第93話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行⑧ー満月姉妹とピコリの逆襲ー
廃ビル一階にて。
「せいやぁ!」
「ふっ!」
コーリンとネロアは未だなお剣戟を続けていた。均衡を保ち続けていた。そして、いよいよ気力が尽きようとしていた。
「ぜぇ、ぜぇ……やっぱりお前の剣にはやる気がねぇなぁ。死神のなんたらは、オレたちを捕らえたい奴は、ここまで長丁場の戦い繰り広げる必要あるのかぁ!?」
「はぁ、はぁ……それはただ、貴方の天賦が至高の代物であるが故ではあるまいか?」
「だとしても何で本気でかかってこないのかよオラァ!
お前は一体何がしたいんだァ!? さてはお前、オレたちを捕らえるかどうか迷ってるんじゃねえのか!?」
「!?……いいえ、そんなこと……申し訳ございません!」
ネロアは罪悪感を噛み締めながら、伝家の宝刀を抜く覚悟を決める。
「行きますよコーリンさん……【モンスターコール:スケルトン5】!」
ネロアは忌々しい姿の骸骨【ダムドスケルトン】数十体を召喚し、コーリンを襲うよう命じる。
「妖怪ごときでオレは屈さねぇぞ!」
コーリンは震撼剣をがむしゃらに振るい、次々と迫りくる【ダムドスケルトン】を斬り倒す。
その間ネロアは、
「死神ホイプペメギリの力を見せてあげますよ……【死神の凶器】!」
己のワイヤー付きの剣に、禍々しいオーラを纏わせる。
これを振り回し、コーリンとスケルトン区別なく、辺り一帯を凄絶に薙ぐ。
「ぐぅっ……ってあれ? あんまり痛くねぇし、骸骨どもを全滅させてるじゃねえか?」
これでまだ生き残っていた【ダムドスケルトン】十数体は即死し、肝心なコーリンには、特にダメージを与えられていなかった。
「いいえ、これでいいんですよ……行ってください」
ネロアが言った直後、コーリンに霊魂三つが命中する。そしてコーリンは、突然苦悶し、片膝をつく。
「何だ急に……!? 苦しいし、痺れるし、力が入らねぇ……!?」
武器に『即死効果』を付与し、これで死んだ者は、当たった者を尋常ならない強さの状態異常に陥れる計七種の霊魂【遺言】をドロップさせる。
――これぞネロアの奥義【死神の凶器】。
これを受けたコーリンは、尋常ではない程の強い毒【強欲】、筆舌に尽くしがたい麻痺【怠惰】、まるで理解できない強さの空腹【暴食】、以上三つに掛かってしまったのだ。
「では、もう終わりですね」
「ようやく本気を出したか……やるじゃねえか!」
されどコーリンは、根性だけで立ち上がり、
「けれども、ピコリが待ってるんだ……! そう簡単に負けられねぇよ!」
残された力を使い、ネロアにゆっくりと一歩一歩踏みしめ近づく。
コーリンの気迫を感じ、ネロアは『この人はまだやれる』と察し、
「ならばもう一撃、食らって貰います……【黒狼煙の牙】」
闇を纏わせた剣を、コーリンの急所を外れて当たるように投げる。
「だから負けられねぇつってんだろがァ! 『朱雀の刹那』ァ!」
コーリンは火薬の炸裂と、地面との摩擦、二つの熱源により燃えがる震撼剣で斬り上げ、軌道を無理矢理曲げ、
「かーらーのー、『白虎の刹那』ァッ!」
間髪を入れずオーバーヘッドキックを繰り出し、ネロアの剣をネロアに蹴り返す。
とても状態異常にかかった人間とは思えない奇襲をネロアは防げず、剣は彼女の首筋を傷つけ、彼女の背後の壁に突き刺さった。
「……ぐっ」
これによりネロアは片膝をつく。だが時同じく、コーリンも力尽きかけ、片膝をつく。
「ちくしょう……こんなことになるならお前を焚き付けなきゃよかった……ピコリ……いや、皆、わりぃ、オレの分も頑張ってくれ……」
「……最初から最後まで妹の心配ですか……やはり、あなたはいい人ですね……」
ネロアは二本のガラス瓶を取り出し、一本は自分の手元に残し、もう一本はコーリンへ転がす。
「……何のつもりだ、これ……」
「……詳しい話は、その後ですよ……」
*
廃ビル二階にて。
充はルシェヌを電気を帯びた拳足で、冷酷かつ徹底的に痛めつける。
充の【沈黙の世戒】により声を出せず魔法が使えなくなっている。
だからルシェヌは羽のない虫けらのように、一方的にやられているのだ。
(おのれこいつ、アタシが魔法が使えないのをいいことに散々暴力を振るいやがって……卑怯なのじゃ!)
