1章-03-
「気が付くのが遅れて申し訳ありません魔王様。私は魔族、魔術師ユーシェリア・リラ・メイザースでございます。・・・貴女の帰還を心待ちにしておりました」
鏡を見ながら絶句している魔王に先ほどの少女が跪いて語る。
しかしユーシェリアの畏まった態度は一瞬で、スクッと立ち上がると先ほどと変わらない態度を取り始める。
鏡越しに視線が合った魔王におどけた笑みを浮かべ言い放った。
「どうやら魔王様、魔力の欠片もない人間の女の子の体になっちゃったみたいですねぇー」
胆摘にかつ明解に指摘された魔王は顔をうつ向かせる。
気落ちしているわけではない、体が怒りのあまりかワナワナと震えだす。
背後から魔王の肩におかれたままになっているユーシェリアの腕を振り払うとキッと振り向く。
「な、な・・・どういうことだメイザース!!私の体は私の魔力をもとにした高密度の魔石で作った代用品があったはずだ!あれなら器として十分なはずだったんだ。いったいどこにやった?というより何をしたらこうなる?!」
「えぇと・・それがですねぇ。魔石の方は長年放置されていたせいかだいぶ劣化していましてぇ。それに加え、先日あらわれた人間達に壊されちゃいましたし。もはや、ただの石になってましたねぇ~」
「な・・にぃ?!守るのが最優先事項だろう?!代替品の魔石ははどうした?なぜ代わりを用意しなかった?!いったい何をしていた?」
「あぁーもう!捲し立てないでくださいよぉ!ちゃんと説明しますからぁ」
ユーシェリアはだんだんと詰め寄ってくる魔王の両肩をつかむとそのまま落ち着けと少し抑える。
「まったく魔族って言うものは薄情なものですね。集まった魔王様の復活を望む同胞は4人だったみたいでした。まぁ集まれなかったというところもあるでしょうが・・。それにしても、少ないですよねぇ、プークスクス」
「キサマァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「あえぇ?!ちょっあんまり殴ってこないでください!障壁張ってるんで魔王様の手の方が痛いですよ!!」
ヒョイヒョイと怒り狂った魔王の拳を躱しながらメイザースは話を続ける。
「まぁ、魔族でも噂程度にしか広まってない千年後に復活するって話、どういうわけでしょうか、人間側はみんな知ってましたんで・・人間側もこの時期を狙ったんでしょう。何か心当たりとかありませんか?」
「・・・・・だからと言ってこの体はないだろう?」
何か思い当ったのだろうか。
急に冷や汗を掻きながらおとなしくなった魔王を尻目にメイザースは魔王の疑問に答える。
「んー壊れた石像の破片を集めてそのまま使ったらこんな結果になっちゃいましたね」
「残骸を使用したのか?あきれるぞ・・・というか、貴様一人で私の転生魔術の儀式を行ったのか?」
「えぇ、まぁ。そうですけど?」
「そうか・・・では、あの陣も貴様が書いたのだろう?あれは素晴らしい、体感したわけではないが、私の精神が無事だったのはきっとお前の補助のおかげなのだろう。礼を言うぞ」
不意を突かれて急に褒められたメイザースはほんのりと顔を赤らめている。
それをごまかす様に魔法陣の説明をする。
「お褒めに預かり光栄です、魔王様ぁ!私が補強したのは精神の保護とそれを入れる体との親和性の向上、と言ったところでしょうか。さすがにどんなに強靭な精神の持ち主でも、何もない世界で転生までの時を待つのは無茶というものですよぉ。あと、体ですがやはり精神に合わせて作る、という方向がぁ、いいと思ったのでぇ。その手助けをあの陣には施してあったというわけです」
「そこまで理解しているのなら、これがどういうことか分かるはずであろう?!」
「ええぇー、それとこれとは別ですよぉ。何でかなんて、あたしには分からないですねぇ」
「はぁああああああ?」
「むぅー・・・じゃあじゃあ!そんなに言うならもう一回、勇者にかわってあたしが魔王様を殺してあげましょうか?そうしたら次はちゃんとした体に入れなおせるかも?」
そう言ってユーシェリアは傍で浮遊して光源となっていた杖を両手で握って振り被る。
今の魔王の体は未知数だ。
どれだけ弱いのか、といった意味での未知数だ。
もしかしたら魔族の最弱の魔法でもコロッと逝ってしまうかもしれない。
ちょっとじゃれ付かれただけでへし折れるかもしれない。
ユーシェリアのあの力で殴られたら尚更だ。
「アホか!馬鹿!!やめろっ、魔術の効果は一度のみだ継続じゃない。またもう一回掛け直さないと普通に死ぬ!今は魔術が使えないから駄目だ!そもそも、もう千年待持つなど御免だっ!」
「んんー、それじゃあしょうがないですねぇー。いやぁでも会った時から思ってたんですけどねぇ。魔王様、すっごく可愛いですよぉ?あーあ、私のお部屋で愛でたかったのになぁ・・・。あ!あと私のことは親しみと情愛を込めてユーシェとおよびください、魔王様!」
やたらとテンションの上がり始めたユーシェを尻目に魔王ははぁとため息をつく。
転生初日、魔王は魔法の一切を使えない黒髪赤目を持つ美しい少女に転生してしまったことを理解した。
(一体私はこれからどうすればいいのだ?)