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第39話 満月姉妹withゲーム 〜VRMMO・前編〜

「「「「「「……」」」」」」


 満月家の六人姉妹は、黙って見つめ合っていた――呆然としていた。


 理由は二つ。

 一、六人は揃ってさっきまでの格好とは違う、いかにも荒野の旅人のような格好をしているから。

 一、この前引っ越したばかりの新満月宅ではなく、西欧風の街中めいた、レンガだらけの噴水広場にいるからだ。


「……どうしたんだオレたち? あのヘルメットを被ったらいつの間にか、外国に飛んでねぇか?」


「いつの間にか服装も変わってるしさ、何? 私たちいつの間に拉致られたの?」


「やだ、とにかく怖いのじゃ! 早くお家に帰りたいのじゃ!」


「ほら、警戒無しで出どころ不明のヘルメットなんか被ったから……ウチは注意したのに……」


 多少落ち着いた六人は、現状に対する感想・愚痴を思い思いに述べる。


 その中で、ピコリは勘づく。


「あ、『LoveCraft』だよ、これ! まだサービス続いてたんだこれ……」


「ラブクラフト? タコ?」


「違うよユノス、確かにタコのアレと同音だけどさ……えー、ここで一つ解説を入れます!」


 『LoveCraft』とは、仮想空間に多数のプレイヤーが同時に入り込むVRMMOゲームである。


 ジャンルは、この手のゲームでは珍しい『ストラテジー・ゲーム』。

 プレイヤー一人が冒険者として強大な敵と戦うのではなく、プレイヤーが国王や将軍、兵士となり数万人規模の戦争を行うゲームである。


 このゲームの最たる特徴はレベルという概念がないこと。

 強くなりたければ、他のゲームのようなただ闇雲に雑魚と戦えば得られる経験ではなく、些細なミスで負けた戦などの本物の経験を積まなければならないというリアリティをかもしだしている。


