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第63話 生徒会さんと元女幹部

 満月姉妹が通っている百式高等学校には、高校らしく生徒会執行部が存在する。

 生徒会はその名に変わらず、学校内のイベント運営や、庶務に関わっている。


 三女サバキと五女ユノスはそこに属し、

「みなさん、あと五百枚の書類制作をお願いします」

 放課後、何枚もある書類をパチンパチンとホチキスで留めていた。


 満月姉妹の中でも比較的行儀のある方であるサバキとユノスは、それを黙々と続ける。


 最中、生徒会長がサバキとユノスを含む一年生に向けて、

「目安箱の回収をお願いします」

 と、命令を出し、サバキとユノスは生徒会室を出る。


 目安箱とは、学校各地に配置された、学校・生徒会に対する要望を受け取るためのよくあるアレである。


「あんぱん93円、牛乳102円……」


「ただのレシートだね」


 二人は学校のあちこちに配置された目安箱を開けるが、その中身はゴミか空か――意見などはまるで入っていなかった。


「目安箱が目安箱してかったね」


「もはやただの箱だ」


 という訳で二人は生徒会室に戻り、再び書類作りをする。

 そうした地味な時間が続き、時刻は午後六時に。


「みなさんお疲れ様です。今日は帰って良いですよ」


 生徒会長の一声で、サバキとユノスを含む役員全員は帰路につく。


「……つくづく、地味な仕事ばかりやらされるな、生徒会というのは」

 と、サバキは道中にてぼやく。


「ボクは別になんとも思ってないよ。お仕事出来てボクは楽しいと思うよ」


「貴様はそう言うと思った。だがな、自分はこれでいいのかと思う。

 今日も昨日も学校の庶務の手伝い。これでは生徒会執行部というより生徒会『庶務』部だと思うのだが」


 ユノスは突っ込む。

「何かアニメでも観たの?」


「アニメ? ああ、ピコリに『この世界の文化のお勉強』と称して観たな。だがそれがどうした?」


「サバキお姉ちゃんがそういう生徒会に影響受けたのかと思ったの」


「?」


「イケメンとか美少女とかいっぱい集まってて、普通先生とか警察とがやるような大問題を解決したり、あからさまに強すぎる権力を使ったりする生徒会がよくアニメにいるの。知らない?」


「あー、そんなのあったような気がする。だが所詮あれはアニメだろう、それはそれで勝手にしろという話だ。

 自分はな、純粋に、前の異世界で断退警察として街の治安を維持していたように、校内の治安を守りたくて生徒会執行部に入部したのだ。だがその実態は雑務とは、誠に遺憾だと自分は思う」


