表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/152

第82話 完全休暇、魔王様、ボウガイ!

 夏休みのある日の昼頃。満月家にて。


 サバキはリビングのテーブルにフォルダーをどさっと置き、椅子に座る。


「やっと穏便に出来るぞ……新聞のパズルが!」


 かれこれ82話経ってもあまり触れられなかったので親愛なる読者の皆様は忘れていると思うが、サバキの趣味は『新聞のパズル』である。


 今日のサバキは生徒会長としての仕事もなく、夏休みの宿題もきっちり完遂し、完全に暇な状態。

 だからこの時は、思う存分趣味に浸ろうというのが、今のサバキの考えである。


 サバキはフォルダーを開け、チヨが会社で取っていた新聞から切り抜いて集めてくれたパズルを一枚出し、ペンを取る。


「ナンプレか。よーし、頑張るぞー」


 一方その頃、二階の満月姉妹の部屋にはルシェヌとピコリがいた。

 ちなみユノスはお風呂掃除中。コーリンとマジナは部活に行っている。


 ルシェヌはそこで、誰かへ必死に電話をかけていた。

「……ダメなのじゃ! 全くお母さんに繋がらないのじゃ!」


 ピコリはスマホをいじりながら、ルシェヌにツッコむ。


「そりゃお母さん仕事中だからでしょ。無理だよ、ちょっとでも声聞いて満足しようとかするのは」


「くぅぅ……暇なのじゃ、暇なのじゃ! 家には虐めがいのない貧弱軟弱脆弱なピコリしかいないし! 早く夜になるのじゃー! そしてお母さん帰らせろなのじゃー!」


「今すぐ夜になったからってお母さんがすぐ帰ってくるわけないでしょ。仕事残ってたらそれするようだからさ。

 あと今この家にはウチだけじゃなくてサバキ姉さんとユノスもいるから」


「あー、もう本当につまらん。ピコリと会話してても全くもってつまらんのじゃ……とりあえず、サバキかユノスで遊ぶか」


「姉二人をおもちゃみたいに言うの、どうかしてるよ」


 ルシェヌは一階に降り、とりあえずリビングを覗く。

 真剣な眼差しでテーブルに向き合うサバキがいる。


「おい、サバキ。貴様何しているのじゃ?」


「ナンプレだ」


「ナンプレ? なんじゃあそれ? アタシに説明せい」


 今必死に考えてる最中によくも水を差してきやがって――その一言が喉まで来たが、サバキは姉として、仕方なく、親切にルシェヌに教える。


「ナンプレ、伸ばしてナンバーズプレートとは、三×三に区切られた大きなマスを、さらに三×三に区切った九×九のマスに、一から九の数を入れるパズルだ」


「ふむ」


「ただし、当然適当に数を入れていいというわけではなく、いくつかのルールにしたがって数字を入れなければならない。そのルールは三つある」


「ふむふむ」


「一つ、縦一列に同じ数字が並んではいけない。二つ、横一列に同じ数字が並んではいけない。三つ、大きなマスに同じ数字が入ってはいけない。これがナンプレのルールだ」


「ふむふむふむ」


「これを見てもらえると思うが、ナンプレは予め数字が入っている。それとルールを照合しながらマスに数を入れていき、ルールを完全遵守した状態で全てのマスに数を入れられれば、クリアだ」


「ふむふむふむふむ」


「……で、ちゃんと理解したか、ルシェヌ?」


 ルシェヌは満面の笑みを浮かべて、

「いや、全く聞いてなかったから、もう一回言って欲しいのじゃ」


 サバキは押し殺すような声で、

「この野郎……!」


 五分後。


「……ルール通り数を入れればクリアだ。はぁ、これで五巡目だぞ。いい加減覚えたか!?」


「何となくわかったのじゃ!」


「はぁ……折角の完璧な余暇に自分の妹へナンプレのルールを教えて疲れる人なんて自分ぐらいだろうに……

 で、ルシェヌ。多分今の貴様の状況からして、貴様も暇だろ。貴様も少し賢くなるために、さっそくナンプレをやってみるか?」


「おう、やってやろうなのじゃ。魔王ルシェヌの手にかかればこんなの、ちょちょいのちょいで完成するのじゃ」


 ルシェヌはサバキからナンプレを受け取り、自信満々にペンを取り、ナンプレに挑む。


 三十秒後。


「もうわからんのじゃ~!」


 ルシェヌの頭は爆発寸前となり、彼女は椅子ごと倒れた。


 このルシェヌの無様に、サバキは呆気にとられる。

「何一つ数字入れられてないじゃないか。貴様どれだけ頭弱いんだ」


「頭弱いもなにも、これ難しすぎるのじゃー、何かルールもごちゃごちゃしてるし……」


「せめて数字一つ入れられるだろ。全く、もう少し頑張ってみろ、さもなくば貴様は馬鹿確定になるぞ。いいのか? 母さんに馬鹿にされるかも知れないぞ?」


(ぐぬぬ、サバキめ、アタシのお母さんをダシにして説教しやがるとは、つくづく精神が腐ってる奴なのじゃ! ムカつくのじゃ!)


