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第38話 満月姉妹withゲーム 〜死にゲー編〜

「えっと、これが最後の四本目か……おっ、これはアタリじゃん!」


 ピコリは『CHIZAKURA』のソフトパッケージを手に取り、目を丸くする。


「血液の血と、桜で『血桜(CHIZAKURA)』ってことか? 物騒なタイトルで殺伐とした匂いがするパッケージだな」


「悪趣味な野郎なのじゃ、ピコリ」


「まぁ、確かに殺伐といえば殺伐してるけどさ……このゲームは凄いんだよ。

 各所に練り込まれた圧倒的世界観と、多様なアクション性、歯ごたえのある難易度を以てして、あちこちのゲーム賞をゲットしてる、まさに歴史に残りうる名作だよ!」


「へぇ、そうなのかい。それはよかったね」


「えへへ、ネットのプレイ動画見ててずっとやりたいと思ってたんだー、よし、どっぷり遊ぶぞー!」


 とのような感じで、ピコリは胸躍らせ、ゲームをプレイし始める。


 茶番は、ここで終わった。


 ピコリは最序盤のチュートリアルはサクサクと進めた。

 だが、それが終わった途端、そのトントン拍子が止んでしまった。


「うわぁ!? えっ、こっちにもいた?」

 ある時は脇からの敵の乱入で殺され、


「うぎゃあ、また撃たれたー!」

 ある時は遠方から飛んできた矢で殺され、


「足場ぁー! 足場がぁー! 悪いーっ!」

 ある時は道を踏み外し奈落に落下する。


 と、いった具合でピコリは『歯ごたえのある難易度』に散々と牙をむかれ、最初のステージすらクリアできずにいた。


「もうやだー! マジで心が折れそうになるー!」


「そんなに難しいのかぁ? これ?」


「そうだよコーリン姉さん! これは俗に言う『死にゲー』って奴で、あからさまに死にがちになるの前提で作られてるんだよ!

 いや、まさかここまで殺されるとは思わなかった……動画だと皆サクサク攻略してたから……」


「ふーん、けどクリアできるってことは間違いないんだよな。うっし、ならオレがしてやろう」


「あ、どうぞ。ウチはしばらく休みます」


 ピコリはコーリンにコントローラーを押し付け、コーリンは最初のステージを遊び始める。

 まずコーリンは、序盤の村エリアを慎重に歩く。


「しっかし全体的に親近感のある雰囲気だな、ほぼほぼ安芸のそこら中にある村じゃねえか」


「そうそう、全体的に和風に仕上げてるんだよ、このゲーム」


「で、使うキャラは武士と……ふん、ならピコリ、期待しておけ、元の世界でオレは侍やってたからなぁ」


「あ、けどあのゴツい刀はゲームじゃ使えないからね。それと……」


「おっ、敵が来たぞ!」


 敵――名も無き足軽が槍を携え、コーリンに迫る。

 コーリンは刀を滅多振りすると、足軽は数ミリHPを残した所でそれをガード。

 スタミナが切れて動けなくなったコーリンに組みつき、一刺しして彼女をゲームオーバーさせた。


「ん? んん?」


「このゲームにはスタミナって概念があって、走るとか攻撃するとかの動作でそれを使うの。で、それがなくなると、さっきみたいなドデカイ隙ができちゃうんだよ」


「あれしか刀振ってないのに? 弱っちい武士だなぁ。てか、よく槍で刀防げたな? オレならアイツごとぶった斬りだぜ」


「それは、異世界にいたコーリン姉さんが異常っていうかなんていうか……」


「……あんま好きじゃねえなぁこのゲーム。ただただ主人公にがっかりする。次、やりたい奴はいないか?」


「なら私がやるよ」


 続いてマジナが挑戦する。彼女は先程コーリンを殺した足軽に対面し、


「つまるところ、きちんとあるだけのスタミナを管理して攻撃すればいいんでしょ? こう攻撃して、後ろに下がって、攻撃してを繰り返して……」


 と、言っているうちに兵士は倒れた。


「どうだいピコリ、初めてにしてはやるでしょ私?」


「いや、流石にウチでもここは捌けてたし……これで自慢されるのはちょっと」


「わかった、じゃあ私、ガツンガツン奥までいっちゃおっかなー」


 次に現れた難所は、狭い路地の二人の兵士――片方は刀を持っている以外、先程の足軽と変わらない、もう片方は小屋の上に立ち、弓を構えている――のいるエリアだ。


「おっ、いやらしそうな場面だ。ピコリはさっきこれをどう切り抜けた?」


「全速力ダッシュで先に進んでった。けど弓の奴のホーミング性能がいいのと、剣士の執着っぷりが凄まじいから、多分正攻法じゃない」


 ここでユノスが尋ねる。

「こちらにも遠距離武器はないの?」


「もうちょっと先に進んだ所にあるんだよね、本当意地汚い」

 

