囚人
目が覚めたとき、私は馬に乗っていた。ロープで後ろ手に縛られており、落馬しないようにギルベルトに後ろから抱きかかえられていた。
太陽はすでに高く登っていて、私が意識を失ってからかなり時間が立っていることがわかった。
今何処にいるのだろう。馬に乗っての移動だ。もう私達の家からもかなり遠く離れてしまっただろう。
「目を覚ましましたか」
私が目を覚ましたことに気がついたギルベルトが問いかけてくる。
その問いかけに私は沈黙で返した。意識のないまま彼にここまで連れ出されたのだ。私の願いを聞き届けてくれなかった彼と素直に会話する気はなかった。
あのときにギルベルトの剣で殺してくれたら良かったのに。それか意識がなくなったときに、あのまま森の中に放置してくれたら良かった。もしかしたら黒狼でなくとも、ほかの魔物に食べられるかもしれなかったのだから。別々の魔物に食べられることは本意ではない。しかし、今このように生き延びて、囚人のように後ろ手を縛られてしまうよりはマシだ。グスタフを一人行かせてしまうくらいなら、あそこで死にたかった。
私はすこしでも状況を把握しようと、周りを見渡す。私達が今歩いている道が一本だけ途中で途切れることも別れることもなくまっすぐ続いていた。道の右手には少し離れたところに小さな森が広がっていた。左手には草原が広がっていた。
どこか見た覚えのある景色だ。街から遠出したときにここを通ったのかもしれない。となると、間もなく街も見えてくるだろう。
街についたらどうなってしまうだろうか。
きっとギルベルトは私を教会に突き出すのだろう。
これまでに私が行なった罪は、殺人が2件、墓荒らしが数件、禁術の使用が一件。なかなかのもの。しかも一件は親であり、司教であるお父様を殺している。私は教会の聖女であり、大罪人なわけだ。きっと教会の聖女であっても相当に重たい罰が課せられるだろう。
暫く道を進んでいると、街が見えてきた。
ついにやって来てしまった。癒やしの巡礼から戻ってきたときは、街の姿を目にしたらは「やっと戻ってきた」と安心したのに、今はそんな思いは湧いてこない。
私とギルベルトを乗せた馬はパカパカと歩を進めた。
「これから貴方は罪を償うことになります。グスタフもきっと貴方が生きているを喜ぶでしょう」
ギルベルトが後ろから語りかけてきた。
ギルベルトになにがわかるというの。私ほどグスタフのことを理解しているものはいない。グスタフは私とずっといたかったの。
「これを羽織ってください」
街を囲む城壁に近づいてきたときにギルベルトがフード付きのマントを差し出してきた。
しかし私はそれも無視をした。ギルベルトにされることはとことん無視する。そもそも私は両手を縛られている。マントを差し出されても私ひとりでは着ることができない。
差し出されたマントにも反応しないでいると、ギルベルトに後ろから無理やり着せられた。顔を隠すようにフードまで被らされた。確かに教会の聖女が教会騎士に縛られて連行されているなんて、外聞はよろしくない。教会だってそうだろう。聖女は聖女らしく民に対して慈愛に満ちて、清廉潔白であることが望まれる。後ろ手に縛られた聖女は街の噂話の格好のネタになる。しかし顔を隠すようにフードまでかぶったものが教会騎士と一緒に入ってきた程度なら酒の席で話題にのぼることもないだろう。
私はなにものであるという肩書もなく城門をくぐり抜けた。
城壁のなかに入ると、ここからでも街の中央にそびえ立つ教会が見えた。
神の教えを説き、民に心の拠り所を与える教会。信心深い民には神聖な場。かつて私が聖女として務めを果たしていた場所。
今の私には近寄りがたく恐怖を感じる場所。
そんな私のことなどおかまいなく、ギルベルトは馬の頭を教会に向けた。石畳の道をコツコツと踏み鳴らし、馬はしっかりとした足取りで進んでいく。
私に裁きがくだるのもあと僅か……




