第19話 Chase the Story!
一月某日。チヨはとある駅を出て、すぐ目の前にある高層ビルを、上から下に見通す。
チヨはそのビルの玄関を通り、受付を済ませ、上階へ行く
「社長、あけましておめでとうございます」
チヨは高級感たっぷりのドアを開け、奥にいる、これまた高級感たっぷりの机に向き合っている女性と対面する。
「ああ、満月チヨさんではありませんか。お久しぶりですね、本当」
「こちらこそお久しぶりですね、飯島ロスイ社長」
飯島ロスイ(三十八)ーー中堅製菓メーカーとして名を馳せる『満月コーポレーション』の社長。それとチヨの知り合いだ。
ロスイは、チヨに社長室に併設された応対用のソファへ座らせるよう促し、自分は紅茶を用意しようとする。
「それは大丈夫です、新年の挨拶だけして帰ろうかと思ってましたから」
「そう、でもここ最近は冷えますから、ちょっと温まって貰いますよ」
ロスイはチヨを来客者のソファに座らせ、向き合い、こう尋ねる。
「最近、失踪していた六人の娘さんが帰ってきたと小耳に挟みましたが、これは本当ですか?」
「おっしゃる通りです。十一月の後頃から、今まで忙しくやっております」
「よかったですね。けど、九年も空きましたから、心境は至極複雑でしょうねぇ?」
「はい、複雑ですねぇ……本当、色々な意味で複雑ですよ」
その頃、満月宅では。
「ええと、抵抗ってのは、電流×電圧だっけ?」
「違うぞマジナ殿。電圧÷電流=抵抗だ」
「割ったり掛けたり気まぐれな奴だね、サバキ」
「自分に言われてもすこぶる困る」
六姉妹は机を囲んで、多種多様なドリルとにらめっこしていた。
『ここの世界だとあなたたちくらいの年になると、みんな『高校』っていうのに行くの。
高校に行くには試験に受からなきゃいけないの。だから、三月までにどうにか勉強してね』
このチヨの年明け早々の発言が、所以である。
「あー、もう、さっぱりわかんないのじゃ! どうしてマイナスとマイナスを掛けるとプラスになるんじゃ! 互いにマイナスならマイナスのままじゃろうが普通!」
「広島県? 安芸国じゃなくてか? どう見たって安芸国の形じゃねえかこれ?」
このように、九年も異世界にいた故に、元の世界の知識など全くしてない彼女達は、受験対策のドリルに振り回されていた。
だがその中に、比較的スラスラと勧められている例外が一人……その名は、ピコリだ。
(よかったー、あの地味な異世界も捨てたもんじゃないなぁ。
芸能活動の合間にちゃんと学校いってたから、ちゃんとわかるもんねー)
ピコリが行っていた異世界『ファリルヴ』は『音楽文化の発展レベルが低め』という差異を除けば、この現実との違いはない。
なのでピコリは、あちらの世界でも小中学校に行っていたので、高校受験への下地はきちんと出来ているのだ。
「おいピコリ、お前やたらと問題解くのが早くねえか?」
「あ、うん、ウチ、前の異世界で勉強してたから」
「じゃあ教えてくれよ、どうして安芸国は安芸国じゃなくて広島県なんだよ」
「だいたい一九〇〇年ぐらいに名前が変わったの。そこまでの経緯はちょっとめんどくさいから、今はそれで覚えといて」
「ふーん、ありがとよ、ピコリ」
「えへへ、どういたしましてー」
「ピコリ、それなら自分も質問したい。『三権分立』とやらがよくわからんのだが」
「司法、立法、行政の三つで、これらが他二つを抑えあって均衡を保つって感じだよ」
「ほう、それは素晴らしい仕組みだな。ありがとう、ピコリ」
「すごいねぇ。ピコリ、君ってこういう所ではカッコよくなるね」
「はい、そうです、こういう所ではカッコよくなるんです、マジナ姉さん」
この時、ルシェヌの内に秘める怒りは、業火の如く燃えていた。
(ピコリの奴め、このまま奴を野放しにしておけば……
■
「わー、すごいわねー、ピコリ! あなたは頭もいいしかわいいし、最高ね」
「えへへ、それほどでも」
「あたしそういう人が大好きなのよね、そう、結婚したいぐらいに」
「じゃあ、しよっか、お母さん」
■
ってなるに違いないのじゃ! まずい、何とかして奴を陥れねば!)
