第91話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行⑥―奪還スタート―
しばらくの間、冒頭の致命的な誤植に気づけずすみませんでした。
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満月 コーリン 様
満月 マジナ 様
満月 サバキ 様
満月 ユノス 様
満月 ルシェヌ 様
拝啓、初秋の頃、皆様ますます憤り様のこととお喜び申し上げます。今回は我々の策略に見事はまったことを深く感謝いたします。
さて、今現在、我々は皆様の姉妹、満月ピコリ様を誘拐しております。早速ですが、皆様には本書同封の地図にある場所にお越しいただきたいと思います。
我々としては、そちらで満月ピコリ様を軟禁してお待ちしていますので、ぜひ奪還のご検討をよろしくお願い申し上げます。
即急な対応をお望みいたします。敬具
イルミネーターズ代表 ワノンドロラ・ポルナヤルゥナ。
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このワノから送られた手紙を一通り読み上げ、コーリンは一言。
「とことん書き手の性格がにじみ出たムカつく手紙だな」
マジナは同じ封筒内に入っていた地図を見つつ、
「どうやら奴らはピコリを餌にして、私たちを釣り出す作戦に出たらしいね……」
ユノスはマジナの脇から地図を覗いて、
「場所は大阪市内っぽいね。このホテルからだと数十分ぐらい歩けば行ける距離だね」
いつもながらルシェヌは自信満々に、
「ようし、ならばとっとと待ちぼうけしてる奴らの所に襲撃して、さっさとピコリを奪還するのじゃ!」
満月五姉妹がいる部屋――元はピコリとその友達二人の部屋のドアが開く。
そこからピコリの友達二人が入ってきて、さらに先生が顔を出し、
「もう少しで消灯の時間だから、各自部屋に戻るように」
と、本来ここにいるべきではない満月五姉妹に注意してドアを閉めた。
数秒後、友達二人は満月五姉妹に、
「という訳で満月さんたちには、そろそろアタシたちの部屋から出てって欲しいんですけど……」
「私達、これ以上先生から注目されたくないですし……サバキさんも、生徒会長として、みんなのお手本らしく早寝した方がいいと思うんですけど……」
それを聞いたサバキは、
「確かに、その通りだな」
二人に同調し、他の姉妹に向かって、
「みんな、おしゃべりが過ぎたようだ。ここは素直に先生に従って、各自自室に戻れ!」
と、生徒会長としての威を放ちながら命令し、
「では自分たちは失礼する。部屋を貸してくれてありがとう」
ピコリの友達二人に礼を述べた後、他の姉妹と共に部屋を出る。
「……と、言えど、本気で寝るつもりは更々無いのだがな」
と、サバキがつぶやいたのは、その直後のこと。
「サバキ、お前もやる気か?」
「私はそれでもいいけど、サバキはいいのかい? 生徒会長かつルールガチガチ遵守主義な君が、そういうことをしちゃって?」
二人の姉に問われたサバキは、きっぱりと答える。
「確かにルールは尊い、絶対遵守するべきだ。だがそれ以上に大切な、妹であるピコリを助けに行きたいと思う!
先生達は『こちらがどうにかする』と言っていたが、これはもはや他人に任せられる次元ではない! この問題は、自分たちが、ピコリの姉妹として解決しなければならないのだから!」
「やっぱりそう言うと思ったよ、サバキお姉ちゃん」
「そう来なくちゃ面白くないのじゃ! あのイルミネーターズというイキった連中、ケチョンケチョンにしてやるのじゃ!」
妹たちの言葉を聞き終え、コーリンは皆に言う。
「これでみんな同感って訳だな。よっし、なら行くぞ! イルミネーターズ共をぶっ倒しに、ピコリを助けによ!」
こうして満月五姉妹はホテルを無断で出て、イルミネーターズの元へと向かう。
*
大阪市内に放置された五階建ての廃ビル――ワノが送りつけた文書同封の地図に示された場所にて。
そこの入口付近に満月五姉妹はいた。
「じゃあアザレア、あの蝶を出して」
「イエス、マスター」
ユノスの召使い、アザレアは偵察機代わりの蝶を召喚し、それらにこのビルを漏れなく偵察させる。
だが、このビルの窓全てが布なり板なりで塞がれており、外部から様子を伺うことは不可能だった。
「駄目です。どこから見ても何も見えません」
「わかった。おつかれさまアザレア」
ユノスはアザレアを一旦ベレー帽に収納し、他の姉妹と共に、このビルを見上げる。
「結局この中がどうなっているかはわからず終いか……」
「あのワノとかいう意地汚い女のことだから、きっと何か罠の一つや二つ仕込んでるだろうに違いないからね……少しでも情報が欲しかったなぁ」
ユノスは「ごめんね」とサバキとマジナに謝る。
「なあに、今回は運が悪いだけだ」
「そうそう、ただワノが用意周到だったってだけだよ。
さて、じゃあそれを踏まえた上で、どうピコリを救出しようか……」
ルシェヌは楽観的に、堂々と言う。
「単純にこっから突入してー、イルミネーターズをパパっとボコボコにしてー、ピコリの身柄を確保すればいいのじゃ」
サバキはツッコむ。
「それはいくらなんでも無茶苦茶過ぎるだろう。ここはもう少し慎重に行こうでは……」
コーリンは食い気味に言う。
「いやいや、それでいいんじゃねえか?
