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第54話 魔王に拾われたラバスト

 とある日の夕方。

 満月家の末っ子、ルシェヌは中身が詰まった買い物バックを両手に提げてスーパーを出た。


「この魔王ルシェヌだって買い物の一つや二つ出来ることを証明してやらねばな。さすればお母さんに褒められて、その後はぐへへ……いだっ」


 刹那、脇にあるガチャガチャコーナーから何かを側頭部に投げつけられる。


「せっかく300円も出したのにこいつかよ。こいつじゃないのが欲しかったし、こんなのフリマにだしても、トレ希望に出してもまともに集まらんし……」


 と、帰りの最中だろう男子中学生はブツブツいいながら、ガチャガチャコーナーを後にして、帰路に戻った。


「ちょいイタタ……誰じゃ、というより何じゃ、アタシに投げつけられたのは」

 ルシェヌが足元に目をやると、そこにはルシェヌの知らないキャラクターのラバーストラップが落ちていた。


「なるほど、よくわからんゴム切れを投げつけられたのだから、ちょいイタタになったのじゃな。

 しかしこれは一体何なのじゃ? アニメのグッズなのは確かそうじゃが……」


 サブカル関連の話題はピコリが強いだろうと思い、それを拾って持って帰り、当人へ見せつけた。


「あ、これあれじゃん。某アニメのキャラじゃん」


「某アニメ? 何それなのじゃ?」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。


 某アニメとは、作者が露骨に流行り物に乗っかろうとしようとしたがいまいち『タイトルのもじり』が思いつかず、結果、当作では某アニメ呼びし続けることになった、この時期に大ブレイクした某人気アニメである。


 余談だが、連載当時、作者はキッチリアニメ二十六話をアマプラで見終え、映画の前売り券を抑え天命座して待つ状態であった。


「ふうん、で。どうしてこのラバーストラップとやらはアタシに投げつけられたのかえ」


「ルシェヌに投げつけたというより、いらないから捨てたのがたまたまルシェヌに当たったのが正解だと思う」


「人気アニメのグッズだというのに? そやつは二重の意味で無礼な真似をしたのう」


「不人気キャラだからだよ、このキャラが。全種コンプしたいって人なら多分持っておくとは思うけど、人気キャラのだけ欲しいって人ならロクな扱い方しないんだ。最悪ルシェヌにこれ投げつけた人みたいに、道端にポイってするんだよ」


