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第71話 生徒会長、形勢の流転

 百式高等学校校内のとある掲示板に、四枚のポスターがあった。

 一枚は、次の生徒会長を決める『生徒会選挙の投票日が二週間後にあることを案内するポスター。

 他三枚は、それの立候補者の選挙ポスターである。


「うん、やはりこうしてみるとなおさらユノスが有能に思えるな」

 サバキは三枚あるポスターの一枚――ユノスに制作してもらった自分の選挙ポスターに感心した。


「ありがとう、お姉ちゃん」


「さて、ポスターの出来は良しとして、後は今後の選挙活動だな」


「確か全校生徒に公約発表する会が明日だったよね。サバキお姉ちゃんはどういう公約を考えていたの?」


「とりあえず、『校内の風紀を取り締まること』をメインにあれこれ考えていた。後は、他二人がどう出るかで線引きを明確化するつもりだ」


 翌日。いつも生徒会が登校時間前に校門前で行っている挨拶運動は中断された。


「皆様どうも、わたくしが生徒会長候補の高森ミソギでございます」


 代わりに、その時間その場所で生徒会長候補達の演説が行われるようになった。

 その日は選挙活動の本格始動という訳で、


「みんなおはようなのじゃ! アタシが今回、生徒会長になるルシェヌなのじゃ!」


「皆様おはようございます! 自分、生徒会長候補、満月サバキです!」


 立候補者三人が意気軒昂の体で校門前に出陣していた。


 先手を売ったのは名門、高森ミソギ、

「わたくしが生徒会長に就任した暁には、この百式高校を地域住民に愛され、生徒全員が『百式高校生でいること』が誇りに思えるような学校にしたいと思います。

 具体的には、地域のボランティア・イベントへの積極的参加を推進し、この百式高校のブランドを地域に広めるようにしたいと思います。

 また、そもそも百式高校の生徒が他校から憧れの的になるように、挨拶運動の活性化や、マナーアップ運動の実施を行いたいと思います!」


 ミソギの演説が終わるや否、周りの観客――主に高森グループの斡旋を受けたい高森の取り巻き――が歓声を送る。


 この演説を隣で聞いていたサバキは思う。

(良くも悪くも捻りのないマニフェストだ。

 高森のブランドがあるから特別革新的なことを言わなくても票が集まるから、その辺りは凝らないのだろう。

 やれやれ、お偉い身分というのはつくづく楽そうで何よりだ……)


 サバキは高森ミソギからやる気を感じ取れなかった。

 なら自分が奴を上回る熱量を発揮し、この選挙に喝を入れてやる。という気概でマイクのスイッチを入れる。


 その前にルシェヌが演説を始める。

「はいはーい、次はアタシの番なのじゃ! えー、アタシが生徒会長に君臨したら、みんなが楽しくなるようにするのじゃ! 例えば―、休み時間は二十分に、昼休みは二時間に延長するのじゃ! それと、この学校名物のあんドーナツ(※第51話参照)をいっぱい作らせるのじゃ!」

 

 サバキ……だけでなくミソギとその他聴衆はポカーンとする。その理由は言い方が色々あるが、大体同じ。


(((無理だろそれは)))


 ルシェヌが掲げた無茶苦茶なマニフェスト(?)を聞いて、ミソギは自分の耳に妖怪か悪魔か何かが住んでるんじゃないかと思い、それの否定をするためルシェヌに尋ねる。

「み、月……ルシェヌさん、それは……本気で実行するつもりですか?」


「本気に決まってるのじゃ! だって生徒会長っていうのは学校を生活しやすく立場じゃろ? なら、こうパーッと学校を楽しくするのが、シンプルに皆喜んでくれていいと思うのじゃが?」


「はぁ……それはそうですか。とにかく、健闘を祈ります」


「ありがとうなのじゃ!」


 二人は立候補者という立ち位置上、『好き好み』や『今後の結果』など関係なしに、形式上握手を交わした。


 それから。場がある程度落ち着いてきたところでいよいよサバキは演説する。


「自分、満月サバキが生徒会長に当選した暁には、この学校生活が不自由なく、有意義な時間となることを保証します。より簡略的に言いますと『校内の風紀を取り締まる』です。

