1章-13-
「・・・いったい、一体そんなものが何になるというのだっ!少なくとも力だけは持ち合わせていた以前の私の、その家臣共でさえ、皆勇者にそそのかされ何処へと消えた!ましてや今の私へ対する忠誠など・・・吹けば消えるのではないかっ?!」
「それはおかしいですねぇ~。では昨日、その吹けば消えるようなものを信じて貴女は私を探していたと?」
「貴様なぜそれを・・・あ、あれは独力ではここを発つことはおろか、暮らすことすら不可能だと分かっていたからだっ。不確かだが縋るほかなかった!」
「そのまま私に縋ってしまおうとは思わなかったんですか?」
「だ、だが・・私はお前に返してやれる物が・・・」
「そんなことはどうでもいいじゃないですか?利用できるものは利用してしまえばいい。使い倒して使えなくなったら捨ててしまえばいい。そうは思わなかったんですか?」
すると魔王のユーシェを睨む紅の瞳が大きく見開かれた。
そのすぐ、一度顔を伏せたかと思うと、今度は意を決したようにユーシェを見据える。
「・・・・・・・違う。違った、私はまた逃げている・・・誤魔化して嘘をついていた。・・本当は、一人になってしまうかも知れないことがいやなんだ。私のせいで、一人になるのが、お前がいなくなるかもしれないことが怖いんだっ」
いつの間にか玉座から立ち上がり、逆にユーシェに詰め寄るような体制となっていることに気が付き一歩引く魔王。
同時に自分が今どれだけ恥ずかしい内心を吐露しているかという事に気が付いたのだろう。
ユーシェの服の袖をギュッと握り、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
だがそれはユーシェの回答を待っているようにも見えた。
「今は、ただ縋ってくれるだけでいいんですよ?私は何も求めません」
「縋れば、私がただ縋るだけでは貴様の思いは消えてしまうのではないか?」
「そんなことでは消えたりしません。何年たっているとお思いですか」
「だ、だが愛想を尽かして私から・・・私の傍を離れたくなるのではないか?」
「確かに今の貴女に戦うだけの力も共感や感銘を受けるような意思も思想も感じられません。だけどですね、そのどれもが私があなたを慕う理由になりえていないのです。だから心配など無用です」
ユーシェはまるで子供をあやすかのような笑みを浮かべ魔王を安心させようとする。
「・・・以前はそんなもの、他者がどう思っているかなど気にも留めなかった。そして自分がどうしたいかなど考えもしなかった。・・・だが、だが今の私は、お前が何を感じ考えているか気になる。惰性で、私の意思など介在しない生甲斐では不安になる」
「私はお仕えすると決めた。ですから貴女も、自身への嘘ではない、他者への誤魔化しでもない、ほんとうに貴女がやりたいこれからを私に教えてくださいませんか?それが何であろうと私はお供致します」
今度こそ、ユーシェは魔王の手を取る。
ただそれだけ、跪いたりなどはしない。
ユーシェは魔王が忠誠に対する対価が払えないことを悩んでいると知ったから。
魔王に拒絶の意思は見られなかった。
「私は・・・私の意思を基準に物事を考えたことがない。そんなこと・・」
「できますよ、漠然としたものでもよいのです。貴女の考える魔王として、ではなく。ただの今の貴女として、心の赴くままに、お答えください」
「そ、そうか・・・そうだな。私は、ただ知りたい」
「知りたい?」
「取り繕いも計算も日和見もないただただ純粋に私はこの世界を知ってみたい。私は世界を何も知らない、以前のように魔法だけではなく好奇心の赴くままにこの世界を知ってみたい・・・」
「ふふっ何とも壮大ですね!ですが、それがきっとあなたの強さになります、私の魔王様。どこへなりともお供致します!」
いつの間にかなっていた、互いに胸元で手を取り合い見つめあっているような体勢の中で、ユーシェの問いかけに魔王はまたもや顔を背け、視線をそらす。
だがそこに、これ迄のような嫌な雰囲気はみじんも感じない。
俯くことで髪に隠れた頬が赤く染まっているのがわかる。
不意に訪れたわずかな静寂の中、黒髪の隙間から除く口元が動き言葉が紡がれる。
「あ、ああ。ユユ、ユーシェ!・・ユーシェに付いてきて貰えるのならばこれ以上心強いことはない・・・これから宜しく頼む」
「そぉーいえばっ!ご褒美の件で、考えていたんですけどもぉ」
「い、今それを言うのか?!」
「そんなに不安がらなくてもぉ、だぁいじょうぶですよぉ~。ええとですねぇ、これから先もぉ魔王様とお呼びし続けるわけにもいかないと思うのでぇ魔王様への命名の権利をもらおうと思いまして」
「む?それなら・・・そうだな、どのような名前かによる」
「クロネリア・リラ・メイザースでここはひとつどうでs」
「却下だ」
「えぇーーーーーー!?」
ユーシェの顔が驚愕の表情で染まる。
全く持って予想だにもしていなかったというような態度だ。
取り合っていた手も解け、魔王は腰に手を当て背筋を伸ばしているのに対し、ユーシェは両腕をダランと垂らし項垂れている。
「全く、何を考えているのだ?いくら近くにいてほし・・・いくら近くにいることを許した、といっても姉になった覚えなど無いぞ!」
「ええ、まぁどう考えても魔王様が妹ですしねぇ」
「む?確かにこの見た目ではそうなんだが、妹ではなぁ格好がつかんだろう?」
「・・・・・・・・・・」
魔王の純粋さと自分とのギャップになぜか今更ながら人知れずショックを受けているユーシェ。
悟られないために、笑顔を貼り付け誤魔化していると、魔王がユーシェの両肩を掴み自分の方を向かせる。
「ユーシェ」
「は、はいぃ~いかがなさいましたかクロn、魔王様?」
「私のことは・・だな、その・・・し、親しみを込めてクロネと呼んでもいいぞ?」
「!!了解です!クロネ様ぁっ!」




