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第14話 マジナ伝:What did in different world "Massagacre" ?

 マサガクル――座標が座標のため、各地の伝説伝承が流れ着き生まれた、凄まじい力を持つカードが点在する、ビクトリア朝な雰囲気の異世界の名だ。

 そこは今、カードを持っているかいないかと、カードの強弱により、凄まじき身分格差が生まれていた。


 そこに、一人の少女が送られた。



「もうむりです……! いれないでください、のませないでください!」


「うるせぇガキが! 最初に『おじさんの役に立ちたい』って言ったのは何様だ!」

「お前はただ鳴き声だけ上げて、俺たちにやられればいいんだよ!」

 

 最高に汚い所で、最高に汚い男たちのために、最高に汚い子どもたちが、最高に汚いご奉仕をさせられる。

 異世界に来たてホヤホヤにいた場所は、周りじゃこれが日常茶飯事だった。

 勿論私も例外ではなく、毎晩、いや、二十四時間間断なくさせられてた。


 もう何もかもが嫌になった。

 元いた世界であれほど大事にしてた『身を削る親切』ってのを全否定されたんだから。

 

 そんな中、相手の暴漢らが出し切って疲れて寝てしまった時、光が見えた。

 月明かりを反射する、ナイフの刃だ。


 私の善意はそこで砕けた。正確には、我を取り戻して男たちを血まみれにした時かな? どっちでもいいか。


 そっから私はありったけの悪いことをして、どうにかこうにか生き延びていた。


 なかなかに贅沢が出来るようになったのは、そこに飛んでから五年くらい後かな。

 

 じゃあ今回は、それをピックアップして話そうか。



「マジナ、これ見ろ」


 街中のちょっとボロいカフェでコーヒーを飲んでる私に新聞をちらつかせたのは、メイ・Z・ファイルという胡散臭い感じの男。

 表向きは二流のカフェマスター、けど裏の正体はバリバリの情報屋さ。その仕組みは教えてくれないのがなおさら胡散臭い。


「新聞売りの副業でも始めたのかい?」


「違う。お前に見せたい情報が、ここにあるんだ」


 なになに、『マコト研究所にて、人造カードの形成に成功、近くには量産化し実用化予定』?


「さては君、メイの偽物だね? 私はカードではなく、カードを利用している上流市民保有の価値のある物しか盗るつもり無いのに」


「冗談を。これは薦めだ、お前もそろそろ自分のカードを持つことのな」


「あ、なるほど。君が始めたのはおせっかい売りの副業かぁ」


「違う! 俺が言いたいのはなぁ、お前の今後を考えての推奨だ。

 お前だって気づいてるだろ、最近の各所の警備の厳しさを。

 もう『あの名』は上に知れ渡っちまってるんだ。だからよ、今後の活動のため、いい加減戦力を持った方がいい」


「気持ちはわからなくないけど、なら別にどこでもよくないかい?」


「そのカードが実用化されたら、いよいよお前は仕事が出来なくなるからだ。

 お前の未来と敵の未来の奪取で、一石二鳥だろ?

