第81話 龍選抜 ユノス審査
夏休みのある日。ユノスは自分のデスクでタブレットと向き合っていた。
画面の先にいるのは出版社『境迅社』の編集者、春祭パンナ――二人はビデオ通話で通算三度目の打ち合わせをしていたのだ。
『毎度お世話になっております。ユノス先生』
「こちらこそいつもありがとうございます、春祭さん。では早速、今回の仕事っていうのは何ですか? またライトノベルのコミカライズですか?」
『今回はラノベのコミカライズではなく、ライトノベルの挿絵の依頼です。
今、小説投稿サイトで人気の『トラックドライバーのおっさん、転生して竜に乗り換えして、最強の竜騎士となる』という小説をこの度、境迅社のレーベルで書籍化することになりましたので、その挿絵を描いてほしいのです』
今回描くのは漫画ではなく挿絵――それでユノスは少しなえる。が、いい加減自分オリジナルの漫画を出版するという夢に一歩でも近づくため、
「そうですか。わかりました」
と、了承した。
『ありがとうございます。それでは例の如く、原作データを添付いたしますので、それを読んだ上で、五日後以内にイメージイラスト的な物を送ってください。どのシーンの挿絵が欲しいかなどの細かい注文は、それを見た上で行いますので』
「わかりました。では、頑張ります」
『では健闘を祈ります。それと、ユノスさんのMutterで連載してる漫画を拝見させて貰ってますけど、個人的には楽しく読ませてもらってます』
「ありがとうございます」
かくて春祭パンナ編集との会議を終えたユノスは、原作を読む。
「うん、タイトル通りの内容で特に言うことないね」
そしてある程度内容を把握した後、ユノスはペンを取り、タブレットを前にし……それ以上動かなくなる。
そこへユノスの元にマジナがやってくる。
「ユノスー、おやつの時間だよ。今日はユノスの大好きなシュガードーナツだよ」
ユノスは早口でマジナに言う。
「ちょっと待って、今ものすごい考えてるから」
「ユノスがドーナツを振り払うぐらいものすごい考えてる……!? 何があったんだい?」
このマジナの問いに、アザレアが代わって答える。
「マスターは『トラックドライバーのおっさん、転生して竜に乗り換えして、最強の竜騎士となる』というライトノベルの挿絵の仕事を課せられ、そのイメージイラストを描こうとしているのです。
しかし、この作品の肝になる竜のデザインをどうしようか……と、深く考えているのです」
「説明ありがとうアザレア。原作読んでも『見るからに強そうなドラゴン』や『頼もしいことに尽きないドラゴン』って、ドラゴンの容姿が詳しく書かれてないから、どういう風のデザインにすればいいのかわからないんだよ」
ここでマジナが閃く。
「なら、私のドラゴンを見ればいいんじゃないかな?」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
マジナは前にいた異世界で、怪盗『サスペンス』として、竜を召喚できるカードを八枚を強奪しており、そのカードより召喚できる、個性様々な八体の竜を従えているのだ。
「で、私のドラゴンの中からどれかを参考にして、絵を描けばいいと思うよ?」
ユノスはアホ毛をピンと縦に伸ばし、それに引っ掛けたベレー帽を高速回転させながら、
「なるほど! その手があったね、ありがとうマジナお姉ちゃん! それじゃあお言葉に甘えて、その八体の中からどれかを参考にするよ!」
この時、マジナの谷間に挟まれたカード八枚――八体の竜は、ほぼほぼ同じことを考えた。
これはいわゆる競争だ。誰が一番マジナ以外の人間にも好かれるドラゴンかを決める競争であり、絶対負けられないのだ、と。
*
数分後。満月家のリビングにて。
「第一回、チキチキ! マジナ様のドラゴン披露会~!」
と、司会担当のアザレアがタイトルコールをし、満月家の六姉妹がパチパチと拍手する。
「いいねアザレア、様になってるよ」
「はっ、お褒めいただきありがとうございます、マスター」
「あれ、何でオレらまでマジナの竜見なきゃいけないんだ?」
「なんかマジナ姉さんのドラゴンさんたちが、『マジナ様以外の人にも、もっと自分たちのことを知ってもらいたい』って言ってるからだよ」
「ふふふ、どうせこの魔王ルシェヌにとってはしょうもうないトカゲ共だろうが、敵の観察として、一応見せて貰おうなのじゃ」
「実際奴らがどのようなことが出来るか知っておいて損はないからな。同時にマジナ殿がどういう悪さが出来るのかを知れるしな」
