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第76話 金色の魔法使い 〜姉妹五人から母親を奪うマインドコントロール〜

 今回の話は例のごとく、なんてことのない満月家の夏の某日の朝から始まる。


「それじゃあ、行ってきまーす」

 と、仕事に向かう寸前のチヨは、玄関のドアを開けつつ娘六人に言う。


 行ってらっしゃい。と、六人姉妹の内五人はそれを普通に返し、


「待つのじゃ〜! 行ってきますのキスをするのじゃ〜!」

 満月家の末っ子、ルシェヌはキスを求めて玄関に猛突進する。


 彼女のターゲットであるチヨはドアを閉めて職場へ向かう。


「へぶっ!」

 そしてルシェヌはドアへ思い切りキスをした。


 ルシェヌはドアにぶつかったがために痛い顔面をさすりながら、他の姉妹のいるリビングに戻る。

「うえっ、このドア相変わらず苦いのじゃ……もうかれこれ去年の十一月ぐらいから、お母さんと行ってきますのキスしてないのじゃ……」


 ピコリはツッコむ。

「去年の十一月って、ウチらが異世界から帰ってきた時だクマよ……よく半年以上頑張れるクマよね?」


「ピコリ、アタシとお母さんの恋愛をバカにするでないのじゃ! 確かに貴様の言う通り半年以上かけても行ってきますのキスすら出来ていないが、これから進展あるかもしれないじゃろうが!?」