 なぁ、真面目に考えてくれよ、俺への恩義をここで返すつもりでよ」


「君も私のおかげで童貞卒業できたことを忘れてないよね?」


「……とにかく、頼む!」


「まっ、君の言うことは正論だね。わかった、サッといく、サッと」


 てな訳でその夜、私は研究所に忍び込んだ。

 研究所っていうのは楽でいいよ、何もかも真面目で。

 警備員何人か倒せばラクラクうろつけるし、重要物が隠されている所は『WARNING』ってガッツリ書いてあるし、可燃物もいっぱいあるから証拠隠滅も楽だし。


「おい、今日はもう店じまいだ……早いな、マジナ」


 店の床にボロいモップをこすりつけるメイへ、私は収穫物を見せつける。


「ほら見てよ、ラッキーなことに八枚もゲットしちゃったよ」


「すごいな、で、どんなのなんだ? 見せてみろよ」


 そう言われて私は適当にSGLシュガールと書かれたカードを引き抜き、『使う』と念じる。

 するとチョコんとした黄色い竜が手のひらに乗った。


「へぇこれが人造カードか、いい感じの出来栄えだね」


「けど小せえな。しかもさっきからピイピイ言ってよ、頼りねえな。まるでヒヨコだな」


 このメイの迂闊な発言は、SGLの逆鱗に触れたっぽい――SGLは、私の手から飛びながら、私くらいの背丈に変貌。メイに抱き着き、電撃をお見舞いする。


「こ、こげげ……」


「はいはい、一旦カードに戻りましょうねー……スゴイなこれ、後で他のも試してみよう」


 メイは身なりを整えながら、私に言う。

「そうか、ならお前にまた頼みたいことがある……」


「何だい何だい、いつから君は情報屋から迷惑売り屋に転職したんだい?」


「しゃあないだろ、案件が案件何だから。

 最近この国でトールというポッと出の謎の実業家がカフェのチェーン店を広げてよ、俺たち小規模のカフェが迷惑してるんだ。だから、ちょっと奴の家に盗みを働いて、奴の何かに重傷与えてやれないか?」


「最高に私情が浮き出てる案件だね」


「このままここを潰されたら仮面が無くなって本気で迷惑売り屋になってしまう。

 きっとカードも絡んでるに違いないから、お前でもないと対処出来ないんだ!

