第95話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行⑩―満月姉妹と大阪へ行こう!―
「まさか本当に来るなんてね、コーリン!」
「ああ来てやったぞピコリ! そして今から戻してやるからな!」
ここで、ピコリとごく自然な会話を交わしたコーリンへ、マジナは尋ねる。
「あれ? 姉御、いつピコリがあいつらに洗脳されてるって知ったんだい?」
「そんなのピコリの様子を見りゃあわかる。あのやたらめったら音波出して攻撃してる様を見ればな」
「へえ、随分と察しがいいようっスね? ま、それで終わりそうっスけどね」
ワノは防音小屋の窓を少し開けて、コーリンたちを嘲笑った。
「何じゃ、あの小屋?」
「多分護身用の小屋じゃない? ピコリお姉ちゃんが手に負えないぐらい危なくなってるから、あそこにこもって身を守ってるんでしょ」
「なんか情けないボスじゃのう」
「ふん、好き放題言えばいいっスよ! どうせお前らは、自分の姉妹に手も足も出せずに負けるんスからねぇ!」
「いいや、オレたちは戦うぞ!」
「ピコリ様に大事があったらどうするつもりっスか? こちらが逆に大事を誘発出来る術があるとか言ったらどうするつもりっスか?」
サバキは言う。
「人質と戦力、両方を十全に備えた存在を作り上げる――ワノめ、ああいう風にひょうきんに振る舞いながら、本当にえげつないことをしてくれたものだ」
「確かにな。だーがオレたちはピコリを絶対に助ける! そのためにきっちり策も考えてあるんだぜ!」
コーリンは震撼剣の刃先をピコリの頭に合わせて言う。
「お前ら、ピコリの弱点はあのヘッドホンだ! あのヘッドホンが、ピコリに力を与えてるかつ、ピコリをおかしくさせている元凶だ!」
「姉御、何でそれがわかるんだい?」
「カンだ!」
と、コーリンは自信満々に答えた。
傍からすればあまりにも適当な答え。だが、この適当さはこの情報源に理由がある。
*
数分前。
「……マジで回復するのかよ。これ」
今自分で飲み干した、ネロアに渡されたポーション入りのガラス瓶を見つめながら、状態異常から全快したコーリンは感心する。
「……ありがとよ、えっと、ネロア・ルォーナピアナだったか」
「……どういたしまして。では、さっき言っていた話を手短にしましょうか。
結論から言いますと、あなたの妹、ピコリさんは、私達イルミネーターズより洗脳され私達の戦力になっています」
「は、洗脳!? 戦力!?」
「ワノさんが『エモインスレイブ』という特殊なヘッドホンをピコリさんに着けさせたのです。
その効果によって、ピコリさんのこれまでの憎悪が爆発した上に、戦闘力――特に強力な音波を発せる能力が備わりました。
ピコリさんを助けようとする皆様を、思い通りにしたピコリさんで反撃させて倒す。これがワノさんの目的です」
「どうすればピコリを助けられるとかは、わからねえか?」
「これ私ではわかりません。ですが恐らく、その大本であるヘッドホンを破壊すればいいかと思います」
「なるほど、教えてくれてありがとよ。
けどよ、これオレに言いふらしていいのか? お前らオレたちを生け捕りにしたいんだろ? ならさっきの薬を渡したことも含めて、モロに裏切り行為だぞ?」
「いいんですよこれで。たちさんのような善良な方を生け捕りにしても、たとえその先に何かいいことがあったとしても、結局は虚しいだけ。私はそう思いますから」
「そうか。じゃあオレは上行くからな。達者でな」
コーリンは踵を返して、階段を上ろうとする。
ネロアは、「はい、行ってらっしゃいませ」とだけ言って、それ以上は何もしなかった。
*
「ほーう、ピコリの弱点はあの頭につけてるあれなんじゃな……なら!」
ルシェヌは、今までバリア代わりに出していた渦潮を消し、ピコリに火の玉を数十発放つ。
火の玉はピコリから発される音波により、あっさりとかき消される。だが、ルシェヌはそれで確証を得る。
「見たのじゃ、見たのじゃ、見ーたーのーじゃあー! 頭に撃った魔法だけ、かき消さえるのが遅かったのじゃ!」
「なるほど、流石にあの強烈な音波を耳に入れ続けるのは危険故に、頭部周辺の音波は少々弱くなっているのだな! よく気づいたな、コーリン殿!」
「ま、まぁ、そういうことだ。じゃあそれがわかったら、早速ヘッドホンをぶっ壊して助けてピコリを助け出すぞ!」
「何が助け出すだァァァッッッ!」
ピコリはコーリンたちの方を向いて大剣を一振り。斬撃めいた音波がそちらへ飛ぶ。
ルシェヌはそれに向けて、
「『導く火のブートストラップ』!」
激しく燃える火球を放ち、相殺する。
「ありがとよ。ルシェヌ」
「ふん、恩に着るのじゃぞ、コーリン」
ピコリは慟哭めいて、姉妹に言う。
「お前ら、助ける助けるって、凄惨な光景見まくった結果、発想が極端になった聖職者キャラみたいに言いまくってるけど……助けて何になるの!?