「ええい、うるさいのじゃ!」


 ルシェヌはサバキに逆上し、立ち上がり、サバキが解いている最中のナンプレの切り抜きに向かって魔法をかける。

 するとそのナンプレに書かれてた数字――サバキが書いた物、元から印刷されていた物問わず――が消える。


「あーっ! なんてことしてくれる!」


「いいじゃろ別に、直接攻撃した訳じゃないのじゃから」


「だとしても貴様、とんでもないことをしてくれたな! これではナンプレが振り出しに戻ったどころか、ヒントが無くなったから完成出来なくなったじゃないか!」


「問題ないじゃろ。好きな数書いてのびのび遊べるじゃろ?」


「それもはやナンプレでも何でも無いだろうが!」


「それと貴様、あの魔法によく効くベトベト出せるじゃろ? それを紙に塗れば元に戻るかもしれんぞい」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 サバキは前にいた異世界で、魔法使いを取り締まる『断退警察』に属していた。

 そこで手袋のようにはめるタイプのマシンを支給されていて、そのマシンを用い、サバキは魔法に対し特攻性のあるゲル状毒物『ルマ』を射出できるのだ。


「なるほど。その手があったか」


 というわけで、サバキはのりを塗るように、ナンプレの切り抜き全体に、薄くルマを塗る。

 するとナンプレの切り抜きは、ボロボロになり、物理的に解けなくなった。


「おいルシェヌ! 何てことしてくれるんだ!」


「これはサバキのせいじゃろー? サバキが自分からそのベトベト使ったからじゃろー?」


 サバキは自分のしくじりを恥じ、顔を赤くして、

「……確かに」


「フハハハハハ! ざまーみろなのじゃ! あー、面白いのじゃ、ピコリにも言ってこよー。またなー、サバキ」


「クッソ、こちらこそ忘れはしないぞ!」



 数分後。サバキは今度は間違い探しに挑戦していて、


「よし、七つ見つけたぞ!」


 たった今クリアした。


「……まぁ、間違い探しは子供向けのパズルのような節があるからな。これはクリアして当然か……ピコリとたまに行くイタリアンレストラン『ベルセリヤ』の間違い探しは難しいがな」


 ここでルシェヌが憎らしい笑顔をしてやって来る。

「サバキよ、パズル好きのお前にこの魔王ルシェヌ様が、わざわざ貴様のために作ってやったぞい」


 そしてルシェヌは、バラバラに切り刻まれた何らかの絵が書かれた紙を、テーブルの上に広げる。


「ルシェヌらしく出来が子供じみたパズルだな」


「うるさい、貴様ごときにそんな凝ったパズルやると思ったか!? コホン、とにもかくにも、これを組み立ててみるのじゃ!」


 もう一度ナンプレしたかった。と、サバキは思いながら、リビングを去っていくルシェヌの背中を恨めしそうに見る。


「……いくらルシェヌとはいえ、あまり邪険に扱うのも姉としてあれだ。仕方ない、これを義理で組み立ててやろう」


 サバキは腹を決めて、ルシェヌのくだらないパズルの復元作業に取り掛かる。


 五分後。


「おい、ルシェヌ!」


 サバキはセロハンテープで繋げたA4サイズの紙を持って、二階の姉妹の部屋でゴロゴロしていたルシェヌの元にやってくる。思い切り血相を変えた状態で。


 同じく部屋にいたピコリは驚いて、

「マジビクッたんだけど……どしたのサバキ姉さん!?」


「まず見てみろ! この絵を!」


 サバキはピコリに、セロハンテープで繋げた紙――首輪をつけられ四つん這いになったサバキと、愉悦極まれりな表情のルシェヌが一緒に散歩する絵を見せつける。


「ルシェヌ! 何だこの絵は! まるで自分を犬みたいな扱いにして……貴様はどれだけ姉を馬鹿にすれば気が済む!」


 ルシェヌはツッコむ。

「いや実際犬じゃろ」

 