 そのため、ゲームとしてのステータスは無いため、やり方次第で安価で買えるボロ剣で一国の主も殺せる可能性も無くはない、アメリカンドリーム的な要素も持っている。


 以上、筆者の前作『呉の評価が低すぎるーーNPC都督達のVRMMO東奔西走記ーー』より引用。


「なるほど、つまり自分たちは戦争ゲームの中に放り込まれたというわけか」


「ゲームの中だろうと知らんのじゃ! 今必要なのはここをどうやって出るか考えることじゃろうが!」


「あ、それは多分こういうゲームなら、ほい!」


 ピコリは念じ、他五人に見せびらかすようにメニューウィンドウ、そしてログアウトボタンを出す。


「これを押せばすぐ元に戻ると思うよ」


「おお、そうか、よし」


 コーリンはそのボタンに触れ脱出を試みる。

 しかし、コーリンの指はボタンをすり抜ける。


「これウチのメニューだから、ウチ以外は操作できないの。コーリン姉さんのボタンは、自分で念じて出して」


「ん? 何故にそうなるんだ?」


「……細かいことは気にしないで、説明面倒くさいか……あべしっ!?」


 ここで、ピコリのすぐ側を馬車が通る。

 それに積まれた荷物の角がピコリの頭にぶつかる。


「おらおらお姉ちゃんたち、ボーッと道に立ってるんじゃねぇぞー」

 と、馬車の主は半分親切半分罵倒して、遠ざかる。


「いたたー、このヤロー!」


「落ち着いてピコリお姉ちゃん。攻撃的な態度をとると、事態が面倒くさくなるよ」


 ピコリは角が当たった箇所をさすり、一秒でも痛みをかき消そうとする。

 その様を見て、サバキは疑問を持つ。

「いたたー、か。このゲーム痛覚もあるのか?」


「そういや言われてみりゃ、肌寒い感じもするな。マジで異世界に飛んだみてぇだ」


「うう、本当にここから帰れるのか心配でたまらないのじゃ……帰りたい……みんな、早く帰ろうなのじゃ……」

 と、ルシェヌは弱音を吐く。

 しかし、他五人は仮想現実の未知魅力に関心しているため、まるで聞いてもらえなかった。


「人の流れがリアルだね。ピコリお姉ちゃん、これみんなプレイヤーなの?」


「いや、このゲームには操作している人がいる『プレイヤー(PC)』と、ゲーム内のAIによって自動操縦されてる『ノンプレイヤー(NPC)』がいるんだ。

 辺りの人をじーっと見てみて、するとPCかNPCかわかるから」


 ユノスは早速凝視する。と、手前にいるマジナとルシェヌの頭上にPCと表示されるのに対し、遠くにいる民衆はNPCと表示されている。


「ちょっと、そこのオレンジ髪のお姉ちゃん、どいてー」


「はい、わかりまー……あじゃぱあーッ!?」


 ピコリは通りすがりの馬車に積まれた物干し竿に頭をぶつけ、再び悲鳴を上げる。


「ごめんごめん、けど急いでるんでー、謝るだけで勘弁してくださーい」


「はいはい、結構ですとも……何この街、やたら馬車通り多くないこれ!?」


 マジナはそれに共感する。

「確かに。やたらと人の出入り――どっちかと言うと出?――が不思議と多いねぇ。

 時間帯は、夕暮れ間近かな? こんな時間に遠出も不思議だ」


 その時既に、コーリンは持ち前の積極性で近くの住民を捕まえ、この解答を尋ねていた。


「この街、というよりこの国、もう直戦争するんだってよ」


「だから戦火を浴びぬよう、避難者が続出している……という訳か、コーリン殿」


「そうだ。となるとこの国の王様はさぞかし信頼されてねぇんだな。

 オレの前の世界の父親は昔、何万の軍が来るって時に『城に女子供かき集め、たて籠ろう』って言っても、誰一人反発されず、そのとおりにして無事民を守りきったって自慢してたのによ」


「どこかに有能な主君がいるなら、どこかには無能な主君もいるんだよ。だって人間だもの」

 と、ユノスは詩的につぶやいた。


「……もうVRは十分楽しんだじゃろ? 早く帰ろうなのじゃ、戦争云々もアタシ達には関係ないじ……」


「ぎゃあー、助けてー!」


「何だいピコリ、今度はとうとう車に轢かれたのかい?」


「え、ウチ何も言ってない! あっちだよー、今度の悲鳴は!」


 ピコリは、商店街の方を指差して言った。


「尋常ならぬ悲鳴……これは犯罪の臭いがする!」

 サバキは躊躇なくそちらに向かった。


「熱血警官怖いね―。姉御は、どうする?」


「突っ立って景観眺めてる程度でこのゲームを終わらせるのはちと味気ないからな……うっし、お前らも行くぞ!」


「いーや、アタシはログアウト……」


「ダメ、行こ」


 コーリンたちは五人はサバキの後を追う。


「離せユノス! さもなくば魔法を浴びせるのじゃ! いや、今に浴びせるのじゃー!」


「うるさい、黙って」


 厳密に言うと、ルシェヌはユノスに手を引かれ、不本意に行っている。


 *

 

 サバキは事件現場――道角にある普通の商店に飛び込む。


「断退警察だ! これ以上野蛮な行為はさせない!」


「ちっ、邪魔かよおい……」


 三人の盗賊は、その視線を、柱に縛り付けた店員から、サバキに移す。


「ダンタイケイサツ――新手の衛兵隊か?」

「ビビるなよお前、よくみろ、アイツ一人で丸腰じゃねえか! 兄貴、人質は何人でもあって損はないかと思うぜ!」

「うっし、お前ら、やるぞ!」


 盗賊たちは自前のナイフを手に、サバキへ襲いかかる。


「丸腰……欺瞞にもほどがあるぞっ!」


 サバキは両手を突き出し、盗賊らにルマを放射……できない。


(あっ、装備が無い……!?)


