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第34話 満月家の幕間

「ここが新しいあたしたちの家だよ」


 チヨは自分のワゴン車から降り、六人の娘と一緒に新しい我が家を見上げる。

 そこそこ高級な住宅街に佇む、車庫付き二階建ての一軒家――中堅企業の子会社の社長と、六人の娘を持つ者にしては、ほどよく豪華で、ほどよく謙虚である。


 コーリンはその家の高さを見て歓喜する。

「うわぁ、二階があるぞ二階が!」


 満月家七人は家へ入ってみる。

 マジナはまだ家具がなく、壁、床、天井全てが輝いているかのような広々としたリビングでクルクル回る。

「リビングもこんなに広い、すごいねぇ」


 コーリンは階段の一から三段目を何度も上り下りして、

「階段あるとか異常過ぎだろ!」


 サバキはリビング、階段、洗面所・風呂、トイレ……などなど、この家の動線となる廊下を見て感心する。

「廊下も中々に広いぞ、これはこんがらがらずに済む」


 コーリンはようやく階段を上り切り、二階の部屋を覗いてはしゃぐ。

「うわっ、二階だ! 二階にも部屋があるぞ!」


 ピコリとユノス一階にある、ここも小部屋として使えそうなくらいの広さの倉庫を見て驚く。

「ヤバっ、そもそもどの部屋も広っ」


「だね。掃除機十台ぐらい入りそう」


 コーリンは二階にある一室で丸太のようにコロコロして、

「部屋だ! 二階がでかい部屋になってやがる! ははっ、やべー、城みたいだ!」


 それをルシェヌは、魔王としてでなく一人の人間として、哀れみと蔑みの気持ちを込めた目で見る。

「コーリン、貴様二階を褒めちぎりすぎなのじゃ」


「はいはい、一旦リビングに集合して……」

 と、チヨは、一軒家に興奮する六人をリビングに召集して、今後についての話をする。


「もうそろそろ引っ越し業者が来るから、きちんと手伝ってね」


「「「「「「はい」」」」」」


「それと、部屋の振り分けだけど、上の階のおっきい部屋はまた六人全員の部屋ってことで」


 これにピコリは驚く。

「えー、またー!? 一軒家って聞いたからついに個室、最低でも一部屋三人と思ったのにー」


「ごめんごめん。けど前の部屋よりもうんと広いから……今まで通り、仲良くやって、ね?」


「そうだぞ、ピコリ。別にオレたちのこと嫌いでもねぇんだろ? な?」


「昨日も私たちの側でぐっすりベッドで寝てたじゃないか? 何を今更警戒しているんだい?」


 そういうことじゃないから……と、ピコリは前歯ぐらいまで出かかった。

 しかし、引っ越したてのめでたい日に後ろ向きなことを言えば、自分が空気の読めない奴になってしまうので、

「は……はい」

 しぶしぶ妥協した。


「で、今日の夜はどうする姉御? 脱ぐ、脱がない?」


「うーん、引っ越し早々の部屋でそんなどっぷりする必要はねぇから……」


「まずその発想をどうにかしろ、コーリン殿、マジナ殿」


 チヨはうんうんとうなずいた。

 