「おいピコリ! 『ルシェヌは満月姉妹の中で一番可愛い』と英語で言えい!」
「え……『Rushenu is the cutest in Mithuki sisters.』かな? 一応自分の曲は英語で書くことが多いから得意っちゃ得意だよ」
(ぐぬぬ、アタシですら苦手な英語の問題が通用しない……他の教科でも勝てる気配がしないのじゃ!
かくなれば、ここは機転をきかせて!)
「ならば、今からクイズ対決をするのじゃ! お題はアタシたち『満月家』なのじゃ!」
この突然かつ謎な宣戦布告に、ピコリだけでなく、周りの姉妹もポカーンとする。
「……ルシェヌ、何が『ならば』なの?」
「ちょっとそれは空気が読めてないと私は思うよ?」
「そうだぞ。勉強はどこ行ったんだっだ」
「う、うるさいピコリ、マジナ、コーリン! ほら……サバキ、覚えておるか! お母さんが家に出る前、『勉強中疲れてきたらリラックスするのじゃ』と言ったのを!」
どうして自分に面倒事を押し付けに来たんだ。と、サバキは厄介そうに思いながらも、礼儀として、
「ああ、言ったな」
「そう、言ったのじゃ! それでそれで、もうみんな疲れてきたじゃろ?
だからここで受験勉強は一時ストップして、ピコリとのクイズ対決でもして、休もうと思ったのじゃ!
どうじゃ? アタシ、親切じゃろ〜」
ピコリは忖度無しに一言
「それ、休憩になるんですか……?」
*
数分後。ルシェヌは、ピコリとのクイズ対決を強引に始めた。
「第一回、満月家クイズー! 司会進行は中立性を重視しまして、私、マスター・ユノスのMEY、アザレアがやらせて頂きます」
「うっし、頑張れよ二人とも!」
ともども、コーリン達は観客として場をはやしたてる。
「あのー、ルシェヌさん。こんなガッツリクイズ形式でやる必要あります?」
「ふっふっふ、絶対に負かしてやるのだ!」
「ダメだ、ウチの言うこと誰も聞いてない」
「では第一問、早押しクイズ、『コーリン様の異世界での父親の名前は?』」
先に答えたのはピコリである。
「はい、袁勝!」
「ブー、不正解」
「はい、毛利元就なのじゃ!」
「ルシェヌさん、正解!」
「おいおいピコリ、それはオレのボツ設定だろうが。作者の凡ミスで一時期文面に残ったまんまになってたがよ。
こんなこと間違えるってお前も作者も最低だな」
※本作制作初期、コーリンの出身異世界は戦国風のものではなく、三国志風のものでした。
さらに言うと、その時は『コーリン』という名前でもなかったです。
「さらに言うとアタシの名前もラシェヌってなってたのじゃ。もう少し設定固めてから書き始めるべきだったのじゃ」
「ゴメンゴメン、コーリン姉さん。
あれ、ちょっと待って? この強引ぎみなストーリーと過去の振り返りが多いのってまさか……今回って総集編!? せっかくウチのメイン回だっての……」
「はい第二問! サバキ様の好きな食べ物は……」
「ダメだ、やっぱり誰も聞いてない」
いち早く感づいたルシェヌは、自信たっぷりに、食い気味に答える。
「そんなの決まってるのじゃ! 鶏の軟骨!」
「不正解です!」
「あー、そういう系ね。はい、鶏の軟骨、味付けは塩コショウで」
「正解!」
「ちょっと、それはズルいのじゃ、細かいのじゃ!」
「否。自分のことを本当に考えているのなら、この事態は予測できるだろうが。ピコリ、でかしたぞ」
クイズに正解し、サバキに褒められたことで、さっきまでイヤイヤ言っていたピコリはどこへやら、
「えへへ、どもども〜」
ピコリはわかりやすく上機嫌になった。
「うっし、これで互角だね! さ、アザレアさん三問目どうぞ」
「三問目。マジナ様は八枚のカードを使い、様々な竜を道具として、あれこれ活用していますよね?」
「ああ、そうだね」
「では、その八体の中でマジナさんが特に便利だと思っているのはどなたでしょうか? その名前を正確に書いてください」