 な、頼むよ! 多分莫大な報酬を、金の匂いがプンプンするそいつが払ってくれるだろうしよ!」


「はいはい、わかったよ。じゃあ奴を攻略するための情報を」


 メイはエプロンのポケットから、一枚の紙を差し出した。内容は、トールの邸宅の住所だね。


「これだけかい?」


「これだけじゃなかったら、『謎の』と枕詞を付けねーよ、マジで謎なんだよアイツはよ」


「しょうがない、私がもう一働きしなきゃいけないのか……ま、いっか、ちょうど溜まってたし」


 用も無くなったので私はメイの店を後にして、街灯のランプ以外光源のない街を駆け、途中で例の住所に『招待状』投げて、高地にある自宅に帰って寝た。


 翌日、私は上着を脱ぎ捨て、家のベランダから街を見下す。

 赤茶色、ベージュ、あるいは焦茶――レンガで組まれた家が、そこら中に建っている。


 窓は無いから見えないけど、後ろのもっと高い土地には、強いカードと権力を持っている連中がごまんといる。


 この国は、そういうのでも身分格差ってのを訴えかけてくるのさ。

 だから、私はこうして悪さを晒す。よりきっぱり明確に、そんな世の中を逃れ、馬鹿にできるからね。


 けど今日はすぐ窓を閉めた。今日はどうやら冷える日だったからね。

 あ、別に誰かの視線が気になったとかじゃないよ。何せ私は慣れているから……


「朝早くすみません、マジナ・ミツキさんの家はこちらでよろしくて?」


 この気品のあるノックと声からして、何をしに来た人なのかはだいたいわかるけど、一応私は上着を着直し、ドアを開ける。

 そこにいたのは目立たないよう多少品を落とした身なりの、茶髪の令嬢さんだ。


「どうもこんにちは、私がマジナ・ミツキです」


「ああよかった。私は……名乗らなくてよろしいですよね、こういう所では」


「そうですよ。さ、お寒いでしょうから、早く中で温まりましょう」


「まぁ、親切ですこと。うちのお父様なんか、私の婚姻と事業拡大のことばかり考えて、私を教育漬けにしてほったらかすというのに」


「それは寂しそうですね」


 私は自宅の奥にある、もう一つの寝室へと案内する。

 そこで私は、令嬢さんによく見えるように、服を全て脱ぐ。


「まあ、そんなスタイルの良さ見せつけられたら卑下しちゃいます」


「なんせ私はこういうのに特化しているので、仕方ないですよ。さあ、あなたもご一緒に」


「ではでは、楽しませてくださいね」


 それからは、ねんごろに令嬢さんと私を楽しませて、互いに疲れた感じでベットにゴロンした。


「はぁ、はぁ、いいものですねぇ……女の子とあんなことするのも……」


「気に入ってもらって光栄です。こちらも、気持ちよくお仕事できましたから……さて、先の約束は、吹っ飛んでいませんよね?」


 令嬢さんは脱ぎ置かれた自分の服から、封筒を取り、私に手渡した。


「仔細はこちらに、興奮が冷めた後にごゆっくりと」


 この後、令嬢さんはサッとシャワーを浴びた後、私の家から出ていった。

 そして私は、足りない分を自分で済ませて、仕事の時間を待った。


 それが赤みがかった紳士服を纏う――怪盗サスペンスの就労時間だ。


「し、侵入し……!?」

「貴様は、怪盗サ……うっ」


 今朝、気持ちよくなりつつ得た情報――宝物庫にたどり着く最短最善ルート――には、こうあった。『西門は二人のゲートキーパーに守られ、そこが比較的最もガードがゆるい』全くその通りだね。

 やはりこの手法は便利だ。人間が俗に言う三大欲求の一、性欲を使ってるんだから、当然だね。


 おっといけない、あまり考えごとに気を取られると、足元すくわれちゃうな。今回の場合は、正面からガトリングがね……


「侵入者! くたばれぇ!」


 まっ、あの仔細に書いてあったからわかってたんだけど。大丈夫、対策はあるから。


「行って来な、『Bhmthonバハムート』」


 眼前に自分の背丈を若干上回る、屈強な肉体の橙竜を召喚し、飛んでくる弾丸たちを全て防ぐ。それどころか破壊力のある咆哮を放ち、ガトリングとその射手を破った。


 本当にすごいなカードは……けどあまり過信はダメだ。さもなくば、上の貴族どもと同類になるからね。


 さて、一気に端折るよ。この後は適当にセキュリティを突破し続けて、私は宝物庫にたどり着いた。


「お邪魔します。ふん、いかにも金持ちらしく、なんかの石の床、天井のガラス屋根、まさにミュージアム気取った内装だ。特に、一番のお気に入りを真ん中に置く所がそれっぽいね」


 展示用のガラスケースに収められた、金と黒が複雑に混ざり、輝く、不思議で大きな宝石のブローチ……ツボとかヨロイとか担いで帰るのはダサいしツラいし、これでいっか。


 てなわけで私は、一つ『まじない』をかけ、ガラスを破砕すべく蹴りを繰り出そうとする。

 最中、私に短剣が飛んでくる。私は咄嗟に回避をし、服を破られ胸が開ける程度にまでダメージを抑えた。


「流石怪盗サスペンス、そう簡単には始末できませんか」


 と、今朝の令嬢さんは残念そうに、部屋の電気を付けながら言った。


 私は丸見えの乳房を腕で隠しつつ、問う。

「おかしいな、てっきり協力者だと思ったんだけど」


「ジェイド・トール。この国で現在進行形で急成長しているカフェチェーン店の、まとめ役――それが私の正体です」


「あちゃー、そうだったのか。箱入り娘に招待状を投げて、釣りだしたつもりなんだけどな」


「残念。私にはこれがありますからね!」


 令嬢――トールはカードを用い、自分の隣に歪な角を持つ騎士を召喚する。


「『エリゴス』、我が社はこれが持つ未来予知能力でシェアを拡大したのです。

 そう、あなたがノコノコこちらに来るのも、私の手のひらの内だったのですよ」


 トールは最ッ高に腹が立つ笑みをして、こちらを見下す。


「今の方が情緒がありましてソソられますねぇ、マジナさん?」


「そう、困った話だねぇ。これじゃあこれ、挟んでしまえなくなるじゃないか」


 私は、トールに例のブローチを見せつけた。


「なっ、いつの間に……! 未然に止めに入ったのに!」


「ご苦労、『JavaWockジャバウォック』」


 白竜『JavaWock』は何らかの虚像を作り出す能力を持つ。

 さっきの『まじない』ってのはこれのこと。『ブローチを盗むべく蹴りを放とうとする自分と、その対象物のブローチ』の幻を作っていたんだ。


 本当の私は、まじないを使った後ささっとブローチを頂いて谷間にしまっていたのさ。

 ただ、ナイフの方はちょっと読みが足りてなかったから、食らっちゃったけどね。けど、これで一つ確信が出来た。


「今更だけど、怪しいと思ってたんだよね、私が『情報をよこせ』と招待状に書いて、まさか盗むためのルートを綿密に書いてよこしてくる律儀な人なんて、今までいなかったもの。