元よりプライドが高いルシェヌにとって、到底この状況は受け入れられなかった。
だからルシェヌは気合を入れて、床を転がり、ある程度、充から距離を取る。
「逃すものか。俺は為さねばならないことがあるんだ……」
充はルシェヌの行く先に跳んで待ち構え、サッカーボールを相手にするように、ルシェヌへ蹴りを放つ。
ルシェヌは逆に転がり、ギリギリの所でそれを避ける。
ルシェヌは呼吸を整え、立ち上がる。
「今更立ち上がっても貴様に勝機は無い」
充はルシェヌの戦意を粉微塵にするため、何度も彼女を殴る。
消耗が激しいルシェヌはそれを、出来る限り防御する。
この時ルシェヌは考えた。
(だからさっき、『導く火のブートストラップ』を使う寸前、ちょっと体が休まるような気がしたのじゃ。
だからさっき、アタシが床を転がってる時、わざわざ行く先に待ち伏せして蹴りを入れたのじゃ。
……こいつは、『ある範囲』に何かしらの呪いじみた物をかけられるのじゃ。
で、今はきっと声が出せなくなる呪いが、今アタシがいる所にかけられているのじゃ。
つまり、この呪いの範囲を抜け出せば……)
発動地点から半径八メートル以内で、充以外の人間が声を発せなくなる――それが今、充がかけている【沈黙の世戎】の効果。
これに気づいたルシェヌは、【世戎】から脱するべく充に背を向け駆け出した。
「逃さないぞ、この小物め……!」
と、充はルシェヌを罵りながら、稲妻を放ち、ルシェヌを感電させる。
しかしルシェヌはそのまま、真っ直ぐ走り続ける。
(い、痛いのじゃ……けれども! アタシは決してこの足を止めないぞい……)
「まだ逃げ続ける気か!? そのズタボロな身体で……」
充は、ルシェヌに放つ稲妻を強めつつ、ルシェヌの背に決定打を入れるべく、彼女を追う。
だがルシェヌは、一切止まらず、充に追いつかせない。
(何てったってアタシは魔王で……)
「絶対逃さないからな……俺は、俺はこんな奴に負ける訳にはいかないんだ……!」
「ピコリを助けてお母さんに褒められるジョーデキ女なのじゃ! よくもさっきからボロクソに言いやがったのじゃな!」
と、ルシェヌは【沈黙の世戎】外で充に怒鳴り、
「一体誰を愚弄したか思い知るがいいのじゃ! 『導く火のブートストラップ』!」
ヤケクソ染みた様子で、充に火球を放つ。
火球はこれまでのルシェヌの鬱憤がこもった故か、途方もない威力になっている。
充は一切防御できず大ダメージを受けた。
「ま、まだだ……【慈愛の世戎】……」
かくて満身創痍の身となった充は、【慈愛の世戎】で傷を癒やす。
「ふん、もうアタシは貴様の一方的な勝負には乗らんぞい! 貴様、その傷じゃあ当分動けないじゃろう? だから遠慮なく置いてけぼりにしてやるのじゃ!」
ルシェヌは充をガン無視して、階段を上る。
*
廃ビル三階にて。
アザレアは怪人らしいパワーとスピードでイバラに攻撃する。が、それら全てはイバラの手により防がれていた。
【破壊を示すイカリ】――装備者の腕力と強い力を読みとる能力を高める、一対の腕輪の形をしたアーティファクト。今イバラが使っているのはこれだ。
「うそっ、格闘術でアザレアと互角の勝負繰り広げるなんて……」
「この方なかなかですね……」
イバラはアザレアの殴打をいなしながら言う。
「……あたりまえだ……あなたたちを、ピコリおねえちゃんにあわせない……わたしはほんきだ……」
このイバラの発言に、ユノスは頬を膨らませて、
「ピコリお姉ちゃんはボクたちのものだよ! 盗っ人猛々しいにもほどがあるよ!」
「……ちがう……ピコリおねえちゃんは、わたしのもの……だってピコリおねえちゃんはわたしにやさしくしてくれたんだから……わたしのことがすきなんだから……」
「ボクはそういうの、押し付けがましいと思うし、何よりもピコリの姉妹はボクたちだよ! そこのところ、ちゃんと理解してくれない!?」
「……うるさいうるさいうるさい! ピコリおねえちゃんは、ぜったいわたしのものだ……!」
その時、イバラはアザレアの回し蹴りをキャッチし、彼女を壁めがけてぶん回す。
「ゆるさない……ユノス、おまえはてっていてきにボコボコにしてやる……!」
イバラは両腕につけた腕輪を非実体化させ、入れ替わるように一対のすね当てを実体化する、装備する、茨を侵入させる。
「ふっ、はぁ!」