 ここはゲーム内。現実の持ち物がそのまま持ち込めるわけがない。

 故に盗賊達の『丸腰呼ばわり』は、至極真っ当であっま。


「お前ら、待て! こいつ、真っ直ぐな目ぇして構えてやがる! 何か策がある!」

「な、何だよその構えは……魔法か、さては魔法を打つ気なのか!?」

「お前どんだけビビリなんだよ! 兄貴、きっと脅しですよ!」

「いいから待て! 失敗したくないんだよ俺はよ!」


 しかし、この盗賊たちは、とりわけ観察眼が優れているわけではなかった。

 なので、サバキの『ルマを発射できない故の硬直』を、怪訝に思い、こちらも硬直してしまった。


「よし、追いついたぞ!」

「縛られた店員、ガラの悪い野郎三人……強盗だね、これ!」


 遅れてコーリン達五人も合流し、店にて六対三の激闘が勃発。

 とはいえども、今の満月家は異世界由来の異能を何一つ持っていないので、終始地味な絵面の殴り合いだったが。



 数分後。


「い、いたた……」

「ほら兄貴、最初っからスリはやめようって言ったでしょうが……」

「るせー、んなこたわかってら……ぐすん」


 六人は人数の利で盗賊をボコボコにし、事件を解決した。


「大丈夫ですか、店員さん。どこかお怪我は……」

 と、ピコリは店員を気遣いつつ、彼を縛り付けた縄を解いてやる。


「特に何も。というより、あなた方……」


 ピコリは、わかりやすいドヤ顔をして、

「いえ、名乗るほどの者ではございません」


「いえ、そういうことではなく……あっ、早速後ろに」


「えっ?」


 ピコリは振り向くと、この国の兵士と思しき人間十数名が、コーリン達と向き合っていた。


「丁度良かった、こやつらがこの店に強盗をしかけていたのだ、署へ送り適切な処理をもと……」


 その兵士達の先頭に立つ、装備が多少豪華な男は告げる。

「ドヴァチリン国法第三十七条『公に許可を得ていない私闘、及び私刑を一切禁ず』により、同時に君達も容疑者として連行する」


「は? 何でだよおい! オレ達は盗賊からこの店を守ってやっただけなのに!?」


「言い訳無用! 皆の衆、捕縛を!」


「……お気の毒です。皆様……」

 と、店員がつぶやいた直後に、六人は兵士達に取り押さえられ、馬車に乗せられ連行される。


「厳しい法だな、この国は」


「何感心してるのじゃサバキ! ああ、だからアタシはさっさとログアウト……そうじゃ、今ログアウトして脱出するのじゃ!」


「ウチも同じこと考えたけど、どうやらエリアルールのせいでログアウトボタンが押せなくなってるっぽい」


「もうやなのじゃ! アタシ、牢屋は二度と御免なのじゃー!」


「まぁまぁ、様子見ようよ、ルシェヌ」


「肝の座りがエグいねぇ、ユノス」


 六人は警察署――とはとても思えない、どちらかと言うと、どこかの偉い人の邸宅に近い建物にて馬車から降ろされ、先ほどの隊長的な人に内部まで案内され、最終的に客間に案内される。


「とまぁ、この辺りで職務放棄としようか。さ、皆様どうぞ席に」


 そして隊長はそこで一気に表情を柔らかくして、六人を座らせた。


「やっぱり、警察には連れて行かれなかったね」


「ユノス、お前こうなるのはわかってたのか?」


「途中から蹄音が少なくなってたから、さっきの泥棒とは別の方角に進んでいるのがわかったの」


「先程は驚かせて申し訳ありません。私はストレイ・バレット、この国の将軍の一人です」


「ほう、将軍様直々にオレ達を捕縛したのか。なぁマジナ、オレ達そんなヒドイことしたか?」


 いや違う。と、マジナが言う前に、ストレイが言い、

「ここに皆様を連れ出したのには、ある特殊な理由のためです」


 という語り出しから、ストレイは六人に事情説明する。



 ここ、ドヴァチリン国は、数名の将軍が協力し政を敷き、各国との貿易ターミナルのような役割を持ち、ほどほどに稼いでいる小国である。


 そこに数日前、とある三人組が訪れ、不審者として捕らえられた。

 が、すぐに彼らは何名かの将軍の元、丁重に保護された。

 それは彼らが隣国の王が大切にしている宝を持ちながら、こう述べたからである。


「私たちはあの国で幾多の酷使に耐えました、しかしあの国は私達にロクな報酬を渡さないので、このまま過労死するぐらいなら。と、これを持ち逃げして来たのです。どうか、哀れな私達に同情して、お助けください」


 この結果は、隣国にも届き、王は激怒した。

 そして隣国の王は、宝と三人組の返還を求め、ニ万というドヴァチリンにとっては圧倒的な軍勢を引き連れ、無言の宣戦布告をしかけたのだ。


 無難に返せばいいだろう。この国にいる知恵者はだいたいそう思った。

 しかし、各将軍は個々人のプライドにかけて、そうした生ぬるい考えには落ち着かない。


 ある将軍は言った。

「二万の軍がなんだ! あの国は我々をその程度でガタガタぬかすと舐め腐っているんだ! ここは一発この機会にギャフンと言わせて、この国の強さを教えてやらねばいけない!」