思い出せ、イルミネーターズの本来の目的は『オレ達を生け捕りにすること』だから、ピコリは勿論、オレたちにも派手な真似は出来ないはずだ。
ならそれを利用して、オレたちが堂々速攻仕掛ければ、逆にあっちは慌てて、楽にピコリを助け出せるんじゃねえか?」
「そんな単純な作戦で動揺するような連中じゃないと、自分は思うのだが……」
マジナはサバキに言う。
「じゃあサバキは何か考えているのかい? あ、ひょっとして、さっきから否定してばっかりなのは、もう何か考えているからなのかい? どうなの、サバキ?」
「……特にない。すまん……」
ユノスはみんなの意見を整理して、
「じゃあここはコーリンお姉ちゃんが言う通り、速攻で片付けようよ。ただし、サバキお姉ちゃんが言う通り最低限慎重に行動して」
「そうだなユノス。よし、お前らー! ここは気合い入れて突っ走るぞー!」
コーリンが号令した直後、満月五姉妹は、いよいよ廃ビル内に突入した。
*
廃ビルは内部はそれらしく内壁が壊れ、階段と数本の柱以外遮蔽物が無くなっている。階層一つが広い空間と化していた。
そしてこのビルの一階に、
「とうとう馳せ参じたか……満月の皆様」
群青色の髪に黒鎧の少女――ネロアは、剣を携え、堂々待ち構えていた。
「誠に申し訳ないが、僕には運命がある。今宵、皆様をこの場で倒すという運命が。
故に皆様、死神ホイプペメギリより【化神官】の座と、死国トードイスムカを鎮護する運命を賜った、このネロア・ルォーナピアナの剣の元に膝をつ……」
「台詞がくどくてクソ長えんだよ、お前!」
コーリンは愛刀『震撼剣』を構え、ネロアに飛びかかる。
ネロアは尊大な語りを中断し、すんでの所でコーリンの一刀を、己の剣で受け止める。
「クソッ、この一撃を止めるとは、なかなかやるなぁ!」
「これが因果。僕は容易く倒せる生命ではない!」
コーリンはネロアと鍔迫り合いをしながら、背後の妹四人に言う。
「目には目を、剣使いには剣使いだ! こいつはオレ一人に任せて、お前らは先に上に行けぇ!」
「ちょっ、姉御! それはいきなり無茶だと思うんだけ……」
「とにかく速攻なんだよ、ここは! だからさっさと上行ってピコリ助けてやれ!」
「……わかったよ、姉御! 幸運を祈る!」
マジナ、サバキ、ユノス、ルシェヌはコーリンを一階に残して二階に上がった。
*
四人は二階で、ピコリがいないか確認する。
すると青緑色の髪の容姿端麗な少女――充が目をぎらつかせて待っているのを確認してしまう。
「もうわかってるだろうが、生憎俺はワノさんから『命令』されていてな……」
「あーはいはい、わかりますわかります。私たちを食い止めるとかでしょ? じゃあどうぞ、命令遂行してみてくださいな……行くよ、みんな!」
マジナたちは充に突撃する。
ルシェヌは魔王特有の自信故に、他の姉妹より突出して行く。
「さぁ、この魔王ルシェヌにひれ伏すがいい!」
対する充は、冷静に、
「少しは臆すればいいものを……【一心の世戎】ッ!」
地面を殴る。
「あ痛ぁぃ!?」
「痺れるっ!?」
するとルシェヌ以外の三人は、電気を帯びた透明な壁に阻まれる。
「【一心の世戎】は半径十メートル以内に、俺を除く人は一人しかいられなくする。満月ルシェヌ、貴様がその一人だ!」
「だからどうしたと言うのじゃ。アタシは貴様如き、一人でボコボコにする事など容易いのじゃぞ! ゆーえーにーじゃ!」
ルシェヌは後ろで立ち往生する三人の姉に命令する。
「このムカつくぐらいキレイな奴はアタシがやるのじゃ! どうせコイツの面倒くさい術で待ちぼうけしているのもアレだし、お前らはさっさと上行くのじゃ!」
ユノスはそのルシェヌの自信に困惑して、
「それで本当に大丈夫なの?」
「大丈夫なのじゃ! 魔王の命令じゃ、甘えて行くのじゃ!」
「わかった。けど、無理しないでね」
二階にルシェヌを残して、マジナ、サバキ、ユノスは三階に上がる。
*
「……きた」
三階に上がってまもなく、黄緑色の髪の小柄な少女――イバラの弾幕の洗礼を受ける。
「危ない、皆様!」
だが咄嗟にユノスのベレー帽から飛び出した、怪人態のアザレアが、弾丸全てを弾き返す。
「……すごい」
と、この対処にイバラは感嘆する。
「すごいの何の、私はマスターも、マスターの家族全てを守るのが使命ですから!」
「流石だね、アザレア」
「……なら……わたしがつかう……」
イバラは両手に握った銃をホルスターに戻し、両手から妖しく光る黄緑色の茨を、アザレアめがけて伸ばす。