 続けてサバキが尋ねる。

「なら迂回路はないのか?」


「それもないよ。やっぱみんな、全速力ダッシュが多かったね」


「あ、行けた」


 そしてマジナは、ピコリが質問に答えている合間に、剣士を倒し、高台の弓兵からダッシュで離れた。


「うわっ、凄っ!? よく出来たねそれ!」


「この弓兵、真下辺りに矢を撃てないらしいから、高台の付近で剣士と戦えば、いないも同然って思いついたのさ」


「なるほど、けどこれも正攻法とはとても思えない……」


「やだなぁ? 結果出せばいいんだよ結果だせば。クソ真面目にやってどうにもならないんなら特にね? これこそ、悪って奴」


 難関を破り、上機嫌になったマジナは先に進む。

 そして大きな桜がど真ん中に生えた広場にて、兵四人が一斉に襲いかかり、四方八方から攻撃を受け、あえなくやられた。


「このゲーム作った人はサディストかな? そういうことされると非常に萎えるんだけど」


「どうしたマジナ殿、怪盗はこういう事態には対応できんのか?」


「これは唐突かつ理不尽だし大目に見てもらえないかなー? あと私5Pはやったこと無いんだよ。で、そんなに言うんだったらサバキもやってみたら?」


「いいとも」


 サバキはコントローラーを手に取り、あの四人の兵に立ち向かう。


「なんたら警察のサバキぃ、きっちりと清く正しく誇らしい戦い方してね」


「おう、わかった」


 そう了承したサバキは、まず四人を自分に引き寄せ木の側へ、次に兵たちを正面に木の周囲を後ずさりで回り、時折わずかな隙を見つけて刀を振る。それをまるで工場機械のように、延々と続ける。


「すごい地味なやり方だねぇ、サバキ」


「何か小学生の鬼ごっこでよく見る奴っぽい。理にはかなってるけど」


「悪かったな……」


 マジナやピコリに小馬鹿にされながらも、サバキはその作業を続ける。


「ボク暇になってきちゃった。上行って漫画描いてていい?」

「早く終わらせるのじゃ! もう眠たくてしょうがないのじゃ!」


「気が散るから少し黙っててくれ! 今二人倒したから……あと三分程で終わらせる!」


 四分後、サバキはついに四人の兵を倒しきった。


「サバキお姉ちゃん、もう少し効率的に出来ないの? この時間無駄だと思ってないの?」


「す、すまない……だが、以降は気をつける」


 サバキは少々傷つきつつも、次のエリアへ名誉挽回のために走る。

 そしてわかりやすく橋の脆い部分――メタ的に言うと落とし穴を踏んでしまい、落下する。


 ユノスは虫が鳴いたぐらいの音量で、ため息をついて、

「以降も気をつけてよね、お姉ちゃん」


「わかってる。わかってる」


 コンティニューしたサバキは、今度は無事橋を渡り切り、そこそこ広い、何一つ障害物のない壁に囲まれたエリアにたどり着く。

 そしてそこに、今までいた足軽より一回り大きい、大太刀をかついだ侍が待ち構えていた。


「うわぁ、ついに来たねボスが……」


「……ピコリ、そう言えば今思ったんだが、貴様は動画を見てたんだろう、なら何故、後半になってから攻略法を教えなかった」


「え、みんなにも初見の気持ちでやって欲しかったから……あはは」


(実はうたた寝しちゃいながら動画サイト観てたら、たまたまその動画に飛んでて、結果観た感じだったから、あんま深く覚えてないなんて今更とても言えない……)


