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第70話 生徒会長、臨戦の了承

 七月某日。某県某市にある百式高等学校の生徒会室にて。

「今日より、私達生徒会執行部は、あと三週間後に控える『生徒会選挙』の準備・運営を取り仕切ります。生徒全員の清き一票一票を大事にして、次の生徒会を作って行きましょう」


 と、現生徒会長は執行部員全員に宣言した後、


「では、今日はまず、これに一通り目を通すことにしましょう」

 彼らに『生徒会選挙の案内』の書類を配った。


 生徒会の一員であるサバキは、それに記された『ある一文』に注目する。

「『生徒会長、もしくは生徒副会長になる際、学年、部活の一切を問わない』か……」


 そのサバキのつぶやきに、同じく生徒会のユノスが反応する。

「その部分がどうしたの、サバキお姉ちゃん?」


「この文言通りなら自分でも生徒会長になれるんじゃないかと思ってな……」


「やめとけ、それはやめとけ」

 と、サバキとユノスのそばにいた男子は言う。


「何故急に突っかかってきたという疑問もあるが……とりあえず、何故そうしてはいけないんですか?」


「ちょっとそれはここで言うとまずい話だから。放課後しようか」


 放課後。サバキとユノスは男子――二年の青木先輩と共に家に帰る。


「それじゃあ、生徒会室で言えなかった話を学校の先輩としてしてやる。自称学校一の情報通の俺がな」


「自分で言ってて恥ずかしくないの?」


「ユノス、そこはそっとしておけ。ゲフン、では、何故自分が『生徒会長になれないか』と思うのが良くないのか教えてください」


「今回の生徒会、あの『高森』が出馬するからだ」


「「高森?」」


 高森――と、この地域一帯の人がその名を聞けば、だいたいはここ有数の企業『高森グループ』か、それを束ねる高森一族を思い浮かべる。


 高森一族は名族らしく、昔から一族の子供が百式高校に入学すると、揃って生徒会長を務める。という輝かしい伝統が存在する。

 

 そして今年、高森一族の中から一人の娘が百式高校に入学した。

 その名は『高森ミソギ』、高森グループらしい英才教育を受けた、品格ある令嬢である。


「へぇ、そんな偉い人の娘さんがこの学校にいるんだ」


「おいユノス、忘れてないよな? 自分たちの母さんも社長を務めていることを」


 それを聞いて、情報通の青木先輩は言う。

「お前たちも結構すごいのか……けれども、百式高校にはそういうお偉い出自の子供はそれなりにいる。それでもあの高森は別格だ。

 なんてったってこの学校の就職斡旋先の大半は高森グループの企業だ。だからウチの高校と高森グループはそういう意味でズブズブの関係なんだ。

 これはあくまで噂だが、学校としても高森グループとしても、双方関係をよくしたいらしく、もし高森一族の人間が入学してきたら、そいつを必ず生徒会長にさせるらしい。『もし高森の人間に投票したら、高森グループへの就職を有利にする』っていう話を卒業学年に回して、票を増させてな」


「うわぁ、あくどい一族だね。高森家って」


「だから、高森家の子供が在学時に生徒会選挙をやると、必ず高森が圧倒的票数を得て生徒会長を務めるんだ。

 しかもウチの高校には生徒会長を務める上での学年制限がないから、そいつが入学してから卒業するまでずっと生徒会長の座は高森の物となり、生徒会選挙はほとんど意味のないイベントになる。

 去年はたまたま高森の人間がいなかったから、あのこれといった特徴がない人が生徒会長をしているが、これから三年間はきっと高森ミソギの天下になるだろう。

 ……という訳で、もし立候補したいっていうんだったらやめておいたほうがいいぞ。どうせただ泡沫候補になるだけなんだから……」

 と、情報通の青木先輩は親切にサバキの願望を諦めるように促す。

 しかしサバキは、この話を聞いて、


「そんな腐った選挙など言語道断だ! 自分は黙って見過ごさない、立候補する! 元よりこの学校に厳正なる秩序を敷きたいと思っていた! そういう話があれば、ますますそうせざるを得ないだろう!」

