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第88話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行③―ばったり―

 午後四時半頃、京都市内のとあるホテル前にて。

「おーす、今朝ぶりだなぁ、マジナ」


「こちらこそお久しぶりー。そっちはどう、京都観光楽しかった?」


 自由行動に出ていた女子テニス部班とサッカー班がここに集う。

 これでそれぞれの班に属するコーリンとマジナは朝ぶりに再会した。


「ああ、バッチリ楽しんできたぜ! 特に時代劇村が楽しかったな! 騎人バスターのスーツが展示されててよ!」


「そっか、それはよかったね……ちなみに私たちは……」


「急げー! 急ぐのじゃー!」


 さらに、ルシェヌと彼女の取り巻きで構成された班が全速力ダッシュで来た。


「……私の話遮らないでくれるかなぁ? ルシェヌ」


「ぜぇ、ぜぇ、悪気はないのじゃ……なんせもうそろそろで五時になるから、アタシ達は滅茶苦茶焦ってたのじゃ……」


 午後五時にはホテルに戻ってくる――この自由行動のルールの一であり、ルシェヌ達を急かした理由である。


「なら急ぎ損だぜルシェヌ。まだ門限まで三十分ぐらいあるぞ」


「え、そんなに余ってたのかえ? スマホの地図アプリで調べたら、ここまで普通に歩いたら『五時五分に着く』ってなってたぞい……」


「それなら早歩きぐらいでよかったんじゃないルシェヌ? 思い切り走ってきたから、逆に時間余しちゃったんじゃないの?」


 コーリン班とマジナ班は、ルシェヌ班の無駄な頑張りっぷりを思い切り笑った。


 ルシェヌは頬を膨らませて、

「ふ、ふん! まあよいのじゃ! 早く帰るのは偉いことなのじゃ! 遅れるよりは遥かにマシなのじゃ!」

 と、自分のしくじりを無理くりごまかした。さらに笑われた。


「ははは、それは言えてるけどねー。

 ……ところで、私と姉御とルシェヌは立派に三十分前に着いたけど、サバキとユノス、ピコリは今どこにいるのかなぁ?」


「さぁな。サバキたちは真面目な連中が多いから律儀に、ピコリたちは遊び人が多いから贅沢に、五時ぴったしにでも来るんじゃねえのか?」



 一方その頃。ホテル内のとある一室――修学旅行のしおりでは『教員待機室』として扱われている一室にて。


「それでは満月ピコリさんたちは、どうして『班員それぞれが別行動してはならない』というルールを破ったのか、きっちりと説明してください」


 先生と生徒会一同が集結した重苦しい空気が漂う部屋の中、ピコリと彼女の友達二人は、彼らの視線の的になっていた。


 ピコリは先生の質問に答える。

「それは……ウチが迷子の子供を交番に届けようとしたからです」


 先生はピコリ達の別行動の発見者、サバキに尋ねる。

「改めて聞きますけど、満月ピコリさんが一人でいたのはどこでしたか、満月サバキさん?」


 サバキは真面目に答える。

「はい、ハンバーガーショップで食事を取っていました」


 迷子の子供を作ってどうにかしようとしているのでは? と、先生は怪しんで、

「満月ピコリさん。迷子の子供と交番はどうしたのですか?」


「嘘じゃないですよ! 本当にウチは博物館出口にいた小さい子供を博物館近くの交番に届けようとしたんです!

 けど交番に着く前にその子が『お腹すいたからハンバーガー食べたい』って泣いちゃって動かなくなったから、可哀想だと思ってハンバーガーショップに行ったんです!」


「なるほど、では満月サバキさん。満月ピコリさんを発見した時、その小さい子供はいましたか?」


「いませんでした。発見時、本人曰くトイレに行ってたとのことでしたが、確認したところいませんでした」


「……ということですが、これは一体どういうことなのですか?」


「……それはウチにもわかりません!」


 先生たちはますますピコリへの疑念を深くした。

 先生はさらに情報整理するため、今度はピコリの友達――ソウとミナミに問いかける。


「では、ソウさんとミナミさん、あなた達は何故ピコリさんと別行動してゲームセンターに行っていたのですか?」


「あ、アタシたちはアタシたちで、なんか外国人に探しもの強要されてたんです!」

「そうです、それで結果ゲームセンターにたどり着いたってだけで、別にピコリーヌ……ピコリさんと別行動したかったって訳じゃないです!」


 これにて情報整理は終わった――先生達はついに本丸を攻める。

「人を助けるにしても、何故三人一緒で、小さい子供と外国の方を順々に案内しなかったのですか?」


 この時、ピコリの脳裏にある会話がよぎる。


『悪いけど交番までいくスタミナないんだよねー、アタシ』

『うんうん、交番行くために疲れたくないんだよ。

 てか、ここから歩いて帰って六分でしょ? これくらい別に動いたって、誰にもバレなくない? 

