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「廊下に立ってろ」と同じ効力だな!

メンタルは圧勝だったが、フィジカルで負けた。

 そして翌日。ついに作戦が決行される。

 主に三部隊に分かれる。昨日と同様ハルさんと他数人にはジアス方面の監視ならびに排除を、残りのその他大勢はリサラスにとどまり敵の攻撃への対処。ここまで聞くと昨日までと何ら変わらない。

 そう、ただ一人僕を除いては。

 サウナさんが僕に与えた任務はとても簡単な話だ。人間に紛れ暫定市長と接触し、その奪還である。

 確かに魔女でない僕が、人間側に紛れ込むのは容易いことだ。それに加え僕には【薄影(はくえい) (はち)】というパッシブスキルがあるという。ここまで極めるともはや薄いどころの話ではない。そもそも極めたつもりはないんだが!

 兎にも角にもまずは敵側に侵入することからだ。くれぐれも難民を装い、リサラスの内情を知らない風にふるまえと念をおされた。


 ということで早速単身でリサラスの人間支配地域の関所と言おうか、検問所であろうかにやってきた。

 そこではまずパスポートを見せ、身体検査と魔力適正値の測定を行った。

 どうにも僕は一般的な人間とそれほど変わらないくらいの適正値はあるらしい。

 いわゆる異世界人なのだからそこは一般人以上の適正値であってほしかったが、何も言うまい。またあの変神と顔を合わせないといけないのはごめんだからな。


 街中は向こうと同じく荒れた様子はなく、またやはり和風の建物が多く当たり前の話だが一体感がある。ただ唯一違う点があるとすればこっち側に大きな城があることだ。

 それにしても簡単な検査だけで入国を許可してしまうとは。いくら見た目や適正値が低いからと言って人間と断定してしまうのはいかがなものだろうか。それこそ内通者かもしれないのに。

 敵側の杜撰な危機管理体制に嘆息する必要はないと気持ちを切り替える。ふと目の前を横切った人を見て、この人は今、内戦中であることを知っているのかと疑問を覚えた。

 そう思ったことに特に理由はない。それほど日常だったのだ。


 しばらく観光まがいなことをしていたら遠隔で脳内に直接語り掛けてくる人がいた。サウナさんである。


「こんにちはライラ君。今あなたがいるあたりはこの国最大の都市だ。私たちがいる場所からはかなり離れているため混乱は起きていないようだね。おそらくあなたからも見えているであろう城の近くに大図書館がある。そこが今回の目標だ」


 改めて城を見やる。幾重にも重なった望楼(ぼうろう)を持つ天守、高低様々な(やぐら)。難攻不落を体現していると肌で感じられるほどの存在感がある。城の陰に隠れているようで図書館の様子は見えなかった。


「あなたには突貫で奪還をお願いしたいのだが…」


 彼女はそれだけしか言わなかった。いや違う。微かにだが、笑いをこらえるような声が聞こえてくる。

 ま、まさかとは思うが意図せず放った言葉が実はいんを踏んでいたことに気が付き、笑いが込み上げてきた的なやつか!


「失礼しました。こちらとしてはあなたに今すぐ行動していただきたいとは思っていますが、あなたには欠点もありますし、何よりこちらの手筈が整っていない状況ですので、数日の間は内情把握をしつつ、観光でもしていてください。場合によってはこちらから一方的に帰還させる可能性もあるのであしからず」


 言うだけ言って通信を閉じてしまった。もしかしたらこの通話は初めから一方通行だったのかもしれないが。

 それにしても準備ができていないのなら何も急いてこちらに来る必要もなかったのではないかと思う反面、ヴァンビットとの戦いで疲弊することから逃れられたと思ったのもまた事実。

 僕の気持ちがいかにせよ、あの指示は要するに敵情視察をしろということだ。観光など言ってみただけで実際に悠長に観光していたら怒られるのだろう。「廊下に立ってろ」と同じ効力だな!