「けどボク、そういう仕事がないってことは学校が平和でとっても嬉しいことだと思うよ?」


「確かにそれは一理ある。だが……いや、その考えは最低だ。事件が起きてくれと思うなんて……はぁ」


 サバキは、とてもやるせない様子になる。だが満月随一の頑固一徹野郎サバキは、ここでふと考える。


「いや、事実起きているのかもしれない」


「どういうこと?」


「簡単な話だ。我々生徒会の監視下ではない所で、事件が起こっているかもしれないのだ」


「本当に簡単な話だね。で、それがどうしたのサバキお姉ちゃん」


「ユノス殿、アザレア殿は虫の怪人だと聞いているが?」


 ユノスの被っているベレー帽より、中性的な風貌の執事服の女性――アザレアが現れ、今さっきのサバキの問いに代わって答える。


「はい、今はこのように人間の姿をとっていますが、いざとならば怪人体となり、様々な虫の力を行使できる……という設定です」


「やはりそうだったか。なら、ああいうのはできるか? 小さい虫を使役して各地に飛ばし、あちこちを監視するというアレは?」


 アザレアは己の周りに何匹か蝶を召喚する。


「可能です。こちらの蝶はいわば、単独行動可能の小型監視カメラとなっております。サバキ様のお望みの光景を確認次第、連絡可能です」


「流石アザレア殿、それとユノス殿。この力さえあれば、今まで生徒会の監視網から漏れていた小さな事件騒動を発見し、取り締まれるぞ!」



 翌日。

 サバキとユノスは休み時間中共に行動するようになった。

 サバキがユノスを介してアザレアから事件報告を受けるためだ。


「よし、これにて校内の風紀を取り締まる、ザ・生徒会らしい活動ができるな!」


「ボクは書類作りとかの方が生徒会っぽくて好きなんだけどね。あ」


 ユノスのベレー帽の中にいるアザレアは、切迫した様子でユノスに連絡し、ユノスはそれを伝言する。


「『校内の自動販売機前で、火事が起きている』だって」


「火事だと!? 最初の事件にしてはかなりの一大事だな! よし、生徒会として迅速に駆けつけるぞ!」


 二人は校内の自動販売機が集まったエリアに急行する。そこでは火を見ようと人だかりができていて、


「ふー、ふー、ふー!」

 その視線の中心で、エナジードリンク片手にルシェヌが弱火を吹いていた。


「あ、ルシェヌさんのお姉さんだ。見てよ、ルシェヌさんったらエナジードリンクを飲んだだけで火を吹けるのよ」

「やっぱすげーよなルシェヌって、こんなにもマジシャンの才能あるなんて!」


「へへん、どんなもんなのじゃ!」

 エナジードリンクを飲み切り、堂々胸を張るルシェヌ。

 その側にサバキはやってきて、彼女を自販機の裏へと引きずり込む。


 そしてサバキはひそひそ声で説教する。

「貴様、母さんに言われていなかったか!? 自分たちが異世界にいたことがバレるような真似はするなと!」


「これはただのマジックなのじゃ、エナジードリンクに火魔法をちょぴーっとそそいで、それを吹いて火を吹いてるみたいに見せるっていう」


 サバキは即座に叱る。

「魔法をタネに使うな!」


「えー、でも魔法が使えないとアタシの人気ガタ落ちなのじゃ、折角校内で『マジシャン・ルシェヌ』の異名でこの校内で食っていけてるというのに……」


「……色々突っ込みたいことはあるが、自分たちにも『時間』があるから、これだけ言っておく。火は危ないからやめろ!」


「わかったのじゃ。じゃあ今度は炭酸水から雷を出すマジックをするのじゃ」


「……ちっ、覚えておけよ」


 そしてサバキとユノスは、ルシェヌのマジック会場から離れる。


「ルシェヌは目立ちたがり屋だからね。そしてとことん常識外れだからね」


「プライドと母親の愛情で生きているような人間だからな。ったく、くだらないことするもんだ……」



 次の休み時間。二人は再び校内を監視していた。


「あ、またアザレアから連絡が来た」


「また来るか。やはり生徒会の監視網から逃れていた事件はかなりあるようだ。して、内容は」


「サッカー部部室で、女子に男子たちが卑猥な話をしてるって」


「俗に言うセクハラだな。よし、現場に急行するぞ!」


 二人は一息つく間も無く、サッカー部部室に立ち入る。


 そこでは一人の女子サッカー部員が、男子サッカー部の二人の先輩に挟まれ、ベンチに座っていた。


「うっそ、マジナちゃんもう経験済みなのかよ!?」


「そうだよ、もうだーいぶ前にシちゃった」


「だいぶ前って、どんぐらい前、どんなシチュエーションで?」


「それはカゲキすぎるから言えないなぁ」


「じゃあさ、経験人数とかは?」


「経験人数……えー、これも言えないなあ。ちょっと事案が多すぎてさぁ」


「うっわー、聞いたかお前。マジナちゃんスゲープレイガールっぽいぞ」


「マジかよおい。こりゃ事案だろ……ところで相場は?」


「相場ぁ? ああ、そういう意味ねー、えーちょっと待って……今暗算する……」


 マジナがよからぬ相場を暗算する間、サバキは先輩二人に鉄拳を入れて気絶させる。


 そしてマジナに一言。


「貴様は校内でどういう話をしているんだ!?」


 マジナはしらじらしい顔をして、

「え、高校生らしい春真っ盛りな青春トークだよ」


「確かに雰囲気それっぽい感じもしなくはないが、内容がモロにアウト過ぎだ! 特に相場の暗算とか、正気の沙汰じゃないぞ!」


 ついでに、ユノスは興味本位で尋ねる、

「ちなみにその心は?」


「四キュッパぐらいかな?」


「値段も正気の沙汰じゃないな! ……とにもかくにもマジナ殿! いくらお前にその気があるとはいえ、それを堂々と表に出すな、もう少し恥じらいを持て!」


「えー、今のは冗談だったのにぃ。しかも、私に清純派むっつり演じろって?」


「わかった、ド直球に言う。エロい話をするな! 以上! 帰るぞユノス」


「うん」


 マジナのやりたい放題具合に呆れたサバキとユノスは、結果暴力を受けた先輩二人を置き去りにして、サッカー部部室から出ていった。


「……ユノス殿、いやアザレア殿。さっきから思うのだが、もう少し正確な情報を届けられないのか? これまでの報告全てがどことなくニュアンスが違うぞ」


 ユノスはベレー帽内のアザレアとやりとりして、

「『すみませんサバキ様。所詮私は武闘派怪人という設定ですので、監視偵察諜報というみみっちいことは苦手な設定なのです』って言ってる」


「設定か。はぁ、まあいいや、どれも大なり小なり事件性はあったからな」


「ごめんね、サバキお姉ちゃん。ボクのアザレアがちょっと役に立たなくて」


「気にするなユノス。人には得意不得意の一つや二つあるからな……」

(それとごめんな。さっきからアザレア殿のおまけみたいな扱いしてあっちこっち引っ張って)