「ただいらないというだけで捨てられる……薄情な人間なのじゃな」


「うわ薄情とか、自称魔王がそれを言うとかちょっとウケる」


「ふ、ふん、魔王だからと言って何でもかんでも酷薄にするとは限らないのじゃ。例えばほら、お母さんのことをとっても大好……」


「あー、はいはい。そのアピールはもう十分わかってるからいいです。で、どうするのそのラバスト?」


「ラバスト?」


「ラバーストラップの略。それそのまま持ってくの?」


 ルシェヌはそれをじっと見つめて、何かしらの感情が湧き出たらしく、


「勿論、持っておくのじゃ」


 自分のスマホに付けるという気の入りようをピコリに見せつけた。


 その夜。ルシェヌはリビングのソファに腰掛け、そのストラップを見つめる。

「原作知らんし、誰だかわからんし、何でこんなの気に入ったんじゃろうか……」


 そこへ背後からコーリンが声をかける。

「よおルシェヌ、どうしたその野郎のキーホルダーは」


「捨てられてたから、拾って付けてるのじゃ」


「へぇ、捨てられた物拾ってか。母さん以外のことはどうでもよさげに考えてる奴がかぁ?」


「何と言うかじゃなぁ……あれか、既視感というか、共感というかじゃなぁ」


「ああ、そういやお前、社長がどうたらこうたらの話(※第30話参照)でキレてたな、『前の親みたいにアタシを捨てるな』って感じで」


「それもあるが、もう一つ、前いた世界で色々あってじゃなぁ」



 ルシェヌは度々自称している魔王の肩書は、一応真実である。

 彼女は、前いた異世界『ブレイヴァード』で魔王として君臨していた。

 彼女は幾多の悪魔や魔物を従え、世界中に厄災をばらまき、世界征服を試みた。


 その寸前で、ある障壁が立ちはだかる――王道たる勇者と、正当な血脈を持つ真の魔王だ。


 二人は正義の心を示し、人魔問わず頭数を集め、連合軍を結成、そして義勇を以てしてルシェヌの偽魔王軍勢を瞬く間に崩していく。


 ルシェヌは威勢を放ち、反乱軍に抵抗した。が、あちらに真の魔王がいることと、日頃のわがままな行いが災いして、何もせずとも味方が減っていってしまった。


 結局ルシェヌ一人で反乱軍に突撃し、見事負けてしまった。


 そして、命からがら落ち延びた所で彼女は気づいた。

 ――また捨てられた、と。


 その後悔と屈辱で大粒の涙を流しているところで、元の世界への帰還命令が出されたのだった。



「なるほど、それを思い出して。捨てられたもの同士、共感したっつーのか」


「なのじゃ」


「はーん、ますます珍しいな。お前が昔の間違い振り返るなんてな。お前、高校入ってから丸くなったんじゃないの?」


「丸く……そんなこと無いのじゃ! アタシは魔王ルシェヌなのじゃ! ああ今これを気に入った本当の理由を思い出したのじゃ! ただいらないからと言ってこれを投げた奴がムカつくからなのじゃ!」


「さっき哀愁醸し出して昔話してたのに、まーた子供っぽい話に戻すのか……つくづく素直じゃねえな」


「なのじゃ」


「そこはなのじゃ言うとこじゃないと思うぞ」



 翌日、ルシェヌはいつも通り学校に登校し、休み時間に盗み撮りした写真を見て、ニヤニヤしていた。


「おい、ルシェヌだっけ」

 と、そこへ、彼女にとって記憶のない声がかける。

 

 母親の写真に入り浸っていた最中での声がけだったため、ルシェヌはビックリして、


「何じゃあ!?」

 と、そちらを振り向く。その声の主は、どこの学校にも必ず一組はいるとっても過言ではない、悪意ある茶化しが大好きな男子三人組の一人だった。


「そのストラップ、あれじゃん。アニメの人気無い奴のじゃん」


「お前、広島弁みたいにじゃーじゃー言ってるとか、前から変わってる奴だと思ってたけど、まさかスマホにアニメのストラップ、それも不人気キャラのストラップつけるとか変わってるなぁ」


「もしかしてお前オタク趣味あるのか」


「「うっわ、きっしょー」」


(おたく……お家のことかえ? それって趣味なのかえ?)

 ルシェヌはオタクという言葉のニュアンスがよくわかっていない。

 けれども、何となく小馬鹿にされているのはわかったので、頬を膨らませて。


「悪いかえ、スマホにストラップつけて」


「いーやー、別にー、それは自由だと思うよー」

「ただキモいなー、って思っただけだから」

「米印、個人の感想でーす」


 これにルシェヌはほっぺたを膨らませてムッとする。

 故にお得意の魔法をぶっ放……してやりたい所だが、大好きな母さんから『異世界関係の事は他人に見せてはいけない』と言われているため、それに触れない程度の技を披露する。


「いやいや、そんなもの付いてないのじゃ」

 と、ルシェヌは、手でストラップを隠しながら、スマホを三人組に見せつける。


「隠してんじゃね―よ」

「手ぇどけろ、手を」

 三人組の一人はルシェヌの手をはねのける。するとストラップは、ルシェヌのスマホから離れていた。


 ルシェヌは三人組の真ん中を指さして、

「ところで、さっきからアタシがアニメのストラップ付けてることに何か悪口言ってたが、そういうお前らはどうなのかえ、え?」


「んなわけあるか。普通に手帳タイプのカバーだけ……?」

 彼のスマホには、いつの間にかルシェヌのストラップが付いていた。


「え、いつの間に、何これ!?」


(魔法はダメじゃが、マジックなら大丈夫じゃろ……仕掛けは魔法じゃが)

 ルシェヌはストラップを隠すと見せかけこれに魔法をかけ、男子のスマホの方に瞬間移動させたのだ。

 これは魔王たるルシェヌならば、お茶の子さいさいな魔法だ。


「あれれー、そっちもアニメのストラップ付けてるのじゃ? さっきアタシのことそれでイジってた分際で?」


 彼は自分のスマホについたストラップを指差し、

「い、いや……いじってねえよ! いじれねえよ! 何だよこれ、いつの間にワープしたんだよこ……」

 

 しかし、ストラップは再び空間移動し、ルシェヌのスマホに付いていた。


「いじれないのじゃな? じゃあこれでアタシは堂々とこれを付けさせてもらうぞい」

 と、ルシェヌは誇らしげな笑みを、男子三人組に見せつけた。



 放課後。

「いやぁ、今日は本当に疲れたぞい」

 

