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1章-01-

 魔王と勇者の最終決戦から千年後、黄昏。



「ふぁぁーーつっかれたーーっ!!」



 魔王城跡、外壁を覆う茂りに茂ったツタの葉によって隠されたいくつもの窓。

その葉に覆われた窓から茜色となり始めた陽射しが僅かに差し込む大部屋、かつての謁見の間。


 その大部屋の中央で、一人の少女が倒れこむようにしてからその場に仰向けに寝そべった。



「うぅ~久しぶりよぉこんな重労働ぉ・・・。床気持ちいぃい~。つめたぁぃ・・・・」



 左側で首筋ほどの高さで結われた艶やかな銀髪は大理石の冷たい床に投げ出され、透き通るようにきれいな蒼色の瞳はぼんやりと今天井を見つめている。

倒れこんだままの勢いで手放られた少女の身長ほどの長さを持っているその僧杖が硬い床の上を転がる。

天井は高く、その上石造であるこの部屋で煩いほどの音が盛大に響いた。

だが寝転ぶ少女はピクリとも反応を示す様子はない。


 ここ数日、休む間もなくとある準備に追われていたこの少女は今、何よりも先に眠気優先なのだろう。

やがて纏っていた大きな外套に身を包むと少女はそのまま眠りに落ちて行った。


 謁見の間の玉座の前の床には、その少女の仕業だろうか、幾何学的で複雑な魔方陣が焼き付けられていた。


少女が眠りについてから数刻後、その魔方陣が僅かに光り始めた。

やがてその光は次第に強くなりこの大広間を真昼のように明るく照らしはじめる。



-------------------



 何もない。


 真っ暗な暗闇の中に突如、小さな光が灯った。


 ありとあらゆる感覚が奪われ、ただ思考のみが許されたこの闇の世界で魔王の意識は光のようなものを感じた。

距離も方向も分からない、本当に光であるかすら分からない。

だが、その光と感じるものが存在するということだけは明確に、確信することができた。

上も下も右も左も前も後ろもないこの闇だけの世界にとらわれてから、魔王が感じた初めての感覚。


 幾何いくばくの時をここで過ごしたのかなどもうとっくに忘れた。

 精神がこの闇に呑まれ消えぬように、思考を続けた。

 

 ただひたすらに、この時を待っていた。



(フハハハハハ、長かった!長かったぞ!!私が今日この時をどれだけ待ちわびたことか。この暗闇を脱する時をどれほど望んで来たものか!!)



 やがて魔王の意識は闇の中を進み始める。

進む方角も行く距離も分からない。

どれほど時がかかるか分からない。


 それは些事でしかない。


この暗闇での暮らしの終止符を予感した。


 故に魔王は、その意識はひたすらに進む。


そして、その時は来た。


 闇の中を進む魔王の意識が、暗闇の世界から消えた。

 再び、この世へと、舞い戻った。



「フーッハッハッハ!待たせたな皆の者!!私は蘇った!!!千年の時を超え、再びこの地上に舞い戻ってきたぞ!!」



 魔王は肉体を得たと感じたと同時に自身の復活を待ちわびていたであろう同胞たちに向かって声高らかに口上を述べた。

だが、予想に相反して、肉体を得て戻った五感はこの大広間には誰も居ないことをありありと伝えてくる。


 目が月明かりしか無いこの広間の薄暗さを、耳が音源の無いこの空間の静寂さをありありと伝えてくる。



「これは・・・一体どうなっている?」



 ふと、魔王は足元を見やるとそこには所々に見慣れない術式が組み込まれた魔法陣が焼かれていた。

魔王が見たこともない術式、だがその式が意味するところを魔王はその式の構成から推測することができた。



(私の転生魔術・・・の補助か?私としたことが勇者が来たことで焦り、詰めを誤っていたか・・・。しかしこれは素晴らしいな。ここまで私の魔術を理解し、それに応じた式を編んでくれる者がいるとは。褒美をやらなければなるまい・・ん?この様な式があるのだ。なぜどこにも同胞の気配を感じられない?)



 改めて辺りを見回すと、薄暗闇に慣れた目が部屋の中央に布を被って寝転がってる人影をとらえた。

特徴は左肩のあたりで結って束ねてある銀色の髪、幼さの残る顔立ちだが整っている相貌、そしてボロボロの外套と背丈の程はありそうな大きな杖が近くに転がっている。

人の歳で言うところの16、7才とと言ったところだろうか。

徐々に近づきながら正確に分析していく。



(しかし、体内魔力オドが安定しないのか?何とも鈍い五感だ。この程度の薄暗さで視界に支障をきたすなど・・・。だが今は状況把握が先か、同胞が一人もいないなど異常だ。)



 そう結論し、さらに人影に近づいていく魔王。

目的の目の前まで来てようやく、わずかばかりに胸のあたりが上下しているのを視界が捉えた。

少女が生きていることに気が付き、一足飛びに間合いを取ろうと地面をけったが、思ったように体が動かない。

予定の5分の1も距離を取ることができなかった。

離れすぎても様子がわからなくなってしまうためこれ以上距離を開けようとはしない。



(ちっ、やはり体がなまっているな。それにしてもこやつ、魔力を感じぬから死体だと思ってしまったが体内魔力オドを隠しているのか?まぁどちらにせよ魔力が無い魔族などいないのだ、ならば・・・。)


「おい貴様!人間だな?なぜこのような場所で寝ている!!さっさと起きて私の・・・ん?」



 先ほどは復活の喜びのあまり気が付かなかったのであろう。

魔王が思ってもみない、魔王の甲高い声が大広間で反響する。

首を傾げた魔王の頭に疑問符が出かけたところで、この悪い視界でもぎりぎり動きを把握できる位置で横たわっていた外套の少女がもぞもぞと動きはじめた。

魔王は妙な引っ掛かりを振り払い、即座に意識を少女に向けて警戒する。



「ふぁぁあ~、っと今何時だろう?魔王様、復活したかな?」



 少女は目を覚ますと硬い床から上体だけを起こして左手で口元を隠し右手を頭上に伸ばしてで大きく欠伸をしていた。

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