アザレアは隣に立つマジナに言う。
「ではマジナ様、一体目を皆様に披露してください」
「OK、じゃあ一番目は君だ、『PORTORN』!」
マジナはカードを投げ、皆に見える所に、槍を携え、鎧を纏ったような外装の、騎士めいた細身の竜、青竜『PORTORN』を召喚する。
ちなみにマジナのドラゴン八体は、ドラゴンの姿になった際、身体のサイズを、手乗りサイズからマジナの背丈ぐらいまでに伸び縮み出来るが、今回は八体とも見栄え重視で最大サイズになっている事を予め言っておく。
「QYEAAAAHHHH!(ピュートーン様のお出ましやでぇ!)」
マジナは解説する。
「この子は私の持ってる竜の中でも一番凶暴で、一番強いかも知れないドラゴンさ。異世界で怪盗業してて、いざ乱戦ってなった時は、本当に助かるんだよ」
その解説の間に、PORTORNは槍を振り回し、いかにも強そうなアピールをする。
それを見て、アザレアは言う。
「見てください。この荒々しくも猛々しい槍さばき! 実にドラゴンらしい強さが現れています!」
コーリンは目を輝かせて言う。
「おお、こいつは見るからに強そうだな!」
サバキは一歩引いて、冷静に言う。
「しかしこの目……見るからに狂気が宿ってる。これはかなり扱いづらそうだな」
「そ、実際この子は最後まで手懐けるのに苦労したんだよね。で、この子を見てどう思う? ユノス?」
ユノスは答える。
「ちょっと参考にならないかも。今回描くのは竜に乗る人、竜騎士が乗る竜なのにPORTORNさん、人乗せられそうな感じしないもん」
「QYE、QYEEE……(え、人乗せられないとアカンのかいな……)」
落ち込むPORTORNをマジナはカードに戻す。
アザレアは進行を続ける。
「というわけでPORTORNさんはマスターのお眼鏡にかないませんでした。ではマジナ様、次の方をお願いします」
「はいよ! では二体目は君だ! 『Bhmthon』!」
次にマジナが召喚したのは、屈強な肉体を持つ人型の竜、橙竜『Bhmthon』だ。
「GOOOW!(ご覧あれ、自分の雄姿を!)」
Bhmthonは召喚されるや否、筋肉をアピールするポーズを取りまくる。
「Bhmthonは『私の盾』と言っても差し支えない存在だね。見てよこのガッチガチの身体、ガトリングを真正面から食らってもビクともしないんだよ」
「デカい! もうデカいよ! あと凄いキレてる! もうキレキレ! 特に腕ヤバいよ腕! 腕でケバブ焼いてんのかい! 足もヤバいよ! ダイヤモンド通り越してオルハリコンカーフだよこれ!」
「ピコリ、何なのじゃそのうるさい掛け声は……ただのゴリゴリマッチョにそんな言うことないじゃろうが」
そして肝心な審査員長、ユノスは静かに言う。
「Bhmthonさん。これはさっきのPORTORNさんにも言えるんですけど、人が乗る用の竜が人型になるのってあんまり良くないと思いますよ。
あとBhmthonさん限定で言えることですけど、そんな他のキャラ食いそうな見た目してるのはちょっと……です」
「GOW……(そんな、自分の強靭な肉体が裏目に出るなんて)」
「Bhmthonさん、渾身のアピールお疲れ様でした。ではサクサク行きましょうか、マジナ様」
「はいよ、三番目! BASLC!」
続いて召喚されたのは、トカゲ似の体型で、二本足で立つ、どことなく忍者っぽい緑竜『BASLC』である。
「NINNIN!(宜しくお願い致し申す!)」
「BASLCは諜報・暗殺に長けたドラゴンだよ。この子のおかげで怪盗業がどれだけはかどったことや……」
そうマジナがBASLCの解説をする中、ユノスは食い気味に彼を評する。
「ごめんなさい。人型に近いドラゴンはもういいです。
それとあなた、翼生えてないのが残念すぎます。だってあの小説で竜騎士が『飛んでる』描写あるもん」
「NIN! NINNNINNI…(ちょっと待たれい! 拙者は確かに羽はないが高い所から飛び降りての滑空なら出来るでござる! それと誰が背に乗っても速く走れるし、壁だってよじ登れ……)」
BASLC最後の抵抗アピールも虚しく、マジナはBASLCをカードに戻す。
「……『人型はダメ』、『主人公を食いそうになるとダメ』、『飛べないとダメ』、だいぶマスターのイメージが固まって来ましたね。ではマジナ様、四番目の方を召喚してください」
「はい、じゃあ君ならどうだ! 『JavaWock』!」
マジナが四体目として召喚したのは、まるっとした体型に、長い爪と長い首、魚のような頭をした白竜『JavaWock』だ。
