表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/152

第26話 怪盗警察、穏便に

「コーリン、ユノス。買い物に行くわよ」


「おう」

「はい」


 チヨの呼ぶ声に応えて、コーリンとユノスとルシェヌは、彼女の元に集まる


「って、ルシェヌ……あなたは呼んでないわよ」


「けどいくのじゃ! 大丈夫、邪魔にはならないのじゃ!」


「はぁ、あんまりワチャワチャして動くの良くないんだけど……サバキ、留守番頼むね!」


「了解」

 サバキは勉強をしつつ、そう返し、横目でチヨたちを見送る。


「サバキ、ウチ出かけるから」


「またカフェで勉強か?」


「そうそう、んじゃね〜」


 おまけにピコリもいなくなる。かくしてサバキは一人ぼっちになる。


「サバキぃ、今私のこと忘れて、しんみり孤独に浸ってたりはしないかい?」


「そうか、貴様がいたか、マジナ殿」


 この時のサバキの面持ちは、あまり良いものではなかった。

 一方のマジナはコーヒーマシンより、


「はい、お疲れ様」


 二人分のコーヒーカップを持ってきて、机に置いた。


「……どうも」


「それが君の感謝の態度かい? 私からすれば、すごーくムスッとしてるように見えるんだけど」


「ああそうか、貴様に配慮は無用だったか。なら単刀直入に言う。

 わかっているだろう、自分は貴様が嫌いだ」


「うん知ってる。けど隣に座る」


 有言実行、マジナはサバキの隣に座る。


「私たち褒めて貰いたいと思わない? だって楽観な怪盗と、厳罰な警察が、今まで大事件無しで一つ屋根の下で居られたんだからさ」


「そんなこと家族なれば当然だろうに……とは、この際はいかないか。なんせ育った環境が違うのだからな」


 厳しいながらも保身には申し分ない環境で教育されたサバキ。

 困窮に困窮した世捨て人たちに囲まれた環境で乱暴されたマジナ。

 二人の育ち方は非常に対極であった。


「考え方も違くなるからね。あ、だからなおさら大事件がなかったんだ......」


「貴様に同情していたから、強気に言えなかった。とでも言いたいのか?」


「流石は警察、カンが鋭いね」


 マジナはおちゃらけた雰囲気でサバキに指さす。

 サバキはそのノリに乗らず、静かにコーヒーを一口し、告げる。


「確かに同情はする、だが肯定はしない」


「どういう意味?」


「貴様の底力はちょくちょくと目にして、素晴らしいと思っている。故に、それが腹が立ってたまらんのだ。『何故それを正しい方向に使わなかった』とな」


「ちょっとそれは言いがかりじゃないかなー? もし私が悪人からしか物を盗らなかったとしたら、どう謝る気?」


「言っておくが自分の中では義賊も盗賊も『人から盗む者』と、同一としているからな」


「あー、はいはい、そうですか、いい頭の固さしてますね......確かに、駆け出しの頃はこの世の中を変えたいと思ったさ。

 けどね、わかるかい、世の中にはどうしようもないことがいくつかあって、それをどうにかするのは心が折れるんだと。

 だから私は同情も、肯定も望んでいない。望んでいるのは今生き延びることだけ」


「そうか。どうせならば同情も肯定もされるような人間になってくれれば、こちらもやりやすいのだがな」


「ちょっと何言ってるかわからないよ、サバキ」


 マジナはコーヒーを一口して、『そちらこそ何を言っている』と言いたげなサバキに、自分の思いを吐露する。


「リベンジとして言うよ。私は君を肯定しているけど、同情はしていない。

 正義を周囲に振りまく奴がいれば、世の中は安心安全安泰なのは、今の世界で暮らしてればよく分かる。

 ただね、君は『やり過ぎ』なんだよ。君は君が相対した悪の事情を一切考えない、押しつけの正義なんだよね。

 まぁ、事情があるにしても悪は悪なんだろうからそういう対応したくなるんだろうけど……なんかさ、君の場合、その押し付けの果てに良くないことしそうで怖い。

 わかりやすく言うと、君の『方向性は肯定』するけど『熱量は同情』できないって感じかな?」


「……やはり気に食わんな、貴様の考えは。

 けど今の話でわかった。貴様は貴様なりに考えてるのか。

 だからアレを除けば、今のところ目立った悪事はしていないという訳、か」


「アレって何? 醤油のぶっかけすぎ?」


「ピコリから頻繁に報告が上がっているぞ、コーリンとの性的なじゃれ合いが気色悪いと。

 その行為そのものは咎めないが、公序良俗的に良くないからもっと隠れてやってくれ」


「ああ、あれね。けど姉御、TPO問わずにガツガツ誘ってくるし、私は人一倍性欲が強いから、果たして発情せずにいられるかなぁ?」


「いろ。それが全てだ……そしてマジナ殿、そこまでコーリン殿が好きなのか?」


「体だけだよ体だけ。する時だけして後は普通の仲良し姉妹で終わり。

 ぶっちゃけ姉御もその気でしょ、あのさっぱりの極みみたいな人が、一人の人間に思いつめることなんてありえない。

 あ、勘違いしないでよ、一応姉御としては多少の尊敬の念はあるからね」


「言い切るな、マジナ殿。もしコーリン殿に聞かれたら、どんな顔をするだろうな」


「何とも思わないでしょ。仮に嫌われたとしても、サバキよりは姉妹間の好感度あるし」


「今、しれっと自分を孤独だと馬鹿にしたな……」


「えー、誰か仲良い姉妹いたっけ? あ、ルシェヌか。いっつも周到に面倒見てるからね」


「それはルシェヌがことあるたびに悪事をするからであって……」


「ユノスもか。働きすぎてるのをずっと心配しているし」


「それは友好にカウントしていいものなのか……?」