 昼休み――最も生徒がやりたい放題しがちな時間。


「また報告が来たよ」


「今度はどこだ?」


「『体育館裏でボヤ騒ぎ』だってよ」


「このご時世にそんな古典的な事件があるのか。とにもかくにも行くぞ……何となく、嫌な予感がするがな」


 口にした通り、サバキは嫌な予感を感じながら、ユノスと共に体育館裏へ行く。


「もっぺん言ってみろお前! 『騎人バスターアロウズは騎人バスターシリーズ一つまんない』ってよぉ!」


「嫌です言いません! 絶対言いません! 口が裂けてもいいません!」


 そこでサバキは思い切りうなだれた――コーリンが鬼の形相で男子生徒を追い詰めていたのだ。


「おいコーリン殿、貴様一体何してるんだ」


「何って、こいつ騎人バスター好きだって言ってて、おもしれー奴だと思ってここで弁当食ってたんだ。

 そん中でオレがイチ押ししてる騎人バスターアロウズの話したら、『あー、あのつまんない奴ねー』とかはっきり言いやがったんだよ!」


 サバキは男子生徒に問う。

「それは本当か?」


「本当だよな、な!? な!?」


 コーリンに脅迫された男子生徒は、赤裸々に答える。

「はい、言いました! あのつまんない奴って!

 けどだって本気でつまんないんですもんアロウズ!

 何か話のスケールが無駄にバカでかくて、やたらとアクションが派手なだけですもん!」


 その男子生徒の余計な一言に、コーリンはますますキレる。

「テメェ一発ぶん殴られたいか……!」


「ひぃっ! すいません! すいません!」


 一連の話を聞いて、二人は事件のまとめに入る。

「とりあえずそこの君は、いくら筋が通ってても人の好きな作品バカにするのは良くないことだよ。だからもっと誠意こめて謝った方がいいと思うよ」


「コーリン殿、仮に自分の好きな物をバカにされたからと言って、そこまで怒る理由はない。勿論貴様も謝れ」


 そしてコーリンと男子生徒は、

「「すみませんでした」」

 と、素直に頭を下げた。


「ったく、これからもあまり騒ぎを起こすんじゃないぞ。いいな」

 こうして話を総括したサバキは、ユノスと共に体育館裏を去っていった。


「ちっ、別に騒ぎってほどでもねーだろー!」



 二人は校内の食堂のテーブル一つを挟んで、今日の出来事を振り返っていた。


「やっぱり、事件って意外と身近で起きてるんだね」

 と、ユノスがしみじみ思う中、サバキはあることについて考える。


「……しかしどうして、どれもこれも満月家絡みの小さな事件なんだ?」


 ここでユノスのベレー帽から、アザレアが顔を出す。

「申し訳ございませんサバキ様。今回の事件の偏りには、私の意図がございました」


「意図?」


「はい、私はあの騒動(※第28〜32話参照)以来、マスターのことだけではなく満月家の皆様も気遣おうと思いまして、監視を満月家重点にさせていただいたのです」


「……助かるのだか、余計なお世話なのかわからん手助けだな」


「本当に申し訳ございません」


 この後、その満月家重点システムを解除した上で校内監視を行ったが、目ぼしい事件はまるで起こらず、やっぱり平和な日に終わった。


 その後、満月家にて。


「今朝の説教は何だったのじゃ! あの後場を丸くするのにどれだけ苦労したと思ったのじゃ!」

「おかげさまであの先輩、今日早退しちやったんだけど!」

「オレなんかあの後仲良く話そうとしたのに、何か気まずくなっちまったじゃねぇか!」

「そうだよそうだよ!」


 このように、二人はコーリン、マジナ、ピコリ、ルシェヌによる、八つ当たりに近い逆説教を食らう羽目になった。


「いや、しかし貴様らも貴様らで良くないことをしてただろうが」


「「「「それでもやり方とか言い方があるでしょうが!」」」」「なのじゃ!」


「わかった、その件に関しては本当にすまなかった……」


「ところでピコリお姉ちゃん。どうしてみんなに混ざってボクたちに怒ってるの? ボクたちお姉ちゃんに何かしたっけ?」


「あ、ウチは……少しでも出番増やしたいからです……はい、すいません」


【完】

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