 さらに迷子の子供を助けるためっていう理由があるから、見つかってもむしろ『偉いっ!』て感じで済むんじゃない?』


『えー、じゃあウチ一人で……交番に?』


『うん、悪いけどピコリーヌ、ガンバ!」

「私たちはここでスマホいじって待ってるから、じゃあね!』


 ピコリは思い出した。友達二人が別行動を取り、ピコリが一人で小さい子供を連れて交番に向かったのは、『断りきれなかった』自分が発端だった。


 だからピコリはこの場を切り抜ける言葉を紡ぎ出せなかった。


 一方、後ろにいる友達二人は起死回生の一策を思いついていた。

 友達の片割れ、ソウはピコリに小声でアドバイスする。


「ピコリーヌ。先生に言ってやって『ウチ、本気で人助けしたくて、はりきりすぎて、一人でその小さい子供交番に連れて行っちゃいました!』って」


「え、それでどうなるの……」


 さらにミナミもアドバイスする。


「あの時も言った通り、人助けってレッテル貼れば多少は良く見られるでしょ?

 あと、今回の事件の元凶がピコリーヌだってことにすれば、ピコリーヌのお姉さん――生徒会長サバキが、姉妹のよしみで助けてくれるでしょ?」


「ピコリーヌ、頼むからそれでお願い! さもないとみんな共倒れになって、折角の修学旅行が台無しになっちゃうから!」


「……わかった」


 もう自分には何も思いつかない。だから二人のアドバイスを受けいれるしかない。


 ピコリは覚悟を決め、先生達に答える。


「それはウチが『その小さい子をなんとかしよう!』って張り切り過ぎて、かつ友達が疲れないように気づかって、一人で交番に行ってしまったからです!

 外国人の方は、休ませてたソウさんとミナミさんがたまたま当たってしまっただけです! 

 つまり、今回の件は、全部ウチが人助けで張り切り過ぎたせいです、すみませんでした!」

 と、真剣な面持ちで言い、さらに頭を下げる――おまけに、この時チラッとサバキの方にも目をやる。


 ピコリの真摯な態度に、先生達も思わずうなる。先生達は小声で対応を見直そうと、総意をまとめだす。


「どうしましょう、本気で謝ってますよ……」

「あの真剣な目……やはり本当に子供のことを思っての行動だったのでは……」


 ちらほらと『ピコリたちを許してやろう』という声も聞こえてくる。ピコリは床へ向けて微笑む。


「「アタシ(私)たちも、ピコリの張り切りを止められなくて、すみませんでした!」」


 さらに背後の友達も、先生たちに頭を下げ、『許す』方向へと一押しする。


(頼むからお願いサバキ姉さん……もうそろそろ助けて……) 


 ピコリは念じた。修学旅行を台無しにしたくないという一心で念じた。

 この時だった。そんな彼女の想いを今着信したのかと思えるようなタイミングで、サバキは開口する。


「ピコリ……いや、ピコリさん、あなたの人助けの精神は素晴らしいと思います。結局子供がいたかどうかは怪しいですけど。ですが!」


「へ?」


「だからといって、その子供があと五分で死ぬとか、一刻を争う状態でもないのに関わらず、『別行動禁止』、『緊急時の報告』などの元から定まったルールと『仲間との連携を強め、人として成長する』という自由行動の根本的理念を無視したのは到底看過できません。これを許してルールの曖昧化が進むのも勘弁です」


 ピコリへ自分の感想を伝えたサバキは、先生たちの方を向いて、

「よって自分、生徒会長兼修学旅行実行委員長の満月サバキは、この件の元凶、満月ピコリさんにほどほどの処罰を求めます」

 と、はっきりと告げた。


「さ、サバキ姉さん……」


「確かに、満月サバキさんの言う通りだと思います……では、満月ピコリさん。あなたは今日のルール違反を理由に、明日の遊園地内自由行動と、明後日の大阪内自由行動を、自由ではなく我々職員の監視下でして貰います」


 折角の修学旅行で、自由を奪われる――それを恐れたピコリは、狼狽えながら、先生にこう訴える。

「い、いや! ちょっと待ってください! ウチは悪気があってこうした訳じゃないですから! それにこれってソウたんとミナミっちも悪くないで……!」


 その最中、サバキは怒気を込めて言い放つ。

「ピコリ! いいから黙って責任を取れ! 

