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第96話 エンド・オブ・ジ・イルミネーターズ①

 満月姉妹がピコリを取り戻した日の夜。大阪市内の人気のない公園にて。


「よっし、ここまで逃げれば騒ぎには巻き込まれないっス」


 ピコリを一時さらった元凶、『イルミネーターズ』のワノ、ネロア、イバラ、充の四人は、廃ビルでの激闘の末、ここに撤退してきた。


 イバラはうっすら涙目になりながら、

「……ピコリおねえちゃん……ピコリおねえちゃん……」


 充はイバラの様子を見て、彼女を気遣う。

「大丈夫だイバラ、俺たちは一時撤退しただけだ。いずれはきっと奴らを生け捕りにする。そうだろワノさん?」


 ワノは作戦失敗の怒り故か、テンション高めに言う。

「ああそうっス! 次こそは絶対に奴らを捕まえてやるっス!」


「……あのー、すみません」


「「「「?」」」」


 突然後ろから見知らぬ声がして、四人は揃って振り向く。

 その先には、見知らぬスーツ姿の男がいた。


「おにいさん、誰っスか?」


「私は異世界転生管理局の者です。急に話しかけてすみません、ワノさん、ネロアさん、イバラさん、充さん」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 異世界転生管理局とは、発展途上の異世界に発展済みの異世界から人材を転生させている、正体不明な組織である。

 また、その業務の補助として、転生先の異世界で悪行を働く転生者を、別の転生者に協力してもらい始末する業務も行っている。

 

 イルミネーターズは『一定数の転生者を討伐し次第、元いた異世界に帰還させて貰う』という見返りの元、この補助業務に加担している。

 今回満月姉妹の故郷の世界にやって来て、生け捕りを目論んだのも、『満月姉妹が世界を崩壊させる恐れがある』と、始末部門属のイルミネーターズ担当マネージャーに言われてのことだ。が……


「そしてもう一つ謝りたいことがあります。この度は我々の局員が、あなた方にご迷惑をかけてしまいまして、本当に申し訳ありません」

 と、言って、男性は深々と礼をして詫びた。


 イルミネーターズの四人は状況が飲み込めず困惑する。


 充は尋ねる。

「ご迷惑とは一体どのようなことか詳しく教えてくれませんか?」


「はい。結論から言いますと、『あなた方の担当者は、あなたたちを過剰に働かせていました』。あの担当者が利益獲得のため、もうとっくにノルマを達成しているにも関わらず、あなた方に仕事をかせ続けていたのです。