「JAVAVA(ごきげんようユノス殿。我がマジナ様に愛されしJavaWockである)」
「JavaWockは幻影を生み出す能力を持っていてね、怪盗業をする上で助かる事この上無しなんだよ。怪盗ってのは嘘と騙しがミソだからね」
そうマジナが解説すると、JavaWockはドヤ顔で、ユノスと他四人へその姿を見せつける。
するとユノスと四人は揃って顔をこわばらせる。
「な、なんかキモいのじゃ……」
「ジャバウォックって昔絵本で見た時、確かこんな感じの姿してたけど……それ忠実に再現されたの見るのって、なんか、こう、うん、独特」
「JAVAVA!(なんだその無礼な発言は! あ、ユノス様はどう思われるか?)」
審査員長、ユノスは言う。
「……ごめんなさい。単純に見た目がヒロイック性に欠けてます」
「JA……VA!(なん……だと……!?)」
JavaWockはマジナによってカードに速やかに戻される。正直マジナも出した瞬間から既に結果がわかっていたのだ。
残す竜はあと四体。ユノスは司会を行っているアザレアを労う。
「いよいよ折り返し地点だね。アザレア、お疲れ様だよ」
「ありがとうございます、マスター……はい、残念でしたねJavaWock様。では、マジナ様、五番目の方をどうぞ」
「五体目……そろそろ気に入ってくれると嬉しいかなぁ、『O』!」
五体目として召喚されたのは、蛇に羽を生やしただけのシンプルな造形の紫竜『O』だ。
「O(初めまして! あたし、Oって言います! 皆様よろしくおねがいします!)」
「Oはシンプルに身体が伸縮自在で丈夫なんだよ。移動手段としてワイヤー代わりに使ったり、攻撃手段としてムチ代わりに使ったりできる、八体の中でもいぶし銀なドラゴンだね」
サバキは言う。
「羽があって、もう少しサイズをでかくすれば人を乗せて飛ばせば、様になりそうだな。だが、これは本当に竜か? どちらかというと蛇っぽいが……?」
コーリンは言う。
「いや、俺的には龍といったらこういう感じのヤツを思い浮かべるぞ。こう胴体が長くて、天を舞うような……」
総括して、審査員長は言う。
「ボクもサバキお姉ちゃんと同じで、もっとゴツくすれば様になりそうかなー。
……と思ったけど、ごめんなさい。あの作品西洋ファンタジーだから、Oさんみたいなニョロニョロタイプの東洋ドラゴンはあんまり合わないかも……」
「O(そうですか……きっちりとした審査、ありがとうございます)」
「流石はマスター、竜と龍の違いをよく理解した、漫画家としての造詣の深さを用いた、素晴らしい審査でした。ではマジナ様、六番目の方をお願いします」
「ほい! 『SGL』、君に決めた!」
六体目に召喚されたのは、鳥のような体型の黄竜『SGL』だ。
「SGLはとてつもない電気を放つ事が出来るんだ。電撃ってのは防ぐのが難しいから、奇襲にはもってこいなドラゴンだよ」
「PYPY!(さぁ、私の姿に見惚れなさい!)」
羽をバサバサ言わせて、必死にアピールをするSGL。そんな彼女に五人は立て続けに告げる。
「竜っていうか、鳥じゃねえか」
「絶対種族にファイアー・バードついてるよこの子」
「どっからどうみても鳥なのじゃ」
「久しぶりに鶏軟骨が食いたいなぁ」
「まぁ、みんなが言う通り、ちょっと鳥成分が強くて、ちょっとドラゴンとして見づらいかなぁ……と、思います」
この無慈悲な五人のコメントにSGLは、
「PYYYYYY!(何ですって、この私を鳥呼ばわりするなんて! 全員いっぺん痺れて貰いますわ!)」
と、いった感じで激昂し、身体から電気を放ち始めた。マジナは彼女が誰かに被害を及ぼす前にカードに戻す。
「大丈夫、大丈夫だよSGL。気にしない気にしない……全く、皆失礼だよ、確かにSGLは鳥っぽいけど、それをグチグチ言うのはよくないでしょ、本人気にしてるんだから」
「「「「「なら、それ先にいってよ」」」」」「なのじゃ」
「……とまぁ、こんな感じで進行していき、とうとう残り二方となりました。それではマジナ様、次の方をどうぞ」
「要はドラゴンらしいドラゴンを出せばいいんでしょ。じゃあ君だね、『Hellkite-W』」
七体目として召喚されたのは、爪に角に鱗、そして大きな翼を持つ、いかにもな赤竜『Hellkite-W』だ。
「WHHHAY!(やっと俺の出番かよ! 待ちくたびれたぜ!)」
「見ての通り、Hellkite-Wは飛ぶのが得意なんだ。だからよく私は空中移動の手段として使ってたね。
