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第83話 お母さんのインタビュー

 夏休みのある日。満月家にて。


「みんなー、ちょっとテレビ観ない?」

 と、マジナは他の五人の姉妹に勧めてきた。


「オレは今からお前を抱こうと思ってたんだが」

「自分は新聞のパズルをしようと思ってたのだが」

「ウチはベッドでゴロゴロしながら動画見ようと思ってたんだけど」

「ボクは漫画描こうとしてた」

「アタシは今からお母さんに電話しようとしてたのじゃ」


「要するに、全員ヒマだね。じゃあ観ようよ。ちょっと面白い番組録画してさぁ……」


 マジナは半ば強引に他五人をテレビを観る体勢にさせ、録画していた番組を流す。

 番組のタイトルはズバリ、『凄イイ話 女社長は幸せなのかSP』である。


『本日密着させてもらうのは、主に製菓業を行っている『満月コーポレーション』の取締役社長、飯島ロスイさんです』


 ナレーションが流れると共に、テレビクルーを迎えるロスイの姿が映される。


「あ、ロスイさんじゃねぇか」


 ルシェヌはコーリンに尋ねる。

「ロスイ……誰じゃあこいつ?」


「母さんの上司だ。ほら、いつだかユノス帰らせる時(※第28話~第32話参照)会っただろ」


 マジナは言う。

「この家とか、ゲームとか買ってくれた(※第35話~第40話参照)りした人でもあるね。けど、私が見せたいのはロスイさんの暮らしぶりじゃなくて……」


 マジナはある程度早送りをかけて、ロスイの忙しい仕事と華やかな暮らしぶりの場面をすっ飛ばし、ある場面に移す。


 社内を移動中のロスイはスタッフに尋ねた。

『スタッフさん。そういえばこれ、『女社長スペシャル』でしたよね?』


『はい、そうです』


『でしたらあたしの子会社に、かなり面白い女社長がいるのですが、ちょっと取材してくれませんか?』


『と、何かを勧めてくる飯島社長。そして我々スタッフが連れてもらったのは、満月コーポレーションのビルの一フロアにある、子会社『ベーカリーカフェ・ミツキ』のオフィスだった』

 そうナレーションが流れ、ベーカリーカフェ・ミツキのオフィスのカットが映された直後、


『こちらがあたしの子会社『ベーカリーカフェ・ミツキ』の社長、満月チヨさんです』


『は、は、はじめ$#@%△=……』


 六姉妹の母親、チヨが緊張した状態で登場する。同時に、六人は揃って驚く。


 コーリンは言う。

「テレビに出てたのかよ母さん!? マジナよくこの番組見つけたなぁ」


 マジナはとりあえず一時停止をかけて、皆に一つ解説。

「たまたま番組表見てたら『満月コーポレーション』の文字があってさ。それでまさかと思って観たら、まさかのまさかで出てたんだよ、母さんが!」


 ピコリはクスクス笑いながら、

「お母さんめちゃくちゃ緊張してる……すごいウケる」


 ここでユノスはふと思う。

(あれ、どうしてお母さんテレビに出るってこと、ボクたちに言わなかったんだろ……)


「こら、お母さんは真剣にテレビに出てるのじゃから笑うんじゃないのじゃ!

 というよりマジナ! 貴様どうしてこんな番組録画したのじゃ! 絶対お母さんを馬鹿にする目的じゃろ!

 はやく消すのじゃ! アタシはお母さんのカッコ悪い所観たくないのじゃ!」


 と、怒るルシェヌをマジナはなだめる。


「まぁまぁ、まだ母さんのインタビューは出だしだから、もうちょっと先行ったら、カッコいい所観られるかもしれないからさ、ね、我慢して観ようよ」


 マジナは再生ボタンを押し、一時停止を解く。

 するとチヨのインタビューが始まる……前に、ナレーションによるチヨの解説が挟まる。


『この満月チヨ社長、出だしの緊張ぶりからしてダメな臭いがただよっていますが、元大学教員というエリート経歴を辿っており、会社経営は飯島社長をして文句なしの手腕と言われています。