 がぜん生徒会選挙出馬への決意を固めた。


「うん、それでこそサバキお姉ちゃんだね。きびしー」


「おいおい本気かよ……ま、でもワンチャンありかも知れないな。

 俺も高森の連中がずっと生徒会長牛耳ってるのは何か気持ちわりーし。

 それじゃあ、どうにか頑張れよ満月サバキさん。俺はささやかながら応援するからな」


「ありがとうございます! 青木先輩!」


 かくて、この日よりサバキの生徒会長への長い旅路が始まったのであった。



 翌日、彼女は生徒会室に行き、今回の選挙を取り仕切る現生徒会長に、


「自分、満月サバキは今生徒会選挙に立候補したいと思います!」

 と、出馬の旨を伝えた。

 

「でしたら、後援者の署名はありますか?」


「後援者の署名?」


「本校の選挙の規則に書いてありませんでしたっけ? 『選挙に立候補するには、立候補者は後援者二十名の署名が必要』だって」


「あ……失礼、それは見落としていました」


「でしたら、後援者二十名の署名を集めてから、また来てください。あ、立候補の締め切りは一週間後ですからね。

 それとサバキさんに、ちょうどこちらから言いたいことがありまして……」


 数分後。

 サバキとユノスは校内のあちこちにある掲示板に、『生徒会選挙が行われる』ことを伝えるポスターを貼りに行かされていた。

 そのポスターの掲示場の側には、『今年も安定の学校運営を目指します』とキャッチコピーを添えて、整った顔立ちの女子の顔写真が印刷されたポスター――高森ミソギの選挙ポスターが既に貼られていた。


「おのれ、高森は既に後援者二十人を集めていたのか……」


「折角出馬出来ると思ったのに、ガッカリだね。サバキお姉ちゃん。ボクお姉ちゃんのために気合入れて描いたのに」


 ユノスはサバキに、タブレットを、まだ印刷していない自作のサバキの選挙ポスターを見せつけた。


「本当にすまない。ユノスは気合入れてくれたというのに、自分はこんなしょうもない所でつまづいて……

 さて、自分はこれからどうやって後援者二十人を集めようか。自分は生徒会活動に夢中で、あまり友達と呼べるような人を作らなかったから、その方面では集められないしな……」


「じゃあボクが美術部で集める? ボク、二回も出版社さんからお仕事貰って(※第53話、第66話参照)リスペクトの対象になってるから、ある程度言うこと聞いて貰えると思うよ」


「そうか。じゃあ頼んだぞユノス!」


 そしてユノスは、ポスター貼りの仕事を終えるや否、美術部の面々に声がけした。その結果、

「サバキお姉ちゃん、署名集めてきたよ」


「おう、そうか! で、何人ぐらい集まったか?」


「十六人だよ」


「……四人足りてないな」


「正確にはボクと、『協力する』って言ってくれた青木先輩を足して十八人だよ」


「だとしても二人足りてないよな……なるべく早く推薦者を集めて、なるべく早く選挙活動しなければいけないな……」


「お姉ちゃん、そういえば肝心なこと忘れてない?」


「肝心なこと?」


「ほら、コーリンお姉ちゃんとか、マジナお姉ちゃんとか、ピコリお姉ちゃんにはお願いしたの?」


 サバキは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、

「選挙と打倒ミソギに夢中ですっかり忘れてた……」


「じゃあ、今日お家帰ったらみんなに相談しようよ」


「そうだな。ピコリは頼みこめば何でもしてくれるし、ルシェヌは上手いこと母さんと紐付けて釣れば簡単に説得できるから……そうしよう」

 と、サバキはようやく選挙活動が始められる、と、安心する。


 しかし、こういうどうでもいいところで一波乱起きるのが満月家のあるあるだ。



「お母さん! アタシ、生徒会長に立候補したのじゃ!」


 サバキとユノスが帰宅して早々、このルシェヌの誇らしげな台詞が、彼女達の耳に届いた。

 サバキとユノスはその仔細を知るために、大慌てでリビングに行……


「その前に、靴はきちんと揃えねばな!」

「わかってるよ、お姉ちゃん」


 サバキとユノスはその仔細を知るために、靴を揃えた後、大慌てでリビングに行き、サバキはルシェヌに尋ねる。

「貴様、今の発言、本当か!?」


「本当なのじゃ。ほれ見ろ、後援者の名簿も立候補者の証明書もあるぞい」


 サバキとユノスはそれらを穴が開くほど凝視する。間違いない、どちらも正式な書類だ。


「な、何故生徒会長に立候補しようと思った、ルシェヌ殿!?」


「生徒会長って学校で一番偉い人じゃろ? つまりアタシの世界でいたところで言う魔王みたいな物じゃろ? つまり、もしアタシが生徒会長になればお母さんからいっぱい褒められるのじゃー!」


