第13話 コーリン伝:What did in different world "Senrand" ?
センランド――和と妖が漂いうねる異世界の名だ。
そこは今、国を統べる中央幕府が内乱に次ぐ内乱により力を失い、次代を得ようとする英傑がその才を、戦火へとくべていた。
そこに、一人の少女が送られた。
*
初めてあそこに来た時、そこでの母さんと父さんはひどく泣いていた。
どうしたのかってオレは聞いたら、母さんと父さんは、『オレが人質になった際、不幸が起こったらと思うと怖い。前にお前の姉がそうなったみたいに』って答えてくれた。
けどオレは決心して言った。
「大丈夫、私は絶対負けるわけにはいかない。何もかも噛みついてやる。そうすれば、絶対安全だから」
そっからオレは宍戸氏に嫁入りさせられた。けどただ姫様気取りはせず、父親や旦那 (仮な、仮だぞ)に頼んで必要物を仕入れて貰ってあれこれ学んだ。
今回の話はそっから、大体九年後になるな。多分。
*
「そこ退けそこ退けぇ! 雑兵共がぁ!」
床板やら畳やら――とにかく敵城内を血塗れにしながら、オレは単騎で天守を目指す。
「ひいっ、あ、あの奇妙な武器は……さては貴様は、毛利の娘、五もじ!」
コーリンなんだがな。けど父親が執拗に五もじ呼びするから、結果みんな五もじ呼びしやがるんだ。
で、今オレはとうとう天守閣にたどり着いて、家老のジジイと未だに君主ズラする弱虫を視界に置く。
「ピーピーうるせえぞジジイ! オレはお前には用はねぇ! あるのはさっきから無駄に凛としてる貴様だ!」
脇の君主ズラは無理くり声をひり絞って、
「貴様だと? この恩知らずの毛利の畜生が! 我は由緒正しき大内氏の当主、義長であ……」
が、残念! オレにはそんな御託を聴けるぐらいの懐の広さはない。
「やっぱごちゃごちゃ無駄にうるせぇ! とっとと突っ伏せやっ!」
オレは刀を振り上げ、義長に迫り、振り下ろす。
しかし、ここでジジイが待ってましたと言わんばかりにニヤッ。
「者共、であえー!」
と叫ぶや否、あちこちから兵が現れる。おまけに、振り下ろした刀もその中の一人が持ってた槍に阻まれる。
だがよ、オレの刀は特殊で、な!
「なっ、槍が! 何だこの強い衝撃は……がっ!?」
オレの刀を防いだ槍兵は、得物共々に震える刀の元に斬られた。
震撼剣。剣の柄に火縄銃の機構を組込み、引金を引けば刃が震えさらなる威力を起こす、オレの努力の結晶だ。
それをひたすら振り、迫る兵共を片っ端から斬り伏せていく、けどよ、やっぱ数が多くねえか、これ? こっちも疲れてくるぞ。
「姉上、我ら吉川隊、ただいま参りてそうぅぅぅろうっ!」
弭槍(はずやり。弓の端に槍の刃をつけた武器)携え、何人か兵を連れてやってきたゴツい美男子……
「元春か! よくここまでこれたな!」
吉川元春、オレの母さんの家を継いで、毛利家の武勇となってる男だ。
「なんせ姉上が勝手に城に突っ込んで行くのだからな。ありがとう、おかげさまで幕がつたなく切って落とされちまったよ」
「へへっ、どういたしまして!」
「よし皆の衆、まずはここいらを片付けるのだ!」
一騎打ちでやりゃあオレの方が一枚上手だが、ある程度の数を束ねてやりゃあ元春が断然上だ。
見てわかる、連れてきた兵は数名だってのに、元春の奮わせで一騎当千する勢いで強くなってる。
「ところで姉上、肝心な義長はどこにいった?」
「やべっ、どさくさに紛れて逃げやがったか!?」
