001-⑤ ニューヨーカー
初体験についての短編集。
『私』は、引っ越してきたばかりの町で
初めての銭湯への向かいます。
浴場で、ふうと息を漏らして、それから?
『私』の『初体験』を、
あなたと半分こ。
体を洗って、一番広く枠組まれた湯に入る。
ふわあ、と息が漏れた。
漏れたどころの騒ぎじゃなくて、体の奥から古い酸素を排出して、
要らないナニカを吐き出した、そんな感じがした。
そんなに何を吐き出したんだよ、って自分に笑ってしまう。
お湯につかりながら、目の前の洗い場を見ると、
湯に濡れて紅潮した巨大な羽二重餅が、ふたつ並んで腰かけていた。
小さなプラスチックの座椅子は、豊満な肉のせいで押しつぶされ、
そのほとんどが隠れている。
巨大な二つの羽二重餅。
ああ、親子だな、って、一目でわかった。
骨の形が同じだと、乳首の位置が同じで、乳房の垂れ方も同じなんだ、驚いた。
年代の差こそあれど、ふたつの羽二重餅は、母娘の具現体だった。
総白髪の母親の重そうな腕を、還暦間近に見える娘が持ち上げながら洗っている。
両腕が終わると、首筋を、終わると背中。
両の足を洗うときは、膝の裏を洗うのに難儀しているように見えた。
腹の肉が邪魔して、足は上がらないし、
娘も体をねじって角度を変えるんだけど、娘自身の四肢の餅がその体勢を邪魔した。
大型車の洗車風景を思わせる勢い。
娘は母の体を、丁寧に洗っていた。
なされるがままの母親の顔は、目を細め、
穏やかそうに見えた。
申し訳なさそうにも見えたし、(もしかしたら何か身体が痛むのかもしれない、)
窮屈そうにも見えた。
自分では立ち上がれない、腕を持ち上げられない、体を捩じらせて自分の体を洗えない。
そんな状態にわたしもいつかなるのかもしれない。
そんな状態に、家族の誰かがいつかなるのかもしれない。
私はゆっくり立ち上がって、陣取った洗い場へ戻った。
温まったせいで、体は軽く、鏡に映る体はいつもより白く、艶がでているように見えた。
続きは、また明日。