「あ、あれは確か私のBhmthonと、サバキの武装を勝手に操った奴だ!」
「危ないぞアザレアさん! アレに当たれば貴方は奴の手中に……!」
そうこうマジナとサバキが言ってる間に、アザレアにイバラの茨が侵入する。
しかしアザレアのマスターであるユノスは冷静に、
「引きちぎって」
ユノスに命令されたアザレアは、
「イエス、マスター!」
イバラの茨を引きちぎって見せた。
「……あれ……わたしのアーティファクトがきかない……」
「どうやらこの私の行動決定権を奪おうとしたようですね、あなた。ですが……」
「アザレアは、ボクのためだけに与えられた電子生命体『MEY(マスターピース・エレクトロニック・ヨークフェロー)』。
だからボクがマスターだと根本的にプログラムされていて、最終的な行動決定権は常にボクにあるんだからね!」
「……よくわからないけど……いうこときかないならころす……! ……あと、ここからさきにはいかせない……! ……わたしのピコリおねえちゃんにはあわせない……!」
イバラは再度、二丁の銃にイバラを侵入させつつ、それを手に取る。三人とアザレアめがけ乱射する。そして全て、再度アザレアが弾く。
「マジナ様、サバキ様。先程の発言より察するに、どうやらこの方には一度辛酸を舐めさせられたようですね。でしたら……」
「ここはボクとアザレアが引き受ける! ここにもピコリお姉ちゃんはいないみたいだし、二人は早く上に上がって!」
「いいのかい? またしても一人に一人を相手させることになるけど」
「マジナ、ここはユノスを信用しよう。奴の力と自分たち二人の能力は相性が悪く、三人で戦っても数の利を活かせるかどうかはかなり怪しいからな! すまないユノス殿! イバラは貴様に任せたぞ!」
マジナとサバキは戦略的に、ユノスを三階に残し、イバラと相手をさせ、自分達は四階へと駆け上がる。
「いかせない……!」
イバラは、二人めがけ二丁の銃の引き金を引く。が、その前にアザレアが飛び出し、またしても弾丸を防ぐ。
「イバラちゃんだっけ? 必死に仕事してる所申し訳ないけど……」
「あなたの気持ちはよくわかりますが……」
「「ここはやらせない!!」」
*
そしてマジナとサバキは四階にたどり着く。
案の定、イルミネーターズの代表格、ワノが堂々待ち構えていた。
「このペースと、この人数からして、どうやら一人一人ぶつけて、お二人さんだけでここまで来たっぽいっスねぇ……」
「その通り! なんせピコリを速やかに奪還したいからね!」
「この部屋にもピコリはいない……と、なるとやはりピコリがいるのは」
ワノは脇にある階段を指差して、
「そう、あの階段を登っていける五階……」
その方向に自分の眷属、チャネルバット数匹を向かせ、かつそのチャネルバットには口にブラックホールを作らせ、
「……にいるっスよぉ!」
爆弾を射出し階段を破壊した。
「あなた方がよっぽどピコリさんに会いたい気持ち、よーくわかるっス。
けれどもねぇ、こちらの、あなた方をピコリさんに会わせたくない気持ち、よーくわかって欲しいっス」
サバキはワノに語気を強めて、
「つくづく下劣だな貴様……一体何が欲しいんだ貴様らは!」
「おっと、それは今、明確には答えられないっス、情報の在庫管理をさせて欲しいっス。
というか、こちらとしては、あなた方からわかって欲しいんスけど……」
そう語りつつ、ワノは自分の周囲にチャネルバットを配置して、
「普通に考えてくださいっス『人は儲けのないことはしない』とねぇ!
特にアタイはイルミネーターズの代表として、ワノグループ取締役、ワノンドロラ・ポルナヤルゥナとして、絶対に損失は出せないんスよぉ!」
と、啖呵を切るや否、周囲のチャネルバットに剣を射出させる。
「確かにそうだねぇ、『人は儲けのないことはしない』よねぇ……」
「だが、そうであれども。人の妹を平然とさらえる理屈にはならない!」
マジナはOを振り回し、サバキは両手からルマを発射し、冷静に剣を防ぎ、
「さあてサバキぃ、もう二十分にわかっただろう? 奴はドスグロだと」
「ああ、わかっているさマジナ殿。だからこそ……」
「私は君を!」「自分は貴様を!」
「「本気の本気でぶっ倒して、ピコリを救い出す!」」
と、二人はワノに勇敢に言い放つ。
「ああいいっスねぇその気概。ですけどねぇ、これは下でアタイの仲間と戦ってる奴にも言いたいんスけど……あなた方には、ピコリは絶対救わせないっスよぉ!」
マジナとサバキは、下階の姉妹と他のイルミネーターズと同様、ワノと交戦を開始した。
【完】




