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第20話 おんな特ヲタ コーリン

「風呂上がったぞ〜、次誰か行けー」


「なら自分が行く」


 コーリンは風呂場に向かっていくサバキを脇目で見て、ソファに腰掛ける。


 土曜日の夜七時。チヨの帰りは遅いので、姉妹六人は夕食を済ませ、入浴して後は寝るだけの状態にしている。


(……暇だな。別にそこまで眠くないし、勉強はもう腹いっぱいだし、マジナとはピコリが騒ぐからできないしな)


 コーリンはなんとなくリモコンを持ちテレビを付けて、適当にチャンネルを回す。


『騎人バスターアロウズ、このあとすぐ!』


 その最中に現れた、全身を覆い隠すゴテゴテした鎧姿の人物に興味を持ち、リモコンを押す指を止める。


 コーリンは流しで皿洗いをするユノスに向かって尋ねる。


「おい、騎人バスターアロウズって何だ?」


「その時間帯に放送してる特撮ドラマ『騎人バスターシリーズ』の第三十七作目だよ」


「こんなことも知ってるのか、流石だな。で、そのトクサツってのは何なんだ?」


「百聞は一見にしかずだよ」


「なるほど」


 コーリンは目線をテレビに戻し、とりあえず番組を見続ける。


『前回のあらすじ。

 涼茂オーハが変身した騎人バスターブラッグド・ノブナガフォームの力に圧倒されアロウズ、呉トモマサは重症を負い、モトナリ武塊と、中橋ミコを奪われる。

 オーハはミコと、七雄の武塊を装置に組込み、「人類戦別の令」作動へのカウントダウンを急速に進めるのだった』


「あらすじからして用語がメチャクチャ多いぞ、どう理解しろってんだユノス!」


「百聞は一見にしかず」


「なるほど。ま、実際まだ『さわり』の部分だからな」


『オーハ、忘れはしないぞ! 貴様が俺達、紅蓮の隊をメチャクチャに痛みつけた日はなぁ!』


『貴様はシンゲン武塊の預かり人か。それ以外は覚えておらん。貴様はその程度の存在なのでな』


「ふむ、この赤い男は昔オーハに何かされたのか。

 百聞は一見にしかずで、あと二十分間やり過ごせるか、これ?」

 ただいま当番組のストーリーは後半。

 なので用語や登場人物の詳細などは行われず、シリアスな話が勢いよく続いていく。

 これによりコーリンは、『何が面白いんだ?』と首を傾げていた。


 しかし、まもなく特撮の根本たる、狭い画面内で、明らかに動きづらそうなスーツで殴り蹴り合うアクションパートが始まった。


「おっ、そうだ。そう来なくちゃ面白くない、おら、いけ、やれ!」


 流石は満月家一の戦闘狂にして、余計なことに拘泥しない女、コーリン。

 先程の冷淡っぷりはどこへやら、見事にはまっていた。


『雑魚に構ってる暇はない。そこまで我に殺されたくば、上まで登ってくるのだ』


 番組内にて、オーマは満身創痍の赤い男に雑魚キャラを蒔いて逃亡した。

 それすなわち、アクションパートの終わり。次からは病院で安静にしているトモマサのパートが始まる。


「けっ、勿体ぶりやがって。早く戦え!」


 トモマサの病室にまた別な男が現れる。どんだけ登場人物がいるんだ! と、コーリンがツッコミかけた瞬間、番組はCMパートに移行する。


『武塊をセットし、必殺技を放て! MXマキシマムアロウズセイバー!』

 というナレーションをBGMに、劇中のトモマサと同じ格好をしているが顔が全く映らない男性が、小振りな剣を操作する。


「劇中より短くねぇか、この剣?」


「子供が振り回すからね、安全になってるの」


 繰り返されるおもちゃの宣伝と、マッドでクレイジーなお菓子のCMを経て、本編が再びやってくる。


『立てよトモマサ! オーハを止められるのはもう、お前だけなんだぞ! 約束しただろ、「是が非でも、騎人バスターとして戦い抜くって」』


『けど今の俺には、奴に対抗できるモトナリ武塊がない……!』


「だー、もう、じれったい! はよう戦え! 語り合いはさっぱりわからねえんだからよ!」


 詳細は端折り、トモマサはオーハが座す人類戦別の令発動装置のタワーにたどり着く。その時既に、例の赤い男含めた十人弱の騎人バスターが雑魚兵に紛れて倒れていた。


『モトナリ武塊を用いてもなお勝てなかった弱者の分際で、我に歯向かうとは、余程命が恨めしいと計れる』


『限らないだろ……モトナリ武塊がなければ勝てないとも、お前が永遠にそこに突っ立ってられるともよ!』


 トモマサはベルトにタカモト武塊をセットし、騎人バスターアロウズの基本フォームに変身する。

 オーハもブラッグドに変身し、アクションパートも再開する。


「よし、さぁ、やれやれ!」

 同時にコーリンのテンションも再上昇する。


 ブラッグドはアロウズをスペックの差で圧倒する。

