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第16話 ピコリ伝:What did in different world "Falilv" ?

 ファリルヴ――音楽文化がやや遅れただけの異世界の名だ。

 だからといって別に困ったことは無いし、他に語るべきこともない。


 そこに、一人の少女が送られた。



 おはやっぷー! 満月家の四女、ピコリでーす!

 今回は、上の姉さんに合わせて、やがてこそ、舌を噛み、語り明かそう……新しい見聞、異世界を!


 とは言っても、ウチが異世界で何をしてたかは、第7話で全部言っちゃったので、今回はそん中のウチ的に印象的なエピソードを紹介したいと思いまーす!


 この話は異世界に行ってからだいたい七年後、メジャーデビューが決まってから数カ月後、大阪での単独ライブの時だね。


「ああ、地面に立てるって幸せ……」


 ウチは空港のロビーについて、こう呟いた。

 あの格安航空の飛行機、いちいちガタガタしてるんだもの。一瞬メーデーに取り上げられるかと心配したし。あと、機内食のサンドイッチ売り切れてたしさー、地味に楽しみにしてたのにー!


「おいおいピコリちゃん、飛行機乗りなれてないなー」

 と、ウチが荷物持ちにさせちゃってた、モロにバンドマンなチャラチャラした野郎がウチをからかって、


「かくいうお前も、離陸時無駄にブルブル震えていたがな」

 と、あんま似合ってない地味な服装の美男子が、野郎をからかった。


 この二人はトハードとトラン(どっちも芸名だよ)。ウチが特にお世話になってる、ライブのお手伝いさん。

 収録の時はだいたい一人でどうにかするけど、ライブでそれはきついから、ベースとかは適当にその時その時で雇って、ギターとドラムはこの二人に決めてる。それ二つがウチの音楽の要だからね!


「うっせーなトラン、あれは武者震いだよ! 今からライブ行くぞーって感じの!

