殻にこもる
私はグスタフの遺体とともに王都に戻った。
私の日常はそれからは輝きを失った。何をやるにも億劫だった。
私は自室に閉じこもった。
グスタフは騎士だった。何かがきっかけで命を落とすこともある。私もわかっているはずだった。しかし私には覚悟が足りなかった。彼はずっと一緒にいてくれると思っていた。
たとえ教会の騎士であったとしても、私を護ってくれることに浮かれていた。危険があることには目をそむけていた。一緒にいれることに喜んでいた。あさはかだった。しかし、彼はもういない。今更悔いたところで手遅れだった。
彼を失ったことによって、私の何かが壊れたらしい。外からの刺激にあまり反応を示さなくなっていた。何もかもがどうでも良くなった。
シスターが食事を持ってきてくれたとしても、食べる気力がわかなかった。少しは食べてくださいとシスターが言っていたが、私は聞き流した。
グスタフがいなくなってから、どれだけ彼を好いていたのか、私は後悔とともに再認識した。
小さい頃からグスタフと私は仲が良かった。もともとグスタフは教会の孤児院の子供だった。司教のお父様に連れられて、教会に良く訪れていた私は、彼とすぐ仲良くなった。年が近かったこともあり、よく遊んだ。はじめは仲の良い男の子という認識だった。それがいつの間にか恋心を抱いていた。
次第に素敵な青年に成長していく彼に私はときめいていた。彼と結ばれたらどんなに幸せだろうと想像した。
そして最後には彼も私を愛していることを知れた。お互い想い合っていた。
――最後の最後で。私の心を最後に奪って彼は逝ってしまった。
○
コンコンと私の部屋の前を誰かがノックした。
「聖女様、ギルベルトです。元気がないとお聞きしたのでお見舞いに参りました」
会いたくない。誰にも会いたくない。
私はベッドに横になったまま動かなかった。
「グスタフの事は残念でした。あいつは我が騎士団のなかでも優秀でした。」
ギルベルトがドアの向こうで語りかけてきた。
「聖女様があいつのことを気にしていたことは知っています。あいつも聖女様のことを大事に思っていました。だからこそ、聖女様には元気になってほしいと騎士団一同思っています」
失礼しましたという声のあとに、ギルベルトが去っていく足音が聞こえた。
騎士団は私に感謝しているだろう。グスタフが亡くなったあとは、私は呆然となりながらも、怪我した騎士を癒やして回ったのだから。グスタフのほかに亡くなった騎士は2名だけ。他の騎士達も重症を負っていたが、私の祈りによって一命を取り留めた。
ドラゴンに襲われたというのにこれだけの被害で撃退できたということは素晴らしいことだと騎士達に言われた。三名の犠牲は仕方のないものだったのだと言われた。
グスタフの犠牲は仕方のないものだったと。
ドラゴンに喰われながらも、決定的一撃を与えたグスタフは騎士団のなかで英雄として讃えられていた。自分の命を犠牲にしながらもドラゴンを倒し、聖女を守り切った彼の活躍は美談として語られていた。
私はベッドの上で小さく丸く膝を抱えた。