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第68話 Let Me Invite

 ある日の満月家の夜にて。

 チヨはユノスと一緒に食器を片づけていた。


 最中、ピコリがチヨへ頼みごとをする。

「お母さん。ちょっとお願いがあるんだけど」


「何?」


「次の土曜日、家に軽音部の友達呼んでいい?」


「いいよ、自分たちの部屋で遊ぶ分なら」


「やった、ありがとう。それじゃあその時はよろしくね」


「お風呂あがったよー、次は誰が入るんだい?」


「あ、ウチが入るよー、マジナ姉さーん」


 マジナと入れ替わりでお風呂に向かうピコリを、チヨは目で追い、食器に視線を戻すと同時に複雑な表情をする。

 隣にいるロスイはこれを不思議がり、どうしたの、と尋ねる。


「家に他所の子入れるのってこれが初めてだなぁ……って思って、ちょっと不安になってた」


「どうして?」


「ほら、もしその友達が来た時に、何かやらかして変な印象持たれたら、満月家のみんなに良くない噂が出来ちゃって、皆居づらくなるかもしれないから……」


 ユノスは心当たりがありつつも、

「それは……みんなを信じてあげようよ」


「初めてのことは誰だって心配するんだよ。

 あと他にも、満月姉妹一ビビりなピコリだから、その友達にカモにされてるのかもしれないとか、その他の姉妹がとんでもないことしちゃうかもしれないし……とにかく、その日はみんなで上手いことやりすごしてくれないかなぁ……」


「引くほど心配しすぎだよ、お母さん」


 ついに来たりし土曜日。


「どうぞどうぞ、みんな上がって上がって~」


「わー、ピコリーヌの家デカーい」


「本当に社長の娘なんだー」


 ピコリは両方ともピコリ同様イマドキ女子な友達二人を連れて来た。


「いらっしゃい、二人とも」

 チヨは二人へいかにも普通の母親らしく挨拶する。


「あ、どうも、ピコリーヌのお友達のソウです」


「私はミナミって言いまーす。今日はよろしくお願いしまーす」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。ちょっと散らかってるかもしれないけど、ゆっくりしていってね」


「「はーい」」


「んじゃ。ウチらは部屋で遊んでるから。邪魔しないでね」


「わかってるって、ピコリ」


 かくてピコリたち三人は二階にあるピコリの部屋――というより、満月六姉妹の部屋に行く。

 チヨはリビングのソファに座り、テレビをつける――普通を装う。


(あたしも変に思われないように注意を払わないと……)


 すると早くに、ピコリがリビングへ下りてきた。

 どうしたの、と、チヨは声をかけようとするが、妙にせかせかと室内の何かを探していたので、邪魔しないように黙っている。


「あった、これだ」


 そしてピコリは目的の物を発見たらしく、それの写真を撮り、すぐ二階に戻っていった。


 この不思議な行動が気になったチヨは、三人の様子見として二階へ上り、部屋を覗く。

 すると三人は各々リラックスしたフォームでスマホを見ていた。


「ピコリーヌ家のWi-Fi早いね~」


「あ、そういえばピコリんママって社長だったから、Wi-Fiも社長クラスのスピードなんだね」


「さぁ、ウチはちょっとよくわかんないなぁ」


(なるほど。どおりでWi-Fiのルーターの探してたのかと思った。裏に書かれてあるパスワード調べてたのね……けど、三人集まってすることがネットサーフィンって……)


 チヨは部屋を覗くのをやめ、あまり過保護に見られないように、満月姉妹の部屋のドア付近から離れる。

 そして、その部屋の向かいにある、自分の部屋に入り、ドア付近に椅子を用意し、それに座ってドアに耳を当てる。


(やっぱりこうしていないと不安。ここからなら自然にある程度ピコリがどうしてるか監視――いやその言い方は物騒だな――様子見しなきゃ……)