 それがつい最近になって発覚し、我々異世界転生管理局は、あの担当者を処罰し、あなた方はお詫びと適正な処遇を与えることにしたのです」


 ワノは目を輝かせて、

「適正な処遇……!? さては帰してくれるんスね、元の世界に!」


「はい、あなた方は先述の通り、ノルマを達成しているため、元の世界に帰しました」


 これを聞くや否、ワノ、ネロア、充はぬか喜びする。が、イバラは首を傾げて、

「……かえしま『した』……? ……かえしま『す』じゃないんだ……」


「はい、我々は既にあなた方を元の世界に帰しました」


「ええ!? 既に元の世界に!? ……いや、アタイたち帰ってないっスよ!」


「いえ、もう既に、元の世界に帰しています……というより、偶然帰ってきていたというのが適切でしょうか?」


 その男性の言葉を材料に、ネロアは考察し、そして答えにたどり着く。

「まさか、僕たちの元の世界とは、転生した先の異世界ではなく……転生する前の異世界……ここですか!?」


 先程のぬか喜びから一転。この衝撃の事実に、イルミネーターズは慌てふためく。


 ワノは血眼で男性に尋ねる。

「ちょっと、これ冗談っスよね!?」


 その時、充は、

「……念のため」

 こっそり地面を拳で軽くつつき、【真実の世戎】――発動地点から半径二メートルにいる者は嘘が言えなくなる――を展開し、男をその範囲に入れる。


「本当です。時期はバラバラですが、我々が持っているあなたたちのデータには『あなた達はこの異世界から転生してきた』とあります。

 ですから、ここに帰すのが適正です」


「適正なわけあらへん! ここはフツー、前にいた異世界に帰すのが適正だじょぉ! だから、早く『デーシルマルネ』に帰してくれだじょぉ〜!」


「申し訳ございませんが、それは出来ません。

 なんせもうあなた方は前いた異世界に十分貢献済みですので、前いた異世界にこれ以上居させる必要が無いんです」


「な、なんてへらこい奴だじょぉ……」


「という訳で、これからこの世界にある、あなた方の各々の家に帰してさしあげますので、私に……」


 ワノは露骨に不満げな表情をして、後ずさりする。


「い、嫌だじょぉ……アタイは絶対に帰るんだじょぉ……! 絶対にあの異世界に帰るんスよぉ!」


 そしてワノは、踵を帰してどこかへと逃げ出した。


「わ、ワノ殿!?」

「……ワノ……!」

「ワノさん!?」


 他の三人はワノを追いかける。


「あ、あのー、皆様、皆様、逃げないでください!? ……ああ」


 かくて、暗い公園の中に、異世界転生管理局の男性は一人残された。



 翌日の昼過ぎ、大阪より一両の新幹線が出発する。


 その新幹線の乗客には、修学旅行に来た、百式高校の一年生も混ざっている。


「いやー、ホント色々あって楽しかったな! この修学旅行なぁ!」


「自分たちの場合は色々あり過ぎたと思うがな……」


 無論、その中には満月家の六姉妹もいて、六人は向かい合う席に座っている。行きと同じである。


 新幹線が走る最中、ピコリは他の五人に向けて、ペコリと一礼する。


「今回は本当ごめんなさい。ウチがみんなに迷惑かけまくっちゃって」


 ユノスは相変わらず微笑みながら言う。

「大丈夫だよ。ピコリお姉ちゃんがここにいるだけで、ボク達は十分嬉しいから」


 ルシェヌは作り笑顔で余裕の程を見せつけながら言う。

「むしろ頭を下げるのはこちらの方なのじゃ。今までありがとうなのじゃ、ピコリ、ここまでアタシの姉としていてくれて。今回の件でピコリがいないとどれだけ寂しくなるか、よーくわかったのじゃ」


「ルシェヌ……本当にありがとう!」


「てなわけで帰ってきたらたっぷりいじめてやるぞい」


「……ごめん、誰か、『新幹線って途中下車』出来るかどうか知らない?」


 マジナは自分用のおみやげとして買ったチョコレートをつまみつつ、窓を覗いて外の風景を眺めながらつぶやく。


「ま、イッチ番悪いのは、ワノとネロアとイバラと充――イルミネーターズなんだけどね。で、次点は奴らの策にまんまと踊らされてピコリに致命傷を与えたサバキかなぁ」


 サバキはうつむいて、

「その件に関しては本当に申し訳ないと思ってる。だがマジナ、それあんまり掘り返さないでくれないか」


 コーリンはふと思う。

「そういやアイツら今何やってるんだ?」


「姉御、昨日ワノが言ってたこと忘れたのかい? 『私たちを生け捕りにするためにまた襲撃する』って言ってたでしょ?」


「ああ、そんなこと言ってたな。食って寝て忘れてた。まぁけど、オレは何度でも奴らをぶっ飛ばす! オレたち姉妹の絆は絶対壊させねぇぞ!」


 ピコリはコーリンに拍手を送りつつ、

「いよっ、流石はコーリン姉さん、かっこいい!」


 だが、サバキはうつむいたまま、

「大した自信だな。頼もしい。しかし一度勝ったとはいえど、奴らを軽視し過ぎるのは危険だろう。次も何をしてくるかわからないし、もしかすればもう既に作戦は始まってるかもしれないからな……」


 ピコリはツッコむ。

「ねぇ、サバキ姉さん……というよりみんな、もうイルミネーターズ関連の話やめない? せっかくなんだから、もう少し修学旅行向きの話しようよ、帰るまでが修学旅行って言うし」


