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第17話 ユノス伝:What did in different world "ComicMURIHIME" ?

 コミックムリヒメ――電子情報技術が驚くほど発達した異世界の名だ。

 そこの人間たちは、私欲や感情により、ムラが多く、諸問題を満足に解決できない『人間による統治』に嫌気を覚え、万人のため、客観的かつ効率的な『AIによる統治』を選んだ。

 その先にあった社会は、ただ完璧で、ただ平穏。


 だがある頃より、その社会にうっすらと影がかかった。

 突然と気分が沈み込み、やがて生きることすらどうでもよくさせてしまう、AIでも解明できない未知の病気が蔓延したのだ。


 AIは、この状況を危険と判断し、ひとまずの治療法として、『人間を強制的に生きさせる「いきがい」を量産・提供する』と決定。

 さらにAIは、その治療法に最も適したのは『漫画』だと弾き出し、それを大量かつ永続的に作り上げる『漫画家』となる人種を育てることとした。


 そしてそこに、一人の少女が送られた。



「先生、『空宙描くサッカー部』の完結おめでとうございます」


 と、ありふれたスーツ姿の者と、小部屋で小机を挟んで居る緑髪の少女――満月ユノス(十四歳、漫画家)は、そうひとまず労われた。


「はい、どういたしまして」


「では総括へ、早くも丁寧な作画と、なかなかに凝った話は相変わらず良かったと、こちら編集部としてはよかったと思います。

 しかし我々滅迅社には当作のようなスポーツ漫画は他にありますので、結果地味な印象になってしまい、社会貢献度三.二とイマイチな成績になっております」


「はい」


「さて、総括は以上。一週間後、次回連載する作品の三話分を完成した状態でお持ちください。

 勿論わかっていますよね、次は社会貢献度三.五を越す作品を書くことがあなたの責務だと」


「はい」


 ユノスは滅迅社のビルから出て、近くのバス停へ行き、三等級国民専用バスに乗る。

 

 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 世界国民段階区別政策とは、人命リソース持続管理統括AI『キトァミァ』により施行されるもので、社会的に貢献している人間をスムーズに働かせるため、一等級を最高とした六段階に人民を定期的に更新しながら分別する政策である。


 等級が高ければ高いほど、公共移動機関の利用、一部法律の免除など、様々な利益を得られ、労働に従事できる。


 より具体的な例をあげると、三等級国民であるユノスの場合、十分周期で来るバスに乗れる。


 話を戻す、ユノスはバスの窓を眺め、今はからっぽの次回作のネタを探していた。


 とはいえども目先にあるのは、近距離移動のため歩道を歩く労働者と、空腹解消のため飲食サービスへ立ち入る労働者と、人命リソース破棄判断AI『ホイプペメギリ』により職場逃亡中に脳を破壊され、血溜まりで倒れる六等級国民ーーどれも、真新しさも、インスピネーションも感じさせない。


(まいったなぁ、思いつかないなぁ)


 この世界の全ての機械は、機械システム制御AI『トドッバ・マ』により正確に機動させられている。

 おかげでバスはすみやかに、コンマ一秒の狂いもなく、ダイヤ通りの時間に停留所に到着した。

 ユノスはそこから徒歩を加算し、マンション内の自室へ帰宅する。


 ユノスはすぐに作業用のデスクに腰掛け、深く次回作について思案した。が、やはりまるで思いつかない。


 こうならば致し方ないと、ユノスはアホ毛にひっかかったベレー帽にタッチする。

 

 労働サポートAI『イイキュフォアグ』に助言アクセスするのが、この仕草の意味である。


《アクセス者の問題診断中》

《診断結果:仕事への打開案模索》

《ア・ドネザスオグへ、スケジュール確認》

《キトァミァへ、現身体状況確認》

《スケジュール・状況に基づき最適な解決方法を算出》

《算出完了。体内不要物排泄と、栄養摂取を行うことを推奨します》

《二十秒以内に排泄、二十分以内にメニューANを摂取しなさい》


「はい」


 トイレで用事を済ませた二十分後。ユノスは冷蔵庫を開け、そこからメニューAN『ドーナツ一個と栄養ドリンク一瓶』を取り出し、机に座る。


(やっぱりゴハンは落ち着くなぁ……んー、落ち着くかぁ。

 そういえばボク、落ち着くテイストの日常系描いたことなかったなぁ。何か絵が荒々しい方だって言われるから、アクション要素の漫画ばっか描いてたっけ。

 けど、だからやっぱり次もアクションがいいんだけどなぁ、またネタかぶりしちゃうのもやだなぁ)


 などなど、ユノスはぼんやりと方針を固めながら、ドーナツ一個を頬張り、栄養ドリンクで一気に飲み込む。


 時刻スケジュール管轄AI『ア・ドネザスオグ』のリマインダーがユノスの頭に届き、彼女はまた家を出る。

 十四分歩いて、とある生活区の学校に赴く。


「では、お昼の人材宣言をしてください」


「「「ぼくたち、わたしたちは、しゃかいをえいきゅうにうごかすしげんとして、いっしょうけんめいはたらくことだけをかんがえ、こうどうします」」」


「よくできました。では授業を始めます。本日は特別授業、漫画家研修ですから、講師の方をお呼びしました。どうぞ」


 子供たち数十人の前に、ユノスは顔を出し、無難に挨拶する。


「はじめまして、漫画家をしている満月ユノスといいます。本日は、ボクから漫画家の仕事の触りの部分を教えたいと思います」


 人気作を持たない漫画家は、今の等級を保つために他の仕事をし、貢献を上げておく。この世界ではよくある話だ。


「ではユノスさん。漫画というリソースはまずどのようなところから出来るのでしょうか?」


「まずはザッとしたお話を考えます。あとはそれをどうにか画にすることを考えます。これだけです」


(今のボクはそのザッとしたお話が考えられてないんだけどね……)


