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癒やし

 ――13年後


 教会の聖女として私は小さな村々を巡り、教会の教えを説いていた。


「――ですから、神様は私達を見守ってくださっているのです」


 私の前には、50人ばかりの人々がひざまずいていた。いかに神様が素晴らしいのか、いかに教会が人々のために働いているかを、私は人々に語り聞かせた。過剰に脚色して、過剰に綺麗事を並べ立てて説明した。人々はそんな私の話をありがたそうに聞き入っている。私の一挙手一投足に注目し、一言も聞き逃すまいと物音一つ立てずに耳をそばだてていた。嘘八百に飾り立てられた教会の教えを。


 真面目に聞き入っている村人の人々には悪いのだが、私自身はそんなに真剣に話していなかった。私がいま口にしている説法は何度話してきたことだろう。教会の権威を高めるために、村々にいくたびに同じ説法を行っていた。何度話したかなどもう覚えていなかった。


 私は口を動かしながら、左斜め前にたっている一人の騎士を盗み見た。私を守る護衛騎士のグフタフ。私と村人の間に立ち、剣の鍔に軽く手をかけて、いつでも動けるようにしている。凛々しい横顔に、ついつい目が引きつけられてしまう。


「――それでは私と一緒に祈りを捧げましょう」


 私の言葉に、敬虔な信者である村人たちは、素直に目をつむり黙祷した。私自身はこっそりと、もう一度グスタフを盗み見た。グスタフは黙祷せずに村人に鋭い視線を向けていた。


 しばしの黙祷のあと、村人のなかからでっぷりとお腹のでた男が進みでてきた。この村の村長だ。汗が額に浮き上がり、服もシミができている。


「聖女さま、今日はありがたいお言葉をお聞かせいただきありがとうございました。村の者共も感謝しております」


「これも神様のお言葉を伝えるためですもの」


 私はにっこりと微笑みかけた。そんな私を見て、村長は若干頬をゆるめた。気持ち悪い。男の人はたいていそう。私が微笑みかけるとにやけた笑いを浮かべる。


「それでは癒やしを必要としている人たちの元に案内していただけますか」


 私は村長に問いかけた。


「もちろんです。どうぞ、こちらへ」


 私とグスタフは村長のあとについていった。グスタフは常に私のことを気遣ってくれた。グスタフが近くにいてくれることが嬉しかった。


 案内された場所には寝台が八台ならんでいた。苦しそうに死を待つものたちが寝ていた。顔を歪め咳き込むものや、ヒューッ、ヒューッ、と息をするのも苦しそうなものたち。


「聖女様、この者達は助かるのでしょうか」


「わかりません。神様のご慈悲があれば彼らは助かるでしょう。私は神様にお頼みするだけです」


 私は村長に言い聞かせる。これから行うことは神の御技であり、信仰深くいれば神は報いてくれると。教会の聖女として、教会の信仰を高めることも私の仕事だから。


 私は一人の患者のそばに立った。患者の上に両手をかかげて祈りの準備をする。患者は薄目を開けて私を見上げた。なにか口を開いて言おうとするのだが、ヒューヒューと空気が漏れるばかりだった。


 大丈夫ですよと囁きかけると、私は祈りの言葉を口にした。


「癒やしの女神よ、この者を苦しみから解放したまえ、この者の傷を癒やし、病を追い出したまえ――」


 私は癒やしの女神に祈りを捧げた。私の体がほんのりと熱くなり、体の中心から患者にかざしている腕に向かって、温かい何かが移動していくのを感じた。私の手のひらから柔らかな光がでてきた。そして光の玉がゆっくりと手のひらから落ちた。光の玉はふわりと漂いながら、患者の胸元に落ちていき、患者の体に入っていった。患者の呼吸は整い、穏やかな表情になった。


「……奇跡だ」


 様子を見ていた村長が声を上げた。私は村長にニコリと笑みを向けた。そして静かにというようにそっと指を口の前にたてた。


 私は病気の患者を一人ずつ癒やしていった。癒やしを施された患者は皆穏やかな表情で眠りについていく。


 癒やしを終えた私は軽い疲労感を覚えた。少し足がふらついてしまう。グスタフが近くに駆け寄ってささえてくれた。グスタフに触れられたところがあつくなってしまう。私の少し鼓動も早くなった。彼に伝わってしまうだろうか。


 グスタフに支えられながら、村長に用意してもらった宿に移動した。グスタフは私を部屋まで導くと、私はこれにて、と言い残して出て行ってしまった。もっと一緒にいたかったのに。私は少し寂しく思いながら部屋に篭もる。


 私は宿のベッドの上に横になった。まぶたが重い。


 私は目を閉じながら今後のことに思いを巡らせた。


 今年で私も18歳になる。私も適齢期。何処かの家に嫁ぐころあいだった。私の父は教会の司教。教会の発展をさせようと日々働いている。そんな司教のお父様のところには、沢山の縁談話がきているらしい。噂では王族との縁談話も舞い込んでいるとか。もし有力な貴族のところに嫁ぐことができれば教会への寄付も増えるだろう。教会の事業を拡大し、さらに大きな権力、権威をえることができるようになるかもしれない。司教の娘として養子に迎えられた私は、お父様に結婚しろと言われれば拒否なんてできるはずもない。


 でも、結婚なんてしたくない。私は枕に顔をうずめる。


 結婚のことを思っていると、どうしてもグスタフの事が気になってしまう。孤児院にいたころはよく一緒に駆けまわったものだった。昔のことを思い出して笑みが溢れてしまう。小さな体の泣き虫グスタフ。必死に私のあとをついてきて、いつもそばにいた。私のほうが大きく大人びていたから、私がお姉ちゃん代わりにグスタフの面倒を見てあげていたっけ。それがいつの間にか私より大きくなって、剣の腕なら誰にも負けない逞しい騎士になってしまった。今じゃ私の護衛騎士。立場が逆転して私が護ってもらっている。


「グスタフのお嫁さんになる」なんて小さいころの私はよく言っていた。小さいころは本気でそう思っていた。素敵な白いドレスを着て、教会のシスターたちに祝福されて、グスタフと幸せな結婚をするんだと思っていた。グスタフも照れながらも頷いていたし、嬉しそうにニマニマ笑みを浮かべていた。小さい子供が見る無邪気な夢だった。


 でも今では教会の聖女と教会に仕える騎士。私は教会の道具として、嫁ぐことだろう。そうなったらグスタフは私を祝福するのだろうか。少しばかりは悲しんでくれるだろうか。


 グスタフ、貴方はいまどう思っているの。


 私がお嫁に行ってもいいの。


 ……


 ……

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