 だがアロウズは粘り、派生形態のモトハルフォームやタカカゲフォームに変身し、反撃の糸口を見出すべく、様々なアプローチを仕掛けていた。


 コーリンの興奮はさらに加熱していく。

 まるで、ハンバーグやチキンライスなど、大好物を沢山のせたお子様セットを初めて見たような子供のようにキャッキャとする。


『小賢しい! ヌゥ!』


『ぐはっ!』


 画面の中のアロウズが、ブラッグドが手のひらから放った衝撃波でふっ飛ばされる。


「ちっ、何だこの黒い野郎、もはや反則じゃねえか、何か光出してブワってふっとばすとかよ!」


 ここで、マジナがやってくる。

「あれ、姉御、今日はテレビ鑑賞かい? 珍しいね……あ、ベッドメイキングはできてるけ……」


「マジナ、悪ぃが今は邪魔するな!」


「はい、すいません!」


『解せ、これが世のあるべき姿だ、弱者は伏せ、強者が立つ! それこそが無駄なき世の完成である!』


『ふざけるな……そんなの、ただの独りよがりじゃないか!』


『まだ愚を語るか、ならば意地を通せ! その為すべきを為せない、たった一人の体を押して!』


『確かに、今の俺は一人だ。が! 俺には、まだこの、俺に応えてくれた三つの武塊がある!』


 そう叫んだ刹那、三つの武塊が輝き重なり、一つの武塊がある!


『教えてやる! 独りよがりの弱さと、手を取り合う強さを!』


「あれ、姉御また大きくなった? 流石、この弾力たまんないね」


 コーリンは背後のマジナに胸を掴まれながら、騎人バスターアロウズ・サンシイッタイフォームの初変身をしかと見て、鳥肌を立てる。


「す、すげぇ……」


『そして見ろ、この三矢一体の貫きを! せいやぁ!』


 ブラッグドとアロウズは再び至近距離で拳を交える。さっきとはまるで違う――互角以上の勝負を繰り広げる。


『馬鹿な、ありえん。ノブナガ武塊が、ここに来て及ばないと!』


『だから言ってんだよ、教えてやるってなぁ!』


 アロウズはアロウズセイバーにモトナリ武塊をセットし、ブラッグドに、周囲の装置にダメージを与えるような猛烈な一突きを繰り出し、タワーの外へと放る。


『これが、協力、か……この結果、実に解せぬ!』


 そしてブラッグドは空中で、鮮やかに爆発し、ここで本編は終了した。


「やっ、べぇ……格好良すぎるだろアロウズ! そしてマジナァ!」


 コーリンはマジナの手を振り払い、ソファの後ろで彼女を押し倒す。


「よくもオレが楽しんでる所で乳揉みやがってたなぁ……」


「しょうがないじゃん。あんまりにも夢中になってて面白かったんだもの」


「お返しに、今ここで激しくしてやろうか……!」


「大歓迎だね」


「風呂上がったぞ、次は……!? コーリン殿、マジナ殿、何しているんだこれは!」


「イチャつきだよ」


「わざわざ答えてくれてありがとうユノス。そして二人共、公序良俗に反するのはやめろ!」



 別日。


「悪いね。手伝って貰っちゃって」


「いいってことよ、別に」


 チヨはコーリンを引き連れ、大型スーパーに来ていた。

 力持ちのコーリンは、大量の買い物に役立つからだ。


「じゃあ次は本屋に寄るから」


「おう、了解」


 本屋へ進む最中、二人はおもちゃ売り場を通り過ぎる。


「あ、あった」


「何が?」


 コーリンが目に留めたのは、イチ押し商品として目立つように置かれた、MXアロウズベルトとMXサンシイッタイ武塊である。


「これか、アロウズが使ってたのは」


「アロウズ……ああ、騎人バスターか。それがどうしたの?」


 コーリンは試遊用のそれに手を伸ばす。


「かっこいいよな、騎人バスターは。これを着けて変身してさ、こう無茶苦茶強い奴をバーンとしてよ」


「いつからそんな趣味に目覚めたの……ゲフンゲフン、は、はぁ……」


 コーリンはそれを形振り構わず腰につけ、気持ちそれになりきっていた。

 奇妙だとチヨは思いつつも、微笑ましいとも思った。

 つい前までは戦の申し子だった娘が、このようにお茶目な女の子に戻っているのだから。


(いつも頑張ってるし、ベルトぐらいならいっかな……八千円……まぁ、いいか。うん)


「ん、あれ、おっかしいな」


「どうしたの? コーリン」


「完全に真似たつもりなのに変身出来ねぇぞこれ?

 あ、そっか、だからおもちゃなのか。なるほど……なんでこんなもん着けてんだろオレ」


 コーリンは一気に童心を冷まし、ベルトを元の場所へ。

 財布に手を伸ばしかけたチヨの元に戻り、コーリンは一言。


「いこうぜ、本屋」


「あれ、いいの?」


「いるかよあんなきっちり変身出来ないやつ。よくもあんな物販促しやがって、そこは良くないな、騎人バスターは」


「……どういうことなの、コーリン?」


【完】

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