帰ってもまた、やること全部メチャクチャ力技なヤツと、S級のド変態なヤツと、融通が利かない頭カチカチなヤツと、ちっとも甘えてくれないヤツと、ウチのこととことん見下すヤツ――控えめに言って最低な姉妹たちに、ウチはずっとひどい目に合わされるだけだってのに!?
だからウチは帰らないし、助けて貰わないよ! こんなヤツらに助けられるんだったら、ウチはもうどうなってもいい!」
ピコリの言い分を聞き終え、ユノスは言い返す。
「……ピコリお姉ちゃんの言う通り、ボク達はひどいことしたかもしれない。けれど、ボクたちとの思い出が全部が嫌なのじゃないはずだよね? 楽しい思い出もきっとあったんじゃないの!?」
マジナはそれに付け足す。
「テレビのチャンネル決めでワチャワチャしたりとか、一緒にクリスマスパーティーの支度したりとか、ゲームしたりとか、母さんのカフェ運営の仕事手伝ったりとか……色々楽しいことしたじゃないか! まさかその時もピコリはずっと私たちを恨んでたっていうのかい?」
ピコリは言う。
「……確かにそうかもしれない、けど、それを考慮してもお釣りがついてくるぐらい、ムカつくんだよぉ! お前らの悪行がァ!」
サバキは言い返す。
「だから自分たちは貴様を助けに来たんだ、お前にしっかりと謝るために!」
ルシェヌは付け足す。
「アタシだって反省の一つや二つするのじゃ! だからここは大人しくするのじゃ!」
ピコリは言う。
「だとしても……だとしても……! ウチのせっかくの修学旅行は……もう戻って来ないよねッ!?」
コーリンは言い返す。
「ああ、楽しい楽しい修学旅行は、もう戻らないだろうな。
けど、それはオレたちも同じだ! なんてったって今オレたちは、先生に無断でここに来てるからな! きっとオレたちも戻ったら、きっと大目玉食らうと思うぜ〜!
……実際、オレたちの言うことは信じられないかもしれない、オレたちが謝ったところでどうにもならないかもしれない、オレたちがどうしたってピコリの役には立たないかもしれない。
けれども、何よりも! オレたちは姉妹で、満月チヨの六人の娘だろうが!