その時、どこからともなく、さらなる大内方の兵が湧いてきた。
けどそいつらは、どうにも斬れる気がしない。だってよ……
「は、離せ! この卑怯者が!」
「卑怯者? 謀少き者らしく、可愛らしい悪口でございますこと」
と、すました感じの美男子……オレと元春の弟――毛利家内で二位の賢さを持つ男、隆景は縄で巻かれた義長を足蹴にしながら言った。
やっぱりな、この新手、隆景の偽装兵だ。
「でかしたぞ、隆景! 流石は父親に一番似た悪どい息子だ!」
「それ本当に褒めていますか、姉上? こほん、さてさて、こんな血みどろな場で長居は具合が悪うございます。とっとと父上の元に帰りましょう。そこでたっぷりと猪女の土産話をしてやりませんと」
*
オレたちは軍と捕虜を連れて、父親の元に帰る。
毛利元就――オレと毛利三兄弟の父親にして、この戦乱を収められる可能性のある人物の一人だ。パッと見ただの、のほほんとしたオッサンだがな。
「思ったより早かったね。元春、隆景。あの大内氏をこうも片付けるとは」
「はい親父、どうやらあちらでゴタゴタしていたらしく、家臣団がいまいち纏まっていなかったからな」
「それと、五もじが狂ったように突撃をしましたからね」
父親はオレの方に目を向ける、と、オレの隣にいた男が頭を下げる。
「申し訳ありません、また拙者の甘さが現れまして」
こいつは宍戸隆家、一応オレの夫だ。特記事項無し、以上。
「何の、結果勝ったのだから問題はない。あと今日のことは、君の甘さより、五もじの至らない部分が強かった。それだけの話しだから気を病まないでおくれ。
じゃあ、本題に入ろうか。結論から言うと、『東の尼子氏と、西の大友氏が同時に攻めかかろうとしてるから、それをどうにかしたい』」
ここで一つ解説を入れるとするか。
オレたち毛利家の領地は、東に『尼子氏』、西に『大友氏』。こいつら二勢力に挟まれている。
尼子氏はだいぶ前から因縁のある連中で、一回ぐらい本城ギリギリまで攻めて来られた野郎だ。父親が頭使いまくって退けたけどな。
大友氏は……特にどうでもいいか。あいや、違う、この前とっ捕まえて始末した大内義長は元々そこの出身だった。
「大友氏め、さては我々が血汗を流して勝ち取った大内領を狙ったな」
「端からすれば一族の敵討ちとも言えるけど、本心はそれだろうね。では父上、今回の二方面防衛戦、どのように軍を分けます?」
「元春は私と共に対尼子戦に来てくれ。して、大友の方は、隆景と宍戸君に行ってもらおう」
「ありがとうございます。この隆景、見事大将としての任を」
「あ、ごめん。総大将は、こっちだ」
父親は、さっきから隣にいた、見るからに気弱そうな奴――オレらの兄貴、隆元の肩を叩く。
「えっ、父上! この隆元に大友の相手を任せてしまうのですか!?」
「何の心配はいらないよ。隆景と宍戸君も付けてるし、それに君は、毛利元就の息子だろう?」
「うう、仰せのままに……」
と、隆元はお腹をおさえながら、明らかに不本意そうに言った。
隆元は昔っからああなんだ。
親父と元春・隆景と勝手に自分の中で比べてるせいで、あんな風に気弱な奴なんだ。
流石に三人と比べちまうと派手さは欠けるが、アイツだって本当は凄い奴なんだぜ。
ちゃんと政治も出来るし、メチャクチャ本気出せば部下をビビらせることだって出来んのによ。
*
数日後、オレと宍戸と隆景、そして総大将の隆元は、大友軍の前にやってきた。
軍と軍が向き合ったらすることと言えば、戦争しか無いよなぁ?