 まもなく、引っ越し業者が到着し、家具の運び出しが行われた。


 ルシェヌはいいところを見せようと、自分の背丈以上に長い、板状段ボール箱を担ぐ。

「うー……お、重……何じゃこれは……


 その中身は、六姉妹が寝る時使う三段ベットのパーツである、金属パイプの束だ。


 この重さにルシェヌは、自分が負けそうになる。

 本当は魔法でどうにかできるが、一般の業者が見てる前では魔法は使えないので、これは最終手段。

 なのでルシェヌは救援を求む。

「おいユノス! 手伝うのじゃ!」


 ユノスは二つ返事で了承し、

「「せーのっ!」」


 二人で段ボールを持ち上げるが、まだ前に進めず、両者ブルブルする。

「あー、まだ重い、一旦降ろす! ……おいユノス、お前きちんと持っているのかえ!?」


「持ってたよ。けどごめんね、ボクそんなに力ないから……」


「力がないじゃと……ふざけるなのじゃ! こういう時は気合をだすのじゃ! 気合を!」


「二人とも、ちょっとどけてもらうぞ。母さん、この段ボールは自分達の部屋でいいか?」


「うん、そこでお願い」


 サバキは、さっきルシェヌが運ぼうとしていた段ボール箱を軽々担ぎ上げ――腕のナノマシンで、業者さんに怪しまれない程度に腕力強化している――、それを目的地へ運ぶ。


「こらー、サバキ! アタシの仕事を奪うのでないのじゃ! せっかくお母さんにいいとこ見せてやろうと思ったのにー!」


 布団を運ぶサバキの背中を、ルシェヌはぽかぽかと殴る。

 しかしサバキは気にも留めず、反射的に尻尾――光学迷彩で周りには見えない――でルシェヌをくすぐり、結果あしらった。


「とても、にぎやかなご家庭ですね……」

 と、その様子を見ていた一人の作業員は、苦笑しつつもチヨに言った。


「ははは、そうですね、ははは……」


 そして、作業すること数時間、ついに引っ越しは完了した。


「よーし、終わったー! 今の時間は……丁度ご飯の時間か。よし」


 チヨは再びみんなを召集して、揃って近所の散策をするがてら、どこかへ昼食を食べに行く。


「おっ、わりと駅チカじゃん」

 初めは最寄り駅、


「買い物もすぐ行けて困らねぇな」

 続いて商店街、


「高校もこんなに近いのか。意外だな」

 そして入学予定の高校の側を横切り、


「それじゃあ、何となくであそこのもんじゃ屋さんにしよっか」

 終いに、ありふれた雰囲気のもんじゃ屋に入り、にぎやかに昼食を楽しみ、家に帰ってきた。


「どうみんな? いい所に引っ越したと思わない?」


「なのじゃ! お母さんとのデート先もきっちりとあるし、最高なのじゃ!」


「ルシェヌ。相変わらずそればっかなのかい?」


「しらけること言うでないのじゃ。マジナ、かくいう貴様はどこに言ってもエロいことしか考えてないくせに」


「まぁ、否定はしないかな? だってさ……いや、言わなくてもいいかな?」


「思わせぶりだな、マジナ殿。自分からして、あまりそういう隠蔽は好きではないぞ」


 とっちらかりそうな場を強引に片付けるため、チヨはこう締める。


「とにかく、今後はこの家で、家族七人で、元気に、仲良く頑張りましょう!」


「だな、母さんも、社長のお努め頑張れよ!」

「そうだね。私も、これからも、極力穏便でありたいね」

「了解、母さん」

「はい、ウチも心機一転しつつ、どうにかこうにか生き抜きまーす!」

「言われなくてもボク頑張るよ、家族のお仕事」

「なのじゃ!」


(確かに家とか、職業とかはガラッと変わった。けど皆は、仲睦まじい皆のまま、しかもあんな事あったっていうのにね……ほんと家族って、面白い)

 と、チヨは、娘六人の様子を見て、しみじみと思った。


 それから、数時間後。

 コーリンは録画溜めしていた騎人バスターを視聴する。

 マジナはチヨから借りた小説をコーヒーをお供にして読む。

 サバキはコンビニで買ってきたパズル本に勤しむ。

 ピコリはタブレットで気ままに音楽鑑賞する。

 ユノスは仕事が無いので漫画を描く。

 ルシェヌは疲れた&お腹いっぱいになったので部屋でお昼寝する。


 つまるところ、六人は揃って、引っ越す前とまるで変わらない余暇を過ごしていた。

 

「みんな、ここまで変わらないんだ……はぁ、いや、ここ期待するとこじゃないか」


 というわけで、今後も本作は、平常運転でやらせていただきます。


【完】

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