 逆にお前の方がおっかねえよ、飛行機乗ったのって修学旅行除いたら、大阪から出てった時以来だろ、どうしてあんな冷静でいられるんだよ!」


「知らん、好きに考えろ。おいピコリ、今日は遅いからとっととホテルに行け。マネージャーもそこで待ってると言ってただろ?」


「あっ、よくご存知で。けど、折角大阪来たんだから、ちょっとどっかのレストランで夜景を……」


「コンビニで適当なパスタ買ってホテルで済ませろ。あんまりフラフラしてると目立って良くないだろうが」


「ああ、はいはい、わかったわかった、じゃあね、また明日」


 おっかしいな、確かにトランはいつもクールよりの無愛想だけど、ここまで機嫌が悪くなったのなんて初めてだよ。

 とか思いながら、泊まるホテルが別々だから、ウチは二人と空港でサヨナラして、ホテル行きのバス停に向かった。


「浮かれないなぁ、トラン。しかも故郷の大阪だってのに……」


「……」


 その後、ウチは本気でホテルでパスタを食って、そして寝た。

 朝起きたのは、八時だった。

 せっかくの大阪だから、とことん満喫しよう、ライブは今夜七時からだし! って訳で、トハードとトランに、


「どっかここいらのカフェに行かない!? 打ち合わせついでにさ!」


 って電話した。

 トハードは優しくてノリがいいから、二つ返事で了承したんだけど、あのトランはというと、


「悪い、あんまそんな気分じゃない。打ち合わせは直前にすればいいだろうし」


 相変わらずのご機嫌斜めだったので、トハードと二人で行くことにした。


「あ、ここいいんじゃない、ここ」


 ウチは道頓堀に向かう最中にあった適当なカフェに立ち入った。

 店員の関西弁のネイティブさに苦しみながら注文し、席に付きメニューの到着を待つ。


「ねー、あの後トランはどうしてた」


「空港の近くにあったネカフェに泊まるって言ってた」


「せっかくの遠出でネカフェ? あれ、トランってそんなケチだったっけ? 本当、一体どうしたんだろう」


「俺も心配になった。けど、俺も予算ケチりたくてカプセルホテルに行ってたから、言えた義理じゃないなって訳で、『そうか』って返して、その夜は別れた」


「不安だなぁ、開幕こんな調子じゃライブも上手くできるかわかんないよ」


「ははん、懐かしいなその台詞」


「へ?」


「忘れたか、お前が初めてまともな会場でライブをする時のこと」


 あー、あれか。メジャーデビューが決まって、某CDショップの地下ステージでお披露目ライブした時か。

 二人で出会ったのもその辺りで、最初の頃は、扱う音楽が新ジャンル過ぎてまともに演奏できなかったっけ。


 で、結果ウチはあの弱音を吐いたんだ。


 けど、みんなの音楽へのやる気は超絶燃え上がっていたから、ライブはなんだかんだで成功した。


「今回もなんだかんだで成功するって、トランだって、流石にライブを台無しにするつもりはないはず。

 見たかアイツの練習風景? 毎回必死こいてドラム叩いてんだよ。アイツの音楽への情熱は、半端ないに決まってる」


「そう、だよねー。きっと今回もなんだかんだで成功するはず……どうせなら当たり前に成功したいけどね」



 ウチとトハードが一通り話を終えた後、カフェを出て歩道を歩いていた時、


「うわっ、危ない!」


 背後から迫ってきて、慌てて退けると、すれ違い様にギロ見してくる自転車乗りのおっさんが現れるほど、大阪は活発な昼を迎えていた。


「ねぇ、そろそろ道頓堀の店も開いてるだろうし。大阪名物、食べてかない?」


「さっき、ナイフで刻んで食うの推奨なデカめのサンドイッチ食ってたのに、また重そうなモン食うのか? いいのか、太るぞ?」


「ふ、太らないから! ちゃんと背と胸に栄養回すから!」


「はいはい、わかりましたよ」


 ウチとトハードは比較的民度の良さそうな店を発見し、そこに注文する。


「ウチはたこ焼き六つとコーラを」

「俺もそれで!」


「はい……じゃあ……席へ……」


 何かに引いてるような感じで店員に指示され、ウチらは屋外席に座る。


 そこでウチは、店員たちが裏で何か話してるのを聞く。


 ウチのファッションでもディスってるのかなぁ。別に元の世界でV系とか言われるような奇抜な格好はしてないのに……


「!? おい、ピコリ、後ろ!」


「へ……」


 正直ここはもっと早く言ってもらいたかった。

 突然目だし帽被った連中に羽交い締めされて、トハード共々ワゴン車に詰め込まれたんだもの。


 で、ウチらが下車させられたのは、よくわからん豪邸だった。

 ウチらはそっからまた引っ張られて、畳敷きの部屋で体をロープでグルグル巻にされたまま、正座させられた。


「え、何これ!? ドッキリ!? だとしても食事前にしないでよ!? 責任者返事してよ! ディレクター出てこい! スタッフ〜! スタッフ〜! いるんだろ水曜日!」


「やかましいぞ、小娘めが!」


 と、叫びつつ、パシャンと引き戸を開けて現れたのは、時代劇とかに出てきそうな格好の、威厳だけは立派そうなジジイだった。


「誰だよ、お前は!」


「おいピコリ、この方を知らないのかよ!? 数十年前演歌一筋で一世を風靡した大歌手にして、今や大阪の将軍様と囁かれるほどの資産家、堀田贋作さんだぞ!」


「ゴメン、ますます知らない。てか、何であなたはそれを知ってるの!」


「芸能界の荒波で生き抜くために、予習してたんだよ! とりま、前見ろ、ひとまず失礼のないように……」


 前を向くと、これまた威厳たっぷりに贋作さんは腰掛けていた。その表情は、モロに不機嫌だった。


 ウチらが落ち着きが取れたところで、贋作さんは懐から何かを取り出し、ウチらの前に放り投げる。


「あっ、ウチのデビューシングル!」


「満月ピコリと言ったか、これはたんと聞かせてもらったぞ、耳が腐るほどにな!」


「はぁ、それはありがとうございます」


「貴様らに感謝されるほど、ワシは腐っておらん! この日本国民の恥晒しめが!」


「は、恥晒し……? てか、まず教えて下さい! ウチらはどうしてこんなにされてるんですか!?」


「決まっているだろう。貴様らがこんな低俗な音楽を垂れ流しにしているからだ!」


 贋作さんは思い切り、畳に落ちたウチのデビューシングルを踏みつける。


「日本国民に必要とされるべき音楽は演歌と日本歌謡だと古来より決まっている。

 近頃はジャズやらブルースやら、欧米の音楽に侵略されつつあるが、これはまだ品はあるから看過しよう。

 だが貴様の音楽は、それを遥かに下回る! 何だこの家電屋か賭博屋で流れるような聴き障りだらけの音楽は! 何だこのまともに歌詞を聞き取れない歌い方は! 何だこの何がしたいのかさっぱりわからない、ペーペーな音曲は!」


「……ぺーぺーってどういう意味ですか? 言い間違いですか? あの夫婦揃ってピンク色の服着た……」


「三度目だ、うるさい! 先達の言うこともまともに聞けんのか!

 やはり貴様はクズだ! 日本の音楽界の癌細胞だ! 全く、本当に聞いて呆れるわ! こんな野郎が芸能界入りするわ……」


 再び引き戸が開き、そっからまた『縄グルグル巻くん』が一丁、蹴飛ばされる。


「息子が汚染されるとはな!」


「うそっ、トラン!?」


「お前、こいつの息子だったのかよ!」


「……わ、悪い。まさかネカフェに隠れてても見つかるとは思いもよらなかった」


「堀田贋作の威光は、大阪に影を作らない! ぬかったな、新作――いや、トラン! 今のお前にはその下らない名前がお似合いだ!」


 贋作さんの老いをまるで感じさせない蹴りが、トランの顔面に容赦なく繰り出される!