だからよ、帰ってきてくれよ、ピコリィッ! そしてまた家族七人で、楽しくやろうじゃんかよぉッ!?」
ピコリはうなだれた。姉ここまでして自分を気づかってくれるんなんて……しかし、少し経って、
「……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁ! もうウチは、これ以上怯えない、甘えない、戻れないんだぁ! お前たちは嫌いにならなきゃいけないんだぁ!」
大剣を構え直し、豪快に上から下へ払う。斬撃波めいた音波が五人に飛ぶ。
「そうっス、それでいいんスよ! そのまま怒りを全部、あのクソ姉妹にぶつけてやるんスよぉ!」
五人は音波をひらりとかわす。
「先程のと比べて、威力も速度も落ちている。動揺しているな、ピコリ」
「ああ、きっとピコリも、百パーセントオレたちと戦いたい訳じゃないんだろう。
だからよ、みんな! 今度の今度こそ、ピコリを助け出すぞぉぉぉっっっ!」
「「「「おおーっっ!!!!」」」」
ユノスがアザレアをベレー帽から出し、
「皆様、戦いの前に、これで少なからず癒えてくださいませ!」
アザレアは五人に鱗粉を振りまき、五人の体力を回復させる。
「アザレア殿、感謝する! さあて、今度こそサバキ姉さんが助けてやるからなピコリ!」
ピコリのヘッドホンめがけ、サバキは弾丸形のルマを射出する。
ピコリは再び歌い出し、周囲に音波を放つ。
いくら頭周辺の音波が薄いとはいえ、音波による鉄壁の防御性能は未だ健在、ルマは散り散りにされた。
「この野郎、この野郎、この野郎! 倒れろ、倒れろ、倒れろ! 早いとこ負けてよッ!」
ピコリはがむしゃらに大剣を振り回し、手当り次第、五人へ斬撃波を放つ。五人は各々努力し、回避する。
「これだけ攻められたらキツいね。少しマトを増やそうか」
マジナは胸元からカードを引き抜き、白竜『JavaWock』を召喚する。
JavaWockは己の能力で、満月姉妹の幻影を大量に生み出す。
「分身なら私にもお任せあれ、ハァッ!」
アザレアも、自分を簡略化させたような容姿の分身を大量に召喚する。
「邪魔だ邪魔だぁ!」
幻影・分身の集団を減らし、本物の五人を倒すため、さらに斬撃波をより広範囲へ飛ばす。これにて本物の五人への攻撃は減る。
「やかましいのうピコリめ、これでも食らって少しは頭を冷やすのじゃ! 『穿つ風のロールフォワード』!」
両手を開いて放ったルシェヌの二つの竜巻。これをピコリは一切気にせず、自動的に張られた音波バリアがかき消した。
だが竜巻は確実に音波バリアを削っていた。
竜巻の轟音により音が乱され、かつ、音を伝えるための空気を奪われたのだ。
「今だ! これで一気に詰める!」
この隙にサバキは、ピコリの周囲に、ルマ製のワイヤーを張り巡らせる。ピコリは無闇に動けなくなる。
「こんな小細工、ソッコー消してくれる!」
ピコリは大剣を振り回し、ワイヤーを取り払おうとする。その寸前、
「よっし、アザレア! 思いっきり蹴ってくれよ!」
「イエス、コーリン様! はぁっ!」
コーリンはアザレアの蹴りで勢いよく飛ばされ、サバキのルマ製ワイヤーの結界をすり抜け、妹へ震撼剣の刃先を突き出す。
「……来るなぁ!」
ピコリは歌に魂を込め、極厚の音波バリアを紙一重で形成。コーリンの軌道は、バリアの表面をなぞるようにへし曲げられる。
「サバキぃ! このワイヤーはお前の頭並みに硬く作ったんだろうな!?」
「勿論だ! どれだけ蹴っても音波を浴びても大丈夫な強度にしておいた!」
コーリンはピコリの背後に張られたワイヤーを蹴り、再度ピコリに突進する。
「もう一度行くぞぉ! ピコリィ!」
「やらせるかぁ!」
だがピコリはすぐさま踵を返し、コーリンめがけ大剣を振るう。
コーリンは大剣を蹴り上に飛ぶ。今度は天井を蹴り、頭上からピコリに襲いかかる。
ピコリは音波ビームを放ち、コーリンをふっとばす。