「そうですクマか。はいはい、じゃあこれからも頑張ってクマさい」


「むー、なんか投げやりな励ましじゃなー……まあいい、ピコリごときに説教する時間なんて勿体ないのじゃ。

 しかしもう異世界から帰ってきて半年以上かかっているのは紛れもない事実じゃ。いい加減何か大きなアクションを起こさないといけないのじゃな……」


 母娘の恋愛はかなりハードルが高い。と、いう現実に一切触れず、ルシェヌはチヨとの距離を詰めるための思案にふける。


 そこへマジナが一つ聞く。

「あのさ、ルシェヌって前の世界で魔王やってて、あれこれ魔法使えるんだよね?」


「おう、そうじゃが? それがどうかしたのかえ?」


「半年以上経って、すごい今更感あるけどさぁ……何かさ、母さんがルシェヌのことが好きになる魔法とか無いの? それ使えばわりとすんなりイケると思うんだけど」


 ルシェヌは数十秒停止し、突然雷に打たれたような顔をして、

「そんなの全く考えたことなかったのじゃーっ!?!?」


「そんなまさかだクマーッ!? もうかれこれ76話に到達してるっていうのに、全く考えて無かったクマかーッ!?」


「ああそうなのじゃ! そんなグッドな作戦全く思いつかなかったのじゃ!」


 マジナは言う。

「え、じゃあ私が今指摘しなければ、永遠にそうしなかったのかい、これ……」


 頭が悪いと思われたくないルシェヌは、シラをきって、

「いいいや、そもそも人の心を操る魔法なんてアタシの範疇外なのじゃ。

 アタシの使える魔法はアタシ好みのイタズラ魔法と、魔王らしい数万の軍を一瞬にして吹き飛ばすぐらいの超強力攻撃魔法だけなのじゃ」


「普通それだけ使えたら、相手を操る系のチート魔法も使えそうな気がしなくもないクマ。

 まぁ、でも、もしルシェヌが連載当初からそんなの持ってたら作劇に困るっていう作者の事情もあるクマか」


「とにもかくにも、善は急げなのじゃ! さっさとお母さんがアタシのことを好きでたまらなくする魔法を創り上げるのじゃー!」


 ここにきてマジナは気づく。

「あ、ピコリ。もしかして私ってとんでもないことをルシェヌに勧めちゃった?」


「そうクマよ……」


 それからルシェヌはネットで『お母さんを好きにさせる魔法』と検索したり、図書館で魔法に関する文献をあれこれ探したり、手段を問わず、目的の魔法を作ろうとした。


 そして貴重な夏休みの内一週間を費やし、ルシェヌはついに完成させた。


「じゃじゃーん! 出来たのじゃ! 例の魔法が!」

 と、言いながらルシェヌは、マジナとピコリにスマホを見せつけた。


「うわ、本気で作っちゃったクマよ、この魔王さん」

「で、何で私とピコリはルシェヌのスマホを見せられなきゃいけないのかい?」


「この魔法――名付けて『ラブラブ・デラックス』は、ある特定の音声を聞かせた者にアタシが選んだ人を好きにさせるのじゃ。

 だからその音声を聞かせるためにこのスマホが必要になるわけなのじゃ」


「さては作者、この話書いてたとき例の島根の世界征服アニメ観てたクマね。

 そしてその名前、なんか人を好きにさせるより、髪の毛自在に操れそうな効果してそうクマね……」


「本気で出来上がったのかい。はぁ、本当にごめんねピコリ。まさかルシェヌがここまでやるとは思わなかったからさ……」


「フッフッフッ、いやー、この魔法を創り上げるのにどれだけ苦労したのじゃ。特に『力』、『知恵』、『勇気』を集める段階はヒジョーに苦労したのじゃ」


「今度は緑色の――最新作だと青か――あの人を彷彿させるワードだクマ。

 一応聞くけど、それらはどうやってゲットしたクマか?」


「『力』はコーリンが上手に割るのを失敗した割り箸、『知恵』はユノスが丸めてポイ捨てした作品作りのメモ、『勇気』はピコリのカピパラ柄のパンツ五枚なのじゃ」


 ピコリは目を三角にして、ルシェヌに言う。

「あー! 通りでここ最近ウチのパンツが減ってると思ったクマ! ルシェヌの仕業だったクマかー!?」


 一方、マジナは冷静にツッコむ。

「それでどうやって魔法の音声が作れるんだか。でもまぁ、お疲れ様です」


「このやろクマ、このやろクマ! よくも人のパンツを五枚も使いやがったなクマ! おかげさまで今穿いてるパンツ、二日目のなんだクマよ!」


 キレて自分に殴り掛かるピコリをバリア魔法で防ぎながら、ルシェヌは彼女をなだめる。

「まぁまぁ、もし貴様が『気に入った男と付き合いたい』という時があれば、この魔法を貸してやるのじゃ。だからパンツの一枚二枚気にするな」


「五枚だクマ! ああもう、チェルクロかUNユーニーのセールいつだろうクマ……」


 と、ここで三人の元にサバキがやって来る。