「ぐわっ、何様だこいつ……攻撃範囲が広い!」


 コーリンは武士としての視点で見て、

「それに動きも早いぞ、とても大太刀を振り回してるとは思えんな……」


「ものすごいインチキ……このゲーム、とことん人様を殺すのに長けているのじゃな……」


 などなど、みんな揃いに揃ってボスの強さに驚愕した後、サバキはゲームオーバーした。


「お、おのれ……凄まじく手強い。ユノス殿、一度貴様がやってくれ、自分は敵の情報の整理がしたい」


「うん、わかった」


 わずか一分後。


「あーあ……」

 ユノスもボスの強さに翻弄され、あえなくゲームオーバーした。


「ならば今度はアタシの番じゃな! この魔王ルシェヌのセンスを骨髄に染み入るまで教えてやるのじゃ!」


 二十秒後。

「えっ、ちょっ、まっ、ああっ! こんな! 道半ば! で! やられ! るなんて! 酷い! の! じゃあ……」

 ルシェヌはボスのHPを約五パーセント削ったところで、連撃を受け倒れてしまった。


 それから、満月姉妹の五人は、死にゲーに抗った。しかしその猛烈さは彼女たちへとことんゲームオーバーという結果を押し付けまくる。


「ダメだ、自分は十全に観察したつもりだったが……まさかHPが三割になったところで攻撃方法が増えるとは……次は、誰がやる」


「もうオレはいい……いい加減飽きてきた」


「ボクも、十分楽しませてもらったから。後味悪いけど」


「こんなの無理なのじゃ! このゲームは意地悪なのじゃ!」


 そして五人はこのゲームを拒絶し始めるのだった。そう、五人は……

「ピコリ、そろそろ貴様もやらないか」


「え、ウチ!? いやー、ウチはー、遠慮してお……」


 ユノスは言う。

「このゲーム、海外の賞をいっぱい取ったすごいゲームなんだよね? ピコリお姉ちゃん」


「うん、だけど……」


「ピコリお姉ちゃん、さっきウキウキしてやりたいって言ってたよね?」


「は、はい……」


「じゃあ、何でやらないの? 自分で広げた風呂敷を自分で畳まなくていいの?」


「……わかりました」


 ユノスに屈服させられたピコリは、触れたくもないコントローラーを手に取り、望まないコンティニューをし、戦いたくもないボスと戦う。


「真面目にやれよ、ピコリ。割と不真面目なオレでも真面目にやったんだから」


「あー、はいはい! わざとやられに行くとか絶対にしませんから!」

(嫌だなぁこのボス、もう怖いったらありゃしないよ……)


 前の画面にも、後の姉妹にも恐れおののいたピコリは、とことん臆病になり、チマチマとボスに切りかかり、一応戦っている体にはする。

 だがこのヒットアンドアウェイ戦法は、元々そのような調整だったのだろうか、このボスにとっては非常に有効打であった。


「すげぇ! あのビビリのピコリがここまでやれるとは!?」


「おっ、君らしくなくていいよピコリ! 受けたダメージも凄い少ないしね」


「でかしたピコリ! 今日の貴様はいつもの臆病と違うぞ! このまま勇気を振り絞れ!」


「弱虫にここまで出来るとは心底ムカつくが……まぁよい。いくのじゃピコリ! アタシ達の仇を取るのじゃー!」


「ホラーなぐらい応援されてる気がしない……けど、よぉし!」


 数分後、とうとうその時が来た――死闘の末、ピコリがボスを打倒したのだ。


「……うう、はぁー……やっとステージクリアしたー……よっしゃあ!」

 これにピコリは、さっきまでの怯えっぷりをどこかへやり、盛大に喜んだ。


「おめでとう、ピコリ。見事な奮闘っぷりだったぞ」


「あ、ありがとう、サバキ姉さん!」


 ピコリは感極まりつつ、サバキに、いや、自分を見守ってくれた姉妹たちに礼をした。その目からは薄っすらと熱いものがこみ上げてきている。

 ここで、ユノスは真顔でピコリに伝える。


「まだだよ、ピコリお姉ちゃん」


 ユノスは指差す、その先にあったのは、かのボス部屋に突如現れた道であった。

 それを目の当たりにするや否、ピコリはセーブをし、ソフトを本体から抜き、パッケージにしまった。

 それら一連の動作は、無駄無く、無言で、無表情で行われた。


「とことんやりたくなくなってんな、ピコリ」


「次何する、みんな?」


「何をするといっても、もう四本あるゲームは全部やったよね? ピコリ」


「もうゲームは散々遊んだから、これ以上はいいのじゃ」


「オレもそんな感じかなぁ……んじゃ、今日はもうお開きにして、個々の自由時間にしな……」


「あ、まだゲームあったよ」


 と、ユノスは、バイクのヘルメットのようなゲーム機六つを指して言う。


「何だこの被りもん? てか最初にこんなもんあったか?」


「これは……今流行のVRとやらではあるまいか?」


「VR? 何なのじゃそれ。教えよサバキ」


「そうだな、ルシェヌにわかりやすく伝えと……これを被ると周りの景色が空中になったり、大昔になったような映像が見られるんだ」


「あ、それか。そういうのウチも効いた事ある。けどBC5VRってこんな形じゃないような」


「ほう、それは面白そうじゃな……よし!」

 後先考えず、ルシェヌはそれを被る。


「いや、待ってルシェヌ、さっきコーリン姉さんが行った通りそれ急に現れたから、すっごく怪しい」


「ま、いいか。とりあえずオレも」


「姉御が行くんなら、私も」


「じゃあボクも」


 コーリン、マジナ、ユノスもそれに続いて被る。


「もう、多少は怖がってよみんな!」


「仕方あるまい。皆が無鉄砲なのは今更始まったことでもないだろうピコリ。で、自分たちはどうする?」


「……じゃあ、ウチらも被りますか。同調圧力って奴で」


 とうとうサバキとピコリも出自不明のヘルメットを被る。かくて六人は揃って……


『VRMMOストラテジー・ゲーム「LoveCraft」へようこそ』


【完】

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