二人はアザレアに渡された裏紙を見つめながら、深く考える。
(知らんのじゃ、あのスケベ女の眷属なんか……)
(だいたい予測はつくけど、やたらと変な綴りしてるから、『正確』に書けるかどうか……)
「では発表してください!」
二人は渋い顔をして、裏紙を見せつける。ルシェヌは『O』と、ピコリは『マサクル=コード IrrynCrash』と、書いていた。
「ではマジナ様、正解を」
「『IrrynCrash』だよ。どっちも不正解。マサクル=コードなんて冠詞、彼らには付いてないよ」
「あちゃー、あの子たちの名前は、プログラム言語のもじりだってこと思い出したとこまでは良かったんだけどなー。
けどマサクル=コードって、どっかで聞いたことあったんだけどなー」
「不正解だけど、ナイスファイトとは言っておくよ、ピコリ。
ルシェヌ、君は書きやすいの選んで答えたね?」
「次じゃ、次の問題を寄こすのじゃアザレア!」
「私の話も聞いておくれよルシェヌ」
「第四問! ルシェヌ様が今作で初めて言ったセリフの語尾はこの内どれ? なお、感嘆符は除外して考えてください」
選択肢は『一:〜のだ、二:〜れす、三:〜のじゃ、四:〜である』の四択である。
「一と二はあるわけないのじゃ! そんなマヌケが言いそうな語尾なんか!」
「だよね、じゃあ三と四の二択か。んー、何か引っかかる問題だな。ここはちょっと、度胸を見せるか」
「それでは、答えをどうぞ」
ルシェヌは三と、ピコリは四と書いた裏紙を見せた。
「正解は、四! ピコリ様の正解です!」
「何故なのじゃ!? アタシの語尾と言えば基本『のじゃ』なのじゃ!」
「ですが第一話にてそう言ってます」
「ちっ、やっぱ設定があやふやなのじゃなこの作品!」
※この件に関しては、初期設定のあやふややミスではなく、意図的にしています。
最初は魔王としての威厳を出そうと思ったので、『である』を使いました。
「よっしリード! 一か八かに賭けてよかったー!」
「感動もつかの間、第五問! ピコリ様の好きなバンドは……」
「はい楽勝……いや、このパターンは絶対『ですが』だ。何でもないです! 続けてください!」
「『FALSE』ですが、第六話終盤にてピコリ様がそのバンドの勇姿をテレビで見つつ、口に入れていた物は何? 正確に答えてください」
「あー、そういう細かい所をね。それを正確にか……」
「むー……んなこた、知らんのじゃ!」
「ルシェヌ様、正解です!」
これにはルシェヌは勿論、ピコリと、観覧者の姉トリオも鳩が豆鉄砲を食ったようになった。
ここでサバキはアザレアに異議を申す。
「自分は注意の為にその場に立ち会ったが、その時ピコリの前には『ノンカロリーコーラ』、『塩控えめ袋小さめのポテトチップス』があったぞ」
「はい、その通りそれがありました。ですがその回の地の文・台詞には、明確に食べた記述が無いので、今回は『わからない』が正解です」
「チキショー! 自分の問題だったのに!」
「ふははは! 見たか、この魔王ルシェヌの強運を!」
「はい、突然ながら、次が最終問題となりました。ピコリ様が二問正解、ルシェヌ様が二問正解なので、次で勝敗が決します」
ピコリとルシェヌは固唾を飲み、最終問題を待ち構える。
自然と満月家のリビングに緊張が走り、観客の姉トリオも集中する。
「では問題……今日一番真面目に勉強しているのは誰でしょうか?」
ピコリとルシェヌは互いに同じ一点を一瞥した後、声を揃えて、
「「ゆ、ユノス……」」
と、申し訳なさそうに答えた。
「はい、その通りです。ではこれにて満月家クイズと共に、息抜きは終わりです。皆様、チヨ様の期待に応えられるよう頑張りましょう」
数時間後、チヨが家に帰って来た時、六人は黙々と勉強をしていた。
「うんうん、偉いねみんな」
「はぁー……せっかくのウチのメイン回なのに、もうオチ来ちゃったよ。何でウチってこんな役回りなんだろ」
【完】