 ルシェヌは横並びで歩くコーリンに自慢話をする。


「ストラップを瞬間移動させたらな、『百式高校に美少女マジシャン現る!』って感じで、アタシの魔法みたさに人がぞろぞろ集まってきてな」


「魔法使ってるじゃねぇか。おい、大丈夫かよ」


「大丈夫大丈夫なのじゃ。みんなタダのマジックだと思いこんでるから。

 しかしこのストラップ、やはり拾って正解なのじゃ。アタシの名を広めるいい起爆剤になってくれたのじゃ」


「で、それは一体何の目的で拾ったんだ?」


「勿論、人気者になるためじゃー!」


「今日も素直じ……」


「うるせぇぞ、クソガキ!」


「誰がクソガキじゃとコーリン!?」


「言ってねーよクソガキなんて! 今のはオレじゃなくて、あっちだよ」


 コーリンはたまたま通りかかったスーパーの店頭にあるガチャガチャコーナーを指す。

 そこでは一人の不衛生な装いの男性が、幼い女の子の手を無理やり引いていた。


「年功序列って言葉知らねえのかよ! お前が持ってるそのいいもんはな、上の大人に渡すのが礼儀だろうが!」


「いやだ、これはあたしがあてたの! とらないで!」


「知るか、三百円如きでピーピーいうな!」


 男は女の子を蹴飛ばし、ガチャガチャコーナーを立ち去る。

 その手には、某アニメの人気キャラのラバーストラップが握られていた。


「あはは、やっと当てたぞ。これをフリマで売れば……ぐへへ」


「あたしがいっぱいおてつだいしてためたおこづかいが……うわーん! ひどいよー! えーん!」

 子供は思いっきり泣き叫んだ。だが勿論、男はそんなこと一切考えてないで、今後の利益について頭がいっぱいになっている。


「うわ、ひどいやつだな……えっと、おいルシェヌ、警察の電話番号って確か110番だったか?」


「コーリンよ、お前も丸くなったのじゃな。忘れたか? 今は放課後、場所は『校外』じゃぞ」


「あ、そうか。それなら……」

 コーリンは震撼剣を呼び出す札を手に取る。


「その前に、アタシが魔法を見せてやるのじゃ!」


 ルシェヌはゴニョゴニョと何か唱える。

 同時に男は全速力でスーパーの敷地を出ようとする。

 すると、男がルシェヌの前を通り過ぎようとした所で、


「今じゃ、『重き地のガバナンス』!」

「ぐはぁ!?」


 男はとてつもない重力に襲われ、四つん這いにされる。


「な、何だよこれ、体全部が、重い!?」


 コーリンは言う。

「子供相手に泥棒しやがって、ざまあみろってんだ。ルシェヌ、早く奴が奪った物を取り返すぞ!」


「任せるのじゃ。アタシの瞬間移動魔法を使ってアレを取り戻……」


「くっそ、こんなんしてたら面倒なのが来ちまう。なら、痕跡を消すだけだ!」


 男は地面に人気キャラのラバーストラップを排水溝の穴に投げつける。

 それは地面に激突するや否、加重力も味方してグチャグチャに破損して流れてしまった。


「ちっ、余計なことするんじゃねぇ!」

 コーリンは男の首に蹴りを入れ、気絶させた。しかしラバーストラップがグチャグチャになった後であり、もう取り返しはつかなかった。


 この後、一部始終を確認していたスーパーの店員が通報をしたことにより、男は連行され、コーリンとルシェヌは『お手柄』と褒められた。しかし……


「えーん、えーん、あたしの大切な……」

 ダメになったラバーストラップは、元には戻らない。


「……胸糞悪い話だな」

 男がパトカーに乗せられた後も、コーリンとルシェヌは、そこですすり泣く少女のことを、じっと見ていた。


「これってひょっとして、アタシが魔法を使ったからかえ?」


「捨てる神あれば拾う神あり、ってことわざ知ってるか? 今回のはたまたま運が悪かっただけだ。だからお前は気にするな。全部アイツが悪いってことにしておけ」


「つまりそれって、あの子は神様に捨てられたってことかえ?」


「まぁ、言い換えればそうかもしれないな……ってどこへ行く、ルシェヌ」


 ルシェヌは何となく、白々しい顔をして、女の子の方へ行き、

「これ、お姉さんので良ければあげるのじゃ」

 自分の不人気キャラのラバーストラップを渡し、その場を去った。


「さ、早く家に帰るのじゃ」


「お、おう」

 コーリンとルシェヌは家へ逃げるように速歩きする。


「……また、共感したのか?」


「違うのじゃ。アレはゴミ捨ての一種なのじゃ。不人気キャラのラバーストラップなんか貰った所で、あの子が喜ぶとは思えんじゃろ」


 家へ向かって歩いていく二人へ、女の子は叫んだ。


 それ故にルシェヌはちらと振り向いたが、距離が距離ためか、女の子の声が小さいためか、何を言ってるか全くわからなかった。


 ただ、その時の女の子の表情は、泣きっ面ではないことは確かだった。


【完】

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