 それに貴様、さっき言わなかったか!? 『今回の件は、全部ウチが人助けで張り切り過ぎたせいです』と! なのにいざ不都合になると、友達を売るとはどういうつもりだ!?」


「……何でもないです」


「では、以上で話し合いは終了です。しおりにある通り夕食は六時からです。それまで部屋でゆっくり休んでいてください」



 話し合い後。ホテル内の休憩所にて。

 ピコリは目を三角にしてサバキに言う。

「ねぇ、どうしてウチのことかばってくれなかったの! サバキ姉さん!」


 サバキは整然とした態度で答える。

「かばえるものか。あの時言った通り、貴様の行動を許せば、今後、他数百人の百式高校生徒の活動に『ゆるみ』が生じてしまうだろうが」


「それはわかってるよ! けどこっちもわかってるよね!? サバキ姉さんがウチの修学旅行を台無しにしたこともさぁ! これはどう責任取るつもりなの!」


「取る責任はどこにある? これは元はと言えばピコリ、貴様のやり方がまずかったことに原因があるだろうが。そしてその口ぶりと、あの時の一瞥からして、さては自分が貴様の姉だから、何かしら助けてくれるとでも思っていたのか?」


 ピコリは目くじらを立てながら、

「そうだよ……ウチは……信じてたんだよ、サバキ姉さんが助けてくれると思ってたんだよ……なのに、なのに……」


 対してサバキは、一切面持ちを変えず、

「なのにじゃない。むしろ『身内だから』ということで貴様を許せば、自分と貴様は、周りからひんしゅくを買うことになるのだ。できるはずがない」


「……どうして! サバキ姉さんはウチのこと考えてくれないの!?」


 顔が烈火のような赤にそまったピコリはサバキに殴りかかる。この生温い拳は、


「ピコリ、少しは落ち着けよ」


 たまたま通りすがったコーリンが、あっさり受け止めた。


「コーリン姉さんまで! 一体何の用!?」


 

「話はユノスから全部聞いた。お前、今日の自由行動でやらかして、明日っから先生に付きっきりにさせられるんだとな……で、それで何故サバキを殴る必要があるんだ?」


 怒れるピコリはコーリンを睨みつけて、

「だってサバキ姉さんが、ウチをかばってくれなかったから、そういう羽目に合わされることになったんだもの!」


 コーリンはやれやれと言いたげな目をして、

「……もう一度言うぞ。話はユノスから全部聞かせてもらった。で、オレは今までの経験とピコリの性格からして思った。

 お前、『自分の意思で、一人張り切って子供を助けた』んじゃなくて、『友達二人にナメられて、結果一人で子供を助ける羽目になった』んじゃねえのか?

 つまりよ、本当に悪いのはピコリの『甘さ』なんじゃねえか?」


「……」


 確かにあの時、ピコリは友達二人に『一緒に行こう』と誘った。が、それは友達二人に理由をつけて突っぱねられた。

 ピコリは……二人を『甘やかして』それ以上は何もしなかった。

 だから今のコーリンの説教は、図星以外の何物でもなかった。


「……ごめん……サバキ姉さん」


 こうして怒りのはけ口を失ったピコリは、拳を引っ込めた。うつむいて、部屋に戻っていった。


 その後、コーリンはサバキにも言う。

「……あとサバキ、いくら生徒会長っていう立場があるからって、ピコリをあんなにまでする必要は無かったんじゃねえのか? 姉として、もう少し上手くやれなかったのか?」


「……」


 サバキは、何も言わず、自分の部屋に戻っていった。



 その晩。


「ピコリお姉ちゃん。明日、何か買っておいて欲しい物があったらボクに言ってよ。代行するよ」


「……いい」


 ピコリは明らかに元気が失せ、口数が減った。


 なので夕食は黙々と食べた。せっかくの高級牛を使ったすき焼きだったのに。

 