アザレアは壁にぶつかる際、鮮やかに受け身を取るだけでなく、壁を蹴って勢いづけ、イバラにドロップキックを繰り出す。
これが当たる寸前、イバラは跳び上がり、アザレアを踏みつける。
「うわっ、ぐらってきたっ!」
その衝撃はアザレアだけでなく、この階の床にまで伝わり、ユノスを揺らした。
先ほどイバラが着けたすね当ては【凶暴を謳うアギト】――脚力強化に加え、蹴った物に強い衝撃を加えられるアーティファクトだ。
「大丈夫、アザレア!?」
「何のこれしきですよグウッッ!」
イバラは再びアザレアを踏みつける。それで床が激しく揺れ、ユノスはふらつく。
イバラは体勢を直そうとするユノスへ向けて跳び蹴りをする。
「あ、危ないマスター!」
アザレアはユノスの前に分身を召喚し、ユノスにイバラの蹴りが直撃しないようにする。
アザレアの分身がイバラの蹴りを耐える中、ユノスは体勢を立て直しその位置から逃れる。
イバラはアザレアの分身を消滅させ、勢い余って壁を蹴る。
流石はアーティファクトの力というべきか、そのコンクリート製の壁に、イバラの足を中心とした亀裂が入り、穴が空く。
この時ユノスは、立ち上がったアザレアの背後に隠れる。
「よくあれだけの威力を耐えられたね……アザレア」
「ありがとうございます、マスター。ですが、流石にあれを何度も食らえば私でも持たないかと思います」
「しかも、爆発させる銃と、見切りが上手くなる腕輪もあるから……ってあれ?」
「どうしたのですか、マスター」
「ねえ、ちょっとアザレア耳貸してくれない……」
ユノスはアザレアに、手短に耳打ちする。
「たおす、たおす……ユノスはたおす!」
イバラが再び床を踏みつけ、揺らす。
アザレアはタイミング良くジャンプし、振動から逃れる。が、平均的な運動能力しかないユノスは振動を受けてしまい、またしてもふらつく。
「しまった、マスター!」
イバラは跳び上がり、
「……こんどこそ……たおす……!」
ユノスめがけ落下しつつ、まさに今にも獲物に食らいつく顎のように足を開け、彼女を挟もうとする。
「少々手荒ですが、すみません、マスター!」
アザレアはユノスにタックルしてどかす。すなわち、イバラの挟み蹴りの新たな標的となる。
「……おまえもだ……くたばれ……!」
アザレアはギリギリの所で己の分身を目前に出す。イバラは分身を両足で挟み切ってあっさりと倒し、余った勢いでアザレアに蹴りかかる。
「今です!」
アザレアは素早くクルリと回り、イバラの蹴りを避ける。さらに回転を転用して、回し蹴りを繰り出す。
「……させない……」
イバラは着地と同時に素早く両腕を突き出し、かろうじて防ぐ。
「いいや、させてもらうよ」
「!?」
直後、イバラの背後に回り込んだユノスは、彼女の頭めがけ、コンクリートの塊をなるべく加減して叩きつけた。
「……ユノス……おま……」
これによりイバラは気絶し、バタリと倒れた。
「あなたの銃と腕輪とすね当ては、どれも茨を入れないと使えない。
だからあなたの銃と腕輪とすね当ては、同時に二つ以上使えないし、別な物を使う時、いちいち茨を入れ直さないといけない。
と、ボクは思ったから、あなたがそのすね当てを使ってる内に、こう大胆に行動させてもらった……」
ここでユノスは、自分が気を失っている人へ説明している無駄さを感じ、それを中断し、
「アザレア、イバラは大丈夫だよね? これ死んでないよね?」
アザレアはイバラを調べて、
「はい、大丈夫です。ただ気を失ってるだけかと思います」
「じゃあ少し休んでから、上に行こうか。本当は今すぐ行きたいけど、ボクは走り回って疲れたから……今回は本当にありがとう、アザレア」
「こちらこそ、ありがとうございます。そして、お疲れさまです、マスター……」
*
廃ビル四階にて。
「無駄無駄無駄無駄ァ! もういい加減、アタイの在庫一掃攻撃を受けれろっス!」
イルミネーターズの代表格であるワノは嘲笑い、彼女の眷属たるチャネルバットは羽ばたき、武器が飛び交うこの場所で、マジナとサバキは、この苦境からどうにか逃れていた。
「はぁ、はぁ……本当にキリが無いねぇ、この状況」
「ぜぇ、ぜぇ……全くその通りだな、マジナ殿……」
「して、あっちはこれだけ出し尽くしても余裕の表情、と。
もうこうなったら、こちらも出し尽くすべきだろうねぇ……!」