 これにてピコリの友達との遊びを邪魔させない体制は整った――チヨは引き続き、ピコリと友達とのやり取りを伺う。


「それにしてもピコリーヌの部屋ってベッド多いね」


「三段ベッド×二だから、六個もあるんだね。そもそもの広さも相まってまるで野外活動の合宿所みたい」


「えへへ、だってここ、六人全員の部屋だからね」


「あー、そうだ。ピコリーヌって六人姉妹だったね!」


「あれ、そういえばピコリーヌって六人姉妹の何番目だったっけ?」


「四番目だよ、ミナミっち」


「あー、四番目かー」


「あれ、じゃあ満月姉妹って、どういう順番だったっけ?」


「コーリン姉さん、マジナ姉さん、サバキ姉さん、ウチ、ユノス、ルシェヌの順だよ、ソウたん」


「それだ、ごめんすっかり忘れてた。なんかピコリーヌ、他の姉妹に振り回されてる印象しかないから一応お姉ちゃんだってこと忘れてたー」


 これを盗み聞きしていたチヨは、うんうんとうなづく。

(すごいわかってる友達だね)


 チヨは壁にかけられた時計を見る――三時、ちょうどおやつが欲しくなってくるだろう時間だ。


 チヨは部屋を出て、下に降りて、

「ユノス、例のアレは準備出来ている?」


「うん、上出来だよ」


 普通に売られている物でいいのに――ユノスに満月家秘伝のレシピで作らせたアップルパイを、

「みんなー、これ、遠慮しなくていいから食べてー」

 ピコリたちの元に差し入れた。


「ありがとう、お母さん」


「うん、それじゃあ皆、ごゆっくりー」


 そしてチヨは先程の監s……様子見を再開する。


「どーも皆さん。知ってるでしょう? 満月でございます。おいパイ食わねぇか?」


「アハハハ!」

「カッカッカッカッ!」


「子供たちもおいで、パイ食うぞぉ。辛いかい? おじさんはもっと辛い物を君のお父さんに食べさせられてるんだよ。残さず食えよ」


「ははは、片手にこう、包丁を持って座ってるだろ、シェフの格好した奴が、俺ん家で。で、もうウチのカミさんがもう泣きながら、私が食べます! ……と」


「そうだお前も食えよぉ……そしてそれが終ったら俺は名古屋に飛ぶんだ。お母さん、知ってるでしょう? 満月でございます。パイ食わねぇか?」


「ヒャハハハハ!」

「カッカッカッカッ!」


「あ、これ普通に美味しい」


「えへへ、なんてったってウチのお母さん、カフェの社長ですから」


「じゃあこういうの頻繁に食べられるの? うっわ羨ましいなぁ?」


(……とりあえず、あのパイは、二重の意味でうまくやってるみたいね……!?)


