私、新たな始まり
それからはひたすらに本の扱いと札の制作。時々邪魔が入るものの、概ねわたしは順調にやるべき事をこなし、気がつけば春が来ていた。今は4月の1日である。
「ねぇ芽依ちゃん?さすがにそれは雑すぎな説明じゃない?」
「いやだって、あんなに色々やってかなり上達したけれどもずっと同じことをひたすらに教える必要無くない?」
「うーん。まぁ確かに小学生の絵日記じゃないからそれでもいいのか...いやいや、やっぱりしっかりと伝えるべき所とかあるでしょ。エテのその後とか蒼太の後の神の件とかさぁ」
いや、まぁなんとかなったので良しとしようとしかいいようがない。だって毎日同じように過ごしていて気がついたら桜が咲く季節になっていたのだから。春眠暁を覚えずというようにわたしは微睡みの中に居たかのように全てがあっという間に過ぎていくような気がしていたのだ。
「まぁ芽依ちゃんがそれでいいならいいんだけどさ。でも確かに良く思い出そうとすればするほど記憶がボヤけてくる気もするんだよね。実は何かの問題が起きてたりして」
「それは無いんじゃない?あ、でも1つだけ違和感を感じることがあるといえばあるよ。結構気疲れしてるはずなのに体が妙に軽いんだよね、まるで生まれ変わったみたいだよ」
桜並木を越えてわたしは学校に向かう。そうして見えてきた学校の門にはこれでもかと飾られた祝、御入学や入学式会場の案内の張り紙等が至るところにあった。
周りにはこの夜ノ守に入学をするピカピカの1年生が多く居た。今日はこの学校の入学式の日であり、2年生となった友梨には全く関係のない休日だったのである。
流石に最近うとうととして日常を過ごした身とは言え、まさか休みの日に登校してしまうという何とも恥ずかしい出来事にわたしは今更ながらきづいたのであった。
「これは今日、休みだったみたいだな!まぁこんな失敗もまた、青春だな!」
「ここに私含めて6人もいて誰も気付かなかっただなんて。せめて誰にも見つからないうちに離れなきゃね」
「春休みでボケたかなぁ?」
とりあえず私達は部室に逃げ込むことにした。この朝方の時間にうろうろとすれば誰からもめだってしまうが、夕方であれば他の新入生に紛れて帰ることが出来るのでその時間までひたすらに待とうという訳である。というか家に帰っても何か気まずいしね。
部室の前に私が着くと、自然と鍵が開き、扉がゆっくりと開いた。
「イッタイイツマデワタシタチヲホウチシテオクツモリダッタノデスカ」
「ススス(冬休み開けから数度来ただけでその後は部室にも来ないなんて)」
「え?そうだっけ?割と来てたような...来てなかったような?」
「ニカゲツモサンカゲツモホウチサレルナンテワタシハカナシイデス」
「ススス(でもこうして帰ってきてくれて良かった。正直忘れられたかと思った)」
そっか、基本私に憑いてたり私が使役してたりするのは何時でも会えるからあんまり気にしてなかったけどこの子達はそうじゃないもんなぁ。
でもだからといって本で運ぶことは出来ないからなぁ。例えば2番とかが着ている服やシュテンの持ってる金棒等は存在そのものが思念の力なのか霊力なのか知らないけど自らの一部として扱われる代物なので仕舞うことは出来るし、本人も自由に形を変えたりすることもできる。
しかし、この人形はそうじゃない。理屈としては人間を本に収納すると、体と魂が分離するように、動かない人形を私が持って移動するので、それでは私の目的にはそぐわないことになるので、この方法は無理なのだと思った。私はこの数ヶ月で、身につけた知識がしっかりと身に付いていることに少々の満足感を覚えつつ、部屋に入った。
「いや、満足したところでなんの解決にもなってないよ?芽依ちゃん」
2番の言葉に全力でスルーしつつ、とりあえず今日をどう過ごすかを真剣に考えることにした。
式はおそらく3時前には終わるはずだからそれぐらいに出るのは良いとして、出来れば校門に居るであろう先生には見つかりたくないからそれより早くに出ていきたいんだよね。
「裏門なら誰も来ないから人払いの札だけ貼って俺達が芽依を持ち上げるのはどうなのか?」
「それはいい考えかもしれないけど、その札を誰が回収するの?」
「門の部分に貼り付ければ向こうからでも手が届くんだからなんとかなるんじゃない?」
「それもそっか。じゃあそれでいこうか。」
私はこの数ヶ月にもなる鍛練の結果、札の威力を格段に強めることに成功していた。今までは気持ち的に少し近寄りたくないなぁなんて思う程度だったが今ではかなり嫌な気持ちが強くなるようになったのだ。例えるなら今ではちょっと薄暗い脇道程度の怖さだったものが心霊スポットぐらいには避ける気持ちが大きくなる程度である。
まぁそのせいで、この世界に詳しい人には一発で人よけって見破られるんだけどね。そこも何とかして初めて1人前なんだって教わったからなぁ。先は長いよ。
ああ、またはじめからつまづいた気分だよ。
人形ブレイクタイム
西「.........」
日「.........」
スズ「あれ?誰も喋らないの?」
西・日「ココデ嘆イテモ仕方ガ無イコトニ気付キマシタ」
スズ「それで?」
西・日「作者ヲ叱責シテキマス。多分次は早クニ上ガル予定デス」