第79話 宣伝!ストレスMAX
夏休みのある日、ピコリとマジナはソファに座り、互いにスマホをいじっていた。
最中、マジナがピコリに脈絡なく話しかける。
「ピコリ、宣伝って腹立つよね?」
「いきなり何の話だしん?」
「まぁ聞いてよ。これはさ、私がこの前ショッピングモールに行った時の話なんだけどさぁ……」
*
数日前。
「今回買うのは、新しい下着と、マジモンカードゲームの限定カードサプライセット。あとこれだけ大きい所に来たし、せっかくだから美味しそうなお菓子見つけて八匹達のために買ってあげよう」
ショッピングモールに到着したマジナはまず、下着を買うためチェルクロのテナントに向かう。
最中、派手な赤色のはっぴを着た男性に話しかけられる。
「すみません、今こちらでゲームをしているのですが、よかったらお姉さん参加してみませんか? 参加賞は勿論、ゲームの得点次第では豪華景品も用意してますよ」
豪華景品――貰える物は基本貰っていくタイプのマジナは、その言葉につられて、
「やりますやります」
「ではこちらへ。ルールは、あちらの三×三のマスで区切られた的に、サッカーボールを三回蹴って、縦横斜めにマスを開けて、ビンゴを作ったら豪華景品が貰えます」
「わかりました。よーし」
自信満々にマジナはボールを三回蹴る。彼女はサッカー部所属なため、余裕で的にボールを当て、斜めでビンゴを作った。
「わぁ、おめでとうございまーす! それでは参加賞と豪華賞品をどうぞ」
そう言ってはっぴの男性は、マスコットキャラが描かれたポケットティッシュと、トイレットペーパーを手渡した。
(あれ、これが……豪華景品?)
トイレットペーパー一つ――豪華景品という肩書きにはまるで合わない物を渡され、困惑するマジナに、男性は問いかける。
「ところでお姉さんは、どこの携帯会社をご利用ですか?」
「ええと確か……pモバイルだったような気がします」
「毎月いくら払っているかご存じないですか?」
「それは……親に払ってもらってるのでわからないです」
「そうですか、ありがとうございました」
当初の歓迎ムードとは真逆な、淡泊な感謝の言葉を言って、男性は次のお客さんを探し始めた。
「……下着買いに行こうか」
もう自分の番は終わった。
そう悟ったマジナは、本来の目的であるチェルクロのテナントへ改めて向かった。
*
「後から母さんに聞いて知ったんだけど、これって携帯会社の乗り換え勧誘なんだよね。
あこぎな商売だと思わない? 豪華景品とかうたいながらトイレットペーパー渡して、それで携帯乗り換えさせようとするなんて。おまけに話の斬り方が雑だしさぁ。
さらに母さんに聞いたんだけど、あの会社の料金、今私たちが使ってるのより二千円高いんだって。やっぱりがめついと思わない?」
「そりゃ携帯会社さんも、一人でもお客さんを得て利益出したいから、ちょっとセコい技も使いたくなるしんよ。けど豪華景品にトイレットペーパーをすえるのは、ケチ過ぎると思うだしんねー」
「けどまぁ、きちんと景品を渡したのは嬉しいと思うけどね。あのトイレットペーパーは私がした後に拭くのに有効活用させて貰ってるから」
「何をしたんだしん……いや、マジナ姉さんの事だから、やっぱ聞かないでおくだしん」
「それでさ。他にもそのショッピングモールでムッときた話があってさぁ……」
*
マジナはチェルクロを出た後、マジモンカードのサプライを求めて歩いた。
「よし、下着はたんまりと買えた。次はマジセン(※マジモン関係のグッズを販売している『マジモンセンター』の略)に行こうかな……けどちょっと喉乾いたな。先にカフェ寄ろうかなー」
その道中、
「どうぞどうぞ、この高品質を味わってみてください」
水を配っている、清涼感のある青色のはっぴを着て、背後には子供に男性がいた。