 マジナはピコリにうなずく。

「ま、それは言えてる。実際昨日負けたばっかの連中がそんなすぐに大きな行動起こせるなんて、早々ないからねー」


 一方その頃、満月姉妹が乗っている物と別の車両にて。


「へっくし!」


「どうしたワノさん、この頃、寝る場所がカラオケだったりバス内だったりと、あまり上等な所ではなかったから、風邪をひいたのか?」


「いやー、吸血鬼的にそれはないと思うっス。別に熱とかないっスし、心配しなくていいっスよ充」


「そうか。ならよかった」


 どうしても前にいた異世界に帰りたい。そう思ったワノは、ヤケクソ気味に考えた。


 ――満月姉妹を捕え、「やはりこいつらは危険っス」と言って異世界転生管理局に突き出せば、その見返りでどうにかなるのでは。


 そしてワノは強引に説得した三人と共に、満月姉妹を追うべく、彼女たちのスケジュールをよく読み、同じ新幹線に乗ったのだ。


「ふふふ……またピコリおねえちゃんにあえる……」


 と、言いながらニヤニヤするイバラ。その隣にいる充はワノに質問する。


「ではワノさん。この後どうするつもりだ?」


「今回も人質作戦で行くっス。けど次は、ストレートに効果を出せる作戦を取るっスよ。

 今度は奴らの母親を人質にとってやるっス。これで脅しをかけながら立ち回れば絶対勝てるっスよ。

 というわけで今度こそ、気合い入れてやるんスよ……特にネロアッ!」


 突然の名指しにネロアはびっくりして、

「ぼ……やつがれが、どうしたというのだ?」


「昨日はまぁまぁ正論だったから許したっスけど、今度はちゃちゃ入れないで、真面目に戦えっスよ!」


 充もネロアに言う。

「俺は人の失態をグチグチ掘り返すタイプじゃないから、とやかくはいわないけど……次はきちんとやってくれよ、ネロア。さもなくば我々は異世界に帰れなくなるんだから」


「……お、応……必ずしや、満月の血族に勝利し、栄誉と願望を現に掴み取ろう……」

 と、ネロアはぎこちない言葉使いで、あまり乗り気ではなさそうに返した。


「よし、じゃあ向こうの駅に着くまで、各々、気力を蓄えておくっスよ!

 すみませーん、弁当のラインナップ見せて貰えないっスか?」


「……」



 夕方頃。


「それでは修学旅行実行委員長の満月サバキさん、締めのスピーチをお願いします」


「はい。みなさん、三泊四日に渡る修学旅行、お疲れさまでした。個々人、やりたいことが出来たでしょうか……」


 到着駅の側にある広場にて、百式高校の生徒達は、最後の集会をする。


「えっと……満月家、満月家……ここっスね」


 この時、イルミネーターズは先駆けて満月家にたどり着いていた。


「明かりがついている。なら満月姉妹の母親がいるに違いない」


「さっそくしゅうげきしよ……」


「いやいや、人質を捕まえる段階でいきなり物騒起こせば警察とか呼ばれて大変っスから、こーこーはー、静かにやるっスよ」

 と、言いながらワノは、一匹のチャネルバットから、段ボールを出させる。


「なに……これ……」


「荷物っス。適当な荷物っス。

 これを届けに来たという建前でインターホンを鳴らして、母親が開けて出てきたところで、静かに襲って、母親の身柄を押さえるんスよ。

 てなわけで、アタイはこれを届けるアンド捕獲するんで、みんなは控えで、満月姉妹とか他人に怪しまれないような位置に隠れて欲しいっス」


 ここでネロアはワノに向けて手を挙げる。


「すまないワノ殿。ここは僕に配達の運命を託してくれないだろうか?」


「え、何でっスか?」


「理由は双つ。

 一、ワノ殿は容姿が浮世離れしすぎているが故、余分な警戒を生むやもしれない。

 ニ、僕の魂は昨夜の汚名返上の衝動を叫んでいる」


「んー、そこまで言うならネロアに任せるしかないっスね。

 じゃあこれを自然な流れで母親に渡すと見せかけて、母親を捕えるんスよ。何かあったら魔石でホウレンソウを欠かさずにお願いしまっスよ」


「承知」


 かくてワノとイバラと充は満月宅から離れた位置に隠れ、ネロアは荷物を抱えて満月宅のインターホンを鳴らす。


 するとインターホン越しに満月家の母親――チヨがネロアに尋ねる。

『はい、満月チヨです。あなたはどちら様ですか?』


「すみません、近所に住んでる田中ネロアといいます。満月さんのお荷物が何故かこちらに届いていたので、持ってきました」


『わかりました。今取りに行きます』


 数秒後。玄関のドアが開き、そこからチヨが出てくる。


「わざわざ持ってきてくれてありがとうございます、田中さん」


「はい、どういたしまして」


 ネロアはチヨに持っていた荷物を渡す。


「あれ、田中さん。この荷物宛先シールが無いんですけど、これどこから来たわからないで……」


 ネロアはドアを閉めて、チヨと共に家の中に入る。

 この様子を、少し遠くに隠れているワノさんはしっかり確認した。


「……ネロア……いえのなか、はいった……」


「家の中に入ってしまえば母親が騒いでも周りに聞こえなくなるし、家ごと人質に取れるっス。ははん、ネロアめ、とんでもなく賢い立ち回りするっスね」


 急に家の中に入って来たネロアに、チヨは目をパチクリさせる。


「ちょっ、ちょっと田中さん、いきなり何ですかこれ!? え、何かのイタズラ!?」


「……満月さん、すみません。けどぼくはイタズラしたくてこうしたんじゃありません。いきなり過ぎて話が飲み込めないかもしれませんが、あなたは狙われてます!」


「え、狙われてる!? どういうことですか!? もうちょっと詳しく教えてくれないですか!?」


【完】

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