ワノにより飛び交う武器を避け、マジナは僅かな瞬間に、胸から七枚のカードを引き抜き、七体の竜を、マジナの背丈くらいのサイズで、召喚する。
これにて元から召喚されていた青竜『PORTRON』を加えて、マジナの八体の竜が勢揃いする。
「お客様が増えたっスねぇ! ならもっと気合い入れてサービス対応して、数を減らさないといけないっスねぇ!」
ワノはさらにチャネルバットを追加召喚し、さらに武器を射出する。
これらを八竜が各々の力で間、マジナは言う。
「私たちはそう簡単に数は減らせないよ……強いて言うと、一人は減るかも知れないけど」
サバキは言う。
「……縁起でもないこと言うなマジナ殿。自分達は全員生還したままワノを倒してピコリを助けるのだ」
「いや、減るは減るでもそういう減るじゃないよ。サバキ、あそこに穴があるだろう?」
マジナは上階への階段――今はワノの手によって破壊された――が通じていた穴を指さす。
「悪いけど、先にサバキ一人で上に行って、ピコリを助けてくれるかい?」
「それは無理だ。あのワノがそんな行動見逃すわけがあるまいし、そうすれば、いくら八体の竜がついているとはいえ、マジナ殿が危うい!」
「あのさぁサバキ、私と君って、普段は正反対の性格だし空白期間も長かったから意識薄いとおもうけどさ、『姉と妹』だよね?」
「そうだ。だからここだけは二人で協力してワノを倒そう! ピコリを助け出すのはそれからだ!」
マジナは凄まじい剣幕でサバキに訴える。
「それはそれで姉妹らしいっちゃらしいかもしれないけどさぁ、私は姉らしく妹に華をあげたいんだよ。でもって、君は妹らしく姉を頼ってくれないかなぁ、ここは!
って言っても奴が怖いっていうなら、あるいは、これまでどおり『私をとことん信用できない』っていうなら、君の頑固に従うけどね! どうする!?」
普段のマジナにしては意外な台詞だったためか、口実の練度が足りなかったためか、サバキはマジナの問いを鼻で笑って、
「ここでそんな関係を引っ張ってくるとは、つくづくマジナ殿はわからんな。わかった、ピコリの身の安全を確保し次第こちらに戻る!」
「それでこそサバキだ。さぁ、みんな、ちょっと私の妹のために協力して貰うよ!」
八体の竜はマジナとサバキの想いに答えるべく、一層の気合を入れ、ワノの飛び交う武器を防ぐ。
「チャネルバット、上への穴を塞げっス」
数体のチャネルバットが上の穴付近に行き、サバキの行く手を阻む。
「その程度で自分を止められると思うな! どけっ!」
サバキはルマの射出で、難なく撃破し、
「ではマジナ殿、一旦ここは任せた!」
ロープ状にしたルマを上階の床に伸ばし、これを伝って上階へ上がった。
「あいよ! すぐ戻っておくれよ……さぁ、ワノ! ここからしばらくは私と一対一でヤろうか……!?」
この時マジナは戦慄した。
ワノはえげつないほどに不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒッヒッヒッ……ヒャーハハハハハ! 口を開けば姉妹、姉妹、姉妹! アンタらはつくづく面白い連中だじょぉ!」
「……随分とおめでたそうじゃないか。折角捕まえたターゲットの一人が今助け出されようとしてるっていうのに」
「助け出されようとしてる……!? そんな訳あられんで!
……アンタら、ここまで来る中で変だと思われんかったんか? 『どうしてとっとと武力行使して、全員とっ捕まえなかったのかった』って!?」
「思ったね。なんか君達、回りくどい小芝居してたってねぇ」
「でも特に用心はされんかったという。やっぱりあなた達は面白い連中だじょぉ!
ハハハ……ふう、アタイとしたことが行けない、忌々しい徳島を漏らしてしまったっス。
ようしマジナ、これだけ笑わせて貰ったお礼にアタイらの計画の中身をちょっと教えてやるっス。
結論から言うと、『姉妹に苦しめられろ』っスねぇ!」
*
廃ビル五階にて。
「とうっ!」
ルマ製のロープを使い、サバキがその階にようやくやって来た。
「さて……ピコリ、今助けに来……」
そしてすぐにサバキは気づく。その部屋に、黒と橙を基調とした武装を着て、キーボードめいた大剣を携えた、
「ヒーローは遅れてくる。なんていうステレオ展開やりたかったのか知らないけどさぁ、テラ遅いっての、サバキ……姉さぁんッ!」
オレンジ色の髪の少女――何やら様子がおかしいピコリが居ることを。
【完】




