コミュ障とは、気まずくなったらとりあえず謝っておく者だ。
色んな人が帰っていった。(2人)
次に行く場所──リサラスは、近年人間と魔道士(男女共通の呼び名)との間の抗争が激化しているという。これは一人の下導への対応に端を発しているという。
ここで改めてこの世界における魔女の存在について触れておく。基本的には僕の想像と違わず、魔術に長け、ポーションを調合する。それに加えこの世界の魔素──魔術を行う際に消費されるもの──は地球で言うところの電子と同等の役目をも果たす。
つまりこの世界の魔道士は呪術のみならず、魔素を用いた様々な製品(一般に魔製機具、魔製具と呼ばれる)の製造にも関与することになる。
そして、それらの能力を総合的に評価し、魔道士協会により五つの位に分類される。
この中で最も地位が高いのが「王導」と呼ばれる。文字の通りだが、各国の王、或いはそれに準ずるものに仕えることが許されるもの達だ。革新的技術への貢献や、軍事的観点から優秀と判断されたものだけが就くことがてきるのだが、最近では多くの国で世襲制となっている。
それに次ぐのが「貴導」。これもそのままだが、貴族に仕えるもの達だ。こちらは、特に上級魔製機具の開発、製造を評価されたもの、あるいは各貴族の一存により奉仕するものを指す。近年は多くの魔道士がこのランクを目指している。しかし、実際になれるのはほんのひと握りだと言う。
三番目が「尊導」と呼ばれており、一見すると特級クラスを指しているようだが違う。単純に庶民から最も信頼、尊敬されるという理由でこう名付けられたという。あくまで庶民からであり、実際の地位はかなり低い。
そしてその下が「下導」。"かどう"と読み、決して"げどう"ではないと釘を刺された。
というのも、この下導とはというのは魔道士見習い、あるいはほかの魔道士に仕えている者の総称である。場合によっては貴導に付き従っていて、その実力は尊導とは比にならないほど優秀なことも有り得るからだ。
それ故、この階級は上下格差社会が顕著に見られあまり軽々しく下導と使わない方がいいらしい。
彼女曰く、もしただ単純に見習いの総称であれば外道と読み替えてもいいとか言っていたが、それは流石に乱暴な気がした。
そして五番目。「異導」。要するに協会から破門されたもの達がこう呼ばれる。魔道士にとって協会からの追放は実質上、魔道士としての生存権を剥奪されたようなものらしい。
「因みに私は異導のものでーす。確かに協会の力は強大で、色々な恩恵を受けれるけど、私には居心地が悪かったな」
どういう経緯で彼女が異導になったかは教えてくれなかった。ただ、協会からの除名は必ずしも死の宣告という訳では無さそうだ。もちろん彼女の様々な能力があってこそだろうが。
「こう見えても実は私元貴導だったりするんだよね。だから資金は潤沢、人脈は深い。魔道士として生きるために必須なものは全てある。所詮協会なんて、自分の利潤しか興味ないから」
その発言に唖然としてしまった。いや、改めて考えれば、僕の転移先となった洞窟の仕掛け、そして彼女の住処への行き方、巧妙な魔法がかけられているようだった。ただのコスプレ魔女っ子かと思っていたが、れっきとした・・・しかも高位な魔女なのだ。
「そしてさっき来た子が私の弟子。つまり元下導。今ではもう貴導の中でも最も優秀で時期王導候補。まさに青は藍より出でて藍より青し、ってね」自嘲気味に言った。
もし僕が彼女の立場なら、僕はどんな感情を抱くだろうか。答えは明白だ。嫉妬。それに留まらず怨恨の念さへ抱くだろう。僕はそういう人間だ。
「私はただただ彼女を尊敬している。彼女は人の技術を盗むのが上手かった。新しい技術を採り入れ、複合し、未見の術式を完済させる。・・・さっきのは嘘みたい。やっぱりちょっと・・・・・・羨ましい」
ふくよかな胸にかかる、さらりと流れる金色の髪を指に絡めてはまだ解く。微かに紅潮する頬に、少し閉じ遠くを見つめるその目に。あまりの可愛らしさに息を呑んだ。
一つだけ腑に落ちないことがある。彼女は今貴導の子を尊敬していると言った。けれども、初めてハルさんが雲隠れさんのことを示した時厄介と言っていた。・・・・・・未だかつて無い高揚感に脈を打たれる。この娘もしや、ツンデレか!?
