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いちごみるく  作者:
4/6

篤人くんとお勉強②

 篤人くんと付き合い始めて、これが初めての定期テスト。今まではテスト前に学校に残って勉強したりしてこなかったから、他の教室にも何人か残って勉強してる人がいることにちょっとだけ驚いた。


「結構みんな残ってるね。」


「うん。僕、今学校に千紗ちゃんと2人っきりだと思ってたのに。」


「え、先生何回か廊下通ってたよ?」


「……もう、千紗ちゃんってばそういうことは言わなくていいの!」


「え、ごめんっ」


 わたしが謝ったら、篤人くんは「んー、まあでも、それが千紗ちゃんらしいけど。」って言って笑ってくれた。なんだか、申し訳ない。


 その後も、いつもの帰り道みたいに他愛ない話をしながら歩いていると、前方にジュースを飲みながらこちらに歩いてくる男の子の集団がいた。……あんまり鉢合わせしたくなかったな。今せっかく篤人くんと2人なのに。

 そんなことを思っていると。



「……あれ、篤人?」


「とその彼女さん?」



 男の子たちが言った。


「……げ。」


 隣の篤人くんが発したのは、短いけれど絶望感が伝わってくる言葉。み、見られたらまずかったのかな…?


「なに、彼女超可愛いじゃん!」


「どーりで篤人が毎日先に行く訳だ。」


「だよなー! 毎日校門が見えたら走ってくからそんなに隠したいのかと思ってたけど、こんだけ可愛けりゃ隠したくなるわー。」


「名字教えてくれねーし、教室にも見に来るなって徹底してたしなー。」


 篤人くんが呟いたのと同時に、口々に言い出した男の子たち。よく見ると……サッカー部の人たちかな?

 可愛い可愛い言われると、今まであんまり言われたことがない分、ものすごく恥ずかしい。


「ちさちゃんだっけ? 篤人なんかやめて、俺にしとかない?」


「あ、はは……」


 篤人くんしか見えてません、なんて恥ずかしくて言えなくて、わたしは曖昧な笑顔でごまかした。


「って言うか、篤人にはもったいねー!」


「わかるー。」


 ……そんなこと、絶対ないのに。寧ろ、わたしに篤人くんが勿体ないよ。

 そう言おうと思ったら、篤人くんが口を開いた。



「……うっさい。」



 わたし、拗ねた声でそう言った篤人くんが、1番可愛いと思う。


「ぶははっ、悪い悪い。」


「怒らすつもりじゃなかったんだって篤人ー。」


「冗談だから、ホント。な?」


「絶対僕で遊んでるくせに。……行こう、千紗ちゃんっ」


「え…、あ、うん。」


 篤人くんがぐいぐい手を引っ張って歩き出したから、わたしはサッカー部の人たちに軽く会釈して、篤人くんに着いて行った。



「……あの、篤人くん?」


 さっきまで沢山話をしてたのに、急に黙ったまま歩く篤人くん。なにかあった……としたら、さっきサッカー部の男の子たちに会ったことくらいだけど。


「どうかしたの? さっきの人たち、サッカー部の人たちだよね? ……あの、さっきのは、ケンカしたわけじゃないよね?」


 わたしが聞くと、篤人くんは立ち止まって、わたしのほうを向いた。


「……千紗ちゃん。」


「ん?」


「あんま、他の男の前で笑ったりしないで。千紗ちゃんの笑顔は、僕だけが見てたい。」


 ……だったら篤人くんも、わたし以外の女の子と楽しそうにしないで。わたしだって、篤人くんを独り占めしてたいよ。


 篤人くんの言葉は嬉しかったのに、思わず、そう言ってしまいそうになった自分に驚いた。


 駄目、……駄目。絶対駄目。


 何度も、自分に言い聞かせる。わたしは、彼女として篤人くんの隣に居られるんだから、わたしの笑顔を見てたいって言ってもらったんだから、それで満足しないと。


「えっと…、篤人くんがそうしてほしいなら、頑張ってみるね。」


 欲張っちゃ、駄目。


「うぅ…、なんかごめん。」


 篤人くんはしゅんとしてしまった。


「僕、あれくらいで嫉妬なんかして、格好悪いね。」


「え? わたし、そんなこと思ってないよ。」


 むしろ可愛いなって思う。それに、本当のこと言うと、嫉妬してくれて嬉しかった。


「……ホントに?」


「うん、本当だよ。」


 にっこり笑って言えば、篤人くんも安心したように笑った。


「よかった……」


 篤人くんのこの笑顔が見られるんだから、わたしは幸せ者だ。呟いた篤人くんを見て、そう思った。


「はやくいちごみるく買って、教室戻ろう? 化学が待ってるよ。」


「え、じゃあもっとゆっくり歩こうよ千紗ちゃん。」


「もう、またそんなこと言って。」


 わたしと篤人くんは笑いながら、自動販売機に向かった。



 もちろん、その後はちゃんと、時間ギリギリまで化学の問題を解いて、いつもみたいに手を繋いで家路についた。

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