 なので淡々と入浴した。せっかくの広々とした浴場で、夜景も見事だったのに。


「……ごめんね、ピコリーヌ」

「私たちが足引っ張っちゃって……」


「……いいよ、別に」


 そしてピコリは粛々と眠りについた。


 その頃、京都から大阪に行く高速バス内では。


「へへへ……あの姉妹、今頃ヒビ入ってるっスよねぇ……」


「満月サバキは姉妹にでも容赦なく処罰を下す冷徹者。その妹の満月ピコリは他人に流されやすい臆病者。そして今回の舞台は、はぐれ者はことごとく裁かれる修学旅行。

 これらをかけ合わせ、ターゲット姉妹間の絆を断つ……実に些細で、実に冗長、されどこれにてターゲットは捕えやすくなる……ワノさんらしい狡猾な策略」


 ワノ、ネロア、イバラ、充の四人――異世界転生管理局より、満月姉妹の生け捕りを命じられたハンター『イルミネーターズ』は、今日の反省会を行っていた。


「あ、ネロア、イバラ。今日は名演技ありがとうございましたっス!」


 ネロアはそれらしく、顔に左手を添えて、

「フッ、この程度、死神の右腕にしてかかれば、造作も無いことだ」


 イバラは複雑な感情を顔に出して、

「……ありがとう……けど、ピコリおねえちゃん……かわいそう……」


「イバラぁ、そうやってたまーにターゲットに同情するのやめてくれないっスか? まだ計画は第一段階っスからもっとひどいことするっスのに……」


 充はワノに尋ねる。

「まだ第一段階か。ではワノさん、次は奴らに何をする? また回りくどい戦力削ぎか?」


 ワノは不敵な笑みを浮かべて、

「第二段階は……いよいよターゲットを生け捕りにするんスよ」


「第二段階で標的を捕える? そよ風さざ波が、疾風怒涛になるが如き、急速極まりない段階変化ではあるまいか?」


 ワノは不敵な笑みを保ちつつネロアの質問に答える。

「いいや、これでいいんスよ。今日入れたヒビを『有効活用』して、六人全員を生け捕りにするには、これがジャストアイデアなんスよ……

 ただし、今は言わないっス。なんせ明日は絶対ドンパチするっスから、今日はこれ以上余計な気力使わないようにさっさと寝るっスよ。

 今晩はカラオケ店よりも寝やすい、っスしねぇ?」


「……たしかに、バスって、ぽかぽかするから……ねやすいかも……」



 翌日。百式高校の修学旅行生は、四日間最大の目玉、大阪の遊園地に来た。

 彼女たちは、おおいに喜びはしゃぎ、みんな思い思いにアトラクションを楽しむ。おいしい食べ物を食べる。バエる写真を取る……などなど、この時を満喫していた。

 ……ただし、約一名は除く。


「流石は有名な遊園地ですよね。建物の作りがどれもこれもしっかりしてますね。伊藤先生」

「本当、雰囲気作りが上手いですよね。山田先生」


「……」

 遊園地内活動と、大阪内活動は先生の監視下に置かれることとなったピコリは、遊園地をブラブラ歩く先生たちに黙ってついて行く。


「きゃははは!」

「わー! すげー!」

「超楽しいんですけど、これー!」


 先生達は一切アトラクションに乗らず、ただ周りの楽しげな雰囲気を感じて満足する。

 同時にピコリは、その周りの楽しげな雰囲気を感じ、自分がそれを直接体感出来ないこと苛立ちを募らせる。


 しかしピコリはこの嫉妬を表に出しはしない。

 昨日サバキとコーリンに言われた通り、悪いのは全て自分なのだから。

 これでかんしゃくを起こすのは支離滅裂なのだから。


「お、あれはさては……おーい、先生ども!」

 

 先生たちの元に、ルシェヌとその取り巻きたちがやってくる。

 皆、ここ限定のカチューシャを着けたり、食べ物やらを持ったり、お土産袋を提げたりして、いかにも楽しんでいる雰囲気を醸し出している。


 ピコリはそれをなるべく見ないように――自分のしくじりを振り返らないようにするため、先生達の影に隠れる。


「満月ルシェヌさん。先生『ども』は口の利き方が悪いと思いますよ」


「えへへ、ごめんなのじゃ! それはそうと先生たちよ、この遊園地、ビューンとかピカ―ッとかガオーッとか言っててすごい楽しいのじゃ! ここに連れてきてくれて本当にありがとうなのじゃ!」


