篤人くんとお勉強①
「じゃあ、まずは数学からしよっか。提出しなきゃいけない課題、数学が1番多いし、早く終わらせたいよね。」
「え、いきなり勉強するの?!」
「……え? しないの?」
テスト1週間前になって、わたしは約束通り、篤人くんと放課後、教室に残ってお勉強。……だけど、篤人くんはなんだかあまり乗り気じゃない御様子。
わたしは、一緒に勉強するの、楽しみにしてたんだけどな。……放課後は、いつも篤人くんの周りにいる女の子たちもいないし。
「もうちょっとこう、何て言うか……せっかく、教室に2人っきりなんだよ? その時間全部勉強に使うなんてもったいない! ……気がする!」
「えっと……」
確かに、クラスの皆は早々に帰るか図書室に行ってるから、教室には篤人くんとわたしだけ。それは、もちろん、わたしだって嬉しいけど……
「で、でも、それとこれとは別でしょう? 勉強しようって決めたんだし。……ね?」
「えー。」
そう言った篤人くんがなんだか可愛くて、思わず笑ってしまった。わたしは、篤人くんと一緒にいられるだけでも嬉しいんだけど……。篤人くんがそれだけじゃ物足りないなら、なにか楽しくなるようなことがないかなって考えて思い浮かんだのは、いちごみるくのことだった。
「ねぇ、じゃあこうしようよ篤人くん。今から、1時間で数学の課題を1問でも多く終わらせたほうが勝ち。負けたら、いちごみるくおごるの。」
「いちごみるく?!」
篤人くんの顔が輝いた。
「うん。1時間頑張ったら、買いに行こう?」
篤人くんは、わたしの大好きな笑顔になった。
「うん、千紗ちゃんと一緒に買いに行くのを楽しみにしたら、頑張れそう!」
「ふふ、よかった。」
いちごみるくが大好きな篤人くん。だけど、わたしと買いに行くのが楽しみに、って言ってくれたから、いちごみるくよりは好きだって思ってもらえてるのかな。そう思うと、わたしも嬉しくなった。
「いちごみるく買った後は、化学やろうね。」
「え、そんな! 千紗ちゃん鬼!」
「聞こえませーん!」
わざとらしく耳を塞いで答えてから篤人くんの方を見ると、ぽかんとした篤人くんと目が合った。それからどちらからともなく笑い始めて、しばらく笑い合った後。わたしも篤人くんも、ちゃんと数学の課題にとりかかった。本当に、鬼のような量だから、現実を見るとやらざるを得なくなると言うか何ていうか……。
「千紗ちゃん、5時だよ! いちごみるく早く買いに行こう!」
よっぽど楽しみだったのか、時計の針が5時をさした途端財布を持って席を立った篤人くん。目がキラキラしてる。
「あ、うん。でも、何問解けたかまだ確認してないよ?」
数学のワークをちらっと見てみたら、篤人くんのほうが進んでる気がする。だったら、わたしがおごる約束なのに。
「いいよ、僕が2人分買うから。」
「え、そんな、解いた問題が少ないほうが買う約束なのに。」
「いいのいいの。100円だし、気にしないで。」
「え、でも……」
「僕、千紗ちゃんの彼氏なんだよ? いちごみるく1つもおごらせてくれないの?」
「う……」
「ねぇ、千紗ちゃん?」
首を傾げた篤人くんの可愛さに、思わず頷いてしまった。
「よし、じゃあ行こうっ」
満足そうに笑うと、篤人くんはわたしの手をとって、意気揚々と教室を出発した。






