第7話 ピコリ、未来となれ
おいっすー☆、満月家の四女、ピコリでーす! きゃぴきゃぴ……って、可愛い子ぶる元気は、今のウチにありません。
何故にって? それは……順繰りにいけばウチのピックアップ回が五話になるはずなのに、何故か変則的な感じになって一番最後になったから!
とか、そういうメタいし、くだらないことじゃありません。
じゃあ何かって? それは……冒頭から長い話になるから、『覚悟』の準備をしておいてくださいッ!
さかのぼること、今からだいたい九年前、ウチは異世界――後から知ったけど、学名は『ファリルヴ』って言うらしい――に飛ばされ、孤児園の子になりました。
その世界は、ビルが建ってて、四、五分歩くとコンビニがある……っていう、元の世界とあんまり変わらない所でした。
……全くじゃないからね、『あんまり』だからね。
唯一違うのは音楽文化のレベルがチョー低いこと。
ギリギリ某リンゴさんのいるバンドは存在したけど、それっきり。だから音楽のジャンルといえば演歌、民謡、ロック、フォーク、ブルース、あとクラシック……やってられるか!
ウチの好きなのはもっとやかましくて、激しくて、エモくて……キラやば〜い奴!
ほんっと変だよねウチ、五歳からそんなのが趣味なんて。
まあ父親がラノベ主人公とか……いや、エッチなゲームの主人公とか……いやいや、誰が読むんだよとか思いたくなる広告乱発気味のエッチな漫画の男とと張り合える……とにかくヤバい七股野郎だからどっこいどっこいか。いやたまるかっての!
えー、とにかく、この現状に激昂したウチは、元いた世界でウチが好きな音楽を、ここで作ろうとした!
幸い、電子ピアノはあったから、それをかれこれしてゲットして、近所のパソコン屋の兄さんに頼んで改造して……ココ最近サクセスストーリーはあんまり受けないっぽいから、盛大に飛ばす!
して、どうにか十歳くらいの時に、元の世界であった感じの音楽をつくって、レコード会社に凸したんだけど、
「音楽をバカにしている」
「飛行機の騒音の方が聞き心地がいい」
「家の洗濯機でよくね?」
とか、散々コケにされて! けどウチはめげずに何度も頭を下げたし、路上ライブとかして数を作った!
そして十二歳の時、晴れてメジャーデビューして、その斬新さから、賛否両論の嵐を巻き起こしたのでした! まあ、わりとすぐにだいたい賛で染まったんだけどね。
それからそれから、明日はテレビ、明後日はラジオ、明明後日は雑誌……的な具合でメディア露出が増えた。イコール人気はうなぎ登り!
とうとう十五歳の時には日本武道館でライブをするぐらいになったのでした!
ライブ終了後、神様がウチを異世界から引き剥がして言いました。
「君はあそこでの使命を全うした。だから元の世界に返す」
名残惜しいな、と、思いながらも、お母さんの顔もまた見たくなったし、それにモノホンの音楽を聞きたかったし、OKした。
日本武道館でライブやったから、堂々と帰れるしね。
で、ウチは誇らしげな顔をして懐かしの我が家に帰ってきたのです。
そう、ウチの悲劇はここから、徐々に幕を開けました。
姉三人は、生粋の武将、えちえち怪盗、バリ固警察、妹二人は、バケモノ連れの漫画家と、悪魔的強さの魔王……そしてウチは、ミュージシャン。
実は再会した時から、薄々気づいていたんです。そして最近確信したんです――なんかウチだけ普通で、実力も存在感も弱くね? って。
だから、ウチは今、このまま物理、あるいは精神的に消されないかと、現在進行形で怯えているんです。
*
「『重き地のガバナンス』!」
と、ルシェヌは性懲りもせずインチキ魔法を使って、ユノスの手の甲をテーブル叩きつける。
それをウチは音楽鑑賞の体で脇から注意深く観察している。
「どうだわかったのじゃユノス!? このアタシの偉大さを!」
ルシェヌはこんな具合でマウントを取っていく。ほんと良くも悪くも魔王してるなぁ。
一方、負けたユノスは顔を変えずに、
「じゃあ、ボク漫画描いていいかな?」
と、要求。
つまりマウントから易々と逃れる。まあ当然っちゃ当然の無頓着だね。
対して、ルシェヌはわかりやすくプンスカする。
「そこは平伏するより他にないだろうじゃろうが! ほら、早く!」
「えー、わかった。はい」
ユノスは言われた通りに頭を下げる、そして十秒経つ前に『これでいいよね?』と言いたげな顔を上げる。
「早い! そちらは早くなくていいのじゃ!」
「なら次は先に言って。じゃあまた今度」
ユノスは強引に話をブツ切って、ルシェヌから離れていく。当然、あのワガママなルシェヌがそれを許す訳がなく……
「そのアタシを軽蔑したような態度が貴様の本心じゃなー! ならばこの世の道理をへし曲げてでも、貴様を平伏させてくれるわい! 『穿つ風のロールフォワード』!」
容赦なくその背中めがけて竜巻を放つ! やりやがったコイツ!
「させません!」
けどユノスはまるで動揺しない。
ベレー帽の中から虫っぽい怪人――アザレアさんが飛び出し、居合めいた速度の回し蹴りで、竜巻を見事かき消す。
アザレアさんがいるのがわかってるから、動揺しないんだよユノスは……そう、ユノス『には』アザレアさんがいるから……
「何事だ今のは! ユノス! 何故そやつを出している!?」
さらに騒ぎを聞きつけサバキ姉さんまで参戦してくる。うわー、やばそう。
「そやつ……私か。すみません、サバキ様。ルシェヌ様が敵対行動を取ったため、マスターの護衛のため参上いたしました」
「敵対行動? 失敬な! 悪いのはそっちじゃろうがこの虫ケラ!