「かかれ! 義長様の仇と共に、殿の領地を広げるのだ!」
と、いった具合で馬鹿みたいに気炎を吐いて、大友軍は突撃する。
それを目視し、オレは隆元にこう一言。
「総大将、敵が迫って来ましたよ。どうします?」
「た、隆景! 直ちに策を」
「はぁ、わかりました。
皆様、よくよくご考えください。相手は英傑大友氏、普通なら武偏重な戦は絶対しないでしょう? 仮に本気の突撃と見ても、遅い。
こちらがムキになって防ぎに行ったのを、後詰めの騎馬隊やらで二段押しして崩す作戦しょうね。
ならばあえてそれに乗り、まず無難に防ぐとしましょう。
そして宍戸殿と姉上、小回りの利く兵を持ち、その軍隊から速やかに離脱して背後へ回り、後と先を分断するのです」
「はっ、この宍戸の家名にかけて! ……五もじ、また無茶な一人駆けは止めろよ」
「はいはい。オレの気分がそうじゃなければな」
オレたちは隆景の言う通りに、敵軍に真正面から当たり、防ぐ。
そして頃合いを見つけてとっとと防ぎの部隊から背面の部隊に様相を変える。
同時に、大友の本陣から騎馬隊が突っ込んでくる。隆景の言う通りだ。
「ほう、二段攻めを読まれたか! だがこれでは貴様らは挟み撃ちの体でもあるまいか! お望み通り潰してやろう!」
とか、そこの大将がほざいている。けどよ、言葉だけじゃあ戦は出来ねえんだよ。戦に必要なのはな、力だ。
「『朱雀の刹那』ァァッ!」
引金を引くと共に地面に擦らせ、震撼剣にとことん熱を帯びさせ、火すらも灯す。
それで眼前の侍大将やら雑兵やらを、刹那に焼き薙いた。
その後はまぁ、そんな感じで宍戸とその兵と共に、チャッチャと後続を蹴散らした。
「なぁ、宍戸。今日の大友弱くねぇか? いつからこんな軟弱な戦をするようになったんだ」
「お前が余分に暴れすぎてるだけじゃないか? まあいい、みな、直ちに方向をぐるりと変え、残りの連中を……」
「宍戸殿! 伝令! 隆景殿曰く、本陣に二つ奇襲隊が迫るので、直ちに帰還を所望するとのこと!」
「なっ、もう一段策を持っていたか……! ただちにこの防衛戦を終わらせろ!」
とは言っても、その奇襲を無事成功させようと兵たちはすごい尽力し、なかなか帰らせてくれなかった。
「むむむ、これでは本陣がやられてしまうぞ! もっと気炎を吐け、奮い立て、烈火の如く敵を一掃せよ!」
皆は宍戸の号令の元、更に得物を盛んに猛く操り、敵を倒していた。
最中、オレは最低限敵兵を斬りながら、周囲を観察していた。
「うーん、これは戦闘後にまとめるのが大変なほど、陣形が崩れているな……」
「何をボヤついてる五もじ!」
「悪ぃ宍戸、オレ、ちょっくら本陣に戻る!」
待てだの止まれだの宍戸は言うが、オレは真面目に聞かず、出来るだけ速く本陣へ駆けた。
だってよ、そうでもしねーと、隆元が間に合わないだろうが!
*
一方その頃、本陣にて。
「隆景! 双方の奇襲隊はどうする!?」
総大将らしくなくバタバタと落ち着かずにいる隆元に対し、隆景はいたって沈着冷静に、敵の様子を伺っているっぽい。
「んー、あちら側の隊がやや遅いな……なかなかいい奇襲でしたが、どうやら付け焼刃のようですね。
兄上、私は一旦あちらの隊を蹴散らして来ます」
「待て、それでは私は一人で……」
「何の、す、ぐ、戻りますよ」
「ああ、心細いではないか……っ!? 何だ、この轟音は!」
それは、神輿を担ぐ六、七人の男たちの掛け声と足音だった。何よりも注目すべきなのは、それに乗っていた奴が、あまりにもヤバ過ぎるってこと。
「立花、道雪!」
大友軍屈指の戦人、立花道雪、通称『雷神』だ。
「見るなりわかる、あのひ弱な若造、まさしく毛利隆元! 誇りに思えるだろう、この小生の雷切の餌食になろうとは!」
「うぅぅ、お腹……いや、何もかもが痛苦しい! 防げ、防げ!」
道雪は、下手くそにかかる雑魚を片っ端から雷切で伏せつつ、悲鳴をあげまくる隆元に接近する。
その間にオレが飛び入り、道雪と刀で一合い。
「お主は……!」
「満月コーリン、周りは五もじと呼ぶがな!」
オレはお構いなしに神輿に立ち、さらに道雪と打ち合いを行い、頃合いを見て飛び降り、距離を取る。
「なかなかの腕前であるな。ますますそこの軟弱者を守る意義がわからぬ」
「へっ、簡単な話だ、兄弟だからだ」
「その兄弟がどれだけ愚かであろうともか!」
「ああそうだ、守りたいと思ったんなら、愚かもクソも関係ない、とにもかくにも、オレは家族として、家族を守る!」
「五もじ……!」
オレはもう一度神輿に乗り、
「『青龍の刹那』ッ!」
引金の振動と、突きのブレを織り交ぜた、暴れるような乱れ突きを繰り出す。
けど道雪はその暴威を苦しくもいなす。まぁ、それが本当の狙いだがな。
「ぐはっ!? いでぇ!」
「巻き添えで刺された!? 大丈夫か!」
「む、おい、神輿にヒビが!」
担ぎ手も倒し、神輿を壊した所で、再度オレは距離を取った。
「確か、雷に打たれて左足がやられてるんだっけな? ははっ、確かに座ってもなおその武勇は筋金入りだが、あまり前線に出るのはよろしくなかったようだな!」
「ごもっとも……ムッ!」
と、道雪は気合を入れ、体中――特に足先でバチバチいわせ……地から浮いて、立ち姿で佇んだ。
ああなるほど、こいつ雷の妖術を使えるのか。それも地面に反発されて浮くぐらい器用なのか。
「この奇怪さ、確かに外に出すのは躊躇うな……さぁ、もう一戦やらせて貰おう!」
オレと道雪はまたまた刀の打ち合いを行いキンキン言わす。
まずい、浮いてるせいで全体的にすばやくて、一太刀一太刀に途切れがない。オレが押されてやがる!
