第49話 満月家のなんてことない入学式
「お母さーん、ここいいんじゃない?」
「まあ、綺麗な桜ね。じゃあここで撮ろっか。」
見事なほど白くあるいはピンクに咲く桜に、お揃いの茶髪のポニーテールをした母娘が背を向ける。
桜をバックに記念撮影でもするのだろう。
ここはとある高校の門前の大通り、何年も何年も少年少女の行く末を見てきた桜たちが四季折々の姿を見せてくれる。
先程の母娘の他にも、この撮影スポットで足を止める親子連れがわんさかいた。
なんにせ、今日は入学式なのだから。
しかしこのにぎやかで清々しい空気が漂う道を、どことなく異様な雰囲気をした七人が歩いている。
「あの、そこの皆様……一体何者でしょうか?」
一番先頭に立つ、桃色髪の女性は言う。
「見ての通り、入学式に参加しに来た者です。ほら、後ろの六人ちゃんと制服着てますし……」
「あはは、凄い大家族ですね……丁寧に答えてくれてありがとうございます」
一度見張りの先生に止められた七人は再び歩く。
「やっぱり浮いちゃうよね、子供六人を同時に入学させる親なんて」
桃色の髪を持つ、彼女の名は『満月チヨ』、以後に紹介する娘たちの義理の母親である。
「双子とかだったらまだあり得るけどね。あ、だったらあの五つ子さんたちの入学式って、結構目立ってたのかも? こっちは六等分じゃなくて、六等倍の姉妹だけど」
「しっかし凄ぇ量の桜だな。隆元の兄貴がたまに自慢してた、吉野の真似した風景ってこんなんだったのか?」
金髪に長身で勝気な性格の満月姉妹の長女『満月コーリン』は言う。
「姉御、吉野ってあちらの世界の桜の名所のことだよね? いいよねぇ、ピンク色のアレコレがキラキラ並んだ所ってさぁ……」
赤い髪をした、爽やかな変態――満月姉妹の次女『満月マジナ』は言う。
「マジナ殿、貴様は一言一言に『含み』を入れないと気がすまないのか……あと、吉野はこちらの世界にも実際にあるぞ」
青髪の中身は堅物、外見は抜群な満月姉妹の三女『満月サバキ』は言う。
「この世界の学校は、門前からしてこんなにフローラルにかざるんだね。ボクこういうの好き」
緑色の髪をした不思議な雰囲気をかもしだす満月姉妹の五女『満月ユノス』は言う。
「綺麗なピンク色なのじゃな〜。けど、アタシはもーっと綺麗なピンク色の人を知っているのじゃがな〜」
紫髪の一際小柄な満月姉妹の末っ子『満月ルシェヌ』は、母親であるチヨをチラチラ見ながら言う。
「相変わらずだねルシェヌ……いや、みんなか、みんなまるでキャラ紹介みたいに味を出してる」
髪がオレンジ色であること以外は特記するまでもないし、紹介の順番を無視しても構わない程度の存在――満月姉妹の四女、『満月ピコリ』はメタ発言をする。
「こちらが保護者控で、あちらが新入生控になっていまーす」
案内の先生がメガホン片手に来訪者を誘導していた。
それを聞いて、コーリンはチヨへ、
「だってよ母さん。ここで一旦お別れだと」
「そうみたいね、コーリン。あ、じゃあその前にみんなで写真撮らない?」
サバキはチヨへ尋ねる。
「母さん。写真は先に校門前で撮ったはずでは?」
「サバキ姉さん。こういう記念写真は何枚でも撮りたくなるんだよ」
「そうか、なら軽率な発言をしてすまなかった。では写真を撮られるとするか」
「じゃあお母さん、スマホ貸して?」
と、ユノスはチヨにスマホを求めながら、頭のベレー帽から自分の相棒、電子生命体『アザレア』を出そうとする
「こらこらこら、待ってユノス。さっき校門前でも言ったよね。そういう『異世界じみた物は大っぴらに出さないで』って」
チヨとコーリン達六人姉妹には血の繋がりは無いが、六人姉妹には『父親の血のみ』繋がりがある。
六人は、チヨの夫の七股により生まれた子供である。
その出自故に周りからいじめを受け、現実に耐えかね失踪した……と思いきや、運命のいたずらで個々人、別々の異世界に行き、約十年そこで経験を重ね、異世界故の異能(※ピコリは除く)と尖りに尖った性格(※ピコリは除く)をひっさげ、帰ってきたのである。