アタシは魔王なのじゃ! だからここにいるお母さん以外の人間全てをひざまずかせねば、気がすまぬのじゃ!
だからアタシをそうキツい目でみるでない! さもなくば貴様も……」
「やはり貴様か、ルシェヌ殿……!」
ここいらで空気が最高に険悪になってきたので、ウチはリビングから自室に撤退する。
ここで一つ解説を入れておくよ。
ウチら満月家は高層マンションの上階の一室にあるから、流石に六人分の部屋は無いんだ。
だからウチら六人姉妹は、一つの部屋を共有していて、寝る時は三段ベット×二に散らばって寝てる。
して、今ウチはその一つにこもって、タブレットで音楽鑑賞。
確かにやかましいのは好きだけどさ、ああいうデンジャーなの絶対イヤ。だからこうやって自分は絶対不干渉の構えをとらなきゃ。さもなくばドエライ流れ弾食らっちゃう。
「……あの三人、楽しそうにドンパチやってるな」
「お陰さまでリビングは立ち入り禁止、あと要清掃になりそうだけどね」
この声は、コーリン姉さんとマジナ姉さん。まぁ、大人しくしてれば大丈夫か。まだ、ね。
「で、何しようか姉御? 今の所この密室に閉じ込められた状態だけど」
「さぁな。なら、マジナはこういう暇な時は何してたんだ?」
「適当に寝てたんじゃあないかな? 来る客の相手をするためか、夜の怪盗業のための体力温存にね」
「ああ、キミはそうだったか……オレは、武器いじりか兵法書読むか、父親が用意してくれた女の子と遊ぶか、だな」
「あれあれ、キミはそっちの気があるのかい?」
「んー、そっちの方が楽しい的な具合だな」
「なら、どうする姉御? 私がいるけど」
おい、ちょっ、ちょっと待って……
「強気だな、マジナ。その気か」
「ここも要掃除にするぐらい、してあげてもいいけど?」
「それはユノスに申し訳ないからやめとこう。ただ、こんぐらいならっ」
「ん……ふぐっ、はぁっ……」
ウチは直感的に、布団に出来た隙間から、二人の様子を覗く……もう何してるか、粗方察しはつくけ…………
「いや、マジだこれーッ!?」
とんでもない跳躍と驚愕をするウチ。それを二人は唇を離して、ポカーンとして見ている。
「何だ、いたのかいピコリ。つれないなぁ」
「ん、どうしたピコリ。さっきから人外の何かに睨まれたように焦燥して」
「いや、あの、姉さん、これ……」
「別にそれほどやばいことしてたかオレら? ただ遊んでただけなのに……」
「本当だよ……あ、さてはピコリ、ひょっとしてベッドの中から見てて興奮したとか、私たちに混ざりたいとか……」
「失礼します! すみませんでした!」
クッソー、ここにはウチみたいなのが安全でいられる空間はないのか!?
とか思いつつ、ウチは再び成り行きでリビングへ、と、そこではルシェヌと、サバキとユノスのアザレアが一進一退の攻防を『まだ』繰り広げていた。
その時だった、拳大の尖った氷塊が、飛んできて、
「危ない、ピコリ!」
サバキの放ったジェル『ルマ』で勢いを殺される。
つ、冷たぁ……物理的にも臓器的にも冷たぁ。
「どうした、サバキと虫けら! この程度か!?」
ルシェヌは魔力orパワーorオーラを放ち、Theラスボス感を出して、このベタな一言。
けどウチには聞こえてない。
やはりここにいたら本当に危ない。と、思って大至急家を出たからだ。
*
「さて、今日もあの子たちは無事にやってるかなぁ……ん?」
チヨはいつものエレベーターに乗ろうとする最中、そばにある椅子に腰掛け、生気が微塵にも感じられない、ゾンビものだったら近づいた瞬間、首がコテンとする予感もするピコリを見つける。
「あれ、どうしてここにいるのピコリ……」
「心が折れそうだ……」
「へ?」
それからピコリは、こうなった経緯を語る。
するとチヨは、プッと吹き出しそうになり。ホッと一安心する。
何がおかしくて何がうれしいの。と、ピコリに問われ、チヨは理由を話す。
「いやごめん。傷ついたら悪いけど、あなただけ何も変わってないから。
周りに振り回されやすいその性格がさ……ほんとよく覚えてる、いつも他の誰かに言われて、その嫌そうしながらその誰かについていってるのを」
「……悪かったね。母さん」
「むしろ、ありがとうだよ。
あたし、またあなたたち六人に会った時、すごく怖かったんだ。『別物に成り果てた娘たちと、また関係を築かなきゃいけない』って。
けど、触れあっていく上でだんだんと見えてきて、ピコリで確信した。皆、あたしの娘のままだって、ね」
「そっか、どういたしまして……ウチは意識的に何もしてないけど」
と、そうこうしている内に、二人が乗ったエレベーターは、満月家のある階についた。
「さ、帰ろうか。あたしたちの家に」
「うん、お母さん!」
と、ピコリは笑顔で返して、チヨと共に家に帰るのだっ……
「あ、多分家の中、無惨になってるから気をつけてね、お母さん」
「知ってる」
【完】