1章-09-
その夜、寝室には愛らしい柄のついた寝間着姿の魔王と色気漂うネグリジェ姿のユーシェがいた。
言わずもがな、魔王が着ている寝間着はどこからともなくユーシェが用意したものだ。
この寝間着を着用するまでにひと悶着あったがここでは割愛とする。
(全くメイザースやつ、私の寝具を占領していただけには飽き足らず、このような衣装まで用意しおって、舐めるのもたいがいにしろっ!)
魔王は寝台のすぐ横にある月明かりが差し込む窓から、外の様子を見つめながらそんなことを思う。
仰向けにならずジッと外を眺めているのは背中の傷が痛むためだ。
楽な姿勢では眠れないものの、昨日の環境に比べたらずいぶんとマシになったと言える。
ユーシェは寝台のすぐわきの床で地べたに這いつくばっている。魔王に寝台から追い出された結果だ。
しばらくして、魔王が微睡んでいると、背中側からユーシェの呼びかける声が聞こえてきた。
睡魔に抗いなんとか返事をし、背中を痛めないようにゆっくりと振り向く。ユーシェは上体だけ起こしており、寝台で寝ている魔王とちょうど同じ高さに目線がある。
魔王からは月明かりに照らされたユーシェの胸元から上だけが見えている形だ。
きらきらと輝く銀色の髪と綺麗な碧眼がとても美しい。
つい息をのんでしまった魔王をいつもとは違い茶化すことなくユーシェは話す。
「横になられたままで結構です魔王様。少しお話してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。どうした、メイザース・・・」
「魔王様、私と初めて会ったときのこと覚えていらっしゃいますか?」
「ん?昨日のことか、もちろんだ。広間で寝ているきさ、メイザースを見て人と勘違いをしたな・・・恥ずかしい限りだ」
回答を間違ってしまったのだろうか。
一瞬ユーシェの表情に影が差すように感じたが月明りの加減のせいかもしれない。
「・・・・そぉでしたねぇ。その後言ったことは、覚えていらっしゃいますか?自己紹介の時のことです」
「魔術師という事だけしか覚えていないが・・・・」
ユーシェは魔王の目前まで身を乗り出す。
「あたしの名前、覚えていますか?」
「ユーシェリア・リラ・メイザース、だろう?」
「はい、親しみを込めてユーシェとおよびください。魔王様」
「う、うむ。わかった。・・・・ユーシェリア」
すると目前のユーシェの顔がまぁいいでしょうと言ったような表情になる。
そのまま身を引き、寝台の影へと消えていく。
だがこの時、魔王はユーシェを見えないところにおきたくないと感じた。
魔王は自分の感情に従った。
「ま、待てユーシェリア」
「え?いかがなさいましたか」
呼び止められたユーシェは再び先ほどと同じ体勢をとる。
魔王も上体を起こし窓側へと身を寄せる。
するともう一人が寝るのに十分なスペースが寝台に確保された。
魔王はそのスペースの中央を手でポンポンッと叩くとユーシェから顔をそらす。
「いや・・・えっと。か、勘違いするなよユーシェリア。傍にいてほしいとか、そういうことではなくてだな・・・。私の家臣が、いや・・私に近しい者が床に寝るなど有ってはならんのだ。私の沽券にかかわるのだ。しかし寝具はこれしかない、だ、だからここで寝ろ!わかったか!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・お、おい何とか言ったらどうなんだ?!」
プライドを捨て、思ったことをそのままに、やっとの思いで口にした魔王。
ここが暗がりでなかったら茹蛸のように赤くなった魔王の顔が拝めたに違いないだろう。
だがいつまでたっても返事がない。
ユーシェが動いた気配はないし、魔王はユーシェがいまだにこっちを見ているのは感じていた。
業を煮やし、ゆっくりとそらした視線をユーシェの方へと戻すとそこには目を見開いたまま動かない月に照らされたユーシェの姿があった。
軽くホラーである。
「はぁー、この、馬鹿者がっ・・・・」
魔王は起き上がるとフリーズしたユーシェを抱え上る。
自身より大きい体を持ち上げるのがこんなにも大変なのかと思いながら何とか寝台へと寝かせた。
そして再び元の窓側に戻り、魔王は眠りについた。
それからしばらく夜も更けきったころ。
魔王の穏やかな寝息が聞こえ始め、月の光は大分傾き始めたころ。
「ハッ・・・?!」
ユーシェは目が覚める。
妄想の刺激が強すぎて気を失てしまった、と思ったのだがユーシェは今自分が寝ている場所に気が付く。
右を向くと魔王の背中が見えた。
呼吸に合わせて上下している。
次の瞬間には自身の左手が制御を失い、魔王の黒髪に伸びているのに気が付きあわてて右手で止める。
(ふぁあぁああぁぁぁあああぁあ!!まずいまずいまずいっいいいいいいいいい!夢じゃない?妄想じゃなかった?!無理無理無理無理ぃいいいいいいいい抑えられないっ。襲っちゃうっ襲っちゃああああああああああああああ)