 だからちょっと、細工をしたのさ、タネはいわないけど。

 ここまで君の未来予知は読んでいたのかい? その様子じゃ、どうやらそいつの見せる未来は君から見ての『現在の情報から構想される未来』で、予想外の事態に対処できない、微妙に足りてない代物のようだ」


「……だとしても、あなたはここでお縄になることは確定です、よ!」


 あちらこちらから奴の兵士が出てくる。エリゴスも槍を構えて、こっちをギロギロ見てる。

 けど、予想外はいくらでも持ってるよ、私。


「『PORTORNピュートーン』……程々にやりな!」


 それがこれ、二足で立つ槍を構えた騎士みたいな青竜『PORTORN』。こいつはね……


「QEYAAAAAAAAA!」


 ほら始まった、目に入った動く物を片っ端から斬るわ斬るわ、ただの狂戦士ではありませんか。

 けどそれぐらいが丁度いい。見てよエリゴスを、わかりやすく混乱している、どうやら予想外が多重極まり、未来予知不能なようだ。


「この体たらくが……仕方ありません、やはりこの私直々に奴を!」


 トールは私へナイフを投げる。一応武芸も嗜んでるみたいで、その軌道はわりと鋭い。ただ、私はもうしくじらないよ。


「『Oウロボロス』、ちょっと振り回すよ!」


 ほぼ蛇みたいな紫竜『O』を手に取り、ムチみたいに振り回して、ナイフを弾く。ついでに勢い余って奴を隣のエリゴスごと滅多うちにする。


 私は裸の乳房に片手を当てて、トールへこう問いかける。


「どうだい、これでもまだ興奮出来るかい?」


「こ、こんな……反則です!」


「『反則』……!? へぇ、近頃の大企業の長は、そんな幼稚な言葉使うんだ。

 ――この世界じゃ、どれだけ他人に『卑怯』、『反則』、『悪い』と思われるようなことができるかが、全てだっていうのに。

 ま、とりあえずありがとう。褒め言葉として受け取っとくよ」


 大半の兵をいたぶってもなお暴走をやめないPORTORNをカードに収納。Oを屋根のガラスに伸ばして割り、どこかへ引っ掛け、引き戻して屋根に立つ。


「それでは、この夜よりも最低なの夜が来ないことを、私も願ってるよ」


 私は大きな翼を持つ赤竜『Hellkite-Wヘルカイト』を召喚し、それをグライダー代わりにして、屋敷からトンズラした。


 その時横目に見えたのは。醜い現実を突きつけられ、すっかり萎えてしまったトールだった。


 近日、メイに見せつけられたのはトールの店の大量閉店の記事が乗った新聞だった。

 エリゴスと社長トールの半壊が、チェーンの大黒柱の半壊と同義だったらしく、このような結果に至ったそうだ。


「やったな、マジナ」


「うん、そうだね……」

 と、私は浮かない顔をしてコーヒーを飲む。


「悪かったな、俺は淹れ方の試行錯誤中……」


「それはそうだけど、そうじゃない。私が浮かないのは、あの人造カードのためだよ。

 今回の案件は、結局はカードたちによって成功したんだ。上で威張り散らしてる奴らと大差変わらない手法でね」


「……け、けどよ、これで楽に上相手に仕事が出来るようになったじゃねえか! な、な?」


「ああ、それもそうだね」


「切り替え早いな、おい……ま、とにかく今回の件は、感謝しますよ」


 この後だいたい四年間、私は八枚のカードたちと共に、上の連中を相手に盗みを働き、怪盗サスペンスの名を轟かせ続けたのでした。終わり。


【完】


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