丁度いいや、ありがたく頂こう。と、思った矢先、その男性がマジナに反応し、
「お姉さんも、どうぞ」
マジナに紙コップを渡した。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
マジナは紙コップを傾け、乾いた喉にその水を流し込む。
「ぷはー、うわ、この水ほんと美味しいなぁ」
「何てったって富士山の天然水を使用していますからね、このウォーターサーバーは」
「ウォーターサーバー……ああ、母さんの職場に置いてあったあの水とかお湯とか出すアレか」
「この美味しいお水がいつでも飲めるウォーターサーバー。なんと一人暮らしの方なら毎月二千円でレンタルできるんですよ。お得だと思いませんかお姉さん」
「私一人暮らしじゃないです。七人家族で、母さん一人と、姉妹五人で暮らしてます」
「し、七人家族……でしたら、ええと……使用量にもよりますけど一万七千円ぐらいです」
「高いね。だったら母さんに相談しにくいかなぁ」
「い、いやでしたら、今ご契約頂くと抽選で大型テレビが当たるというキャンペーンがあるのですが」
「あ、ごめんなさい。私の母さん社長だから、大型テレビはもうあるんだよね」
「で、でしたらウォーターサーバーも一緒にレンタルなさった方が、もっと社長っぽくなると思いますが。あと、お姉さんがさっきも言った通りおいしい水がいつでも飲めることをお忘れなく」
「それと私、あんまり水を素で飲まないんだよね。だいたいドリップコーヒー飲んでるから」
「なら、このおいしい水でおいしいドリップコーヒーを作りませんか?」
「私コーヒー作る時に水こだわらないタイプだから。悪いけどこの辺で失礼させてください」
「ま、待ってください! そうだ、最後に資料と、このウチの会社のマスコットのうまみず君ラバーストラップを貰ってくださぁい」
*
水色の馬の微妙な出来栄えのマスコットキャラクター――うまみず君のラバーストラップをピコリに見せながら、一言。
「たかが水一杯飲んだぐらいで追求凄くない?」
「こういう契約商売は一人でもお客さんが必要なんだしん。だからちょっとでも興味を持ったら、凄い粘着してくるんだしんよー」
「そしてこのうまみず君さ、一体どこの誰がウケると思って作ったのさ? ルシェヌが前持ってたラバーストラップ(※第54話参照)よりもダサいと思うんだけど」
「それは色々可愛そうだからツッコまないほうがいいと思うしんよー。それと、そんなに宣伝とか嫌いだったら、すぐかわすように心がけた方がいいと思うしんよー」
「だよねぇ。実はもう一件、似たようなことがあってさ……」
*
マジモンカードの限定サプライを買い終えた後、エスカレーター付近にあるフロアマップを見ていた。
「ここにもドルスザクカフェ(※マジナが愛好しているカフェチェーン店)あるんだ。結構人並んでて足疲れたから、ちょっと寄っていこ、こういうショッピングモールのカフェってどんな感じなのかも知りたいし」
マジナは次の目的地をドルスザクカフェに定め、それがある下の階に行くため、エスカレーターに乗る。
そして下の階に到着すると、
「お姉さんすみません。映画とかアニメとかお好きですか?」
着地狩りめいて、オレンジのはっぴを着た男性が声をかけてきた。
「ええ、まぁ、映画好きな妹とかと一緒によく観ますし、あと漫画とかも好きだからついでにアニメも少々観ます」
「でしたら当社の、『MOVIEVER』というサービスをご利用してみてはいかがでしょうか? 月額二千円で映画やアニメが見放題で、かつ当社のサービスは国内最大級のラインナップでして、往年の名作から流行りの作品まで、全て高画質で観られるんですよ?」