 ひとまずランドマークである城に行ってみるか。直接は関係ないのだが、周囲の状況を知っていることは勝利にとって最も大事な要素である。それに少し興味がある。

 いわゆる城下町ということもあって街中は賑わっていた。左右には雑多な店が軒を争っていた。中には道端で大道芸を披露し集客してる者もいた。

 そんな和やかな雰囲気も一変、突如として僕が目指している城のほうから、けたたましい音の笛えを鳴らし、土煙を上げながら何かがやってきた。

 近くに人たちが一斉に道の端に寄り跪き始めた。僕は未知の振りをするでもなくただ突っ立ていたのだが、近くにいたものに思いきり服の裾を引っ張った。僕は思わずよろけ尻もちをついてしまった。


「馬鹿か、お前は!これだから何も知らない迂愚(うぐ)な観光客は、しょうもない」


 小声ではあったが思い切り悪態をつかれてしまった。脇に寄った人々波打つように頭を地につけ始めた。やがて僕らの前を通って行ったそれは数重もの騎馬隊に囲まれた、馬車だった。豪勢な装飾があしらわれ権威を象徴していた。何より騎馬隊には――もちろん馬車本体にもだが、国旗が翻っていた。


「まったく、こんな田舎者を易々と入国させてしまうとは、この国の管理局も凋落(ちょうらく)し始めたか。あまつさえジアスと結託だと?冗談でも受け入れられねぇ」


 僕を引っ張り文句を言ってきた彼は、背丈こそ僕と同じく男性にしては低めではあるが、それでも頑健な印象を与えるのは服の上からもわかる鍛えられた筋肉のせいだろう。勝手なイメージだがこういう男は大剣を携えるものだと思っている。が、この人は、腰に短剣をさしていた。


「こら、まだ周囲にはジアスを受け入れている人々もいらっしゃるのですよ。あまり攻撃的にならずに、ね」


 彼の左側から長身のすらりとした男性と思しき人が穏やかに漢を(たしな)める。彼?は弓を背負っていた。なるほど武器を人をあらわすということか。


「はいよ。にしてもお前も災難だったな。いきなり巡行に遭遇するとはな」


「もうヒバナは鋭いんだか鈍いんだか。ちゃんと説明してあげないと分からないでしょ。ジアス国と同盟を結んでからというものどうも彼らは我々を蔑視しているようで、このような巡行を行うんだよ。しかもこの巡行に際して一挙手一投足規定を設けていてね」


 よく聞く話だな。もしかしたらこれはかなり有益な話ではないだろうか。ヒバナさんのようにジアスに対し嫌忌(けんき)の念を抱いている者もいるはずだ。そこを取り込めば。


「あ、あの僕さっきこの国に移住してきたもので、もしよろしければ少々お話をお聞かせください」


 コミュ障は頑張った。任務遂行のため初対面の人に自ら話しかけたぞ。世界が震撼した瞬間だった。

 ヒバナさんのほうは少し渋面を作ったが、もう一人が優しいほほえみで了承してくれた。

 立ち話は何だからと、近くの食事処に入った。


「改めて私はメナミ。容姿や言動から女性と間違われるがれっきとした男だ。そしてこっちがヒバナ」


 メナミさんの紹介に続き僕が自己紹介をする。サウナさんによって予め筋書きされた生い立ちを説明した。詳細は割愛するが、同情を得るには効果的な内容だ。さすがサウナさん。


「ライラさんも苦労なされているのですね。それでは早速本題に、と言いたいところですが我々も少しお話をしておきましょう」


 僕だけに凄惨な過去を語らせてしまったことへの罪滅ぼしの気持ちからかメナミさんも話をしてくれた。とても気遣いのできる方だと確信した。

 だがかえってボクの罪悪感を刺激してしまったことは言わないでおこう。それほどまでに彼らは壮絶な過去を抱えていた。出来合いの過去ですみませんでした。


「さて、本題に入ろうか。どうやらお前はこの国のことをほとんど知らないようだな」


 ヒバナさんの質問に首肯(しゅこう)すると二人は見合って、話を始める。


「もともとここは人の国だった。だが、今から二百年ほど前リサラスとジアスは戦争を開始した。二国の狭間にあるここは緩衝地帯としての役目を果たし、何とか戦禍から逃れていた。いつしか両国は停戦協定を結んだのだが」