 さる将軍は言った。

「仮に素直に返した所で、かの王の怒りは収まるとは到底思えない……この機に従属しましょうよ……」


 かの将軍は言った。

「せっかく宝と人質を得たんだ、それを用いて今後の外交を有利に動かしましょう!」


 一人の将軍は言った。

「これは大義名分を作る奸計に違いない! さっさとあの三人組を切り捨て、宝も質に入れてしまいましょう!」


 ……要するに、意見がまとまらなかった。


 結果、返事は遅れるわ、隣国の軍はもうまもなく来てしまうわ……この国は絶望的な状況に陥ってしまったのだ。


「その中で、俺は考えました。

 ひとまず交戦はする、そしてこちらの態度をある程度示しつつ、隣国の軍の頭を冷やさせ、交渉に持ち込む、と。

 しかしそれを他の将軍に言ってもまるで聞いて貰えない、ならば俺単独で実行すると決意しました。

 すると今度は個人で動かせる人材が足りなくなりました。

 そこで、あなた達を呼んだのです!」


「ほう、貴様、なかなか人を見る目が良いようじゃな。まぁ、魔王となれば凡愚でもこの威圧感は感じられ……」


「いえ、単純に人が足りな過ぎるので、何となく強そうだなーって人材がいたら、思ったらスカウトするっていう方針です」


「つれないのじゃ……」


 サバキは尋ねる。

「人手が足りない、と言ったな。なら具体的に、貴様は今の所何人動かせるのだ?」


「えっと……四千人かな?」


 これにピコリは目をパチクリさせた。

「四千人!? 二万を四千で相手するって……それは無理でしょ! キリン装備のコスプレして街出歩く並に無理でしょ!」


 だが、コーリンはまるで動じずに、こう返した。

「厳島ん時とほぼ同じぐらいだな。ならいけるぞ!」


「うそーん! コーリン姉さん正気!? ってか、まさかこれやるの!?

 あ、ストレイさん、勿論拒否権ありますよね!?」


「ええ、勿論……服装から見て恐らく皆様は初心者でしょうから、あまり強くは押しません。理由がなければ、どうぞ遠慮なく出てって構いません」


「だがやるぞ! オレは! なんせひっさびさに戦争が出来るってんだ……ロスイさんはようやく本当に面白いゲームをよこしてくれたもんだ! とことん遊んでくれるわ!」


「あ、その設定まだ残ってたんだ……で、でも皆はそう鵜呑みには」


「いよっ、流石姉御! じゃあ私もやろっかな、派手なドンパチも面白そうだしさ」


「自分も乗る……この状況は、やすやすと手を引くに惜しい」


「みんなも行くのなら、ボクも行くよ」


「そう考えれば、何となく面白くなってきたのじゃ。大軍をこの魔王ルシェヌの圧倒的な力を持ってして殲滅する……それは滑稽じゃな!」


 かくて満月姉妹の六人中五人は賛の色となり、

「あー、はいはい、そうですか。わかりました、ウチも微力ながらやります、はい」

 ついには賛成一色になった。


「という訳で、オレたちは、全員そちらの軍に加わる! 安心しろ、悪い結果は呼び込まない!」


「はっ、感謝します! ではでは早速、支度の方を……」


 かくて満月姉妹はゲームの中で、四千対二万の、一見無謀な戦に身を投じる事になった。


「ところでコーリン姉さん。自信満々にやるって言ったけど、ひょっとして何か凄い策とかでもあるの? ほら、厳島だか何だかの時やったのとか……」


「ねえよ。だいたいオレは軍略なんか考えねえよ! ははは!

 けどよ、相手は宝盗まれたぐらいで怒る野郎だ! どうせ数だけ立派な空っぽ軍隊に決まってる! 軍略なんか必要ねえ!」


「……フラグじゃないといいね」



「陛下、例の四人組との臨時契約を済ませておきました。後々この軍に合流します」


「うむ、ご苦労。えっと、彼女達は周……呂……陸……難しい漢字ばっかで読めない。まぁ、名前はどうでもいいか!

 とりあえず都督って称号ついてて強そうだからいっか!」


【完】

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