「へぇ、それはすごいですね。なら私の好きな映画とかもあるんですか?」
男性はタブレットを取り出して、マジナに渡して、
「はい、これで検索してみてください」
マジナはそれを使って、自分の観たい映画を検索してみる。
「あっれー、おかしいな。この前あのエロ動画サイトで見つけた映画がないぞ」
「え、あ、あのー、当社のサービスはそういう物は取り扱ってないんですよねー」
「そうですか。じゃあ失礼しました」
*
「あの人よくもエスカレーターで待ち伏せ出来たよね。国内最大級のラインナップを高画質で観れるとか言ったくせに、私がよくサイトで観てたエロ映画揃えてないなんて」
「普通そういう系のサービスで揃えないしんよそんな物! あとマジナ姉さん、そういう系のサイト観るのはいけないことだからやめるしん!」
「じゃあ何見て一人でどうこうしろっていうの? 私妄想力ないからそういうのないと出来ないんだけど。ピコリはそういう時どうするの?」
「えー……って、あのお兄さんにエロ動画サイトの話したのもだけど、そういうエロいこと言うのは『セクハラ』っいって社会問題になってたりもするから、それもやめてくれだしん!?」
「あ、そうだエロいことで思い出した。他にもさ、ショッピングモールでこんな事があったんだけど……」
「ちょっとウチの話も聞いて欲しいだしんよー!」
*
エスカレーターの待ち伏せ犯を回避した後、マジナはショッピングモール内のドルスザクカフェに来た。
正面にはチョコドーナツとブレンドコーヒー、手には己のスマホ――これぞスマホをイジりながら飲食を楽しむ、普段のマジナのフォーメーションである。
「さあて、アプリで漫画でも読もうかな……って、あれ?」
漫画アプリを開くや否、マジナは困惑する。そのアプリがいつの間にかアップデートされていて、かつ、
「え、この漫画、一話読むのにポイント支払わなきゃいけなくなったの? ちょっと前までは一日一話無料で読めたのに」
急なシステム変更がなされていて、マジナの好きな漫画が読めなくなってしまっていたのだ。
「ていうかポイントって何だろう……ええと、『今から流れる広告を最後まで見るとポイントが貰えます』かぁ? よし、じゃあ見よう」
かくてマジナは広告を見始める。するとスマホには、そういう話題が好物のマジナの感性からしても、『低俗』なエロを押し付けてくるアプリの広告が流れてくる。
「……」
漫画一話を読むには五十ポイントが必要で、広告を見ると貰えるポイントは五ポイント。
故にマジナはその低俗な広告を十回連続で見る。
その間、マジナは死んだ魚のような目をして、ドーナツを食べ、コーヒーを飲んでいた。
その際、マジナの味覚は何故か機能していなかった。
*
「あー、それはよくわかるしんよー。ウチも動画アプリで音楽聞いてると、途中で頭悪い感じの広告流れてきて、ムッとするだしん。ワワワ〜」
「しかもさ、この広告に出てきたアプリ、どうやらダウンロード不要で遊べるみたいだから試しにちょっと遊んでみたんだけど、その広告で使われてたエロいイラスト、ロード画面の一瞬しか出てこなかった。
肝心なゲームはおっさん兵士がウォーウォー言い合ってる戦争ゲームだったよ。
本当、宣伝って悪い事してくれるよねぇ」
「そういうのよくあるだしん。広告だとパズルゲームみたいな感じ出してるのに本編はただのガーデニングゲームだっていうのとか。本当そういうの悪質だしん」
「アタシ思うんだよねぇ、宣伝の中でも何が悪質かって、『それが過剰によく見えてしまう』ことだって。これもショッピングモールで体験したことなんだけどさぁ……」
「ショッピングモールネタが尽きないしんね」
*
マジナはドルスザクカフェでの休息を終え、自分の仲間の八体の竜のためのお菓子を買いに、スーパーを訪れていた。
