ずっと一緒になりましょう (2)
黒狼に弄ばれ続けたグスタフはぐったりと地面に横たわるだけになった。
黒狼がさらに転がしてもほとんど反応しない。
黒狼はフン、と鼻を鳴らした。「もう壊れてしまった」というように不満げだ。
黒狼は大きな口を開けるとグスタフの体に噛み付いた。鋭い牙が突き刺さり、グスタフの体から大きく肉が削がれる。腕がもぎ取られた。足も噛みちぎられた。骨も関係なくバキバキと噛み砕いた。グスタフの体からは血がだくだくと流れ落ちた。
黒狼はグスタフを食べている間は、私をじーっと観察していた。グスタフが無残な姿になっていき、私が顔を歪めるたびに黒狼は愉快そうに鼻を鳴らした。一緒に死にに来たのだけど、弄ばれるのは気分が良くない。
私の愛するグスタフはすっかり黒狼に食べられてしまった。
黒狼はグスタフの血で汚れた口周りを舌で舐めた。
次は私の番だろうか? ついにグスタフと一緒になることができるだろうか?
黒狼は私に近づいてきた。
私は逃げることはしない。むしろ、私は両手を広げて黒狼を迎え入れる態勢だ。
「さあ私を食べて。私とグスタフを結んでちょうだい」
黒狼はどんどん近くにやってきて、もう目と鼻の先にいる。
手を伸ばせば触れてしまいそう。
黒狼は私に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
黒狼の口からは血の臭いが漂っていた。
黒狼は私をぺろりとなめた。
黒狼は大きな口を開けた。鋭利な牙が国労の唾液でぬらぬらとテカっている。
私は迫ってくる大きな口を見て、笑みがこぼれてしまった。
ついについにグスタフと一緒になることができる。魔物のお腹の中で一つになることができる。
もう私達を邪魔するものはいなくなる。
少し先に行ってしまったグスタフを追いかけることができる。
私は目をつむり、最後のときが来るのを待ちわびた。
……
……
いくら待っても、激痛が襲ってくることはなかった。さらには、すぐ目の前にいた黒狼の気配が離れていった。
不思議に思い目を開けてみると、黒狼は私に背を向けて歩み去っていくところだった。
「まって!」
慌てて追いかけた。
グスタフだけを連れて行くなんて許さない! 私も食べてもらわないと困る! こんな世界に一人おいていかないで!
「まって!」
私はすぐに息が切れてしまう。教会の聖女として大切に育てられたつけだ。
私は死ななくてはならない。このままグスタフだけをいかせるものか。
私は手に持っていた松明を黒楼に投げつけた。
黒狼は身をかがめて、容易に避けてしまう。黒狼は地面におちた松明を踏みつけ、消火してしまった。
私は近くに落ちていた枝を拾うと黒狼に投げつけた。
これも尻尾で受け流される。
私は走って、黒狼に追いつくと尻尾にしがみついた。でも、黒狼が尻尾をひとふりだけで手を離してしまった。そのまま勢いづいた私は近くの木に叩きつけられた。
肺の中の空気が全部出ていってしまう。息が出来ずに咳き込んでしまい、身動きが取れない。
その間にも黒狼はどんどん遠ざかっていく。
黒狼は顔だけを私に向けると、ニヤリと笑いかけた。
「おまえを殺すとおまえを喜ばせるのだろう? なぜ喜ばせなければならぬのだ」
私の頭の中で声がした。低く籠もった声がした。
黒狼のほうを見ると、黒狼はさらに口角をつり上げた。
あいつの声だ。きっとあいつが何らかの力を使って話している。
「私を食べて! グスタフだけを連れて行かないで! 私も一緒に連れてって!」
去っていく黒狼に懇願するが、歩みが止まることはない。
「ならぬな」
頭の中に声が響く。
黒狼は残酷にグスタフを喰い散らかし、私に見せつけた上で、私は殺さずに見逃すつもりか。
黒狼は私をおいて遠くへ行ってしまった。もう姿は見えない。グスタフをその腹に納めて……死にたがりの私はおいていかれた。
どうしてこうも上手くいかないのだろう。
私はただグスタフと一緒に暮らしたいと願っていただけなのに。
どうしてなの?
私は膝を抱えて座り込んだ。
松明の火は消え、黒狼が発していた紫炎もなくなってしまった今、周りは月明かりだけだった。その月明かりも森の中ではほとんど届かない。ほとんど見えず、闇が私を包み込んでいた。
あの黒狼の縄張りなのか、他の生き物たちが近づいてくることはなかった。
○
遠くに明かりが見えた。松明の明かりだ。
松明はだんだんこちらに向かってきていた。
金髪の男が一人やって来た。
「聖女様大丈夫ですか」




