光を失う
マルグリットおばさんから買った野菜で夕食を作る。今日も「おいしい」ってグスタフの声が聞けるかな。
今日の料理は特別な隠し味も入れてあるから味わって食べてね。
○
食事を食べた後のグスタフは眠いと言って、すぐに自室に引き上げてしまった。
「グスタフ、寝た?」
グスタフの部屋を除いて様子をうかがう。
グスタフはベッドに横になって目をつむっていた。私が部屋に入ってきても反応しない。
ベッドの隣にたち、グスタフを観察する。グスタフは穏やかな表情で眠っていた。胸が規則正しく上下していた。
私はゆっさゆっさとグスタフの肩を揺らす。
「ねえ、本当に寝ちゃったの?」
つんつんとグスタフの頬をつつく。それでも反応しない。
力が抜けて眠ってしまっている顔もかわいい。
私はグスタフの頬にキスをした。
「良かった。グスタフに痛い思いはさせたくないもの。寝てたら痛くないよね」
グスタフのために今日の料理には強力な麻酔薬を入れていた。手術で使うときに使われる強力な麻酔薬だった。たとえメスでお腹を切り開いたり、のこぎりで足を切り落としたとしても目覚めることはない。
私自身は癒やしの祈りを施すことができるので麻酔を使った手術に携わることは少なかったが、それでも教会に勤める聖女の教養として麻酔薬の作り方、扱い方を心得ていた。いつも癒やしの祈りを施せるとは限らないからだ。癒やしの祈りが施せないときに、緊急の手段として学ばされていた。幸いなことに癒やしの神に見限られることはこれまでになく、私の治療で麻酔薬の出番はなかった。
医者の先生に麻酔薬の扱いを教えられていたときは、なぜこのようなことを覚えなければいけないのだろうと思っていた。私は教会の聖女で女神に愛されているのだから、一生麻酔薬なんて必要ないと考えていたのだ。
でも今は麻酔薬の扱いを教えてくれた医者の先生に感謝する。もし、麻酔薬の取り扱いを心得ていなければ、これから行うことが困難であっただろう。
ほんとうに麻酔薬の扱いを学んでいて良かった。麻酔薬のおかげで、これからグスタフの身に襲いかかる痛みを取り除くことができるのだ。
ベッドに眠るグスタフのお腹の上に私はまたがった。
愛しのグスタフの顔をなでる。愛しのグスタフ。これから行うことを許してね。
グスタフのまぶたに私の親指を添えた。グスタフの丸い眼球がまぶたを通して感じられる。しばらくまぶたを親指でなでる。
いざそのときとなるとさすがに躊躇してしまう。
彼は深い眠りについている。痛みを感じることはない。自分がすでに一度死んでいることを気づかせないために必要なこと。
それに今行えば、彼はますます私を頼るしかなくなる。私以外にグスタフの世話をできる人はいない。グスタフは何をするにしても私の助けが必要になる。ますます私に感謝して、私を求めてくれるだろう。
私はグスタフのまぶたをなぶっていた親指に力を込めた。
ズブズブと親指を押し込む。
グスタフの瞳は軽く反発したあと、ぷつりと潰れた
彼の眼孔になんども親指を出し入れする。そのたびにグスタフの眼球がぐちゃぐちゃになる。
やっちゃった。
もう彼の眼は役に立たない。彼はこれから暗闇の世界に生きる事になる。
……そっか。もう私の姿を見せてあげることもできないのか。