だがコーリンは、吹き飛ばされた先にあるワイヤーを蹴り、突撃する。
コーリンの突撃とピコリの迎撃、この両方が連続するれる。
「クソッ! このままではピコリ様が危ないっス……!」
永遠のように続くピコリへの脅威を不安視したワノは、防音小屋の窓を開け、己の眷属であるチャネルバットを外に召喚する。
しかし、元よりバット――コウモリは耳がいい生物。ピコリが鳴らす音でまともに運用できなくなる。
「クソクソッ! アタイはもう黙って見てるしかないんスかぁ!? いや、まだ勝機はある!」
ワノは魔石三つを手に取り、両方にこう言う。
「聞こえているっスか! ネロア、イバラ、充!? 早く上に来るっス! そしてピコリの援護を頼むっス」
魔石の一つから、充は言う。
『それなら問題はない』
続いて、この階層で、イバラは言う。
「いま、たすけにきたよ……ピコリおねえちゃん」
そう、丁度、イバラと充が、この階層にやって来たのだ。
「このワノ殿が考えた作戦、そして、貴様ら六人を生け捕りにするという任務。俺は絶対に成功させる。
俺は、元の世界でやり残しているんだ……あの世界の闇を晴らさなければならないんだ!」
「……わたしのせかいでも……たくさんのせかいでも……どれだけたくさんころしても、あえなかった……けどここであえた……わたしがすきっていってくれるひとを……ピコリおねえちゃん、ぜったいたすけるよ……」
イバラは銃を構え、充は両手に帯電させ、各々、ピコリに襲いかかるコーリンを止めようとする。
「コーリンお姉ちゃんの邪魔しないでよ! アザレア、止めて!」
「イエス、マスター!」
「お前はしぶと過ぎなのじゃ! もう一度魔王の名の元にひれ伏すがいいのじゃ!」
ユノスとアザレア、ルシェヌはイバラと充の介入を妨害する。
これにてコーリンの攻撃はまだまだ続く。
「一体いつまでやるつもりなんだよ、コーリン姉さん! 音波を何度浴びせたと思ってる!? 歌も何ループしたと思ってる!? もう限界でしょうが! さっさと諦めてよ! でないとウチは本気で……」
「やれるもんならやってみろ! 言っておくが……というより、もうこのしつこさでわかると思うが、オレは、オレたちは是が非でも、満月ピコリを、満月家の一員として一緒に帰らせるんだからなぁーッ!」
「う、う、うるさぁぁーーーいッ!」
ピコリ怒りの強音波。またしてもコーリンを吹き飛ばされる。
コーリンはめげずしょげず、またしてもワイヤーを蹴り突撃する。
ピコリの目にはどれだけボロボロになろうとも、己に向かって真っ直ぐ突き進むコーリンの姿があった。
コーリンの目には、心中の底の底に芽生えた何かを、必死に覆い隠そうとしつつ、力を振るうピコリの姿があった。
「これで、今度こそ止まれぇぇぇぇ!」
ピコリの大剣はコーリンに命中する……前に止まる。
「ああ、止めてやるぞ、自分が!」
ピコリは大剣を一瞥する。と、それにルマがベットリ付着しており、サバキがそれを引っ張っていた。
「なら、なら……ウチの歌を聞けーーっ!」
ピコリは気力を振り絞りシャウトし、コーリンに音波を与える。
コーリンは結界の外にまで行きそうな勢いでふっとぶ。
しかしその前に、彼女の背中に付いた赤い翼が羽ばたき、彼女は勢いよく再発進する。
「いいぞ『Hellkite−W』! そのまま姉御を押して行け!」
コーリンの背中にはマジナの八竜の一体、赤竜『Hellkite−W』がいた。主の命を受けて姉御に翼を授けていたのだ。
「うおおおお! オレは絶対に止まらねぇぇぇぇ! そしてオレの声を聞けーーっ! オレは絶対に、妹を見捨てないぞぉぉぉぉ!」
この魂の叫びの通り、コーリンは音波をもろともせずピコリに迫り、震撼剣を強く握り、
「食らえ、これが満月家の絆だ! 『黄麟の刹那』ァァァッ!」
コーリンは己の全力を込めて、ピコリのヘッドホンを震撼剣で一閃、粉砕した。
「ああっ、エモインスレイブが、アタイの綿密に練った作戦がぁぁぁ!?」
