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死霊術という禁忌の希望

 コンコンとまた私の部屋のドアを誰かがノックをした。


「クリスティーナ、私だ。開けてくれるかな」


 お父様の声がした。


 私はベッドのうえで動かない。


「グスタフの事は残念だった。彼はいい青年だったと思う」


 お父様は部屋の前で言葉を続けた。


「彼が無くなったことは残念だ。しかし部屋に閉じこもっていては君を守った彼がうかばれない。どうか出てきてくれないだろうか」


 お父様が心配そうに言葉を紡ぐ。


「小さい頃から仲の良かった彼が無くなったことは相当お前には辛いことだろう。クリスティーナがグスタフのことを好いていたことは知っている。私も彼は素敵な青年だと思っていた。もし君たちが望むのであれば、結婚を許してもいいだろうとすら思っていた」


 お父様が耳を疑うような言葉を発した。私と彼の結婚を認める?


 私はてっきり何処かの貴族に嫁ぐものとばかりに思っていたのに、お父様は私達を認めて下さるおつもりだった?


 私は驚きのあまりベッドから起き上がった。そしてフラフラと部屋のドアに近づくとそっと鍵を開けた。ドアを開けるとお父様が立っていた。


「私達の結婚を許すつもりだったとは本当ですか?」


 お父様は私は弱々しくお父様に尋ねた。


「ああ、本当だ」


 なんということだ。あまりのショックに私は呆然となった。お互いに想い合っていて、私達の恋愛に何の障害もなかった。ただ私達が勝手に障害があると思い込んでいただけだった。だが……


「もう遅いです」


 私の目から涙がポロポロと溢れた。


 彼はもういなくなってしまったのだから。私の力が及ばないせいで彼は死んでしまったのだから。


 お父様が私をそっと抱きしめてくれた。ポンポンと頭を撫でてくれた。でも、私の涙は止まらなかった。


「クリスティーナ、実は彼を生き返らせる方法があるんだ」


 泣きじゃくる私に、お父様はそう言ってきた。


「嘘です。私は教会の聖女です。傷を治す祈りは教会の誰よりも知っているつもりです。死者を生き返らせる方法は教会の教えになかったはずです」


 私はお父様に抱きつきながら首をふった。もし死者を生き返らせる祈りがあるのならば、既に試している。たとえ私の命を削るようなものであったとしても、グスタフが蘇るのであれば実行する覚悟がある。しかし、そんな方法は教会には伝えられていなかった。


「実は死霊術になる」


 お父様が言葉を続けた。


 死霊術?


 聞き慣れない言葉に記憶を探る。たしか、死霊術は死者を冒涜する技術として、禁忌の術と教えられていた。現在は禁忌として技術自体が失伝してしまっているはずだった。


 お父様は教会の司教である。もしかしたら方法を知っているのだろうか。


「死霊術を使えば、グスタフを生き返らせることができるのですか!お父様はその方法をご存知なのですか!?」


 私はお父様に問い詰めた。先ほどまでは悲しい気持ちだったのが、吹き飛んだ。


 禁忌だろうが構わない。彼を蘇らせるためなら何でもしよう。たとえ罪人と罵られようと、死者を冒涜したと責められようと、私はもう一度グスタフと一緒になりたい。


「私自体は知らない。ただ教会の禁書に死霊術について書かれた本がある。その本を読めば、彼を蘇らせる方法が分かるはずだ」


 お父様が答えた。


「その本を見るためにはどうしたらいいのでしょう?私でも読めますか。どうか私に読ませてください!お父様!!」


 禁書を読むことができるのは、高位の司祭にのみに限られていた。そして、教会の禁書を私が読む権限はなかった。しかし、お父様は教会の司教であり、権利を有しているはずだった。


「落ち着きなさい。死霊術は禁術だ。もし死霊術を使ったことがバレたのならば君は世間に批判されるだろう。もしかしたら、異端審問にかけられて命を落とすことにもなるかもしれない」


 お父様がじっと私の目を見つめて、言い聞かせるように言ってきた。


「そうだとしてもグスタフのことを思うのかい。もしかしたらグスタフ自身が蘇った事を喜ばないかも知れない。そうだとしてもお前はグスタフを蘇らせたいと願うのかい。


 お父様が意思を確認してきた。


 グスタフが蘇るのであればどんなことでもしよう。世間がなんと言おうと知ったことではない。少しでも彼と一緒に要られるのならば、私は躊躇しない。


 お父様の目を見つめて、私は力強く頷いた。


「グスタフと一緒にいられるなら私は何でもします」


 お父様はやれやれというようにため息をついた。


「分かった。今日のうちにでも教会の書庫から、死霊術について書かれた本を持ってこよう」


「お父様!!」


 私は再びお父様に抱きついた。ぎゅっと抱きしめて、お父様の頬にキスをした。


「死霊術のことは誰にも知られてはいけないよ」


「分かってます。お父様。ありがとうございます」


 誰にも言わない。言うわけがない。絶対にグスタフを生き返らせるんだから。


「じゃあ、本のことは私に任せて、クリスティーナは休みなさい。シスターがいうにはご飯を食べていないそうじゃないか。美味しいご飯を食べて体力をつけなさい」


 お父様が優しく勧めた。


 生きる気力が湧いてきた私は素直にその言葉に従うことにした。


        ○


 その日の夕方、食事をたべたあと、自室でゆっくりと休んでいると、お父様がやって来た。


 喜んで部屋に招き入れると、お父様の小脇には小袋が抱えられていた。


 お父様が何も言わずに差し出してきた。私は受け取って中身を開けた。


 中には辞書程度の大きさの本が入っていた。黒い革で装丁されていて、表面にドクロの模様が刻み込まれていた。


 私はそっと開けて読んでみた。


 死者をあの世から呼び戻す方法というページがあった。


 私は熱心にそのページを読みふけった。


「なにか必要なことがあれば呼びなさい」


 お父様はそう言い残し部屋から立ち去った。


「ありがとうございました」


 私はそれだけいって、再び本に視線を落とした。これにはグスタフを蘇らせる方法が書いてあるのだ。しっかりと内容を理解して、確実に手順を実行しなければならないという思いがあった。


 私は必死に死霊術の本を読み込んだ。


 何としても成功させるのだ。禁忌の術。それがなんだというのだ。彼に再び会えるのならばなんでもしましょう。



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