。他意はない。視線を配るとこもない。

大変なことになった。

「さてライラ君、ひとまず任務ご苦労様。お疲れのところ悪いんだけど、早速次の任務を発表する」


 僕の思考がまとまる前にまた、忙しい日々を過ごすことになりそうだ。


「次行くのはガーロスだよ。ここからは結構な距離があるから位週間くらいは暇かな」


 思ったより遠いな。というかこの飛行船それなりの速度が出ていると思ったが、そうでもないのか。あるいはこの世界が僕の想像以上に広いか。いずれにせよ心身の整理期間としてはちょうどよいだろう。

 しかし、次の仕事は一体なんなのやら。今回のようなものは勘弁だ。


「次の任務は、基本的に私だけだよ。ライラ君は適当に観光でもして……いや私の手伝いをしてほしい、かな」


 観光は禁止されました。きっと治安がよろしくないのだろう。様々な邪推を払って簡潔に考えることにした。


「ガーロスでは教鞭をとることになってるんだ。こう見えても私は立派な貴導だからね」


 彼女は立派な胸を突き出した。他意はない。視線を配ることもない。ち、違うんだ。ムッとしないでくれ。


「ふーん。ライラ君がむっつりさんだと確認できたところで、今日は疲れていると思うから解散。ほら、帰った帰った」


 彼女に変態扱いされた件に関して異議申し立てたいが、それもできぬまま自室に退散する。

 衝撃的な光景からまだ数時間しかたっていないため、あの男性の姿が鮮明に思い出される。

 あれは監禁などではなく、以前からあのようにして人間を支配していたのだろう。

 しかし、なぜサウナさんがそのような嘘をついていたのかはわからない。

 あの場に僕がいけば否応でもこの事実を目の当たりにするというのに。もしかすると、僕の記憶を操作するはずだったが、できなかったとかなのだろうか。

 いろいろ思案していたが結局すきっりする回答は得られなかった。

 ふと、ズボンのポケットの中を探ると一枚の紙が入っていた。確かこれはヒバナさんがくれた電話番号的なやつか。脳内でこの番号にかけるイメージをしたらかかるとかないかな。


『こちらヒバナ。要件は』


 え、本当にかかった。でもサウナさんもハルさんも僕を異星人と見抜くための出鱈目な数列と言っていたはずだ。技術の優れた彼女らが知らないのになぜ。


『おーい、だれだ』


 一瞬幻聴を疑ったが確実に繋がっているようだ。


「え、えーっと、ライラです」


『おや、君からかけてくるとは不思議なこともあるもんだ』


 何も言えない。僕は一度彼らに殺されかけたのだ。だが、それだけではない。

 コミュ障、電話嫌い!!

 相手の表情が見えない分怖いのだ。顔色をうかがえないから。


『いま、ライラ君って言った?ちょっと私に代わってよ。……。ライラ君この間は突然弓を構えてごめんなさい。君に危害を加えるつもりはなかったの。ただ、眠らせようとしただけ。それでもごめんなさい』


 眠らせようとした()()と言われても、弓を構えられたらその内容はどうでもよく思える。


『ほいで、そんな君がどのような用件で』


 おっと、半ば可能性だけでかけたので思考がまとまっていないのだが、サウナさんらについて不信感を覚えていることを伝えた。


『なるほど、マインドコントロールか。だとしても真意がわからん。君の話からして市長の魔力切れによる綻びという線はなさそうだな』


 確かにあれほど魔力注入の跡があれば不足はないか。だとすると……。


『彼女の狙いはまた別にあるってことだね。例えば意図的に内紛を起こし()()()()()()()()()()()()とか』


 人間の排除か。確かに彼女は人間を嫌っていると考えると、その可能性もぬぐえない。そもそもなぜサウナさんがあの国でどれほどの役職についているかは知らないが、魔導士をけん引していたところからそれなりの権力を保持していると考えるのが妥当だろう。


『おおよそ例え話ではなく、これが現実だろうけどね。というのもこちらでは今人間の虐殺が始まっているようだ』


 どういうことだ。確かに協会の許可があれば人間を殺せると言っていた。これが初めから彼女たちが策謀したものだとしたら。

 しかし、なぜこのタイミングなのだろうか。今まで見せかけではあるが共存していたという。その必要はあったのか。


『例の協約が間もなく効力を失う。それに合わせた犯行だろうな。そもそもリサラスの頭領が変わったのもつい最近さ。いわゆる派閥交代ってやつだな』


「派閥交代ですか」


『そうさ。どんな組織でも時を経れば分断していくものさ。もともと協会は人間との共存を図り魔導士を統一させる目的で設立した。が、結局いまじゃ一党派(過激派)と双等派(穏健派)に分裂しちまったさ』


『数年前に前頭領が突然譲位したんだよ。彼女は双等派の魔女で人間との協和を第一に考えた優れた統率者だったよ』


 それがサウナさんによって崩され、今や無差別攻撃を食らっているというのか。

 僕は本当にやらかしてしまったのかもしれない。


『しかし例の椅子に関する情報は限りなく少ないし、前頭領がどのように使用していたのかも定かではないから一概に彼女を善人とはいいたくはないがね』


『おや、こちらまで攻撃が届き始めているね。ライラ君においてはいろいろ引きずってしまうこともあるとは思うけれど、気負わずにね。ただ、君が行動を共にしているヒーリアス・ハルの動向は注意深く観察しておいてほしい。また気がかりなことがあったら連絡をしてね』


 念話が切れた。と、思われる。携帯電話のように切るモーションが必要ないのでとても便利だ。

 派閥争いに人間迫害。この件にハルさんはどれほど関与しているのだろうか。

 始めてリサラスに来た時のことを思い出す。宴会の席で酒におぼれてデレデレだったサウナさんの本心は何だったのだろうか。

 そしてWH1。ヒバナさんが属する反魔導士派の組織。

 僕は一体どちらの見方をするべきなのだろうか。

最後までお読みいただきありがとうございます!


新章の始まりということで、うれしい限りですね(何が?)。


さて突然ですがネーミング問題です。新たな土地の名前を考えるのに苦労しました。もともとネーミングセンスが皆無なので……。

新たしい国の名はガーロス。どういう意味かって?さて、一体あれが知っているのでしょうね。

神のみぞ知るということで、ご愛敬願います。


それでは次回もお楽しみに!

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