まさか本当にエモインスレイブに到達してしまうんなんて――ワノは想定外の事態に小屋から飛び出し叫んだ。
直後、ピコリの服装が元に戻り、当人は頭から倒れた。
交戦中だったユノスとアザレアとルシェヌ、イバラと充は、一時休戦した。
「そんな、ピコリおねえちゃんが……」
「俺達の切り札が……」
「や、やった。ピコリお姉ちゃんが元に戻った!」
「お疲れ様です……コーリン様、いや、皆様」
「わーいなのじゃ! これもアタシの大活躍のおかげなのじゃ!」
背中から倒れるピコリを、コーリンは腕を回してガッチリ止める。
当人を、負担をかけないような体勢にして、「おい、ピコリ、大丈夫か、しっかりしろ……」と、声をかける。
するとピコリは目を開けて、虫が鳴くような声で答える。
「ごめんね……コーリン姉さん、マジナ姉さん、サバキ姉さん、ユノス、ルシェヌ……ウチが情けないばっかりに、みんなに迷惑かけて……」
サバキはピコリの近くに駆け寄り、彼女と目を合わせて言う。
「冗談言うんじゃない、貴様は立派だ。むしろ情けないのはこっちの方だ。みんな、ピコリの気持ちをわかってやれなかったんだから……」
ピコリは目に涙を流しつつ、笑みを浮かべて、
「うう……サバキ姉さん、冗談が下手だよ……」
サバキは貰い笑いをして、
「だから自分は、情けないんだ……」
こうして満月姉妹は、無事イルミネーターズからピコリを奪還したのであった。
「おーっと! こんなグッドエンディング、アタイたちは認めないっスよぉ!」
ワノは無数のチャネルバットを部屋のあちこちに配備――いつでも武器を射出できるようにする。
イバラと充はワノの両脇に立ち、各々構えを取る。
「ちょっとワノさぁん。まだやるつもりなのかい? もう君たちのキーカードは落ちたんだよ?」
「うるさい! 別に切り札があろうがなかろうが、関係ないっスよ! 結局こうやってシンプルに実力でぶちのめせばいいんスから!」
「ちっ、本当にねちっこい人だねぇ。君……」
マジナは胸元に手を入れ、いつでもカードを引き抜けるような体勢を取る。
ユノスとアザレア、ルシェヌはマジナの脇に立つ。四人揃ってワノたちを睨む。
この時、ネロアが、何食わぬ顔をして、下階から上がってくる。
「お、やっとこさネロアが来たっスか! これでイルミネーターズ四人が揃いましたっスよ! てなわけで、アンタらにはこれから、アタイらの在庫一掃セールを食らって貰うっス!」
「……【モンスターコール:スケルトン5】」
ネロアは忌々しい姿の骸骨【ダムドスケルトン】十数体を召喚し半分はマジナ達を向くように、半分はワノ達を向くように――両者を遮るように配置する。
「ちょっ、ネロア! これは何のつもりっスか!? どうしてこの骸骨達はアタイたちを邪魔するような陣形を組んでるんスか!?」
充はネロアに怒鳴る。
「ワノさんの言う通りだぞネロア! 今奴らは、ピコリと激戦を繰り広げて消耗している――六人を生け捕りに出来る絶好の機会だってのに!」
ネロアは他三人に、この行動の理由を説明する。
「消耗が激しい――それは双方が宿す真実である。
されど、五人は相手は肉親を傀儡のように扱われ、怒り猛る火を滾らせている。この真実は、戦力差の広さは軽視すべき運命にあらず。
故に、僕は今宵、イルミネーターズ敗北の悲運から逃れる為、不戦を誓う」
「ネロア殿、貴様はそれでいいのか!? 貴様は元の異世界に帰りたくないのか!? 自分が治める国――死国【トードイスムカ】に帰れなくていいのか!? アンティルやらレイザックとやらの仲間に会えなくてもいいのか!?」
「ネロア……わたしはピコリおねえちゃんを……ずっといっしょに……」
充とイバラの懇願を受け、ネロアは即答する。
「僕は己が正道と想ったことを言ったまで! そして僕はそれを、無責任に転変するような愚者にあらず!」
ワノは、ネロアの意志の固さと、発言の内容の合理性を理解して、
