密会
いつの間にか私は眠ってしまっていたようだった。窓から見える景色は薄暗く日が暮れていた。
私は気分転換も兼ねて、夜風に当たることにした。一人になりたかったので、おつきの人達には知らせず、そっと部屋をでた。
宿をでて、村々を自由に歩きまわる。私達が訪れている村は、農業が中心の小さな村だった。白い漆喰の壁に藁葺き屋根、質素な作りの家々が並んでいた。もう村の人たちは家に籠もっているのだろう。人通りはまったくなかった。
ふらふらと歩いていると騎士が一人村の外れで佇んでいるのがみえた。グスタフだった。グスタフは愁いをおびたように遠くを見つめていた。凛々しい姿に胸がドキッとした。
私はそっとグスタフに近づいた。
「グスタフ」
グスタフが振り返る。私の姿を見るとグスタフは頭をさげた。
「聖女様」
「聖女様なんて言わないで。昔のように名前で呼んで」
私は懇願した。昔のように親しげに読んで欲しい。今は私とグスタフだけ。遠慮する必要なんてない。
「クリスティーナ様」
彼の口からでたのは敬称。そうじゃない。私は首をふった。
「クリスティーナ」
小さい頃から呼ばれていた名前。私はグスタフの胸に寄りかかる。けれどグスタフは抱きしめてはくれない。
「ねえ、グスタフ。私もう少しでお嫁に行っちゃうかもしれない」
グスタフの胸に顔をうずめながら言った。
「……」
私は言葉を続ける。
「お父様に言われるままに知らない人と結婚して、子供を産むの」
私は貴方と結婚したい。知らない人と結婚なんて嫌。……そんな言葉を投げかけることができたらどんなにいいだろう。
「……」
「その時は貴方は祝福してくれる」
無理って言って。
「……もちろんです」
一瞬の束の間、グスタフは答えた。
「ほんとは結婚なんてしたくないの」
私は言い募る。
「……」
グスタフは私に声をかけてくれない。
「ねえ、グスタフ。私を遠くに連れてって言ったら連れてってくれる」
少しの希望を込めてグスタフに問いかける。
「……クリスティーナが望むなら」
グスタフからは了解の言葉が。でも私の言った意味とグスタフの思っている意味は一緒?
「気分転換にちょっと出かけるというわけじゃないの。グスタフと遠くに行って、そこでずーっと一緒に暮らしましょうって言ったらどうする。もう教会には戻らないで」
それでも一緒に行きましょうと言って。私と一緒に暮らそうって言って。
私は必死に念じた。
小さい頃は私の騎士になるって言ってくれたでしょ。だから、お願い。
グスタフは寄りかかる私をそっと引き離す。
「私は教会の騎士です。クリスティーナ、あなたが望むなら遠くへ案内しましょう。しかし教会に戻ることが約束です。私は貴方の気持ちにこたえることができない」
グスタフからでたのは拒絶の言葉。
「わかった」
私はそっと視線を落とす。
「困らせるようなことを言ってごめんなさい」
小さくいうと私はグスタフに背を向けた。そして宿屋に戻るべく歩きだした。グスタフに私の泣き顔を見せないために。
宿屋の自分の部屋に戻ってベッドに身を投げだした。
グスタフは私ではなく教会を選んだ。その事実が私の胸を苦しめた。私だけが過去の約束に期待していたらしい。
その日はずっと泣いた。周りの人たちに聞こえないように声を押し殺して泣いた。そして私はいつの間にか泣きつかれて眠ってしまった。