「でもやっぱり本命はピコリでしょ? この前二人で出掛けて、ゲームセンターとか、アクセサリーショップとか、レストランとか、あとホテルインしたとか……」


「最後のは貴様の妄想だろうが!」


「じゃあ他のは確定事項でいいのかな? あれからずっと、その時買ったヘアピン付けているし」


「ま、まあ、そうだな……だが、あくまで友情的なものであって深い意味は無いぞ! ピコリもノンケと自己申告しているし!」


「ところで君は、ノンケの意味理解してるの?」


「えーっと、ちょっと待って、今ピコリのタブレットを持ってくるから……」


「わかってないじゃん」


 タブレットを取りに行くサバキの後ろ姿をクスクスと笑いつつ、マジナはコーヒーを飲む。

 と、ここでインターホンが鳴る。来客・配達物到着の予定はチヨから聞かされていないが、念のためマジナは玄関を開け対応する。


「はい、どちら様です?」

 

 そこに居たのは、まあまあでかいカバンを持った、三十路はいきそうなスーツ姿の男性であった。


「こんにちは、私、この地域にて粗品を配っております……」


 男性はカバンより洗剤を差し出す。貰える物は何でも貰っていく性分であるマジナは、無警戒で、嬉しそうにそれを受け取る。


「それにしても立派なお住まいですね。失礼でしたら答えないで構いませんが、お姉様はどのような仕事をしているのですか?」


「私? 私は……」


 サバキはマジナの肩を叩き、囁く。


「間違っても怪盗とか娼婦とか言うなよ……騒ぎになる」


「OK……あ、私はこちらの妹ともども受験生です」


「あ、学生さんでしたか。では親御さんはどのような職業に」


「えっと、何だっけサバキ」


「大学講師だ」


「大学講師です」


「大学講師ですか。でしたら世間の動向は気になるでしょうね。あ、私、先端新聞の者なのですが、今回は当社の新聞のご紹介に参りました」


 ここから、男性の口は雄弁の言葉か相応しい代物になっていく。


「当社の新聞は、常日頃から些細な出来事に着目しているためバラエティ溢れる記事が多く、各メディアで取りざたされるビックニュースも独自のリサーチを用い、ガンガンで取り上げるため、密度も濃い新聞になっております」


「「は、はぁ……」」


「ですがお値段は欲張らず、定期購読朝刊のみで四〇〇〇円、朝夕刊セットで四五〇〇円です」


「へぇ、それは良さそうだね。情報ってのはいくらあっても困らないし」


「然り。一度チヨ殿に相談してみるとしよう」


 サバキは受話器を取り、チヨに示談する。


『あちゃー、新聞勧誘に捕まったか。新聞なら職員室で取ってて、そこで読めるからいらないんだけど……』


「そうか、すまない」


『じゃあ、どうにかして追っ払っておいて、お願い』


 受話器を戻し、サバキは新聞勧誘の男性と対峙する。


「申し訳ありませんが、もう既に新聞は間に合っていたらしいので……」


「でしたらこの機に乗り換えするのはどうでしょうか? ただいまキャンペーンでそのようなお客様に三千円分の商品券をプレゼントしております」


 マジナは冷やかな目をして思った。

(月額四千円ぐらいを買わせといてプレゼントが三千円とは、それでお得気取りとは傲慢だねぇ……)


 サバキは焦りつつ思った。

(何たる切り返し……関心してたまるか、何とかして退かせなければ)

「かと言われても、急に勧誘を受けても正直食指が動かないのですが……」


「大丈夫! 当新聞は初回のみ一か月無料で購読が可能です! もし気に食わなければ、解約して構いません」


 サバキのお硬い対応に限界を感じ、マジナが動く。

「んー、じゃあ、あれだ! あれあれ、ネットとかテレビとかでニュース見れるんで、別にそこまで新聞にこだわらなくても……」


「おお、ナイスだマジナ殿!」


「ネットですか。当新聞はネット版もございまして、こちらは一月三〇〇〇円で購読が可能です。ネット版限定の記事などもありますよ」


「むむ、ならば......そもそも自分達は新聞をあまり読まないので......」


「ですけど当新聞は様々なお店のクーポンを付録にしていますので、ニュースを読むがてらお得にお買い物、というのも出来ますよ」


 サバキは、マジナの方を向き、こう小声で言う。


「どうする、こいつ、全てを言い退けて新聞を買わせようとしてくるぞ……」


「そちらもお手上げか……こうなったら、多少は手荒な真似をするしかない」


「手荒ってまさか……貴様、暴力はいけな……!?」


 マジナは、是非を問わずサバキに抱きつき、深めのキスを交わし始める。


「…え、あの…」


 男性はポカーンとして二人を見る。だが両方ともそれに夢中になり、まるで話せる体では無くなってしまっている。

 そして男性は気まずくなり、無言で立ち去った。


 数十秒。カフェからピコリが帰ってくる。


「ただいま......えへへ、今日は謎に混んでて入れなかった……!?」


 そして、互いにそっぽを向くマジナとサバキに困惑する。


「さ、サバキ姉さん。マジナ姉さんとどうしたの…….」


「いや、何でもない。ただ、先を行かれた自分と、少なからず心地いいと思った自分を恥じてるだけだ……」


「? ま、マジナ姉さんは、サバキ姉さんとどうしたの?」


「薄々分かるでしょ、警察と怪盗は相容れないってことぐらい?」


 ピコリの頭には、ただ疑問符が増えるばかりだった。


「……人に見られながらってのもあったけど、なかなか興奮したよ、サバキ」

「余計なこと言うな、マジナ殿! ああ、やはり貴様とは相容れん!」


【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