 そこでヒバナさんが話を止め、今度はメナミさんが口を開く。


「この国に関しての条項はなく、後にリサラスが半ば強引にこの国を併呑(へいどん)してしまったんだよ。当然国中からは反発の声上がったんだ。ただ、融和政策として国王の従甥(じゅうせい)、つまりフッカの市長――今は囚われているが――を"均衡の座"に据えたんだよ」


 "均衡の座"というのは魔導師側が用意した玉座であり、権威あるものが座れば魔導師側と人間の能力が平均されるというものらしい。

 これならば人間側の賛同を得られやすいし、魔導師に権力が集中することもないだろう。


「しかし、"均衡の座"には魔導師が仕組んだ罠があった。これはあくまで両者が戦闘を行なった時の優劣で判断されるのだ。すなわち"人間と魔導師の共生に関する協定"により魔導師側は防戦一方となる。戦況が膠着状態では攻勢側が優勢と見なされるされることに異見はないだろ」


 魔導師側は自らの足枷となる協定(人間を攻撃してはならないというもの)を逆手にとって上手く反対勢力を丸め込んだわけか。


「でも詐欺まがいな手段で抑えられたけれども、反骨心を抱くものは少なかったんだ。それほどまでに彼らの政治手腕は優れていたし、我々への配慮にも長けていたんだよ」


 一見統一感のあるこの国は実は複雑な過去を持っているのだな。


「だけれども今回の下導の魔導士の件で世態は一変した」


 下導の件。今回の紛争の元凶。詳細はこうだ。

 "均衡の座"の他にもう一つ魔導士側は融和政策として人間側の国王に侍従として魔導士側の名家であったフェルリ家の娘を呈上(ていじょう)した。彼女は当時まだ十歳という幼さだった。

 このフェルリの娘だが名家の娘というだけあって魔力値が非常に高く、好奇心も旺盛だという。

成長とともに魔女に対し興味を持ち始め、情報を種集するうちに自らの素質を理解し、次第に魔法の実験に明け暮れるようになった。

ついに彼女は、自分は侍従などという役目を務める義理はない、という結論にたどり着き、国王に直訴したという。

 これを受けた人間側は何故か拡大解釈し、国家転覆の兆しとして彼女を懲罰する方向へと話が進んでしまった。

 対して、その人間の処罰に対し反感を覚えた魔導士側が人間に対し報復政策を実施し、対立が顕在化し今に至る。

 と、まあ随分と荒い説明になったが想像以上にしょうもなくて呆れてしまった。それは僕だけでなくヒバナさんもメナミさんも感じているところだった。


「結局上のやつらは民衆のためだとか豪語しておきながら、こちらの意思などお構いなしさ。悪いがこの国が滅びようとも、俺が死ななければ興味はない。それに教会からの許可がおりれば……」


「ヒバナ、あまり変なことは言わないの。少し話が長くなってしまった。そろそろお開きにしようか。ほかにも聞きたいことがあるかもしれないから、これ渡しておくね」


 メナミさんが渡してきた紙には八桁の数字が書かれていた。恐らくは電話番号的なものだろう。ここで知らないふりをしてしまうと怪しまれてしまうので素直に受け取っておく。あとでサウナさんに聞いておこう。

 それから僕らは店を後にし別れた。それにしても内戦中とは思えないほど、暢気な都市である。ここは。

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回はなかなか長くなってしまいました。


たまに振り返って1話から読むと、最初の方はネタに走りすぎでは?と思うことがしばしば(苦笑)


ここ数話と、しばらくはネタハーフでいきますので読みやすくなるかな?


それでは次回もお楽しみに!!

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