「……仕方ないっスね。これ以上戦っても損害の方が恐ろしいっスし、ここはひとまず退散としまっスよ。みんな」
「……」
「わ、ワノさん……」
「……ワノ……」
「ただし、覚えてろっスよ! アタイたちイルミネーターズは十回でも百回でも、アンタらを襲撃するじょぉ!」
かくて、ワノ、ネロア、イバラ、充――イルミネーターズはこの廃ビルの窓から飛び降り、真夜中の闇の中に、一時退散するのだった。
「……うっし、これでひとまず終わったな。じゃあ、みんな……帰るぞ!」
*
翌日。百式高校の修学旅行、四日目(最終日)。
生徒たちは大阪市内で自由行動し、悔いのないように遊んでいた。
……ごく一部を除いて。
「どこもかしこも美味しそうな匂いがするのじゃ〜!」
「大阪は昔から『天下の台所』や『大阪の食い倒れ』と言われる程、食文化が栄えていた土地だからな。そこら中にグルメがあるんだ」
「あ、ボク、あのドーナツ食べたい」
「ユノスさぁ、もう少し大阪っぽい物食べようって気にはならないの?」
「ユノスらしくていいじゃねえか、そっとしておけマジナ。ひょっとしたらあのドーナツ屋、ここ辺りじゃ有名な店かもしれないしよ」
「……流石に姉妹六人連れて歩くと、もはや罰感が薄れますね……」
昨日、無断で他所へ出かけた満月姉妹を監視する役目を担った先生は、苦笑いしてそうぼやく。
先生はサバキに耳打ちする。
「あの、サバキさん……」
「はい、何でしょう?」
「みなさんは、昨日無断で外出するという団体行動を乱すようなことをしました。ですが、そのおかげでピコリさんが戻ってこられたというのもありますので……ここは私が上手く丸く治めますから、みなさん好きに行動しても構いませんよ」
「いえ、ここは生徒会長として、信賞必罰の姿勢をしっかりと見せさせていただきます。それに、どのみち自分たち六人は同行しますので」
「は、はぁ……」
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ〜」
と、すっかり元通りになったピコリは、派手な大阪の風景を見て、いつも通りのしょうもないパロディをほざく。
「テーマパークなら昨日行ったじゃろうが、ピコリよ」
「ルシェヌさ、そういうツッコミ食らうと興冷めするからやめてくんない? あ、先生、お昼ごはんとかは好きなところで買って食べていいですよね?」
「あんまり散らばるとこちらの手間が増えるので、できれば、姉妹で一緒の所で食べてください」
「はいわかりました。じゃあみんなどうする?」
コーリンは言う。
「ピコリが決めていいぞ。たまにはお前の好きなようにさせてあげるよ」
「えー、そんな急に一任されても困るよー」
マジナは言う。
「いいからほら、自分の食べたいものを好きなように選んでよ。お姉さんに甘えてさ、ね?」
「えー、じゃあ大阪定番お好み焼き、たこ焼き、串カツと、さっきユノスが気になってたドーナツと、飲み物枠のミックスジュースで」
サバキは言う。
「それは流石に食い過ぎだと思うぞ」
「えー、だってウチ、メチャクチャお腹空いてるんだけどー。それに昨日の遊園地楽しめなかった分を取り返したいんだけどー」
「……わかった。ただし、本場で食い倒れても知らないぞ」
「おっけっけー。じゃあみんな、まずは適当なお好み焼き屋さんにレッツゴー!」
ピコリは先導として辺りを見渡し、良さそうなお好み焼き屋さんを探し始めた。
その姿を見つつ、コーリンはサバキに言う。
「ピコリが楽しそうでよかったな。そんでもって、これで修学旅行が台無しにならないで済むな」
「そうだな、コーリン殿。少なくとも自分たちの場合は否が応でも思い出には残るだろうがな……」
「あ、ここ良さそうだよ! みんな来て来て〜!」
そしてこの後、満月姉妹は修学旅行を満喫した。
――イルミネーターズの存在を一旦忘れるくらいに。
【完】




