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1章-10-

 魔王が復活してから二度目の朝、時刻は早天。

地平線まで続く樹海のその先から太陽が覗き始めて始めてすぐ、魔王は目を覚ました。


 意識が覚醒し、感覚が戻る。



(むぅ・・朝か?眩しいな。この程度で視覚が奪われるのか、この身体は・・・。それと背中の傷。少しばかり熱を持っているようだが、痛みは引いたようだな)



 窓より差し込み始めた陽光が魔王の寝顔を照らし、目が覚めたのだろう。


 傷に障らぬようゆっくり体を起こそうと寝台に腕を付いたところで魔王はふと昨夜のことを思い出した。

これまで、他人に命令はともかくお願いや頼みなど全く持ってして来なかった。

故にかなり気恥ずかしい言動を取ってしまったと後悔の念にかられ頭を抱える。


 そのままの姿勢で背後に気を配ってみるとまだその人物は寝ているようだった。

どうしたものかとそのまま背後の気配に気を配り続けていると、何やら様子がおかしいことに気が付いた。


 うめき声のようなものを上げているのだ。


 不審に思った魔王は一度体をうつ伏せにして、そこからさらにもうひとひねり加え背後を見やる。

視界に入ってきたのは光る帯が体中に何重にも巻き付いた、ユーシェの姿だった。


 当のユーシェは振り返った魔王に気が付いた様子はない。

いまだ必死の形相で光る帯を掴み、力任せに引きちぎろうとしている。


 その状況を見て唖然とした表情を浮かべる魔王。


 考えていた昨夜のことなど即座に頭から消え失せてしまっていた。



「はぁ・・ユーシェリア・・・貴様、そこでいったい何をしているのだ?」


「ふんぬぅっ!あ、魔王様ぁ~、おはよぉございます!えっとぉ、起きて早々申し訳ないんですがぁ、これ解いてもらえませんか?自力じゃ解けなくなっちゃいましてぇ・・・えへへ」


「・・・・自身で掛けたものか?意味が分からんぞ。新しい遊びか何かか?」


「あははー・・・ちょっと自分に自信が持てなかったと言いますかぁ自分を抑えられそうになかったと言いますかぁ・・・自分を信じてやれなかったのでぇやむおえずこういう形になっちゃいましたぁ~」



 問いの答えになっていないユーシェの答えにますます怪訝な表情を浮かべる魔王。


 だが、行動の意味こそわからなかったがその事はとりあえずわきに置く。

身体を起こし、魔法に触れないようにしながらユーシェの体にまとわりつくその帯を見る。

ユーシェが馬鹿な真似をした理由よりもさらに気になることがあるからだ。



(難儀だ、視認でしか式の構成が診れん・・・だが、魔法の行使はともかく、式の改変くらいならばこの体でもできるのではないか?・・・試してみるか)



 魔王は光の帯に浮かび上がっている記号の羅列と幾何学的な紋様からその魔法の効力を読み解いていく。



「魔術か、魔力操作系行動制御系の束縛魔法、式そのものに対する防壁、効果の阻害に対する障壁は無し・・・・こんなものを自身に掛けるなど貴様馬鹿か?そうなることくらい容易に想像できよう」


「そのためだったんですけどぉ・・・そうですねぇ、魔力まで縛っちゃったのは失敗でしたぁ。自分で掛けたから抵抗も無くモロですしぃ・・・。このままだとあと数十年はこのままですぅ・・・。うぅっこんな私でも連れて行ってくれますかぁ?」



 雁字搦めの光の帯の一本を眼前で握り締め、碧眼を涙に濡らして懇願するユーシェ。

人格なかみを知らない他人が見ればとても愛らしく映っていたであろう姿に対して、魔王は仰ぐようにしてこめかみを抑えている。

なにか気の毒なものを見たときの態度だ。



「貴様のその頭の加減次第ではこの城においていくこともやむおえない、と思い始めている・・・」


「そんなぁ!だってだって昨夜の魔王様があまりにもウェヘヘヘ」


「気色悪い笑みを浮かべるなっ!!ああそれと、昨夜のことは忘れろ。なんかどうでもよくなった」


「淡泊?!」



 この魔法が魔術であると見てすぐに気が付いていた魔王。

ならばその効力は理詰め。

たとえ自らが魔術を行使できなくとも、改変や解除はどうにでもできるという自信があった。


 故に魔王の思考はこのユーシェまぬけをどうしようかということに大半を費やしていたのだが、なにかを思いついたようだ。

口元を吊り上げ、以前の魔王を彷彿とさせる様なとっても悪い笑みを浮かべている。

身じろぎくらいはできるユーシェも魔王の表情は視界内にあったわけで、当然その笑みの意味する所は大体想像がついていた。


 寝台からユーシェを跨ぐようにして飛び降りた魔王はそのまま振り返り、動けぬユーシェを見下すような態度をとる。


 傍から見ると、かわいらしい柄の寝間着を着た少し癖毛で黒髪のロングヘアーの女子が腰に手を当てて寝台の前で胸をそらしてふんぞり返っている状態だ。



「そういえば昨日、貴様には散々いいようにやられたよなぁユーシェリア。私に行ったあの行為、とても医務的なものとは思えんのだが?」


「え”?いいい、いったい何のことをおっしゃっているのでしょうかぁ魔王様?」


「ほう、とぼけるとはいい度胸。ところで先ほど魔力も縛ったのは失敗と言ったな?ということは貴様の忌々しい魔力障壁も今はきれいさっぱり消えているという事なのだろう?」


「えぇえー、そうですねぇーちょおっとあたしにはわかりかねますねぇーだけど残っている可能性がものっすごく高いのでぇ、あまり危ないことはですねぇしない方がぁよいかと心得ますぅー・・・」


「そうかそうかその状態でなお私の身を案じてくれるのか、私は貴様を誇らしく思うぞ。ならばその助言に従おう・・・これならどうだ?」


「羽根ですかぁ?それでいったい何をすると・・・」 



 魔王がどこからともなく取り出した羽根。

ユーシェはその柔らかな羽根がここまでの凶悪さを秘める、凶器になるとは思ってもいなかった。

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