 具体的な公約は、毎日朝のHRでの服装チェックに、校内で生徒による不適切な行動が起こった際の、先生への通達・処罰プロセスの発案、いじめの徹底防止、その他諸々、この学校の風紀を規則正しく健全にするよう、努めたいと思います」


 そのサバキの演説の後、観衆達は拍手を送る。その拍手はどことなく乾いていた。


「えーっと、満月サバキさん。ではあなたも、これから健闘しましょうね」

「ああ」


 サバキとミソギはあくまで表面上は仲良さげに握手を交わした。


「あと、アタシに握手はいらんのかえ? さてはサバキ、もう貴様が勝ってるとか思ってないじゃろうな?」

「まさか。お前も……真面目に戦うんだぞ」


 さらに、サバキはルシェヌと握手を交わした。姉妹かつ立候補者同士での握手……サバキは言葉にしがたいかゆさを感じた。


 それからミソギ、ルシェヌ、サバキの三人の生徒会長候補者は選挙公報活動に勤しみ、少しでも票数を増やそうと励み続けた。



 一週間後、中間報告として今、有権者である生徒達が『誰に投票しようとしているか』の割合が出た。

 

 その結果は、ミソギが四〇パーセント、ルシェヌが五〇パーセント、サバキが一〇パーセントだった。


 この報告を見て、サバキは怒りを通り越して呆れた。

「何故にルシェヌが首位を取っているんだ!?」


 このサバキの疑問に、ユノスは一言。

「多分みんな、ルシェヌの楽しいマニフェストに惹かれてるんだよ」


「あのほぼほぼ実現不可能なマニフェストに!?」


「それでも実現したらここの学校のみんなにとってはメリットが大きいしきっとダメ元で支持が集まってるんだよ。あるいは失礼だけど、みんなも思考がルシェヌレベルか」


「……よくよく考えてみれば、この学校は制服を着崩していいほど校風が緩い。だからそんな風土に合うルシェヌが支持されるのかもしれない……」


「あと、単純にルシェヌって人気者だからね。いっつもどこかでマジックやってるからさ……で、これからどうする、サバキお姉ちゃん?」


「ううむ、投票率一〇パーセントとなると、これからかなり大鉈を振るう必要があるぞ……いやはや、選挙とはここまで難しいものなのか……」


 確かに、サバキの『学校の風紀を守る』という公約は悪い物ではない。

 しかしそれはただ、異世界で断退警察の任をただただ遂行するだけの、良くも悪くも『犬』な人間が編み出した、押し付けがましい物。

 ミソギやルシェヌの公約と違って、当選の暁に受けられるメリットが薄いのだ。

 と、サバキは今更になって気づいた。


「ボクはサバキお姉ちゃんの公約はいいと思ったけどなぁ……ボクが前いた異世界のAIって、こういう難しいことして万民を束ねていたんだ。そう考えるとすっごいなぁ……」


「……とにかくだ、これから『学校の風紀を守る』という軸は守り、どうにかして票を惹きつけられるように公約を練り直さねばなるまいな……」


「だねだね」


 サバキとユノスは、まさかの大活躍を決めたルシェヌに対し、煮え湯を飲まされ苦悶した。


 だが同時に、この二人以上に苦悶している人間が一人。


「このわたくしが、あの机上の空論ばかり言うルシェヌに負けているですと!?」


 そう、本来この選挙で勝つべきであろう名門高森家の令嬢、ミソギである。


 この天と地がひっくり返ったような事実に驚きを隠せないミソギ。

 そんな彼女へ、支持者たちは個々の感想を言う。

「正直僕たちも驚きですよ。あのホラ話とマジックしか出来ていない満月ルシェヌさんが、ここまで支持されているなんて」


「学年ごとの割合はわからないでしょうか!? 三年生は高森グループの斡旋を求めて特に私を支持しているでしょうけど、まさかその盤石まで崩れている訳は……」


「さぁ……それは選挙のルールでわかりません。しかしルシェヌさんがそれを押しのけるほどの人気を誇っているのは間違いないでしょう……」


 ミソギは拳を強く握って、

「ぐぬぬ、なんていう馬鹿げた話でしょうか。この高森家の血を引くわたくしが、生徒会長の座から遠ざけられるなんて……

 そんなの断じて認められませんわ! この高森家の名誉にかけて!」