それからこの世界のあれこれを聞いた。アジェリスにマッチョが多かった理由も。・・・そういう祭りを少し前までやっていたらしい。普段は至って普通の健全な街だという。一安心。
「そうだ、さっきシーが置いていったやつ、いじってみようぜ」
何となく無言の時間が続いたあと、無邪気にそして意気揚々と尋ねてきた。語調からかなりの興奮を感じる。きっと雲隠れさん、もといシーさんへの期待や愛情が溢れているように思える。だからこそ彼女が厄介呼ばわりする理由が見当たらない。しかし、これ以上の詮索は避けておく。
棺桶大のビニールハウスなのだが、さすがは魔法の世界と言うべきか、入口に差し掛かると自動で自分の体が縮小した。入ってみれば外見とは違い、一般的なビニールハウスの大きさだった。だが、僕の知っているそれとは違い、スプリンクラーや温調装置などの機材が一切置かれていなかった。ただ、畝が立ててあるだけだった。
魔法の世界といえど、さすがに無から水分、栄養を生成することは出来ないだろう。それならば無用の長物か?果たして王導候補なる、ハルさんさえも尊敬しえる魔女が、そんなものを餞として、しかも地上から離れた場所で生活する人に対し贈るだろうか。
だがしかし、一般人の僕には分からなくても蛇の道は蛇というもの。しかも師弟関係にあったのだ。期待は大である。
まるでプレゼントを貰った子供がごとく小躍りせんばかりに内部を見て回った彼女は「なるほどー」と一息ついてから、
「これはこれは、たまげた。さすがだな、こんなことするななんて」
どうやらハルさんも満足なもののようだ。一体どうやって栽培するのか。その疑問に答えるように
「下肥ね」
と、近距離にいるのにも関わらず十分すぎるほどの大声で言った。
えーっと、下肥とは記憶が正しければ、排泄物を肥料にするやつだ。・・・・・・。お蔵入りだな。異世界に来てこんなハードプレイをくらうなんて。おや、彼女からの鋭すぎる眼光が僕を八つ裂きにする。
「ふん!冗談に決まってるでしょ、この変態!」
突然火山が噴火した。舞い上がった火山灰が僕らを覆い隠す。互いの表情が見えないほどに暗い空気が流れ、怒りという熱だけがこちらに襲いかかる。そもそも真偽を判断しにくい冗談を言っておいて、信用したらこの仕打ちだ。理不尽極まりない。
・・・・・・。
・・・。
「ごめんなさい」
コミュ障とは、気まずくなったらとりあえず謝っておく者だ。どれだけこちら側が潔白であっても、自ら墨を浴び、そして洗われる。コミュ障ってのはそういうもんだろ?キリッ
「よろしい。元といえば私の悪ノリのせいだし」
おうおうわかってるでは無いか。それではここらでひとつ、いやふたつほど謝罪をしてくれてもいいじゃないのか?
「ない」
ないそうです。なきそうです。あまりの即答に驚く暇さえなかった。
「さて、真面目な話をすると、魔素を注入すればそこから水と肥料を生成し自動で頒布。温度調節も自動。私たちがやるのは種まきと収穫、あとはこまめな手入れくらいだね」
この空間では害虫被害は気にしなくていいだろう。だけれども植物も生き物。愛情を惜しみなく注ぐ必要がある。それにしても魔素の万能さに個人的にはいけ好かないのだが、この世界の摂理に訴えかけたって、覆らないのは僕にもわかっている。一瞬ハルさんのほうに目を向ける。・・・本来的には人間よりも魔導師の方が強いはずなのだろう。
さて、かねてからの念願であった農業ができる段階にやってきたが、いかんせん農業を希望こそすれど知識などないのだ。ここは魔女の出番だ。きっと彼女ならなんでも知っているはずだ。
「ライラくんが買ってきた種は・・・。さあ適当に植えましょう!」
あっ・・・。期待した僕が馬鹿だった。魔女とかって植物に詳しいもんなんじゃないの?薬品調合とかで知識蓄えるもんでは?
「私そういうのしないから。私、魔工学専攻だから」
・・・しかたない、適当に植えよう。何ができるかは後々のお楽しみということで。心配なことは沢山あるが、そんな不安要素も魔素ならば解決してくれるだろう。
種うえを終え、ハルさんがこの空間に魔力放出するやいなや土が潤った。一体どこで魔素感知し、ほかの物質に変化しているのだろうか。気にはなるが、それよりも今は念願の農業の開始に胸が高鳴る。あとは可愛がるだけで見る見るうちに育ってくれるはずだ。なんと便利な・・・。それにしても大して動いたわけではないが、農業とはかなり疲れるものだと痛感した。特に腰が痛い。
農作業(種うえだけだが)を終えた頃には日が沈み、空には数多の星々が輝いていた。雲上を飛行しているうえに、今日は新月のようで絶好の星見日和だという。次に向かう国の情勢、ハルさんの友達のこと。憂い事は止むことなく思いつく。しかし、この星空が全てを包み込んでくれる気がする。リサラスの人々も同じ景色を見ているだろうか。もしかしたら青空かもしれない。
──運が良ければきっと星が流れる。
最後までお読みいただき有難うございます!
珍しく間隔の詰まった投稿です!彼の身に一体何が起こったのでしょうねw
今回は説明よりの真面目会!こういうのも大事。若干ん?な表現はあったけど致し方なし。
恐らく次話までは間隔短めで投稿すると思います。多分
次回もお楽しみに!




