狼狽
「クリスティーナ……クリスティーナ……どこにいますか?」
朝、グスタフが起きると大変だった。
当然だ。もう彼は目が見えなくなってしまったのだから。
「グスタフ、ここにいるよ」
目が見えずに混乱するグスタフの手を取って、私がいることを伝える。
「見えないんです。目を開けているはずなのに、まったく見えないんです」
「目が見えないの。まあなんてこと……」
うろたえたような声を出すように努める。
「じっとしていてね」
私は彼の瞳を持ち上げて眼孔をのぞき込む。
「グスタフ、落ち着いて聞いて。……いい。あなたの目がどろどろに溶けてしまっているの。これじゃあ見えない」
「そんな……なんで」
「もしかしたらあなたのけがが関係しているのかもしれない。あのドラゴンを殺したけど、あなたも相当のけがを負った。その時にドラゴンに毒か呪いかをかけられたのかもしれない。日にちがたってようやく発現したのかも」
「癒しで治せないのですか」
「ごめんなさい。こんな状態になってしまっていては……もう」
もしかしたら治せるのかもしれない。けどそれだと意味がない。
「……見えない」
彼は声なく泣いた。私はそんな彼をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫、私がいるから」
〇
グスタフは家から外にでることがなくなった。移動するときは私が手を取って導いてあげる必要があった。そのたびにグスタフはありがとうと言ってくれた。
私が手伝ってあげれないときは、一人で壁を伝って歩くらしい。そのことを聞くと視覚を奪ってしまったのに罪悪感を覚えた。
でもこれで彼は自身の腐っていく体をみることもないのだ。次第に黒ずみ、どろどろに溶けていく体を見る事もなくなる。
……すべては彼のため。