 この後、ユノスは生徒たちに、仕事体験として四コマ漫画を描かせる。

 その間、真面目に机とプリントに向き合う生徒たち、教室内をウロウロしながら観察する。

 と、同時に次回作の案を必死に出そうとしていた。


 最中、一人の生徒が手を上げる。

「ユノス先生、これどうすればいいですか」


 その生徒が見せたのは、四コマ全てに、産業廃棄物回収所を彷彿させるグチャグチャが描かれたプリントだった。


「これは何が描きたかったの?」


「ヒーローと悪の怪人が戦うの」


 特撮。漫画に続いてかの未知の病気対策に生まれた、ヒーローと悪の怪人による派手なアクションと単純明快なストーリーで人の興奮を煽るメディアである。


「慣れないうちにこういう線が多い物は描かない方がいいと思うよ。漫画はそういうの出すの難しいから」


「はい。わかった」


「先生、つぎはあたしにおねがいします」


 続いて手を上げた生徒が見せたのは、同じような顔をしたドレス姿の人と、執事服の人がでる四コマ漫画だった。


「男の子のかおってどうかくの? みんなおんなじかおになっちゃうの」


「まつ毛消すだけでだいぶ男の子になるよ。あと、みんな同じ顔になる漫画家は結構いるから気にしなくていいよ」


「わかった。ありがとうございます!」


 ユノスは再び、巡回をする。勿論、新作案の設計も同時進行である。


(ヒーロー、お嬢様……特撮好きのお嬢様? んー、イマイチパッとしない。もう一つエッセンスが欲しいなぁ)


「先生、できました」


「はい、今行くよー」


 まず『起』に、大切にしていたコップに入れたジュースに虫が入っている。

 続いて『承』で、それをコップごと捨ててしまう。

 そして『転』で慌ててゴミ箱から取り出そうとするも、自分もすってんころりんしてゴミ箱に入ってしまう『結』を迎える。

 そんな荒唐無稽な四コマ漫画を、ユノスは見せられた。


「いいね。君は才能があると思うよ」


「ありがとうございます!」


 閃きというのは、突然、タイミングが良かったり悪かったり、意図せずピシャリとやってくる物である。

(怪人、お嬢様……ゴミ、はっ!)


「ユノスさん、どうかしましたか? さっきから斜め六十度上をぼーっと見ていて……」


「いえ、何でもありません」


 数十分後、教室にチャイムが鳴り響いた。


「では、三年後の人材適性検査で漫画家だと診断された時は、ボクを思い出して、頑張ってください」


「ユノスさん、今日はありがとうございました」


「「「ありがとうございます!!!」」」


 ユノスは授業が終わるや否、極力早く自宅に戻り、作業デスクを前にし、ペンを走らせた。

 

 それから、一週間後。ユノスの姿は滅迅社にあった。


「三話分描き終わりました」


「はい、では読ませて貰いますね……」


 ユノスより配信された漫画データを、編集者は自分のタブレットで眺める。

 そこにあるのは、映像会社から捨てられた特撮怪人と、名家のお嬢様の奇妙な日常である。


「うん、ユノスさんの水準は満たせていますね。では、近々に読み切り連載として公表しますので」


「はい」


 さらに、一ヶ月後。ユノスは、ショッピングモールのある場所に座っており、前方には人だかり、後方には『ユノス先生トークショー』の幕があった。


「社会貢献度四.三という高い評価を得て、今の気分はどうでしょうか?」


「はい。これで漫画家の仕事に完全着手できるので、嬉しいです」


 その作品は見事にヒットし、たちまちユノスは大物漫画家として、立派な社会の重要部品となれたのだった。


 そして彼女に、ある日、贈り物が届いた。


「よし、二十七話目脱稿……あっ、玄関から着信が」


「満月ユノス様、対応お願いします」


 玄関にいたのは、機能性とファッション性を兼ね揃えた無駄のないデザインの、一等級国民用のスーツを着た男性であった。


「こんにちは。政府の者ですが、本日はこちらを、お持ちしました」


 役人は、ユノスに高級感のある封筒を渡し、ユノスはそれを開ける。中にあったのは、カードキーである。


「あなたの業績を考慮し、我々政府はあなたを二等級国民への昇進と、MEYの提供を決定しました。こちらをベレー帽にかざしてください、それにより各権限をアップデートします」


 いわれた通り、ユノスはカードキーをベレー帽にかざす。


《アップデートが終了しました》


「はい、では、これからの活躍を、我々社会一同期待しております」


 役員が帰った後、ユノスはリビングの開いたスペースに立ち、ベレー帽を触る。

すると、前方に、虫の意匠を持った怪人が現れた。


「すごい。アザレアそっくりだ……」


「マスター。私はあなたのマスターピース・エレクトロニック・ヨークフェロー、『アザレア』です。これより、あなたの社会貢献活動をサポートさせていただきます」


「うん、こちらからも、よろしくね」


【完】

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