 チヨは長年(約半年)のカンか第六感のどちらかで、ただならぬ驚異を感じた。

 チヨは部屋を出て、ピコリ達のいる部屋に入れないように廊下に立つと、


「ようしマジナ、今日はお前が先行取っていいぞ」

「えー、いいのー? 私の攻めはかなりしんどくなるよ〜」

「ああ。今度こそ負かしてやるからな。今日のオレは冴えてるんだよ」


 絶対ロクでもないことしそうなコーリンとマジナが上に上がってくる。


「ちょっとコーリン、マジナ。どうしてここにいるの」


「え、勿論アレだろ」


「そうそう、アレだよ」


「……色々ツッコみたいとこはあるけど……悪いけど今部屋はピコリとその友達二人が楽しくやってるから。部屋はやめて?」


「じゃあ私達も混ぜて貰おうかな、3Pよりも5Pの方が盛り上がるで……」


「おっ、それもいいかもな! ユノスとかもよんで多人数でしようぜ! 滅多にない機会だしよ!」


「他人を巻き込むのは頑固お断り! ほら、早く他行って! ピコリたちの邪魔しないで!」


「なんだよ。つれないなぁ」


「しょうがない。じゃあお風呂でしちゃおっか姉御」


「あと他人が家にいる時にそういうことするのもやめて!」


「はぁい。わかったよ母さん……てなわけで、ムラついてるところ申し訳ないけど、今日はお預けだね、姉御」


「え? オレ、今はババ抜きしようと思ってたんだが……ま、どっちみちいっか」


 こうしてチヨは、コーリンとマジナからピコリ達のいる部屋から守りきった。

 しかし、予断を許さず、予想だにしない『次の敵』がやってくる。


「ここだな……例の二人は」


 その敵は青い髪から犬の耳を生やし、不機嫌な様相で二階に上がってくる……


「あ、サバキ。どうしたの?」


「玄関にあまりにもひどい脱ぎ方をされた靴二足を見かけてな。持ち主に厳重注意したいと思っているのだが」


「それピコリのお友達かな? なら、今回は遠慮してもらえないないかな……?」


 丁度、ドアの奥から、キャッキャッと、三人が楽しそうにしているのが聞こえてくる。

 ここに真面目の極みなサバキを投入するのは、至極邪魔だろう。

 ピコリはそう判断し、どうにかサバキに退いて貰おうとする。


 だがそれで退いてくれないのが真面目の極みサバキである。


「ピコリは人様の家に上がる際、靴を揃えないような乱暴な友達とつるんでいるのか? これはますます注意せねばなるまいな……」


 サバキは廊下を遮るチヨをすり抜け、ピコリがいる部屋に突入しようとする。

 チヨはサバキを抱き、必死に止めて、


「わかった! あたしが後で注意しておくから、サバキは何もしなくていいから! ね、それでお願い!」


「ぬぅ、それだけ必死に言うなら……今回はそうしよう。ちゃんと言っておくんだぞ、母さん」


「はいはい、わかってる」


 こうしてサバキは踵を返し、ピコリの部屋から離れていく。

 同時刻、ピコリ達の話題は満月姉妹の話になる。


「そういえばさ、ピコリーヌって姉妹と上手くやれてるの?」


「え、うん……まぁ、どうにか」


「ほんとぉ? 五人もいるんだから、少しくらいギクシャクしてる姉妹いるんじゃない?」


「ギクシャクってほどじゃないけど……ちょーっと手を焼いてる感じの人はいるかな」


「「例えば?」」


「ルシェヌとか。あの人ちょくちょくいたずらふっかけてくるんだよねー」


「えー、そうなんだ」


「私、単に面白いマジックする女の子だと思ってたー」


「他には、他には、他にはいないの?」


「えーと、サバキ姉さんかな? すごい真面目だけど、その度合いがおかしくてさ……例えば靴揃えないで脱いだぐらいで六、七分注意してくる人でさ……」


「あ、それアタシもわかるー! サバキさんって生徒会だからって張り切って、あっちこっちで誰かに注意してるよねー!」


「ほんと神経質だよねー、サバキさんって、チョーウザい!」


「……」


 サバキは再び踵を返し、

「母さんすまん。やはり自分は奴らに注意しなければならないようだ!」

 チヨの通行止めを突破しようとする。


 チヨはサバキの猛突進を辛うじてセーブする。

「頼む、こらえてよサバキ! ここでサバキが突入したら、ピコリの友達が!」


「ピコリの友達がどうした! あんな陰口叩くような奴を自分の妹の友達に留めておくなど、言語道断だ!」

 サバキは両腕のマシンによる超パワーで、チヨを優しくどかし、


「おいピコリ! そして貴様ら、一体今誰の陰口を言った!」


 ものすごい剣幕でピコリの部屋に突入した。

 ピコリの友達はこのサバキの姿にキョトンとし、数秒後に、ブッと吹き出す。


「何だ貴様ら! ここ笑うところか! あれか、ものまね番組でよくありがちな、ご本人登場的な感じが面白いのか!?」


「いやー、サバキ姉さん。ここ、ここ」

 と、ピコリは頭とお尻を指さして言う。


 そこがどうした、と、サバキはその部分を触ると、普段から生えている犬耳と尻尾が。

 これでサバキは気づいてしまう。

 普段、この犬耳と尻尾は、周りからおかしく思われないように、光学迷彩で隠していることと、今自分はそれを忘れていたことを。


「ちょっ、サバキさん、何ですかその恰好は!?」


「え、なにこれ? ピコリーヌの演出? サバキさんが何かワンちゃんのコスプレして来たけど……」


「あ、これは、そうだな……失礼した!」

 サバキは赤面し、超スピードでピコリの部屋を出ていった。


 その後、ピコリ達は、そのサバキの凡ミスでますます話題が花開いた。


「今日はありがとねー、ピコリーヌー」

「楽しかったよー。今度は私の家で遊ぼうねー」


 この甲斐もあって、ピコリの友達は満足して帰った。


「今日はウチの為にあれこれ準備してくれてありがとね、お母さん、ユノス……それと、サバキ姉さん」


「……すまない、それは、蒸し返さないで欲しい」


【完】

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