「ごめんごめん。ボク、ついお仕事がしたくなっちゃった」
サバキはユノスに注意する。
「みんなにも言えるが、もし大衆の目に異能を見せれば大変なことになるから、本当に注意するんだぞ。自分が今光学迷彩で生えた犬耳と尻尾を隠しているようにな」
「はい。わかりました、サバキお姉ちゃん」
マジナは言う。
「さっさ、早く写真取ろうか。長ったるい前置きはそれくらいにして」
チヨは通りすがった人に、スマホを託し、その人に、鮮やかに咲く桜をバックにした、家族の集合写真を撮ってもらった。
ルシェヌは気合を入れ、目をうるうるさせて、
「お母さん……ここでお別れじゃな……」
「いや、数時間経ったら会えるから……」
「お母さん、お別れのキスは……」
「ダメ。ここでしたら滅茶苦茶目立つから」
「じゃあ後でしてくれるのかえ?」
「あ、そう来たか……わかった、前向きに考えとく」
「やったなのじゃ! じゃあ後でするのじゃ、絶対約束なのじゃ!」
ルシェヌ――満月姉妹は、生徒控へと歩く。
チヨは、その背中を長く見守った後、保護者控室に行く。
その中でチヨは、深くうなだれる。
約十年前のように、娘たちがいじめられないか。浮いた存在にならないか。などなど、不安が募っていく。
数分後、チヨは不安でいっぱいになりながら、入学式の観覧席についた。
しかし、間もなく、その不安は弾け飛んだ。
――にこやかに、胸を張って娘六人が入場してきた場面を見て。
(何考えてたんだろうあたし、あそこにいるのは、弱い変わり者じゃない、各々異世界で強くなった変わり者なんだ。きっとこれから何が起きても、多分乗り越えてくれるはず……だから、心配事は野暮だよね)
この時、チヨの視界は、ひどくゆらゆら歪んでいた。
「あの方、涙もろくないですか……」
「それは失礼ですって」
「余程感慨深いんでしょうね、娘さんたちが高校に入学できたのが」
*
数時間後、校門前にて。
「お待たせー、お母さん」
「おかえりー、ピコリ」
最初のHRを終えた六人を、チヨはそこで迎えた。
異世界で怪盗業をしていたが故に、人一倍の観察力を持つマジナは言う。
「母さん。蛇口ひねったみたいにドビドビ泣いてたね」
「うん、ちょっと、皆が格好良く見えたから」
コーリンは首を傾げて、
「ただパイプ椅子に座って校長先生という奴の長話聞いてただけなんだけどな」
「それが母親として、格好良く見えたんだよ……」
ここでチヨは念のため、微かに残った不安を取り除くため、娘達に尋ねる。
「ところでみんな、他の人に何か変わったこと言われなかった?」
六人は揃って一言。
「「「「「「全然」」」」」」
「あ……そう」
コーリンは言う。
「強いてならオレとピコリが同じクラスになった事か?」
重ねてユノスが補足する、
「ボクたちの学年は五クラスあるんだ。して、コーリンお姉ちゃんとピコリお姉ちゃん以外はみんなバラバラのクラスになったよ」
「そう……強いて、他には?」
ピコリが答える。
「ないない、クラスメートとはちょっと目を合わせたぐらいで終わりだし。そもそも、フツー入学式でラノベみたいな急展開起きないから」
「へぇ、そうなんだ……」
安堵と困惑――それらが混ざった気持ちにチヨはなった。
「じゃあ、これからゆっくりアクション起こしていくんだね」
「さぁ? ぶっちゃけ高校で何すればいいのか今ん所わかんねぇし」
「私と波長とあれのレべルが合いそうな人がいるかどうかもわかんないしさ」
「ひとまずは周りに合わせていくだけだ」
「ウチは普通通りフツーにやらせていただきますんで」
「高校生としてのお仕事、頑張るよ」
「ねぇ早くお昼ごはん食べに行こうなのじゃ、お母さん。眺めのいいところで二人きりで!」
「……あたし、今安心すればいいのかな? 不安になればいいのかな?」
【完】