 当然これにトハードは激昂し、顔を突き出して言う。

「おい、テメー! トランに何しやがる! 俺たちを拉致したのも含めて、これが大物演歌歌手のやることかよ! 犯罪だぞ!」


「そんなの後でテレビの撮影とか事故とかで口実付ければどうとでもなるわ。

 日本国の文化を汚したお前らよりも罪は軽いだろうしな!」

 と、言いつつ贋作さんはトランに蹴りを入れる。


「何だよ! さっきから日本国やら堅苦しいことばっか言いやがって! 演歌ってのはそんなに偉いのか!? 日本がどうたら語れるほど偉いのか!?」


「もういっぺん小学校にでも行ったらどうだ! 演歌は紛れもない、日本の誇るべき文化だ! これは、わけのわからん曲を作る貴様らがテコを使ってでも動かん、紛れもない事実だ!」


 ウチは、押し殺した声で、こう贋作さんに尋ねた。

「演歌って、本当に音楽なの……!?」


「ピコリ、お前は幼稚園か保育園に行け! 演歌と書いてあり、中に『歌』と入っているんだから、紛れもなく音楽だろうが!」


「もういい、頑固ジジイに期待したウチが馬鹿だった!

 音楽ってのは皆を楽しませるのが本来の役割でしょうが!

 けどあなたは、さっきから『演歌』を、日本だの文化だの大きいけどボンヤリとした後ろ盾で泊つけて、低俗だの汚いだの言って、人を見下すために使ってる!

 こんなことして皆は楽しいの!? 楽しいわけないでしょうが!

 ウチはきっぱり言うよ! 今の段階で考えると、演歌ってのは音楽じゃない、あなたの武器でしょうが!」

 と、言いつつウチは縄をはらい、堂々立ち上がる。

 カフェでサンドイッチ切る時に使ってたナイフ、謎に持ってたんだよね。


「ちっ、立ち上がるとは生意気な……おい小間使い共、早く奴らを捕えろ!」


 小間使いが来る前に、ウチは火事場の馬鹿力で、まずトハードの縄を切る。


「早いとこ逃げるよ、トハード!」


「おう、だがその前に、これ借りるぞ!」


 トハードはナイフを持って、トランを踏みつける贋作さんに突っ込む。


「ほう、真っ向勝負か! 残念だがワシは未だに週三でジムに通っておるから、力は衰えておらんぞ!」


「ならこっちは週四でジムに通ってる上、ピコリの荷物持ちやらされてるわぁ!」


 トハードは贋作さんに組み付いた後、コンプライアンス順守でやさしく座らせて、素早くトランの縄を切り、彼を背負う。

 そしてウチら三人は贋作さんの邸宅から逃げ出した。


「本当にすまない。ピコリ、トハード。お前らまで巻き込んで」


「何で今まで黙ってたの、堀田贋作さんの息子だって」


「物理的にも精神的にも遠ざけたんだよ、アイツを。

 演歌歌手になってから、あんな風に威張り散らすか、芸能人として振る舞う脳しかない奴になりさがったからな」


「ピコリ。お前も気をつけろよ、あんな威張りん坊にならないようにな」


「わかってる、わかってる。あー、あの説教パートはマジですっきりしたなぁ」



 夜六時。


「あ、遅かったですね皆さん!」


 ウチらはマネージャーに頭をペコペコ下げる。

「ゴメンゴメン! ちょっとここまでの経路わかんなくなってさ!」


「では早いところ支度を、あと一時間で本番ですから」


 てなわけでウチらは着替えをして、さっとリハーサルをして、ステージに出た。

 今回の会場のキャパはだいたい三千人くらいなんだけど、今日の来場者はおどろきの三千人だった。


「やらせんぞ! ピコリ!」


 そしてその一人には、あの贋作さんがいた……しかもど真ん中の一等席、わざわざチケット押さえたのかよ。


「えっ、嘘っ、贋作おじちゃんだ。本物?」

「何これ、サプライズゲスト?」


 最高に観客がどよめく中、ウチらがはよオープニング行きたいのを我慢する中、贋作さんは自前のマイクで演説を始めた。

 この時はわりと疲れてたから、具体的に何喋ってたかは忘れた(どうせまた小難しい懐古厨の方便だろーけど)。

 けど、その後謎の流れで観客に胴上げリレーされてたのはよく覚えてる。


「ははっ、どうだ! これが民意って奴だよー! 贋作さん! さっ、一気に温まって来たので、一曲目入って行きましょう!」


 あと、この後ウチらも、お客さんも、みんなで音楽を楽しんだのはよーく覚えてます。


 そしてこの後、着々と有名になって、日本武道館にたどり着いたのでした。めでたしめでたし。


【完】

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