「ですがルシェヌさんが現在優勢なのは紛れもない事実です。ですからミソギ様、ここはしばし溜飲を下げて、冷静に盛り返して行きましょう……」


 ミソギを必死でなだめる取り巻き。しかし高森家のブランドで育ち、高森家のブランドを背負っているのがミソギ。

 この敗北は屈辱の極みであり、逆鱗に触れる事実。故に、彼女はすこぶる憤慨する。


 そして彼女はその鬱憤を、屈辱を晴らすため、ドス黒いを閃きを起こす。

「こうなれば、あの机上の空論語りに、一発、高森家からの天罰を食らわしてやるべきですわ。ええ、それが絶対いいですわ!」



 翌日。

 中間報告を経た三人は、結果を受け止め、各々選挙に勝つための適切な行動をとり始めた。


「とにもかくにも、ルシェヌが優勢なのは確固たる事実。故に、一旦ルシェヌがどのような選挙運動をしているか探るとしよう。戦に勝つには敵を知ることが大事だからな」


「そうだね」


 昼休み、サバキとルシェヌは、敵――ルシェヌのやり方を参考にするべく、ルシェヌが何をして注目を集めているのか探る事にする。

 その肝心なルシェヌはというと、


「はいはい、今日も生徒会長候補のルシェヌのマジックショーをするのじゃー!」

 選挙活動の皮を被った、普段からやっているようなマジックショーをし、生徒達の目を引いていた。


「……あんなのに負けているとは、改めて思うと腹立たしいな」


「だよね。きっと高森さんも怒り狂ってそう」


 それでもルシェヌが優勢なのはガッチガチの事実。サバキとユノスは観客に混じり、マジックショーを見物する。


「今回アタシが披露するのは、皆おなじみ『缶コーラ爆発マジック』なのじゃ! おい助手、早く例の物持ってこい!」


「はいはい、ただいま持ってきましたよ」

 助手――ピコリは、たった今、近場の自販機で買ってきた缶コーラをルシェヌに渡す。


 ルシェヌはそれをテーブルに置き、それらしく擦った後、

「ではこのタネも仕掛けもない缶コーラを……今から三数えて爆発させるのじゃ! まばたき厳禁じゃぞ……! 三、二、一、ゼロなのじゃ!」


 缶コーラは、ボンッ! と音を立てて爆発し、


「あいたぁっ!?」


 缶の鉄片が辺り一帯に飛び散る。

 そしてその内の一片が、ユノスに飛ぶ。


「危ない、マスター!」


 しかしそれはユノスのベレー帽から飛び出したアザレアがキャッチし、事なきを得る。 刹那、アザレアはベレー帽に戻る。怪しまれないための事後処理もパーフェクト。


 だが他の鉄片はピコリ等の周りにいた人に命中した。

 負傷者も何人も出てしまい、場はとんでもないほど混乱してしまう。


 そしてこの混乱は、生徒会長候補のルシェヌが起こした、選挙活動中に起きた物、故に……


「満月ルシェヌさん、今回の事件に関して、どう責任を取るつもりですか?」


 事件は即、学校に伝わり、ルシェヌは生徒指導の先生から呼び出しを食らった。


「アタシは何も悪くないのじゃ! あのマジックはあんな本物の爆弾みたいなことにならないのじゃ!」

 と、ルシェヌは必死で『これは事故であり、自分は何も悪いことをしたつもりはない』と弁明した。


「ですがやったのは紛れもなくあなたで、これで怪我人が出たのは紛れもない事実です。ですから、満月ルシェヌさん、ここで一つこちらは処罰をしなければなりません」


「処罰……!? な、何をするつもりじゃ……」


「あなたの生徒会長立候補を『取り消し』ます。これはあなたが『事故で、無意図だ』という言い分を踏まえての、最も軽い罰です。もしこれが不服というのであれば、学校休学、慰謝料請求、その他諸々……また別の罰を考えますが、どうしますか?」


「……うう、アタシはそんなつもりないのに……けど……わかったのじゃ……」


 かくて翌日、生徒会はルシェヌの選挙ポスターを引き剥がす仕事を行った。

 ――それすなわち、最も生徒会長の座に近かったルシェヌの選挙活動が完全に停止した証拠である。


【完】

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