 ピコリもこれに便乗して一言。

「うん。扱いが悪いのはよくないと思うけど、実際サバキ姉さん犬じゃん?」


「まぁ……確かに自分は、犬だったな……だ、だからといってこういう罵倒を、よりによって自分の大好きなパズルという形を取ってするとは、一周回って感心したぞルシェヌ!」


「ありがとうなのじゃ!」


「褒めてない! だいたい、この絵は一体誰が書いたんだ……」


「ボクが描いた。だって、ルシェヌがしつこく頼み込んできたんだもん」

 と、サバキの背後にやってきたユノスが言う。


「……頼むから仕事は選んでくれよ、ユノス」



 数分後。サバキはリビングに戻り、新聞のパズルをしていた。


「『一本のレールで走る電車は?』……タテの三は『モノレール』だな」


 今回はクロスワード。それもビジネスマン向けの経済新聞に掲載されていたクロスワードである。

 そのため、高校生のサバキはまるでワードが浮かばず、カギを埋められないでいた。


「『三国志で諸葛孔明が最後に出陣した戦いは『○○○の戦い』』? 知らないぞ三国志なんて……」


「五丈原の戦いだ」

 と、部活帰りのコーリンはサバキに言う。


「お帰り、コーリン殿。今の聞いていたのか?」


「ああ、お前が何をしてるのかは知らないが、諸葛亮が最後に出陣した戦いは五丈原の戦いだ。

 異世界にいた頃に三国志は読んでたから、きっちり覚えているぜオレ。この後司馬懿がビビって、『死せる孔明生ける仲達を走らす』って言葉が生まれたこととかもな」


「なるほど、ありがとう。じゃあヨコの一は『ゴジョウゲン』だな」


 さらに数分後。

「……えっと次は、『世界一高いと言われるコーヒー豆は?』、これまた無駄に難しいな……」


「コピ・ルアクだよ、それ」

 と、部活帰りのマジナはサバキに言う。


「お帰りマジナ殿。貴様も今のひとり言聞いていたのか?」


「うん、ばっちり聞いてた。ちなみにこのコピ・ルアクはね、ちょっと採る方法が変わっていてねぇ、なんとネコの糞から採るんだよ」


「それは本当か」


「本当だよ。いやぁ、面白い話だよね、ネコの糞から採れた物が世界一高い値段が付くなんてさぁ、これを過大解釈すればさ、世界中のみんながス……」


「もういいこれ以上話すな、悪寒がした。さて、タテの二は『コピルアク』だな」


 また数分後。

「『声を伸ばす時に、高さを振るわせてカラオケで高得点』? どういうことだ? そもそもヒントが抽象的過ぎるような」


「それ多分ビブラートだよ。サバキ姉さん」

 と、何か飲みにリビングに来たピコリは言う。


「ビフラートってのはそれに書いてある通り、声を震わせる歌い方だよ。よくカラオケの採点基準になってて、これをどーにかすれば八十点はくだらないよ」


「そうか、自分はカラオケ等にあまり行ったことなかったから全く知らなかった。

 ありがとう、ピコリ。さて、ヨコの四は『ビフラート』と……」


 さらに数分後。

 ユノスはキッチンに立ち、夕食の下準備を始めようとする。

 ここで、相変わらずクロスワードに向かいっぱなしのサバキが、ユノスに問いかける。


「なぁ、ユノス、お前『沖縄県の伝統的な揚げ菓子』って、何だか知らないか?」


 ユノスは即答する。

「『サーターアンダギー』だよ」


「ありがとうユノス。じゃあタテの五は『サーターアンダギー』と……」


(ちと自分が情けない。こうやってわからないところは姉妹まかせにしてしまうとは……

 だが、仕方ないと言えば仕方ないのだ。このクロスワード、やたらと難しいのだから……許してくれ)