「九十八円均一……へぇ、こんなに安いお菓子が、こんだけあるんだ」
その中のお菓子コーナー、特に様々な九十八円均一のお菓子が並んだコーナーを前にして、マジナは感心する。
八竜は普段、カードの形態になり、マジナの谷間に挟まっている――その八竜の内の一体、黒竜『IrrynCrach』は言う。
「いっぱいあるけえのう。どれか迷ってしまうけえ」
「だね。みんなはどれがいい?」
青竜『PORTRON』は言う。
「QYEAAAAHHHH!(やっぱり堅揚げせんべいがええに決まっとるやろうが! 見ろやそのパッケージの文章を! 『パリパリのせんべいを醤油で味付けしました』硬い物をこうバリバリ噛み砕くのがドラゴンとして気持ちええやろ? な、皆?)」
すると黄竜『SGL』はこう言い返す。
「PYPYPY(全く、相変わらずPORTRONは考えが野蛮ですわ。私はマシュマロをおすすめしますわ。それに書かれてある『フワフワ感と独特の甘さが特徴』……非常に魅力的だと思いますわ)」
今度は橙竜『Bhmthon』が言う。
「GOOW!(何を言うか二人共。自分達はマジナ様の忠臣であろう。ならば主のお好みに合わせて、ミルクチョコを選ぶのが最善に決まっている。見たまえ、それに書かれた文言を。『カカオとミルクで出来た、シンプルなチョコの味わい』――まさにマジナ様への忠誠心を示すにふさわしい)」
それに赤竜『Hellkite-W』はくってかかる。
「WHHHAY!(相変わらず真面目すぎるんだよBhmthonは。お菓子選び如きで忠誠心なんか示してもマジナは困るだろうが。俺は素直に直感で選ぶぜ、『ほどよいピリ辛の味付けをしました』って書いてある柿の種なんてどうよ? 俺八人の中で一番ドラゴンしてるから、やっぱ辛い物食べたいんだよなぁ)」
白竜『JavaWock』はこれまでの発言を嘲笑って、
「JAVAVAVAVA(皆、考えが直感的、あるいは古典的すぎる。これだけ菓子の種類があるのだ。もっと視野を広くして品を決めるのが定石だろうに……ふむ、では我は芋けんぴを選ぶ、『甘いサツマイモを蜜でコーティングしました』と、とても詩的で素晴らしい雰囲気のする菓子で、皆の選んだ菓子よりもひねりがあって良かろう)」
八竜間の空気がだんだんとピリつくようになったのを感じた、紫竜『O』はあたふたしながら、
「O(み、みんながみんなを蛇睨みしてる……! まずい、このままだと喧嘩になっちゃう。あ、あたし思い出した! BASLCは何が良いの?)」
そう答えを求められた緑竜『BASLC』は言う。
「NINNIN!(『香ばしく焼き上げた』さきいかが良いでござる!)」
そしてマジナの谷間に挟まったカードは震え始めた――意見が八つに割れた八竜が喧嘩を始めたのだ。
「ああん、ちょっ、くすぐったいよぉ、みんな! 一体この短期間で何が起こったのIrrynCrash!?」
「みんながそれぞれ、別々のお菓子に書かれてる宣伝の文章に惹かれて、それで皆別々のお菓子を選んで、その中でどれが一番良いかって喧嘩になったんじゃけぇ!」
*
「だから宣伝って腹立つんだよね。こういう風に人を焚き付けて、よくない方向に引っ張る場合もあるんだからさ」
「これはかなりイレギュラーな例だと思うだしん。ところでこの後、喧嘩してた八体のドラゴンさんたちには、何のお菓子を買ってあげたの?」
「それまでの宣伝のストレスも積もってて、あまりにも腹立ったから、みんなが嫌いなカカオ九十七パーセントのチョコレートにしたよ。
でその後、みんなあまりの苦さでゲホゲホ言ってた……全く、私が好きな苦い物が嫌いとか、それでも私の仲間か! って言いたいよ」
「ワワワー、ドラゴンさんたち八つ当たり食らってるしんよ……」
【完】