「おい、さっき自分たちの部屋を見に行ったら部屋が散らかっていたぞ。しかもユノスが自分のせいじゃないというのに片付けしていたんだ。どういうことだ!」


「お、ここに丁度いいモルモットが一匹。よし、早速この魔法を試してやろうなのじゃ」


 ルシェヌは怒るサバキの耳――聴覚器としての機能がない犬耳の方ではなく、人間の耳――に、スマホをあてがい、魔法のトリガーとなる音声を流す。


 するとサバキは怒るのをやめ、マジナに強く抱きついた。

「うわ地味に痛っ、抱きしめる力強っ!」


「マジナ姉さん、大好きぃ!」


「どうじゃ、サバキがマジナを好きになるようにしたのじゃ。普段仲の悪いこの二人でもこうなるのじゃ、これは効果バツグンなのじゃ!」


「くぅーん、マジナ姉さんいい匂いがする……」


「うわー、凄いクマ。あのサバキ姉さんがマジナ姉さんをこんな風にするなんてクマ……」


「へへん、どんなもんじゃい! よし、これさえあればお母さんをアタシが好きでたまらなくできるのじゃ!」


 五分後。


「なぁマジナ姉さん。キスしようか?」


「十秒前にしたばっかでしょうが、サバキ。私のキスはそんなに安くないよ!」


「じゃあ代わりにおっぱい揉むぞ!」


「それは二十秒前にしたばっ……ああああ、いだいだいだいぃぃぃ! 流石断退警察セクハラも容赦ないよ!」


 サバキはマジナに滅茶苦茶スキンシップを取っていた。


「うん、持続性もバツグン。アタシながらいい仕事したのじゃ! ……おいピコリ、何か貴様も言わんかえ?」


「……いや、何か、もうこれ、言うこと無いクマ……」


「そうかそうか。文句のつけようが無いほど凄い魔法ってことじゃな!」


 サバキに胸をガッシリ揉まれながら、マジナはルシェヌに言う。

「私は文句が言いたいんですけど! これちょっとやりすぎだと思うんだけど! もうさっきからサバキがずーっとじゃれついてくるんだけど!」


「いいじゃろ、別に。これでサバキにガミガミ言われなくなるんじゃぞ?」


「今のサバキがキモすぎてそっちの方がマシに思えてきたんだけど! もう効果は十分わかったし、これ止めてくれない?」


「そうだクマよ! もうあんなサバキ姉さん見たくないクマよ! なんか止める方法ないの!?」


 と、二人に頼まれたルシェヌは答える。

「簡単じゃよ。サバキは魔法を弱らせる『ルマ』っていうゲル状の毒だか何だかを出せるじゃろ? それを浴びせれば多分魔法は解けるぞい」


「ああそっかクマ。その手があったクマ……って、今それを出す人が魔法にかかってるんだクマよ!?」


「しまったのじゃ!?」


「マジナ姉さ―ん、キス、キース! それもディープなキースぅ!」


「早くこの馬鹿犬止めてよルシェヌ! 他の方法はないの!?」


「他の方法……いや、アタシはずっと好きになったままでいいと思ってたから、そういうのは考えてないのじゃ」


 マジナは絶叫する。

「うわヤダこれぇ! 一生サバキにくっつかれたままとか死んでも嫌だァァァ! ちょっとルシェヌ! 早いとこ解決策出さないんだったら、こっちにはコレがあるんだからねぇ!」


 マジナは自分のしもべである竜のカード八枚をちらつかせる。

「ねぇ、本気で解決策考えてあげようクマ。このままじゃマジナ姉さんが可愛そうクマよ」


「……よくよく考えれば、家でアタシとお母さんが好き好きしてるのと同時に、こいつらも好き好きしてるのは気分が悪いのじゃ。けど、解決策も何も、全く思いつかないのじゃが……」


 ここでピコリは閃く。

「そうだ、あれだクマ! 逆だクマよ逆!

 アニメとか漫画とかでこういう状態異常系の技食らった時、それの逆の状態異常食らわせてプラマイゼロにする展開あるクマよね? 

 それを使って、この『ラブラブ・デラックス』だかっていう魔法の逆の魔法をサバキに与えれば解けるんじゃないクマ!?」


「なるほど、ピコリにしてはいい考えなのじゃ! よし、さっそく『ラブラブ・デラックス』解除魔法、名付けて『スクッラデ・ブラブラ』を作るのじゃ!」


「シンプルひっくり返しただけの名前クマか……『アンチ・デラックス』とかじゃないんクマね。

 いや、それだと島根の世界征服アニメのまんまになるクマか」


「善は急げなのじゃ! よし、今から上で『ズグッ…』、『スック……』、『スクラッデ』……『アンチ・デラックス』を作るのじゃ!」


「こんなに噛むんだったら最初っから言いやすい魔法名にしとけばよかったじゃんクマ。じゃあマジナ姉さん、しばらく待っててクマ!」


「わかった! それまで耐えるから……おい、離れろ、このキモ犬ゥ!」


 ルシェヌとピコリは、大急ぎで上の自室に上がる。


「何だ何だ、二人とも。人がウトウトしてる最中に急にドタドタやってきて」

「ボク、お掃除が終わったから今度こそ執筆に入る所だったんだけど?」

 

