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1章-02-

 あくびをして目じりに涙を溜めながらキョロキョロとあたりを見回す少女。

そしてその視線がちょうど玉座の前まで下がって警戒していた魔王の姿を射止める。


 少女が口を開くよりも早く、魔王が質問した。



「人間よ、貴様に問おう。答えなければ殺す」


「ふぇ?人間?わたしがぁ?」


「違うとでも?貴様からはいっさいの魔力を感じぬ。そのような芸当、魔族には無理だろう?」


「はぁ、んんー?えっ?単に、あなたが魔力を探知するすべを持たないだけじゃなくてぇ?あなたこそ魔法が使えるほどの魔力を持ってるようには見えないのだけど・・・」



 その言葉の理解と把握で受けた衝撃のあまり魔王はついつい呆気にとられてしまった。

かつて、魔法に関する知識で他の追随を許さず、その魔力量は比較する事もおこがましいと思わせるほどの力を誇っていた魔王。


 そんな魔王に対しての今の言葉、唖然としてしまうのも無理ない話だろう。

それでも魔王は何とか怒りを飲み込み、情報のため話に耳を傾ける。

少女はそんな魔王の葛藤に気が付いた様子はなく、魔王に向かって話を続ける。



「魔族でも魔力を消すすべはあるわぁ。まぁ人間の内ではほとんど知られてないみたいだけどねぇー。特に年端もいかない貴女のような娘さんがぁ知るような話じゃないと思うのだけれど、興味あるぅ?」


「貴様ッ!・・フンッまぁいい、どういうことだ?魔族は魔力を体に纏っていないと生きられぬだろう?それ故に体内魔力オドも人間の追従を許さぬほど豊富だ」


「あらら、食いついちゃうのねぇ・・・そもそも、あなたどこから入ってきたの?何だか魔族に興味があるみたいだけど、もしかして私に用ぉ?んふー君みたいな子なら私としては歓迎なんだけどねぇ」


「聞きたいことがあるといっただろう。それに次ぎ舐めた口をきいてみろ、寛容なのはここまでだ、すぐに殺してやる」


「あなたが?あっははははは!ムリムリ!!ムゥリだってぇー!!む、むしろ私があなたを捕まえてぇ、私の部屋に閉じ込めてぇ、それからぁ・・」


「な?!小娘、貴様。先ほどからのでかい態度。私が誰か分かって言っているのだろうな?」


「うぇ?んー、身の程知らず、とかかなぁ?」



 その言葉で魔王の怒りは理性で抑えられる限界を一気に超えた。

体を得てからいまいち本調子ではないが、魔力操作の精度なら体のコンディションはさほど関係ない。

魔王の待つ中でも最強の雷の魔術でやつを黙らせる。

自らの精神に刻んでいる術式を起動させ、一気に魔力を流し込む。



「フハハハハ!貴様は私を怒らせた!!せめてもの手向けだ!私の編み出した最大の雷を食らい消し飛ぶがいいっ!!---<鳴神>(ナルカミ)」



 短縮詠唱魔術スペルを唱えると同時にかざした右手の先に魔術<鳴神>の術式が瞬時に編まれる。

次の瞬間、幾何学模様のその式から魔王最大の雷系最強の魔術が行使されたはずなのだが。



「なん・・だと?・・・」



 信じられない結果に驚きのあまり、魔王は唖然とした表情浮べたまま凍りつく。

それもそのはず、狙ったはずの少女はいまだにぴんぴんとした様子。

相も変わらず床に座ったままのなめた態度ででこちらを見ている。

風景すら変えてしまっても構わないと撃ったその一撃を受けながら、少女のキョトンとした表情は「今なにかした?」とでも言いっているようだ。



(いったいどういうことだ。私の魔術は掻き消されたのか?そもそも不発?だがそんなことが・・・もしや、私がいない千年もの長い年月の間に魔族は私などとるに足らないほど強くなったということだろうか?それ故に同胞たちがいないのならば、この状況にも説明が付くではないか?)



 魔王がこの事態に混乱していると少女は立ち上がると少女にとっては決して早くない速度で間合いを詰める。

だが、魔王はその速さにまるで対応しきれていない。

目の前に突然と姿を現した少女に驚き、後ろに倒れこんでしまう。

しりもちを付きながらも何とか威勢を保とうと、魔王は少女を睨みつける。



「くっ、いつの間に・・・。貴様、今何をした!?」


「んー、ただ床をけって移動しただけだよぉ?そんなに早く動いたつもりはないんだけどなぁ。人間でも十分ついてこられるくらいの速さなんだけどねぇこの程度なら、冒険者とか」


「な?!そんな馬鹿なことが・・・」



 魔王が生きた時代には冒険者ギルドというシステム化されたものこそ無かったが冒険者なるものはいた。

いわば勇者の超絶劣化版だ。

今の魔王はそんな取るに足らぬ者以下の存在であることを認識してしまい、やりきれない気持ちが心を蝕む。


 あまりの現実を信じられず、かつては感じたことのない不安という感情を振り払うように魔王は少女に向かって吠える。

だがそれは少女が地べたにしりもちを付いたままでいる魔王を抱え上げたことで遮られた。


 まるで子供のような扱いを受けている魔王、その扱いに対する抗議の意味も含めて必死に抵抗を見せるが少女の魔王を拘束する腕が外れる気配はまるでない。

力ではどうしようもない差があると感じて諦めたのか、仕方なく言葉で抵抗する。



「おい!貴様、何のつもりだ!!私をどこに連れて行く?!このような扱い、私が誰だか分かってぇ・・・」


「まぁまぁまぁまぁ落ち着いてくださいよぉ。さっき貴女が唱えようとした魔法でぇピーンと来たんですけどねぇ?」



 そのまま広間を出て、荒れ果てた城内を数歩先の空中に浮遊する杖先の光源を頼りに進む。

やがて大浴場だった場所ににつくと「よっ」と言って少女は魔王を下す。

ここも他と同じく長い年月がたっためか酷い荒れようだったが誰かが使用しているのだろうか、最低限の浴場としての機能は使えるようになっていた。

その中の一つである姿見の前に魔王が少女に後ろから両肩を掴まれ強引に押されてくる。

相変わらず魔王は抵抗したがまるで無駄であった、もはや駄々をこねる子供の様相と相違無いありさまだ。



「やめんか!もうこれ以上私に触れるでない!!一体なんだというんだ貴様は!」


「はいはいもう触りませんから。とりあえずはもうちゃっちゃとそこの鏡見てください」


「ど、どういうことだ?貴様、何を企んで・・・」


「いいからいいから」


(この私に対してあるまじき態度。・・・だがこやつの力量が私を遥かに凌ぐのはもはや自明か・・・・)



 仕方無く目の前にある薄汚れた大きな鏡を見やる。

魔王の覗いた鏡の中には少女がいた。

歳は14.5才だろうか。

腰下まで伸びて毛先がクルッとカーブしている黒髪と意志の強さを表すように若干吊り目がちな大きな真紅の瞳を持った美しい少女だった。

筋の通った鼻梁と艶やかな口元は持ち主が引きつった表情を浮かべているせいで形をゆがめているがそれすらも美しい。

細い首筋のきめ細かく白い素肌が僅かに垣間見える服装、長袖ロングスカートのメイド服を基調とした様なデザインのやたらとフリフリが多いまるで機能性の欠片も感じられない衣服を身に纏っていた。


 そこには魔王の以前の凛々しい姿などどこにもなかった。

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