「そんなくだらない理由で選挙を乱すな!」

 と、サバキはルシェヌに怒った。


「あたしも、嬉しいといえば嬉しいけど、迷惑といえば迷惑なんだけど……」

 チヨもサバキに同調している。


 しかしお母さんの話が絡めば周囲が見えなくなるのがお約束なルシェヌ。

 二人の反対意見をまるで聞きやしない。


 ここでユノスはルシェヌに尋ねる。

「ところでルシェヌはどうやって署名集めたの?」


「アタシのファンにちょちょいと書いてもらったのじゃ。それと……」


「ウチが捕まりました……」

 と、ピコリは二人に申し訳なさそうに言った。


「ウチは全力で止めたんだけど、全く聞いてもらえませんでした。はい」


「ピコリお姉ちゃんとルシェヌに署名頼めなくなったね。サバキお姉ちゃん」


「ぐっ、ならば……あの二人に頼むか……」


 サバキとユノスは二階に上がり、

「失礼するぞ!」

「「!?」」

 絶賛口づけ中のコーリンとマジナのいる部屋に行く。


「んもー、何だいサバキ。まだ私たち舌入れただけだけど!?」


「そうだぞ、お前のいう『いかがわしいこと』はまだしてないと思うぞ」


「それでも中々いかがわしいと思うのだが!」


「サバキお姉ちゃん、ツッコミしてないで本題に移ったほうがいいと思うよ。これ、キリがないから」


「そうだなユノス。

 ゲフン、コーリン殿、マジナ殿、今回は二人に折り入ってお願いしたい。

 自分は生徒会選挙に立候補したいが故、二十人分の署名を集めているのだが、あと二人、人数が足りていないのだ。

 そこで、二人に署名を書いて貰いたいのだが……」


「ああ、それルシェヌとピコリにも言われたね」


「で、同じこと言うぞ。オレたちは署名だか何だかは書かないぞ。そういう真面目な話はオレたちには向いてないからな。な、マジナ」


 サバキは二人に頭を下げて、

「そこを何とか、頼む! ただ署名してくれるだけでいいんだ……ユノス、貴様も何か言って」


「ほら、コーリンお姉ちゃん、マジナお姉ちゃん。可愛い妹がこんなに真剣にお願いしてるんだよ?

 それに応えなくていいの? さもなくばしばらく二人とも、醤油とソースとマヨネーズの使用を禁止するよ?」


「ほんのりじわじわと効きそうな嫌がらせだな。ユノス」


「ふうん、可愛い妹ねぇ……」


 二人は暫し相談して、数秒後、コーリンは二人の意見をまとめて言う。

「よしわかった。書いてやるよ、署名とやらを!」

 

「おお、本当か!」

 そう喜ぶサバキに、マジナは言う。

 

「ただし、こちらから一つ条件があるんだよねぇ……」


「え、条件?」


 コーリンはサバキに、堂々言う。

「もしこの選挙に負けたら、サバキ、責任取ってオレ達と3Pしようぜ!」


「……さ、3……P……?」


「そうだよ。私たちの思いを込めた署名を無駄にしたら、相応の誠意が必要だと思うんだよね。というわけで、こういう罰を用意してみました」


「そんで、どうするんだサバキ。いるのか、いらないのか? オレたちの署名」


 サバキは思う。こんな変態二人と付き合わされるとなれば、至極嫌な目にあうのはわかっている。そのリスクは絶対に嫌だ。

 しかし、今回の選挙で勝ち、自分の意思を通すと共に、高森の専横を止めなければならないというリターンのためならば……


「わかった。どうかよろしくお願いします」

 サバキは喜んで二人の思いを受け入れた。


「その意気や良し! じゃあ頑張れよ、サバキ!」


「勿論忘れないでおくれよ、負けた後にも頑張ってもらうことをね?」



 一週間後。生徒会選挙立候補が締め切られ、候補者が出揃った。


 一、誉れ高い伝統を背負い、それを存続させる為に戦う『高森ミソギ』。


 二、学校内の人気を背負い、ある一人のためだけに戦う『満月ルシェヌ』。


 三、己の正義と大志を背負い、それを貫く為に戦う『満月サバキ』。


 以上、この三名による、たった一つの生徒会長の座を勝ち取るための選挙の幕が切って落とされた。


【完】

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