あ、勿論ドラゴンらしく、火を吹いたりも出来るし、尻尾で刺したりできるよ」
「お、来た来た。やっとTHEドラゴンみたいなのが来たね」
「確かに、いかにもドラゴンっぽいのじゃ。アタシがよく前いた異世界で眷属としていたのと、よく似ているのじゃ」
審査員長、ユノスは言う。
「うん、やっぱりドラゴンといえばこういうのだと思うよ。けど……なんかその、これだと普通すぎるような気がする。すごい参考にはなるけど」
「WHAY!(なんだよお前! 俺が普通すぎるだと!? て言うかお前、さっきから聞いてりゃ俺たちに文句ばっか言いやがって! お前は純粋に人を褒める能はないのかおい!)」
「Hellkite-W、大丈夫。参考にはなるって言ってるから。だから今の所は君が一番だよ。
だからこれ以上食ってかかって、ひんしゅくを買うのは良くないとおもうよ」
「WHAY(そっか、ならいいや! じゃあな、ユノス!)」
マジナは自らカードになったHellkite-Wを手に取り戻し、最後の一枚を見つめる。
「それではいよいよこの時がやって来ました。最後の方、どうぞ!」
「じゃあ、頼んだよ、IrrynCrach」
マジナは最後の一体にして、ベストパートナーの、ムカデめいた太長い胴体に、一対の羽と、四本の足と、二本の腕を持つ黒竜『IrrynCrash』を召喚する。
「皆様、私がIrrynCrashって言いますわ、よろしくお願いしますじゃけん」
「IrrynCrashは……八体の中で一番賢くて、こういう風に会話が出来るドラゴンさ。異世界にいた時も、よく君はアドバイスしてくれて、寂しい時は話し相手になってくれたよね。IrrynCrash」
「そうじゃけえのぉ、マジナ……ユノスさん、私はHellkite‐Wみたいにドラゴンっぽくないかもしれないじゃろうが、どうぞ、みんなみたいに、お構いなしにこき下ろしていいじゃけん。
けど、最後の一体として、ユノスさんに伝えておくけぇ……私達は、皆それぞれの個性を使って、マジナの役に一致団結して役に立ってきたじゃけん。だから、そこの所はキチンと覚えておいて欲しいけぇ」
「……IrrynCrashさん。うわ、ウチちょっとウルってきたこれ」
「聞いてたかユノス。マジナの竜どもは、お前の役に立たないしれない。
だが、マジナにとって、あいつらはみんな、大切な仲間なんだ。お前にとってのアザレア。みたいにな」
「だからユノス殿、その辺りは感謝しておいた方がいいと思うぞ」
「ま、アタシは端からマジナの眷属どもに興味などないのじゃがな?」
「……うん、わかった。とりあえずアザレア、ここまで司会してくれてありがとね」
「……はい、ありがとうございます、マスター」
*
翌日。
ユノスはタブレット片手に、マジナにこう頼み込む。
「マジナお姉ちゃん。ちょっとあの八体のドラゴン出してくれない?」
「え、ああいいよ」
マジナは八体の竜を、揃って手乗りサイズで召喚する。
そしてユノスは、八体とマジナにタブレットを見せつける。
そのタブレットには、僅かに鎧の意匠があり、四肢がどことなくがっちりしていて、それでいて素早そうな細身で、頭にヒレのような物がついていて、尾は蛇のように長くて、羽は何となく鳥の羽のようで、主な体色は赤で、賢そうな面相の竜が描かれていた。
この竜を見て、八体のドラゴンは大興奮する。
「これは……見事に全員分の見た目を詰め込んだね」
「そう、どうにかこうにかして、みんなの個性を詰め込んでみたよ。だって、皆、あんなヒドい事言うボクのために頑張ってくれたんだもん。ちゃんと仕事した人に、相応の報酬を出さないとダメだもん」
八体を代表して、IrrynCrashは言う。
「ヒドいことなんて……気にしなくていいじゃけん。ユノスさんはただ漫画家としての仕事をしてただけじゃから……それに、私達は端から、ユノスさんとアザレアさんとの関係からして、ユノスさんは絶対悪い人じゃないと思ってたけえの」
「そうなの。なら、二つの意味でありがとうございます。ドラゴンさんたち」
この後、ユノスの描いたイメージイラストは、見事春祭さんのOKサインを貰い、ユノスは『トラックドライバーのおっさん、転生して竜に乗り換えして、最強の竜騎士となる』の挿絵担当に任命された。
そして当作は第一巻が思うように売れず、結果それで打ち切りになり、ユノスが挿絵を書くことはなくなったのだった。
余談だが、これをユノスがマジナと八竜に伝えたところ、八竜は『お前のせいだ』と互いに罪を擦り付けあって揉めたという。
【完】




