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いちごみるく  作者:
2/6

温子ちゃんとわたし

「おはよ、千紗。」


「あ、おはよう、温子ちゃん。」


 顔を上げると、朝練が終わって、教室に来ていたらしい温子ちゃんが、わたしのノートを覗き込んでいた。


 温子ちゃんの髪の毛はぼさぼさで、それがなんだか可笑しくて、くすっと笑うと、温子ちゃんは「なぁにー?」って不満そうな顔をした。


「温子ちゃん、髪の毛ぼさぼさだよ。」


「……別に気にすることないでしょ、髪くらい。」


「もう、またそんなこと言って。」


 バスケ部に所属する、運動神経抜群の温子ちゃんは、さばさばしてて飾り気もなくて、みんなから好かれてる。

 もちろん、温子ちゃんのことが好きな男の子だっているのに、温子ちゃんったらいつもこんな感じで、可愛いのにもったいないなぁ、ってたまに思う。

 でも、それも含めて全部が温子ちゃんで、そんな温子ちゃんだから好きなんだけど、ね。


「貸して? わたし、梳いてあげるから。」


「え、いいよそんなの。気にしてないし。」


「遠慮なんてしなくていいよ。わたしがやりたくてやるんだから。」


 わたしが言うと、温子ちゃんは諦めたように笑って、椅子を持って来てわたしの隣に座った。


「……今日は化学なのね。」


「うん? なにが?」


 わたしはポーチから櫛を取り出しながら、答えた。


「いや、いっつも数学してたでしょ?」


 温子ちゃんが言うから、広げてある化学の問題集とノートを見た。


「あ……うん、いつもは数学をしてたんだけど、篤人くんが、化学も分からないって言うから、教えてあげられるようにって思って。」


 温子ちゃんのショートヘアーを整えながら、わたしは答えた。

 昨日の帰り道、もうすぐ10月考査だから、部活が出来なくなってつまんない、って篤人くんが言うから、ちゃんと勉強しなくちゃって言ったの。そうしたら、わからないからやりたくないっていう返事が返ってきた。だったら、一緒に勉強しよっかって話になって。


「あー、相変わらず千紗の世界は渡辺中心に回ってるわけかー。」


「え、そ、そんなことっ……」


「ま、そんな一途な千紗だから可愛いんだし、仲が良いのは悪いことじゃないんだけどね。」


「え、えっと……あっ、髪の毛! 梳かし終わったよ!」


 恥ずかしくなって話題をそらそうとしたけど、温子ちゃんはありがとうって言った後、また話を戻した。


「は〜〜、あたしの可愛い千紗とっちゃって、ホント憎たらしいわ、渡辺。」


「あ、あの、温子ちゃん、篤人くんはそんな、温子ちゃんからわたしをとっただなんて思ってないと思う……」


「……うん、分かってる。千紗が幸せそうだから、いいんだけどさ。………でも、」


 そう言って、温子ちゃんは、教室に入って来た篤人くんと、周りの女の子を見た。


「可愛い可愛いあたしの千紗を差し置いて他の女といるなんて、やっぱ納得いかない。」


 篤人くんが席に座ると、当然のように女の子たちは篤人くんの周りに集まる。みんな笑顔で、篤人くんも笑顔で、とっても、楽しそうで……


「そりゃあ言い寄ってるのは女のほうだけどさ、千紗はいいの?」


「え……」


 いいわけ、ない。

 全然よくない。


 いくら目立たなくても、可愛くなくても、わたし一応、彼女なんだよ? 篤人くんの笑顔は、わたしにだけ向けていてほしい。


 他の女の子と、仲良くしないで……


 そう思うんだけど、我が儘なんて言えない。きっと、篤人くんを苦しめちゃうから。……ううん、本当はそうじゃないの。我が儘言って篤人くんに嫌われちゃうのが、怖いの。


「……篤人くんが笑顔だから、わたしはそれでいい。……うん、いいの。」


 自分に言い聞かせるように言って、温子ちゃんに笑って見せた。

 嫌われるくらいなら、我が儘を飲み込んでる方がいい。……それに、付き合う前は、篤人くんの笑顔が見られたら、それだけで幸せだったんだもん。我慢できるよ、我慢しなきゃ。



「……千紗。あたしじゃ頼りないかもしれないけど、何かあったら言ってよ?」


「頼りないなんてそんなこと!」


「あたし、いつだって千紗の味方だから。」


 嬉しくて、わたしのほうを向いて言ってくれる温子ちゃんに抱き着いた。


「温子ちゃん、大好きっ」


「あたしも、千紗大好きだよ。」



 心配かけてごめんね、温子ちゃん。


 わたしは温子ちゃんに抱き着く力を少しだけ強めた。

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