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僕の初体験を、君と半分こ  作者: Emily Millet
3/9

001-② ニューヨーカー(入浴家)

初対面についての短編集。


①で『私』は、引っ越してきたばかりの町で

初めての銭湯への向かいます。


『私』の『初体験』を、

あなたと半分こ。

歓楽街近くのアパートから、二分もしないうちに静かな民家エリアに入った。


知らない町の静かな夜の空気は、知ってる街の静かな夜の空気に似てるようでやっぱり別のものだと感じ、ふう、深呼吸した。

いいとかわるいとかじゃなくて、そこには明確な区別が存在して、

私はいま知らない町でなんとなく生活していて、

この道を曲がるとコンビニがあるのか居酒屋があるのか全く知らない。


知っているものを前にした時より、知らないものに面した時の方が、

自分を客観視できるのかもしれない。


少なくとも私は来訪者として、

いま自転車で町の風景を頭の中で薄っすらとデッサンしている。

概要をとらえることで、知らないものとの距離を測っているのかもしれない。


平和島の民家の合間にある銭湯の暖簾をくぐると、

番頭の初老女性が

いらっしゃい、

目を合わさずに私を迎えた。

私の手から500円硬貨を肌に触れずに受け取り、10円硬貨を4枚部屋の電気をつける所作のような自然な所作で私に手渡す。


彼女の雰囲気には、

『公正』『下町』そして『年季』の入れ墨が刻まれていた。


スキはないけど、品がある。

『品性』という概念の核に触れたとき、普遍的な何かを感じることがしばしばある。

『美味しいコーヒー』には深入り豆もシアトルスタイルも、アイスもホットも存在しうるのと同じように、品性にもその体現方法はいくらでも存在しうる。

 美味しいコーヒーを口に運ぶと、深呼吸できる。

築き上げられた品性を目にすると、安心するし背筋がすうっと伸びる。


ちりめんのワンピースに化粧気のない彼女は、横目で脱衣所に向かう私を確かめる。

あくまで私と目は合わさない。


彼女の品性は、財が豊富ゆえに香ってくる貴族的なものではなくて、

ひとつの仕事を気の遠くなるくらい長い時間続けてきた(実際気が遠くなっている可能性も十分あるだろう)人の、

『頑固さ』とか『静物画の美しさ』に近い、

動かない決意に由来しているように見えた。


留まる潔さによって築き上げられた『硬い品性』だ。

すくなくとも私にはそう見えたし、大きくは間違っていないはずだ。たぶん。


脱衣所に入る前に視界の隅に見えた、

番頭に並んだミニボトルのボディソープとメイク落としが新鮮だった。

見慣れたメーカーの、ドラッグストアでは見かけないサイズに詰められた洗顔料は、

割高でもなく、ただそこに無言で全隊整列されていた。



次回、お湯につかる予定。きっとそのはず。

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