 実際、満月社長の会社が運営しているカフェは売れ行き上々で、二号店の計画も持ち上がっています』


 ユノスはつぶやく。

「へぇ、あのカフェ(※第59話~第60話参照)、あの後きちんと儲かってたんだね」


 ルシェヌはテレビにパチパチと拍手を送って言う。

「そうそう、こういう感じでいいのじゃ。アタシのお母さんはこういう凄い人だって言ってればいいのじゃ」


『さらにこのチヨ社長は、シングルマザーで、社長業の傍ら、六人の娘を育てている敏腕です。それでは飯島社長が言う通り、かなり聞き応えのある話が聞けそうなので、ついでにインタビューしてみました』


 そしていよいよチヨのインタビューが始まる。

 チヨは社長らしく深々と椅子に腰掛け、いつ入手したのかわからない、スマートなデザインの眼鏡を理由不明にかけ、カメラの方をすました顔して向いている。


 コーリンは言う。

「なんか急にカッコつけ始めたな。出だしの巻き返しでも図ってるのか?」


 サバキは言う。

「そのあたりはそっとしてあげたほうがいいと思うぞ」


『満月社長、どうやら飯島社長の話によりますと、こちらもこちらで儲かっているらしいですね』


 チヨは余裕の程をチラつかせて、落ち着いた声色でインタビュアーに答える。

『ええ、当然です。なんせ飯島さんから子会社預かってますし、六人の娘を養わなきゃいけませんから』


 ピコリは、吹き出しそうになりながら言う。

「ぷっ、お母さん真剣に超カッコつけてる。本当、最初のは何だったのって感じ……」


 サバキは言う。

「確かに、最初のあれカットした方がよかったんじゃないか? おかげさまで今の母さんとのギャップエグくて……ふっ」


 インタビュアーはまず、こうチヨに尋ねる。

『会社を上手く伸ばす秘訣とかコツなどはありますか?』


 チヨは相変わらず、社長らしい品格を醸し出しながら、答える。

『とにかく、エンプロイヤー一丸となって、一つのノルマに向かってフルパワーダッシュすることがキーポイントだと思います』


 ユノスは言う。

「なんか急に横文字使い始めたね。すごいインテリ感がする」


 マジナは言う。

「相当いい所見せたいんだろうね。ふっ、ほんと真面目にやってて面白いよ」


 インタビュアーの質問は続く。

『社長業の傍ら六人の娘を育てているんですよね? かなり疲れてたりとかしてませんか?』


 チヨは一旦、インテリ感をかもし出す眼鏡をクイっと上げて、


「何か今の動きムカつくな」


 余裕綽々に答える。

『いーえいーえ、全然そんなことありませんよ。もう全員高校生ですし。

 それに、生徒会長務めたり、積極的にボランティアに行ったり、凄い家事してくれたり、あと出版社から漫画執筆の依頼きたり、すごい優秀な子が多いんです。はい』


 コーリンはツッコむ。

「全部サバキとユノスの話じゃねーか」


 サバキはツッコミを重ねる。

「逆にコーリン殿達の話を言って何になるんだ。特にマジナの話は放送コードに引っかかるだけだぞ」


 ここで番組の方では、ナレーションが語る。

『さらに、満月社長曰く、『ベーカリーカフェ・ミツキ』の看板メニューの一つ、『パン耳ラスク』は娘さんと一緒に考えた物だとのことです』


 インタビュアーは尋ねる。

『砂糖、チーズ、あんこ&クリーム、チョコ、塩コショウ、ケチャップ&マスタード、柚子ジャム、バター醤油……この『パン耳ラスク』、八種類と、かなり味のバリエーションがありますよね? これも娘さんと一緒に考えた物ですか?』


 チヨはかけ慣れていない眼鏡をクイッと上げた後、


「やっぱどことなくムカつくぞ今の動き」


「まぁまぁ、そこは気にしないでよ姉御」


 インタビュアーの質問に答える。

『正確に言いますと、二種類は会社で考えて、残りの六種類は娘が一つずつ出した物を全部採用しました』


 ピコリは言う。

「そういえばあの時(※第48話参照)、みんなで言い合ってたね。うわ、懐かしー」


 インタビュアーは尋ねる。

『では、一応聞きたいのですが……名前とかは出さなくていいので、何番目の娘さん達が、どれを考えたとか、教えてもらえませんか?』


 チヨは先程までの聡明なキャラを崩して、気合を入れて考える。

『えっとですね、ちょっと待ってください! ……確か、あんこ&クリームが一番目で、チョコレートが二番目で、塩コショウが三番目で、で、で、で、柚子ジャムが五番目で、バター醤油が六番目で……す!』