だがよ、後ろには隆元がいて。その他には……まだ誰もいない! ならばこのオレが、意地張って天命突き動かさねぇとなぁ!
「ぬぉぉぉりゃあ!」
オレは引金を引き、全身全霊を込めて、上段に構えた刀を振り下ろす。
「甘いっ!」
道雪はそれを見事に防ぎ、オレは反動で刀を放す……放しちまったじゃねえぞ、『放す』だ。
「食らえっ、『白虎の刹那』ッッ!」
オレは飛び上がり、頭が地面に来るように回り、足の甲に引っ掛けるようにして、刀を本当の全身全霊で蹴り落とす。
「なっ、しまっ!」
道雪は、流石にこの攻撃は読めなかった、故に、派手に縦一文字に傷を負った。
オレはすみやかに剣を持ち直し、残心を成す。
「今のは効いたぞ! だが、この道雪、まだ奥の手はある!」
道雪は雷切に本当の雷を纏わせ、オレよりも遥かに素早い突きを繰り出す。だがその前に、『奴』の一矢が道雪の手にかすり、突きは中断された。
「忘れてはあるまいか、この隆元が毛利三矢の一矢であることを!」
と、隆元は……いや、兄貴はやっとこさ武士らしく、兵を並べ、弓を構えてオレの背後で威厳を醸し出していた。
「ぐっ、やりおるな……だが」
「もう終いじゃあ、道雪!」
ここで風のように、道雪と同年代らしい武士が現れ、まだ戦おうとする奴を止めた。
「紹運! まだ小生は戦え……」
「……ても、もはや軍は深手を負っている故、以降の勝負は無意味。頼む、友の言葉に甘え、今宵はご運が足らんかったと思ってくれ」
「ふっ、お前も奴らも儂よりついていて羨ましいわ……また良き時を!」
と、道雪は捨て台詞を吐いて、紹運と共に撤退した。
*
数時間後、オレたちも陣を片付け、帰路についた。
「隆元、やってくれたな、おい!」
「……悪かった。確かに当主は守られなければ弱い一人間、だが劣等感などのくだらないの言い訳に守られ続けるのは、毛利の次期当主として癪だと、姉上に気付かされたのだ」
「なら、察しが早かったな。大敗する前に気づけてよ」
「遅かったような気がしなくもないがな。ハハハ」
「……おい五もじ」
「何だ宍戸、また一騎走りはよくないてか?」
「ああ、無闇やたらで意味のないのはな」
「……素直じゃねえな、全く」
そうつぶやいたオレは、ふと空を見る。まぁ見事に夕焼け空だった。
隆景は言う。
「早い所父上の尼子戦に合流したいのですが、生憎時間が無いようです。どこか近辺で泊まるとしましょう、この辺りの国人、和智誠春殿がちょうど饗宴にと誘ってますが」
兄貴は答える。
「いや、もう少し先に行かせてくれ。私はまだ至らない部分があるから、せめて迅速には動きたい。
あと、私は父上に酔いつぶれ倒れた姿ではなく、一歩進んだ姿を見せたいのだ」
「わかった。では別の休息場を探しておく」
こうして、オレたちは、まだまだ進み続けたんだ。
この後? それは知らねぇな。
何せここで急に辺りがまぶしくなって、神様ヅラした奴が『あなたは異世界を救済した』とかイマイチよくわからんこと言い出してよ……
【完】