「おーい、サバキや」

 と、ここでルシェヌが怪しい笑みをして、サバキに声をかけた。


 するとサバキはさっきから他の姉妹に聞いていたようなノリで、ルシェヌに問いかける。

「おいルシェヌ。『今話題の漫画の、○○○の呼吸』って何だかわかるか?」


 ルシェヌはにっこりして、即答する。


「全く知らないのじゃ!」


「何だと!?」

 サバキは物凄い剣幕で、ルシェヌを睨みつける。


「いや、どうしたのじゃそんなに怒って!? アタシ、まだ悪いことしてないじゃろうが!」


「ああ、そうか……すまない、クロスワードに夢中になりすぎて、激してしまった……って、『まだ』とは何だ! 貴様、また何か悪事を働こうとしていたな!」


「その通りなのじゃ」

 ルシェヌは背後に隠していたクラッカーを、サバキに向けて放つ。するとそこからリンゴジュースが噴出し、サバキをびしょびしょにする。


「ぷぷ、あっれー、どうしたのじゃサバキぃー!? リンゴジュースなんか浴びて? パズルのやり過ぎで、相当頭が熱くなり過ぎたのかえー? えー?」


 サバキは顔についたリンゴジュースを、ある程度手でふき取り、ルシェヌの両肩に両手を乗せて、静かにいう。


「……ルシェヌ、今日の貴様にはいろいろ言いたいことがあるが、面倒だから一言だけ言う。

 よくも人様の休み中に、散々イラつかせてくれたな、ルシェヌ!」


「ひ、ひぇぇぇ!?」

 

 ルシェヌはサバキの手をどかし、サバキから逃げる。


 怒髪冠を衝くサバキは、とりあえずルシェヌの身柄を拘束すべく、ルマを乱射する。


「滾る水のスパイラルモデル!」


 ルシェヌはそれを眼前に作り出した渦潮でかき消し、刹那、家から逃走する。


「ぐぬぬ……逃がさん! ユノス、悪いがリンゴジュース等の後始末を頼む!」


「うんわかった」


 サバキも家から飛び出し、もう随分遠くに行っただろうルシェヌを探し始めた。


 その時ルシェヌは、あまり光の当たらない自宅の塀の角でうずくまっていた。


「へへへ、灯台下暗しとはまさにこのことなのじゃ。

 サバキの奴、アタシが遠くに逃げたと思い込んで、思いっきり家を飛び出して……

 ん、なんじゃあこのベトベト……はっ!?」


 ルシェヌは頭上からルマをかけられた――塀の上に立つサバキによって。


「今日貴様がからかったように、自分は犬でもある……故に鼻がある程度利くんだよ――貴様の肩につけたリンゴジュースの香りを嗅ぐのには十分なほどにな!」


「リンゴジュース! まさか貴様、あの時……」


 ルマをかけられながら、ルシェヌは両肩を確認する。サバキの手形の、リンゴジュースのシミがつけられていた。

 ルシェヌはここから逃げるべく、立ち上がろうとする。が、もうルシェヌは十分にルマをかけられたため、力が入らない。


 サバキは塀から降り立ち、ルシェヌを見下して言う。

「どうだ、参ったか。これが断退警察の実力だ……で、自分に何か言うことはないのか、ルシェヌ!」


 ルシェヌは心の底から謝る。

「ご、ごめんなさいなのじゃ! もう悪いことはしないのじゃ!」


「んー、そう言われても、いまいち信憑性が無いな。なんせ貴様は魔王様なのだからなぁ!

 ここは一発、ルシェヌの大好きなお母さんに懲らしめてもらうべく、今日貴様がしたことを一から十まで報告してやろうか……」


「そ、それだけはやめるのじゃ! 頼む、何でもするから許して欲しいのじゃ!」


「ほう、何でもするか……じゃあ、何でもして貰おうか」



 その日の夜。

「ただいまー」


 チヨは仕事から帰ってきて、リビングにいる皆へそう言う。

 その直後、チヨは『変わった所』を発見する。


「あれ、ルシェヌどうしたの。急にナンプレなんかして?」


 必死にナンプレに立ち向かうルシェヌ。その向いに座るサバキは、白々しく言う。


「どうやらルシェヌは、自分に憧れてパズルがしたくなったらしいんだ」


「そうなの、偉いね。今お風呂は空いてるみたいだから……じゃああたし、お風呂に入るね!」


「はい、行ってらっしゃい」


 そして、チヨがお風呂に行った後、サバキは皮肉を込めて、ルシェヌに言う。


「よかったじゃないかルシェヌ。母さんに偉いねと褒められて。なぁ、いいもんだろ、こうやってパズルで頭を使うのもなぁ!」


「くぅ……こんなの全然嬉しくないし、これやっぱりさっぱりわからんのじゃー! 助けてくれサバキ! 頭が爆発しそうなのじゃー!」


「断固拒否する! 今日は特別だ、たとえどれだけ夜が更けようともそれがクリアできるまで、貴様には徹夜してもらうからな!」


「うわーん、ごめんなさいなのじゃあー!」


【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