 ルシェヌは言う。

「お、流石はアタシのお母さんなのじゃ! 見事アタシの考えた味を覚えてるのじゃ! すごいのじゃ!」


 ユノスは言う。

「かなりあたふたしながら答えたけどね。あとまだ、足りてないことがあるよ……」


『あれ、四番目の娘さんは何を考えてくれたんですか?』


『多分チーズだったと思います』


 ピコリはツッコむ。

「ちょっと母さんー! ウチが考えたのはケチャップ&マスタードだったんですけどー! 何かこう、ウチみたいなティーンズが好きなナゲット的な味付けだから、それ連想してしっかり答えてよー!」


 マジナは言う。

「仕方ないでしょ、この質問が難しいんだし。それにピコリ地味だし」


 インタビューは終盤に差し掛かり、チヨにこの番組お決まりの質問が来る。

『では満月社長。あなたにとっての凄イイ格言を教えて下さい』


『格言……ええとですね『志し高く』です』


 どことなくチヨらしくない、角張った格言――ユノスはまさかと思い、『社長 格言』で検索する。

「あ、ネットで調べてたらすぐ出てき……」

 薄情な詮索をしたユノスの口を、サバキは無言で押さえた。


 そしてインタビュアーはチヨに最後の質問を投げかける。

『それでは満月社長。最後に何か一言、お願いします』


 チヨはまたしても眼鏡をクイっと上げて、


「そんなに邪魔になってるならもう外しちまえよ」


 真剣な眼差しでカメラの方を向いて、

『はい。わかりました……テレビの前のみなさん! ええとええと……とにかく仲良くしばしょう!』

 と、はっきりと言う。

 そのすぐ直後、番組は再びロスイの密着に戻った。


「……最後の台詞、絶対噛んだよな」


「うん、絶対ウチらの作者の誤植じゃないよ、これ」


 マジナはテレビを消し、皆に尋ねる。

「ね、面白かったでしょ? お母さんの張り切りっぷり」


 それにユノスは答える。

「うん、お母さんが頑張ってるっていうのがよくわかって、面白かったよ」


 さらにサバキが答える。

「に、しては……やや空回りしてる感じが……ふっ、失礼……普段の母さんとのギャップがありすぎて……」


 そしてチヨ大好きルシェヌは言う。

「やっぱりお母さんはお母さんなのじゃ! 優しくて面白くてかっこいい、お母さんの詰め合わせセットみたいな番組が観られて、アタシ大満足なのじゃ!」


 最後に、今日はたまたま早帰りだったチヨは言う。

「……ねぇ、みんな、まさかあの番組観たの?」


 チヨが帰ってきた事に六人は、

「「「「「「うわっ、おかえり!?」」」」」」

 と、びっくりしつつ挨拶する。


「ただいま……で、みんな、まさかあの番組観ちゃったの?」


 マジナは言う。

「うん、とっても楽しく観させて貰ったよ」


 ユノスは言う。

「お母さん、すっごく頑張ってたね。カッコいい眼鏡かけて、社長っぽいこといっぱい言ってて」


「いや、そんな……うん、すっごい頑張ってたよね。うん……」


 チヨはそれ以上は何も言わず、自分の部屋に戻ろうとする。


 その前に、コーリンは彼女に尋ねる。

「ちょっと待ってくれ、母さん。まさかオレたちの話聞いてたりしてないよな……」


「……いや、大丈夫。何でもない。本当に大丈夫だから、何でもないから、うん」


 そして自分の部屋に戻ったチヨは、


「あんな、緊張しまくり、噛みまくり、意地張りまくりなインタビューを、まさか娘に観られるなんて……やっぱり社長だからって、テレビに出なきゃ良かったぁーっ!」


 ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めてバタつき、消せない過去により悶え苦しんだ。


【完】

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