「それは楽しそうでよかったですね……感想のボキャブラリーが足りてないのが気になりますが。

 あと、満月ルシェヌさん、ここに来れたのは我々のおかげじゃなくて、満月ルシェヌさんのお母さんがお金を出してくれたおかげですよ」


「そうだったのじゃ! なら、ごめんなさいなのじゃー! お母さーん! 別な奴に感謝しちゃってー!」

 ルシェヌは自宅の方角に向かって――実際は真逆の方角にある――叫んだ。


 この時、ピコリの心中には罪悪感が生まれる。

 自分の失態で遊園地を満足に遊べなくなったことが、色々下地作りをしてくれたお母さん――チヨに対して申し訳ないと思った。


 ルシェヌは先生たちの影に隠れていたピコリを見つけた。

「あっれー、よく見たら先生に混じってピコリがおるのじゃ。何故じゃ?」


 先生の一人は、苦笑いしながらこうルシェヌに答える。

「ああ、満月ピコリさんはね、どうやら今日は具合が悪いらしくて、万が一があってもいいように先生と一緒に行動してるんだよ」

 自分の事情を気づかってくれた。ピコリは心の中で、先生にちょっとだけ感謝した。


「へー、それは可愛そうなのじゃ。ま、けどアタシにとってはどうでもいい話なのじゃ。 どうせピコリだから、つまらんことで具合を悪くしたのじゃろう。

 さ、みんなよ、次はあっちのアトラクション行くぞーい」

「「「はーい!」」」


 そしてルシェヌたちはガヤガヤ楽しそうに言いながら、先生たちとピコリから離れていった。


「はぁ、本当に満月ルシェヌさんはやりたい放題しますよねぇ……」

「ですよね……けど楽しそうで何よりですよ」


「つまらんことで……つまらんことで……つまらんことで……」

 と、ピコリは先生達の影で、呪詛を唱えるように、言う。


 先生はこのピコリの異様な様子に不安を覚えて、彼女へ声をかける。

「ああ、満月ピコリさん。気にしなくて大丈夫ですからね。そうだ、満月ピコリさん、これまで僕達に黙って着いてきた……ご褒美と言ってもなんですが、あちらの屋台でチュロスでも買っ……」


「何がつまらんことだ……ウチは、ウチは好きでつまらんことになったんじゃないのに……!」


「!」


 全部、自分でもよくわからなかった。

 けれども結果的に、ピコリはこれまでの鬱憤を爆発させて、大粒の涙を流しながら、全速力で駆け出した。


「ああ、ちょっと、満月ピコリさん!?」


「……もしもし、こちら充。ターゲットはたった今南の方角に駆けていった」


『うい、わかりましたっス。南の方角……この遊園地の出入口がある方っスね。じゃあそちらにネロアを配置して、どうなるか見張るっスか……』


 ピコリは訳もわからず遊園地内を駆けた。ただ何となく、何かから逃げたい気がしたのは、薄ら感じていた。


「む、あれはピコ……!」


 ゆっくりお土産を選別していたサバキは、この異変を偶然にも捉えた。


「……様子がおかしい。何やら胸騒ぎがする」


 サバキは手に取っていたお土産を棚に戻し、SNSの満月姉妹のグループに、

『ピコリが大変だ、至急自分の元に来て欲しい』

 と、とりあえず書き込み、自分はピコリを追った。


 ピコリは大粒の涙を目尻から横に流しすほど、無我夢中で遊園地を駆ける。そしてピコリは遊園地の出入口を通り抜け、どこだかさっぱりわからない、河の側に来た。


「はぁ、はぁ……ウチは……ウチは……うっ!?」


 そこでピコリは首筋を銃床で殴られ、

「あなたは……イバラちゃ……」

 気絶する。


「グッジョブっス、イバラ! これにて第ニ段階は完了目前っス!」


「……ピコリおねえちゃん……」


「こら、だからターゲットに同情しな……いや、今回はいいかもっス。

 さ、後は、ネロアと充と合流して、コイツを引っ捕えて引き上げるっス……」


 ワノは片手に魔石二つを持ち、

「もしもし、ネロア、充。ターゲットは無事こちらで気絶させましたっスから、さっさとこっち来てくださいっス」

 それらにこう語りかけて二人に連絡した。


『承知』

『りょーかい』


「なるべく早くお願いっスよ。あんまり騒ぎになるとこの後が困るっスか……」


 ワノの魔石に青緑色のゲル状の物質が飛び、魔石はワノの手から離れて河へ落ちた。


「……で、この後何が困るんだ?」

 サバキはワノとイバラに両手を突き出したまま、こう問いかける。


【完】

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