 そこには既に、コーリンとユノスがいた。


「二人とも、丁度いい所にいたのじゃ。今から二人と、ピコリに用意して欲しい物があるのじゃ!」


 ルシェヌは二人に事情を説明して、数分後。ルシェヌは、

「『力』のパーツはこれでいいんだろ?」

 コーリンから、正しく割れた割り箸を受け取り、


「『知恵』担当はこれでいいの?」

 ユノスから、名作な手応えがする作品のメモを受け取り、


「『勇気』はこれだクマね。未だにどうして下着が『勇気』なのかわかんないけどクマ」

 ピコリから、カピパラ柄のブラジャー五つを受け取る。


「それでいいのじゃ。それにしてもピコリ、このブラジャー思ってたより小さいのじゃな……」


「そこはノータッチでいけクマ! ほら、早くこれらを使って魔法を創るクマ!」


「そう急かすのでないのじゃクマ、こっからやるのは非常に緻密な作業なんじゃから……これだから魔法素人は困るのじゃ……」

 と、ブツブツいいながら、それらを前にし、いよいよルシェヌは魔法創りに挑む。


「うりゃー!」

 まずルシェヌは三人に渡されたアイテムを部屋のあちこちに散らかす。


「とりゃー!」

 続いてルシェヌはスマホを滅茶苦茶に振る。


「わー!」

 最後にルシェヌはスマホの録音アプリを起動して、この叫び声を録音する。


「……ありがとう、これで『アンチ・デラックス』が出来たのじゃ!」


 三人は揃って言う。

「割り箸必要なくねぇか!?」

「ボクのメモいる?」

「別に最後の『わー!』だけで成立しそうな感じがするクマ」


「これは実はものすごい神経を使う作業だと言うのに……これだから魔法初心者は困るのじゃ。

 まぁいい、ほら行くぞ貴様ら。そろそろマジナも限界だろうし、早くこの魔法を食らわせてやるのじゃ!」


「うっし! このオレ達の思いを合わせて作った魔法で、マジナを助けるぞ!」

「いっつもボクはサバキお姉ちゃんにお世話になってるから。今回はボクが恩返ししないと!」


「よっし、ではコーリン、ユノス、ピコリ! いざ出陣なのじゃー!?」

 

 そして四人は意気軒昂に、マジナとサバキのいるリビングに降りて行った。


「何なのクマ、この最終決戦感……もしかして何かのフラグかクマ?」


「マジナ姉さんおいしい、ペロペロ!」


「人のほっぺた勝手に舐めないでくれない!? てか君、愛情表現すらも犬化してない!?」


「そこまでなのじゃサバキ! 貴様の淫行はここまでなのじゃ! この魔王ルシェヌが止めるが故に!」

「このオレもついてるぜ! マジナ、もう大丈夫だ!」

「サバキお姉ちゃん、ボク、頑張るからね!」


 サバキはマジナを舐めるのをやめ、四人を睨みつけて言う。

「せっかく二人きりでいられたのに……よくも邪魔してくれたなルシェヌ! この罪はとんでもなく重……」


『わー!』

 その間に、ルシェヌはサバキの耳元にスマホをあてがい、例の絶叫、もとい、『アンチ・デラックス』を聞かせる。


「……あれ、何故に自分はマジナ殿にべったりしているのだ!」

 そして、サバキは正気に戻り、


「やった、た、助かった……!」

「よくやったぞ! ルシェヌ!」

「見直したよ! ルシェヌ!」

「えっへん! やはりアタシは強いのじゃ!」

 コーリン、マジナ、ユノス、ルシェヌは盛大に喜んだ。


「なんだこの前振りに合わない、駆け足と手抜き以外の何物でもない展開はクマ……」


 こうして、ルシェヌの活躍によってサバキのキャラ崩壊は免れた。

 そしてルシェヌは、この事件を持って『ラブラブ・デラックス』を二度と使わないと心に誓った。


 ――魔法で作った愛は所詮偽物でしか無い儚い物。本物の輝かしい愛は、もっと直接的なアプローチでしか作れない。


 満月家の末っ子、ルシェヌは今回も一歩、成長したのだった。


「あとそれっぽいオチつけて、しょぼい話をいい感じの話にしないで欲しいクマ」


【完】

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